教室にはヒーロー科の中でも選ばれた学生たちが揃っている。自分もそうだが、その見た目には一定の法則があった。
今回、定型人類の見た目からは離れている学生の参加は見送られた。単純にそれだけで銃を向けられる可能性があり、そしてそうでなければ容易くは害を加えてこないという理由からだ。実際問題、住民たちが彼らを見るだけで石を投げて銃を撃ってくる可能性があるらしく決して無視できない。
日本にも異形型への差別はあり、地方に行くほどにひどいと聞くがここはそんなレベルではなかった。普通に人権が認められていないのだ。街に出た熊の扱いである。
「だからってさ。正直納得いかないよね。何も悪いことしてないのに、隠れたり遠慮しなきゃいけないってのは気分が良くないな」
「あ、ありがとう。でも、安全のためだから。それに、いざとなったら葉隠さんが連れて行ってくれるって。僕や障子くんは待機してるから……」
拳藤さんはその正義感をどうにも抑えることが難しく、活躍の場を失った同級生たちを思って憤る。それに感謝しつつ、そして可能性がないわけではないことを強調するのは口田くんだ。結構久々に声聞いたな。
彼はまさに異形型の特性を持っている一人だった。岩石のような頭が特徴的な大柄な男子。後頭部のビラビラしたものは髪のようなものらしい。頭部にあるツノは入学当初よりもはるかに大きくなっていた。彼は普段から身振り手振りが多く、大きな声を出さないが、その柔和な性格はみんながもう知っている。
口田 甲司は個性『生き物ボイス』を持つAクラスの生徒だった。彼は囁くことで人以外の動物と意思疎通をして命令することが出来る。ただし人を操ることはできない。ちなみに小声でなくても個性は使える。
今回の課題の性質上、捜索に活用できる個性は積極的に使用される予定だったがそれでも彼らの見た目は南米においては劇薬だ。葉隠とその専用アイテムの透明マントで保護をすることが事前に決められているのだった。
「まっかせてよね〜!今なら三人までいけちゃうし、なんならドローンで浮かばせることもできるんだから!見てこれ!ちっちゃくて静かなのにこんなに飛ぶんだよ!」
透明な場所からぶんぶんと腕を振る声が聞こえる。葉隠さんも南米の状況には理不尽を感じているらしく、超やる気だった。
そこに誰もが聞いたことがあるのに、誰も聞いたことのない抑揚の声が響く。
「おい。こっちは時間ねえんだが。無駄話してんなら帰れや」
場に降りる沈黙は、その言葉を受けて反省してのものではない。困惑と混乱がその原因であった。
「おいおい爆豪。今までみたいにスカッとキレてくれないと怖えぞ?ガチギレしてるみたいに見えるって。前みたいな理不尽ギレもたまにだったら歓迎なんだぜ?」
「んだコラ!殺すぞ!!人様のキレ方に注文つけてんじゃねえ!せっかく声抑えてやってんのに……」
「ああ、これこれ。よかった。調子崩れるよマジで」
爆発しない爆豪なんて爆轟と言えるのか?と同級生たちはいじり倒している。それにしても彼は頑張っているようだった。すでに小学校への教育実習を初めて一ヶ月は経っているはずだ。
「この状態のかっちゃんがイジられてる……。やっぱり雄英ってすごいや」
「ほら、爆豪の更生の邪魔してやんなよ。やり過ぎは普通に良くないからな〜。あ、かっちゃん飴ちゃんいる?」
殺しそうな勢いで振り返った血走った目。そしてグンという加速と共に、指ごと噛みちぎられるかと錯覚する速さで手のひらにのせていた砂藤特製、『ばんのうあめ』を奪っていった。野犬かな?
