夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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新学期の生活

 

南米沿岸を進み旧ベネズエラ沖に停泊してからすでに一ヶ月が経過した。

 

週の何日か、個性伸ばしや戦闘訓練の時間を南米での実地学習へと割り当てられ学生たちも捜索に協力をしている。

 

事前の想像とは異なり、かなり平和に過ごしている。

 

平和と言っても当社比というか、自分目線での話になる。北朝鮮では戦争をしたし、オリンピックの期間は世界中からテロが集まっていたからそれと比較すればかなり穏健であった。

 

襲撃自体はある。街中、UAIランドへ直接。様々なバリエーションで絶え間ない。犯人たちも国際色豊かであって統一性はなく、しかし強力な個性を所持している。

 

どうやら彼らは選別のようなことをしているらしい。

 

黒い霧でのワープは相変わらず反則級に働いているが、それを使う時には決まって痩せほそった男がついてくる。

 

死柄木弔を名乗るそいつは、人の手に見える何かを顔面だけでなく身体中に貼り付けて凄惨に笑った。

 

「いい加減、調子に乗りすぎだ。ここを沈めれば、平和の象徴も一緒に沈んでくれるかな」

 

最初は本当に驚いた。

かつてオールマイトにすら血を流させた戦士たちと同格かと警戒し、登場と同時に狙撃して殺したのは当然の対応である。

 

普通に死んだから驚いた。

 

彼の個性は『崩壊』。その手の五指で握ったものをボロボロと崩れて塵にするという強力な個性だ。

 

しかし、その制約上弾丸は五指で触れないし、彼の身体能力では防ぐこともできない。ただ壊すことに向いている個性を暴れさせ自身のストレスをぶつけるだけの子どもであった。

 

死んだ後もオールフォーワンが何かを仕掛けてくることもなく、ごく普通に死んだままだった。

 

そこまでを見届けて、こいつを殺すのはやめにした。なぜならあまりにちょうどよかったから。緑谷出久をはじめ、爆豪や轟。拳藤など精鋭の対人戦闘経験を積むのにちょうどいいと判断して生かすことにした。

 

オールフォーワンがあるならばもっと強力な個性の組み合わせにできるだろうに、どうにも捕縛や殺害をさせたいようにすら思える。本人を測っているのと、どれだけ脅威にどんな反応をするのかを見ているようだった。

 

脳無と呼ばれる改造人間に囲まれて護衛され気が大きくなったのだろう。

 

「オールマイト!あいつだ!あいつさえ殺せば!!!」

 

そんな恨み言を放って暴れる子どもだったが、そんな隙だらけの姿を許すようなヒーロー科ではない。

 

左右の脳無にか細い炎と、細い氷が迫るがそれぞれ対応は不要と微動だにしない。

 

他の個性を行使したいだけのチンピラもその強大な盾の性能を知っているのだろう。それぞれが自分たちの攻撃をするところだった。

 

予測通りに脳無はその炎を拳圧だけで散らし、氷槍は脇腹に砕かれる。

 

 

勝利を確信した笑顔の次の瞬間、空気が彼らを裏切った。

 

ゴウという音も派手な閃光もない。ただ、吸った瞬間に間違いだとわかる熱が肺に流れ込む。叫ぼうとしたヴィランの喉が、声になる前に閉じた。悲鳴が出ない。気道が灼け、息を吐くという行為が拒否される。

 

肺胞が一斉に焼かれる。表面ではない。皮膚も衣服も無事なまま、内側だけが壊れていく。

吐き出そうとしても、吐けない。吸おうとしても、吸えない。

 

誰かが膝をついた。次いで、別の男が前のめりに倒れる。咳は出ない。咳をする余力が残っていない。気管の内壁が腫れ、焼け、空気の通り道を自ら塞いでいる。

 

そんな煉獄のような惨状も左側だけだ。

 

右側のものたちは全く別の地獄に晒されていた。

 

