夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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高い場所への恐怖がなければ、高い場所の美しさを理解することはできない。


三態

バトルロワイヤルでは最後まで競った二人である緑谷出久と拳藤一佳。彼らは轟焦凍のオリンピック強化訓練に付き添うこととなった。

 

それを打診された時、二つ返事で了承したのはもはや当たり前だ。

 

とはいえ彼とは打ち解けていない。普段から不必要なことは話さないタイプだったし、馴れ合うつもりはねえと正面から宣言をしているような状態だったから仕方ないが。

 

だから一緒に歩いて移動するだけでも緑谷は気まずそうに、拳藤は心配そうにしてしまう。だから早歩きの彼に何も言わずその後ろについてくるのだった。

 

「いや、もうちょいペース落とせよ。早く着いても待つことになるから変わらないぞ」

 

「なんでお前もいる?特に関係ないだろ」

 

話しかけられることが面倒だ。という本心を別の言葉で言ってくる器用さには感心するが、それが通用するとは思わないでほしい。ヒーローと違ってこっちだって余裕はないんだ。

 

「これセットしたのナイトアイ事務所だからさ。インターンどころかバイトリーダーなんだぜ俺は、だからある程度は同行しろと言われてるわけ」

 

狩峰淡輝は彼の心配はしていない。確かに大変だろうし、同情すべき状況なのは理解もできるが生憎そういった心の機微はとっくの昔にパージして身軽になっている。けれど、下手に干渉してこない同情もしてこない人が近くにいても良いだろうというのがジーニストの意見だったらしく、自分は同行するだけしておこうというスタンスだ。

 

意外なほどにまともな理由を返されて答えに窮する彼はやはり、衝動的に言っただけだろう。

 

「私は雄英の先生としての引率だからね。決してオフの休日では無いのよ」

 

そう自己弁護をするのはミッドナイト先生(叔母さん)である。完璧に私服をキメきっている彼女はどこからどうみても休日を謳歌している。まぁ全然いいんだけど。

 

「それに、俺自身も轟くんには感謝してるんだよ。あの戦いでの役割は大きかった。ゲイル先生はもっと救えただろうと言ってたけど、逆に轟くんがいなかったらと思うとそれこそ犠牲者の数は結構増えていたと思う。主には襲撃者側の死者数が、だけど」

 

実際問題、使えるリソースは全て使い切ったあの期末の戦争は動いてくれた全員に感謝している。彼にも純粋な感謝を捧げたい。しかし、もっとやれると期待するのは自分の性格じゃちょっと難しいからこういう育成とかは他人に任せた方が良さそうだった。

 

本物のヒーローには無限に期待をしているが、それ以外の人の限界はもう死ぬほどに見てきた。これから彼も殻を破る可能性はあるが自分はそれを心からは信じられない。どうしても緑谷とかオールマイトのあたりの可能性を追求してしまうのだ。これも立派なバイアスだろう。

 

彼はこれからの時間で何か変わるのだろうか。俺はまだ、それを知らない。そしてよほどのことがなければやり直しも別にそこまではしないつもりだった。これもあくまで緑谷出久の成長のための一手であって友人の挫折もまた彼を成長させるだろから。

 

本来当たり前のはずの一発勝負。それが行われようとしている。

 

「はぁ〜。青春の気配がする〜」

 

よだれをじゅるりと拭う肉親をまるで不審者のように見てしまった。こいつ、やっぱ外したほうが良かったか?いや、暴走を止められる大人は大事だ。ミッドナイト先生は必要。理性で感情をねじ伏せよう。

 

さて、到着だ。

 

出場選手たちの寝泊まりする高級ホテルはUAIの中心地に立っている。遠くからでもよく目立った。高さは五十階以上あり普通なら目立つかもしれないが、そんなビルが軒を連ねるこの都市ではそこまで突出もしていない。

 

エントランスは自動で開閉する。

 

ロビーは妙に静かだった。ざわついているのに、誰も騒がしくはなかった。

ひとつ、またひとつと、入り口の周囲。つまりは高校生たち四人の周りに人が増えていく。それは集まったというよりも、吸い寄せられるようだった。

 

その中心に彼はいた。轟焦凍。その少年は何も語らず、ただ立っている。周囲の人々の視線に耐えかねて逃げるように視線を逸らした。まるで、彼らから何かを受け取るのが悪いことのような。罪悪感を感じているような表情だ。

 

「……おかげで、助かりました」

 

口火を切ったのは中年の男だった。少し血色の悪い頬に、薄く笑みが浮かぶ。

 

「俺、あのときもうダメだと思ってたんです。でも……君が」

 

声が詰まり男は苦笑する。それを支えるように、背後から老女が前に出た。腰の曲がった彼女は、小さな手を合わせ、恭しく頭を下げる。

 

「うちの家族の命を……救っていただきました。この人もですけど。孫が、孫がまだ幼くて……ありがとう、ほんとにありがとう……」

 