この飴は集中と糖分補給ができる優れものであり、それを摂取する合理性は彼にとって否定はできないらしい。バリボリと噛み砕くのが爆豪らしいだろうか。
雰囲気を和ませるために砂藤と一緒に飴ちゃんを配って回ると、大きめの手が伸ばされた。
「もらっていいかな?淡輝くん」
大きな翼。いつの間にかそこにいるのはホークスだ。オリンピックが終わってから一度日本に帰ったらしいが、トンボ返りで戻ってきたらしい。いや彼を昆虫に例えるのは違うか。でも燕返しじゃ意味が通らないな。
「うわこれ美味いね。発売したらもう普通に売れそうだ。受験生とか欲しがりそう。おっと、わかってますよ。そろそろブリーフィングの時間でしょう。爆豪くんは正しい。こういうことは早く済ませるに限りますからね」
彼は後ろに控える大柄の男に小突かれて自分の本来の職務を思い出したようだった。かなり大型のACを纏ったその人物の顔も声も誰も聞いていないが、明らかにエンデヴァーの佇まいである。彼はUAIの特殊部隊に合格し、今回の作戦にも参加する。
自身の名声を追うことを止め、そして家族を救うために職務だけに集中しているらしい。今の彼はすごいぞとホークスも興奮を隠し切れない声で言っていた。正直言ってキャプテンセレブリティを酷使していた自覚はあったため普通に助かっている。
コン。という杖が床を叩く音で、生徒たちの意識は切り替わる。
「時間だ。始めよう。では人形からの説明を聞こうじゃないか」
マリアの人形は小さく一礼し、静かに説明を始めた。
「今回UAIが行うことは、南米における反社会組織、人物の捜索です。南米全土を支配する彼らといえど、単純な軍事力で見ればUAIに勝てるわけもありません。それにしてももっと大きな抵抗を予想していましたが、我々の調査を受け入れるという返答がなされています。隠蔽において強い自信があるようです」
北朝鮮も当初は抗議するのみで大人しかった。国際的な反論は実力を伴わなければ意味はない。その後に牙を向いたのだが、それでも一定の抵抗はしたのだった。今回はゼロである。歓迎ムードに流石に苦笑いが浮かんだものだ。
「UAIの合同軍が調査を行うのは都市部の人口密集地域です。そこは電波や機器の使用が認められており、最新装備の能力を発揮できるでしょう。しかし、地方や田舎には強力な技術に対する規制が敷かれています。定期的に擬似EMPが放たれる地域が都市を除く農村には多くあるのです。そこではデジタル機器は使用ができなくなっています。そのため皆さんのような個性を持った調査員が必要です」
「え、携帯とかデバイス。ていうかマリアちゃんと話せなくなるってこと!?やばくない?」
自国民に向かって定期的にEMPをかけるとは、圧政どころの騒ぎじゃない。しかしこの世界において、個性持ちを囲い、そして技術を独占して支配されるものたちを麻薬漬けにでもしない限りは反乱が止まらないのも事実だった。南米はもっとも民衆によるデモが起きにくい場所でもあった。それは日本と同レベルという異常さである。
「ここまで大規模な捜索だ。マリアの情報処理にも限界はある。都市部だけでも結構な負担と予想されているから、細かなところはヒーローたちの自己判断ということにもなっている。よほどのあたりを引かなければ、現地での社会見学となるだろうが。まぁどうなるかは私は知らないよ」
UAIの戦闘はAIの支援が根底にある。それが奪われるということは組織的で大規模な動きが制限されるということだ。
「なんか、デクくんがまた当たり引く気がする……」
麗日さんが全くうららかじゃない勘を働かせていた。いやはや、ご慧眼には恐れ入る。だが、正確には当たりを引かされるという表現になるのだが。何かしらの渦中には彼は叩き込まねばならない。悪夢を打倒できる可能性があるのは彼なのだから。
「対象組織について、改めてご説明いたします。『太陽たちのカルテル』。現在、南米において最大規模の勢力であり、事実上の統治機構として機能しております」
ホログラムに大陸図が浮かぶ。
「成立の経緯は、国家機能の崩壊と深く結びついております。旧来の統治が失われた地域において、治安を名目にその他の国家的機能を一括で引き受ける存在として現れました。当初は複数の組織の連合体でしたが、『太陽たちのカルテル』が勢力を伸ばし、吸収を繰り返し、現在では南米の組織が最終的に参加させられる単一構造へと変化しております。福祉施設ですら傘下に入らねば営業ができません」
指先がわずかに動き、旧ベネズエラ周辺が強調される。
「中核となったのは、旧国家体制が空白となった地域です。彼らはそこに秩序を敷き、徴収、制裁、武装を管理することで支配を拡大しました。米国とは激しく戦い続け泥沼のゲリラ戦を展開。結果的には勝利し、現在はアンデス山脈周辺にまで直接的な支配を及ぼしております」
マリアは視線を落とす。
「アンデス……」
「あれか!マチュピチュとかそういうあたり?」
「ええ、その辺りですわ」
八百万百は端末を操作しながら、穏やかに続けた。
「マチュピチュを含む一帯は、アンデス山脈の高地に位置しています。標高が高く、谷と尾根が複雑に入り組んでいて、大規模な部隊展開が難しい地形ですの。古代から要塞や隠し通路が築かれてきた理由も、そこにあるようです。交通路は限られていますが、その分、押さえた側が流通も人の移動も管理しやすい。戦うにも、隠れるにも、支配するにも向いた土地ですわ。……だからこそ、長く続く争いの舞台になってきた場所でもあります」