 

彼らには即座にUAIが作った酸素供給用の注射器が撃ち込まれるだろう。卓越した個性か、UAIの最新医療でなければ彼らは死ぬ。死の淵に人を追い込めという命令は厳しいものだったが、それが最も人を守れると理解して轟焦凍はやり切った。

 

 

 

 

肺が、一気に締め上げられる。吸い込んだ空気が、内部で結露する。水滴が氷の粒となり弾けていく。

 

肺の奥で、パチリ、と音がした。それは大事なものが凍る音。吸うたびに冷気が刃になる。吐くたびに、肺が剥がれるような痛みが走る。呼吸とは、本来ここまで意識するものではない。だが今は違う。一回一回が選択になる。吸えば壊れる。吐けば潰れる。

 

一人が口を開けたまま仰向けに倒れた。白い霧が唇から漏れ、喉の奥で止まる。もう動かない。

もう一人は、自分の胸を掴み、爪を立て、意味もなく叩き続けている。中にあるものをどうにかしたいのだろうが、どうにもならない。

 

そのいずれの攻撃にも脳無は耐えている。いや、肺は確かに損傷していたがある程度は無酸素でも運動できるようになっているしその損傷も治せる。

 

だが、その背後にいた者たちは違う。個性を使う間もない。盾に守られているという慢心が、そのまま死角になった。

 

熱と寒。

 

相反するはずの二つは、ここでは完全に制御され協調していた。表面を炙る炎はなく、指先から起こす凍傷もない。人体の弱い部分を狙うその合理はまるでヒーローが行う攻撃ではないように思える。

 

最後に残ったのは、うめき声と体をよじる音だけ。倒れたヴィランたちは、焦げても凍ってもいない。見た目は、ほとんど変わらない。それでも誰も立ってすらいられなかった。

 

そうして中央に立ち、体の左右を異なる火傷に器用に晒されて、のたうち回る死柄木は周囲の地面を崩壊させることくらいしかできていない。

 

 

脳無は咄嗟に動けない。命令者である死柄木弔が発声をできなくなっているから。

雄英高校で最も高い機動力を発揮する二人には、それだけで十分だった。

 

 

「『発勁』『黒鞭』。擬似100%……。ブーストチャージ……」

 

黒鞭が地面を叩き、引き絞られる。筋肉と鞭の両方で加速を溜め、逃がさず、身体全体に通すための準備である。これでワンフォーオールの出力を100%近くまで高めることができる。

 

 

「マンチェスター・スマッシュ!!!!」

 

緑谷のかかと落としは、あの英雄の一撃かと思わず見誤るほどの威力。そしてそれがUAI特製のACパーツで保護された脚部からさらに加速するブーストを伴って叩きつけられる。

 

咄嗟にガードした両腕ごと、沈み込み鎖骨を粉砕してそのまま足は止まらない。肺のあたりまで食い込んだ足は、そこで思い出したかのように『発勁』の効果でさらに加速する。振り切った足が地面に到着する頃には、真っ二つに裂かれた脳無がその場に倒れていくのだった。

 

 

爆豪の爆破は、煌めくように洗練されていた。下から潜り込むようにして上に向かって放とうとする姿勢で力をためる。

 

「ハウザー……」

 

爆豪の爆発する汗はすでにUAIの科学者によって原子レベルで分析され、そしてその純度を高める方法も研究されていた。専用の籠手に仕込まれた弾倉には最新の火薬が詰まっている。それを受け止め、さらに内部で炸裂するための杭までセットになったそれは、オールマイトを襲った戦士の武装をヒントに開発され狩人の腕を何本も犠牲にしながら開発された狂気の一品がここにある。

 

何よりも心が落ち着くようになってから、技がキレていた。淡輝などにキレてないのにキレてる!なんて挑発を向けられながらも心の平静を保てるように訓練するほどに爆発は収束していくのだった。