それを皮切りに、感謝は連鎖する。口ごもりながら、噛み締めるように。涙を滲ませながら、時に語彙を失って立ち尽くしながら。

 

轟は何も言わない。ただ、時折わずかに視線を落とし、あるいは受け取るように頷くだけだった。

 

「お兄ちゃん、氷の魔法みたいのすごかった! かっこよかったよ!あたしすごく好きでね!あ、お兄ちゃんの好きな食べ物ってなあに?」

 

そう叫んだのは、ピンク色のリュックを背負った小さな少女だ。恥ずかしげに母親の後ろに隠れていたが、最後には飛び出して焦凍の前で小さくぴょんと跳ねた。

 

「うちの娘、あの日から絵ばかり描いてるんですよ。あなたのことを……プロのヒーローみたいに」

 

母親がそっと告げたとき、焦凍の指先がわずかに揺れた気がした。けれど、彼は一歩引く。彼女たちから離れてしまう。だが、感謝の声は彼一人にだけ向けられるものではなかった。

 

「それに……あのとき一緒にいた、お二人にも」

 

轟のすぐ後ろにいたその二人にも、人々の目が向けられる。

 

「あんたらが道を切り開いてくれなきゃ、今こうして話してられなかった。ありがとうよ」

 

「声をかけてくれた、あのとき……パニックになってたの、あれで戻れたんです……」

 

その時は名前も知らない。自分たちより幼い学生。それでも懸命に命を救ってくれた彼らに、みんな伝えたい言葉があるのだった。

 

多くの人から握手を求められ、拳藤が広いスペースへと躍り出て拳を大きくする。

 

「ほーら!これでいっぱい握手できるよ!」

 

子供達は握手どころか、それを遊具として遊び始める。

 

緑谷はファンサもできないが、それでもペコペコと頭を下げ続け苦笑いを誘っていた。

 

ここでは老いも若きも、男も女も。過去も地位も関係なく、ただ救われたという一点だけで、心が一つになっていた。

 

そこで一人だけまだ追いつけていなかったのはまさに、感謝の矛先である轟焦凍その人である。

 

「でも、俺はまだ。何もできていなくて……。まだ誰にも勝ってなくて。俺がやれるって証明も全然……」

 

強さの証明。オールマイトを超えること。そして父親を否定すること。彼の中の重要な物事は一つも達成できていない。だから無意味のはずで、自分は無力で何もできていないと思っている。

 

そんな凝り固まった考えにはジーニストが用意した現実が効くはずだ。それでもまずはそれを見ないと始まらない。

 

「おいおい轟くん。この光景見て証拠にならないってのは、流石に無理があるんじゃない?」

 

俯いて、なんなら視界も歪んでいるんじゃなかろうか。流石に淡輝も見かねて声をかける。前からそうだった。どっちでもいいとは思いつつ、それでもあまりにもったいなければ手を出してしまう。自分の一貫性のなさが嫌になるぜ全く。

 

「ほら、せっかくの良い顔が台無しよ。ヒーローなら前を見て、それから笑いなさい」

 

ミッドナイトがぐいっと顔を物理的に上げさせて、その景色を見せた。

 

「あ……」

 

拳藤の指を遊具みたいに遊ぶ子供達。優しい笑顔で保護者のように心配してくれているおばあちゃん。尊敬の眼差しを向けつつも、自分に何ができるかとソワソワしている大人たち。

 

そして何より、女の子が描いたという絵が目の前に広げられていた。

 

 

上手くはない。それでもその絵には、頑なになっている何かを壊すほどの威力があったらしい。

 

 

右目からこぼれた涙は、氷になって転がり。左目からの涙は、蒸発して湯気になる。

 

「あっ。くそ!これは、ダメだ!また暴走して……。先生!」

 

「お兄ちゃん!ありがとー!!!」

 

人を遠ざけようとした彼の言葉も、感極まった子供には通用しなかった。熱と冷気はあっただろう。しかしそれにすでに救われているのだ。彼女の中に恐怖などない。いや、少しはあるんだろう。体は緊張しているしかし、彼女の足を止めることはなかった。

 

そしてミッドナイトも自分の体を抑えるようにしてそれを見守った。

 

少女は駆け寄ってくるなり、ためらうことなく飛び込んできた。思わず受け止め、小さな体が胸元にぶつかる。

 

そのまま、ぎゅっと、腕が回される。

 

その抱擁には全てが詰まっていた。少し恐怖も、安堵も、信じる気持ちも。幼いなりに、自分の中で押し寄せた感情をすべて込めて、ただ、力いっぱい。

 

ふわりと香るのは、日なたの匂い。

 

少しだけ汗のにおいも混じっていて、子どもらしい体温が衣服越しに伝わってくる。

 

震えていた。

 

その震えを感じたのか、しがみつく腕の力は強くなる。

 

もう大丈夫だと、言われている気がする。小さな身体で全力で叫んでいるのがわかる。

 