「まぁこんだけ大暴れしても外部からも内部から狙われても、全部なぜか隠し切れてしまうから誰も南米の女王様に強く出れないところがあるわね。ここらでもう一つ、注目の情報を共有しておくわ」
ミッドナイトは短く息を吐いた。そこに映るのはこれまでのメキシコ系の人々の情報ではなく、イタリアやヨーロッパ。西欧人の顔つきだった。
「最近起きた凄惨な事件。ヨーロッパの話よ。ゴリーニファミリー。ヨーロッパ最大と呼ばれたマフィア組織で、最盛期の構成員は約二万人。このご時世にヨーロッパで二万人よ。港湾、金融、武器、人身、どれも一通り手を出してて、古典的だけど完成度の高い連中だった」
画面に映るのは、各地に広がっていた旧拠点の一覧。
「数年前、ファミリーは一気に勢力を広げた。敵対組織は沈黙、警察も司法も追いつけなかった。少なくとも表向きはね」
ミッドナイトは指を止め、少し間を置く。
「問題は先月。内部で粛清が起きた。とされてるわ。規模も手口も異常。ヨーロッパ中の拠点から構成員が消えて、死体も記録も残っていない。生き残りはほんの数人。公式には壊滅扱いだけど、正直、それで片付く話じゃないわ。まるで生贄の儀式みたいだって、嫌な予感しかしないわホント」
二万人が消えるというのは個性社会においても異常である。どれだけの個性をどう使えばそんな人数を消すことができるのか、なんでも全一君のせいにして思考停止したくなってきた。
「その生き残りが南米へ渡ったのは確認済み。移動の際に使われた個性が強すぎて、最初は報告ミスを疑われたくらい。センサーも解析も、まともに機能しなかった」
ミッドナイトは椅子にもたれ、視線を上げる。
「つまり、彼らは目的を持って動いている。そして選んだ先が今世界で一番ヴィランたちが集まっている南米。これは偶然じゃない。ヨーロッパ最大級のマフィアを一夜で崩せる何かがあって、その上で生き延びた連中が選ぶ場所なんて何かが無いわけがない」
「今回の件、ヨーロッパの事件と南米の情勢は切り離せない。もう全部、同じ流れの中にあるってこと……。とまぁ、そんなことよりも」
一呼吸置いて、語気を強めて視線を鋭く尖らせる。
「ここにいる人たちは助けを求めてる。中毒にさせられた人たちも、子供を奪われた人たちも、自由というものを知らずに助けを求める力すら与えられていない人たちがいる。彼らにも全部を取り戻させて、最後には青春して欲しいじゃないの」
無理な話である。青春なんて、今の状況にはそぐわない。それくらいは彼女自身が一番わかっていた。
「助けましょう。そして悪い奴らには痛い目を見てもらわなくっちゃ」
パチリとウインクが決まると、教室に気合いの怒号が起きた。それは再びゲイルが宥めるまで続き、士気は最高潮になっている。
「追加情報がございます。アンデス地域に関する人口動態と物資流通についてです。現在、アンデス地域周辺へ流入している人間の数と、衛星および各種センサーで確認できている人間の数に、大きな乖離が見られます。入域記録、移動ログ、密航ルートを含めた推定値では、明らかに人の数が増えているにもかかわらず、実際に捕捉できている数はそれを大きく下回っております」
数値が並び、差分だけが強調される。
「単純な隠蔽や計測誤差では説明がつきません。個性を使用した隠蔽と思われますが、ここまで大規模に行われるのは例がありません。原因の究明と探索が必須です」
一瞬、言葉を選ぶ間がある。
「この状況は、太陽たちのカルテルの支配構造と無関係ではないと見られております。管理下に置かれていない人口、記録されない消費、説明のつかない移動。以上が、現在把握している追加情報でございます。人が消えているのか、見えなくされているのか。その判断は、現地での確認を待つほかございません」
人形は再び一礼した。
「皆さまのご無事を見守っております。必ず、お戻りください」
ここで報告するにはあまりに小さい出来事を、狩峰淡輝は知っていた。しかしそれはまだ多くの人には共有していない。
世界各国からヴィランや犯罪組織が集まっている南米はもはや裏社会のオリンピックとでも言えそうな顔ぶれである。そんな中、日本から唯一移動してきた組織がいるのだ。
非常に小規模なヤクザ。暴力団という絶滅危惧種は、そのうち適当に緑谷に殴らせて経験値を稼ぐためにいくつか潰さずにおいたヴィラン候補の一つだった。
そもそも死穢八斎會はヴィラン五輪に到底参加できるような規模の組織ではない。戦える個性持ちが何人かいる程度のサークルが、なぜ国家の代表のように招待をされたのか。どうにも胸騒ぎがしていた。
その組織のについて今回初めてしっかり調べさせた時、少しだけ不穏な情報が見つかった。先代組長の親類に、生まれた時から個性因子の強度が高い女の子がいたのだ。それをオールフォーワンのリストの中で発見していた。
生きていれば6歳になっているはずのその子は、個性登録がされていなかった。日本社会から隠されてしまっている。
オールフォーワンが目をつけるほどの才能が隠され、そしてそれが一番にできそうな組織が身の程を超えた場所に、オールフォーワンと会える場所に向かっている。
狩人の血が少し燃えるような感じがして、この情報をさらに精査することに決めたのだった。
ええ!?インターン編をナイトアイ抜きで、ユアネクストも同時に!?
できらァ!!(原型なし)