 

そうして脳無が腹部にガードを固め、追加で生えてきた腕も腹を守っている光景をゆっくりと観察しながら、穏やかな表情で爆破を制御。最短最小の動きで、あっという間に頭上を奪った。

 

わざわざガードしているところを殴る必要もない。だいたい、急所は頭部なのだから。

 

「パイルバンク!!!」

 

脳天から侵入した杭が正中線を蹂躙し、そして脳無が内側から爆裂する。

 

 

二人とも、そこに一切の手加減はない。

脳無はまさに脳死判定を喰らっていて、すでにそれは生体兵器であると判断されている。これは捕縛など考えず破壊をすべき兵器であった。だからこうすることに迷いはない。

 

「嘘……だろ?なんだよ……これ……。またかよぉ……」

 

熱波と寒波の中間にいた死柄木はどうやら、まだ発声ができるようだった。そして優勢を確信した次の瞬間に自分の陣営が崩壊するのを見て、憎悪の形相を浮かべている。

 

「死柄木弔!」

 

しかしながら、それでも彼らは逃げ切れる。ワープの個性持ちだろうそれは、死柄木弔を優先して回収し、残ったヴィランたちは放置される。

 

ちなみに本体はワープして来ていないらしく、イレイザーヘッドによる『抹消』も効果がなかった。まぁ当然だ。遠方からでもワープさせることができるなら、絶対に敵地に行くべきではない。

 

UAIと出撃拠点の両方にすらいるべきじゃないだろう。関係のない場所から二ヶ所を繋げることができるならそれが最も安全だ。

 

 

「ちょっと!あたしの出番!なんもしてないって〜!」

 

無垢な叫びが最も死柄木の心に傷を与えているとも知らず、拳藤は思ったままに叫んでいた。

 

 

 

・・- ・-・・-- ・・- ・・・・- 

 

捜索し、襲撃に対応する。それがこの一ヶ月の生活だった。

 

毎度襲撃はあれど、一度も被害すら発生しておらずUAIの安全神話は実際の偉業として住民たちも当たり前になってきている。

 

そんな熟練の被テロ経験をもつUAIの上層部、主にはマリアの予測であるがそれが外された。

直接襲撃は完封され次の襲撃はまた遠いと思われていたが、なんと死柄木はその日のうちに再びやってきた。

 

冷気対策に青い炎を操る個性持ちを伴って、そして熱気対策にどこからか氷の個性を与えられた複数のヴィランが用意されている。

 

東アジアからのヴィランたちを従えて、怪我も治った様子でキレていた。どうやら日本で犯罪歴のある名のあるヴィランも混じっている。あの筋肉を纏っている男の名前はマスキュラー。そして『歯刃』で飛ぶように移動するのはムーンフィッシュ。ガスを放つ少年のような人物すらいた。

 

「さっきので勝ったと思ったか?ふざけるなよ。あんな威力偵察で、わかって気になりやがって。こっからが本番だ。世界ヴィラン連合開闢行動隊。壊してこい」

 

先ほどよりも、それぞれが明確に危険度が上がっているのは明らかだった。面制圧に対策をした上で、範囲攻撃で倒されるような相手ではなかった。

 

しかし、なら直接攻撃をすれば良いだけである。

 

 

「次はあたしが相手だ!!」

 

 

両手のネイルを光らせて、全身から闘気のように力を漲らせる女子高生が爽やかに宣言した。

 

「はっはぁ!!いいね!殴り合えそうだ!!」

 

血狂いの異名を持つヴィラン。『筋肉増強』を操りオールマイトのような怪力と言われた男は血湧き肉躍る戦いに興奮している。

 

躍動し、先陣を切って殴りかかった。万感の思いを込めたグーである。

 

「ならパーで!」

 

対する拳藤は、受けを選択。戦車すら吹き飛ばすほどの打撃を手のひらで受け止めて軽やかに笑う。

 