「……ありがとう」

 

ぽつりと、かすれた声がようやく出た。

 

「お兄ちゃんの、好きな食べ物はなあに?」

 

泣いて、震えているのがバレて、励まされて、勇気づけられて。どちらがヒーローかわからないなと思った時には、いつぶりかもわからない笑顔が浮かぶ。

 

「俺はたしか、そばが……好きだったと思う……」

 

その頬には、ようやく涙が流れるのだった。

 

 

 

・・- ・-・・-- ・・- ・・・・- 

 

 

凄まじく、うまくいったのではなかろうか。帰り道にそう思い、聞いてみる。

 

「行ってよかったよな?」

 

「ああ、本当に感謝してる。緑谷も、拳藤もありがとうな」

 

「しかし蕎麦好きとはね。じゃあ昼飯は美味い蕎麦屋に食いに行こうぜ。UAIはまだ老舗の味が足りないんだけどさ、一軒はあるはず!」

 

「かぁあ!!!青春すぎる!蕎麦屋で日本酒飲むわよ私は!!飲まなきゃやってらんない!犯罪よもはや!」

 

雑音はカットしつつ確信する。やはりご飯。ご飯は全てを解決する。あの少女は本当にグッジョブだったと思う。

 

「今まで、外食も行けなかった。横暴な店主とか客とか。そういうの見るだけで熱が上がっち待って。でも、なんか行ってみたいって今は思えてる」

 

「また暴走しそうになったら。さっきの感覚を思い出せばいいのよ。あのハグの感触とか、子供の匂いとか。みんなの笑顔とか心配顔とか。そんで、友達と美味しいお蕎麦を食べる記憶でも追加していけば、きっと貴方は大丈夫。先生が保証するわ」

 

あと美女にお酌する経験とかねとウインクを飛ばすミッドナイトにツッコむやつはいない。

 

「ああ、それ。いいかもしれないです」

 

向かう時には心ここにあらず、どこを見れば良いのかわからないフラフラとした足取り。それでも早足で進もうとする危うさがあった。けれど結果を見てみればやはりプロヒーローの準備と計画性はすごかったという結論になるのかもしれない。

 

初めてみた轟焦凍の穏やかな顔。しかし次の瞬間にはそれは曇る。きっと父親のことを思い出したのだろう。

 

「なぁ。緑谷!嫌なこと思い出したりするときって、どうしてる?」

 

「え、うん!結構あるし、最近も特に多いんだけどそうだな。ごちゃごちゃにせずに、順番にちゃんと思い出すといいって言われてそれをやると落ち着くんだ。なんていうか、過去の記憶は嫌なものもあるけど、それじゃなくて一番いいのを思い出して、それが最高だってちゃんと自覚するっていうか再確認する感じかな。それで、未来のことも夢を描くんだけど。この二つは本当に短くだけやって、今のことを考えるようにしてる」

 

「今日これからやること。お昼ご飯に何食べようかとか。今から会う人をどうやって喜ばせようとか。歩いているときに考えられることってないかなとかとか!いろんなことを思いつくと、自然と嫌なことを考える暇がなくなるっていうか、忘れちゃう感じ?」

 

「それは……。すげえな。でも、そうかもしれない。今はやることが明確だから、集中してられる。これもプロの仕事なのか」

 

今日のスケジュールはジーニストの提案のもとバッチリ決められている。というかオリンピックまでみっちりだ。きっと余裕は無くなるだろう。

 

「今までの態度。悪かった。これからの期間、よろしく頼む」

 

深々と頭を下げて、同級生に謝罪などを伝える彼は非の打ちどころの無い好青年である。というわけで、彼のやらかした悪いことを糾弾しようかな。

 

「いやはや拳藤さんよ。あの少女に結構罪深いことしたんじゃ無いのか彼は。割と邪悪じゃね?」

 

「あの子たぶん小学校1~2年生くらいでしょ。いや〜。あの年頃の男子にはもう目もいかなくなったでしょうね。あらゆる初を全部かっさらう勢いで間違いないわ」

 

「青春は早すぎると毒にもなる。けれどそれもまた青春というもの。背伸びした恋!いいじゃない!!」

 

緑谷と轟は話について来れていない。

 

「ええ!?どういう?この流れで責める感じになることあるんだ!?」

 

「やっぱ俺は、人を傷つけてたのか?」

 

笑いながら説明するが鈍感な二人に伝わったかは正直怪しい。緑谷は赤面。轟くんはポカンとしていた。

 

ちなみにお蕎麦は美味しかったです。ミッドナイトの頼んだおつまみメニューも初めて食べるものが多く、みんな興味津々だった。

 

ここまで笑顔でランチを過ごせるとは思っていなかったが、かなり良い滑り出しになったのでは無いだろうか。

 

 




未定ですが、次の南米編に修正を入れる必要が出てきそうでまた執筆期間をいただくかもしれないです

世界のスピードについていけるだろうか
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