「あんたの拳なんかに負けるもんか!ってイッタぁ!!」

 

体の周囲には刃のような歯が展開されており、何本も槍のように体に突き立っている。しかし、深くは刺さっていない。『生命線』によって強化され、他の個性の支援まで受けた彼女は並の人間ではなくなっている。

 

「邪魔してんじゃねえ!!殺すぞ!」

 

マスキュラーは味方のはずにムーンフィッシュに手近な縁石を投げつけて抗議するが、ムーンフィッシュは笑いながらそれを避ける。

 

その間にも他のヴィランが攻撃し、そして拳藤は傷を負っていく。

 

「うわぁ。ちょっと前の爆豪みたいなキレ方だな。グレちゃったらこうなってたのかも?でも今は、戦闘に集中!」

 

グイと伸ばされた巨大な手。それをマスキュラーが迎撃しようと構えた時に女子高生から挑発される。

 

「力勝負しよう!おっさん!逃げんなよ?」

 

「あっはあ!!いい度胸だ!受けてやる!!」

 

そしてむんずと掴まれる。握りつぶそうとするその手に彼が抗えるかどうか。彼女の手は限界を超えて軋み、そしてマスキュラーは内側から筋肉を爆発させるようにして耐える。

 

飲み込むか、内側から食い破るか。そういう戦いだと思っていた。

 

 

「ごめんね。そういう男の勝負とかには、興味ないんだ」

 

「んだ……これは……。おい、ふざけんな!!」

 

「『命奪』なんて可愛くないネイル。華の女子高生がするはずある?こんなの絶対嫌だったんだからさ!」

 

『命奪拳』という個性があった。それは相手の生命力を奪い取る個性。拳を長く触れさせないといけないし、溜めが長いから打撃戦では使えない個性。しかし当たれば効果は絶大だった。アメリカの雄英入学生から『ドレイン』という似た個性の協力もしてもらいそれをイメージしてネイルに刻んである。

 

マスキュラーの根幹にあった気力と体力が奪われて、そして拳藤の傷とスタミナが回復していく。

 

全力で拮抗していたのだ。一方的に弱体化され、相手がその分強化される負のループに突入すれば耐えらえるはずもなかった。

 

小さくなってしまったマスキュラーをまるでボールのように握り込み、空を翔けるムーンフィッシュにストラックアウトを決め、勢いそのままにヴィランたちへと殴りこむ。

 

「ふざけるな。ふざけるなよ。クソヒーローどもが!!」

 

元気3倍くらいになった拳藤一佳の大暴れによって世界ヴィラン連合開闢行動隊は壊滅させられてしまった。

 

 

さて、こんな襲撃が何度も起きている。

 

彼の元に世界中からヴィランが集まり、毎度彼を残して捕まったり殺されたりする。何名かが一緒に戻り、そして回復されて送り込まれてくる。最初のように精鋭だけで抑えずに、たまにプロを使い。他の雄英生を当てたりして相手を悉く退けていくのだ。

 

 

狩峰淡輝の方針は明確だった。死柄木弔はいつでも殺せるのだから、使えるだけ使ってからにしよう。これだけだ。

 

世界ヴィラン連合の首魁を名乗る死柄木弔は、あまりに弱く哀れだった。しかし、後ろ盾は強力で一ヶ月に10回もの襲撃を彼は続けている。これは根気強さではなく崖ぎわに追い詰められているだけだろう。

 

最後の方には攻撃を受けていないのに戦闘中に吐くことすらあった彼は、どうやら限界そうに見える。

 

 

しかし、困った。

 

「淡輝様。この状況はどのようにお伝えしますか?」

 

「ああ、まずいな。全然見つからない」

 

好調な戦闘とは裏腹に、本来の目的である捜索は全く進んでいないのであった。淡輝はどれだけ方策をつくしても出ない結果に焦りを感じ始めていた。

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