夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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夢は道連れ

 

人類で最も寝起きが良い自覚のある自分は、朝の微睡というものを知らない。

寝起きに朦朧とする意識や、寝ぼけるということをしたことがないのだ。だからこそ、よくわからなかった。

 

「……ん! ……あーくん!」

 

「んあ?」

 

曖昧すぎる認識が、それそのものが自分にとっては異常である。この人生初の感覚によってアドレナリンが吹き出し、脳が急速に覚醒をしていく。

 

「なんだ……。これ……」

 

どうやら、自分は目覚めたらしい。

しかし、自分は立っていて。そして眠ったような意識だけが戻ったというのが適切だろうか。

 

近くには同級生たちが真剣な表情で集まりつつも。その半数は周囲を警戒しているようだった。彼らは緊張からか汗をかいているようで、体は強張っている。

 

「どこだ……。ここ」

 

「あーくんでも、わかりませんのね。それより大丈夫ですの?こんな風に体調が悪く見えるのは、初めて見るというか」

 

ここらでようやく判断力が戻ってきた。どういう状況なんだこれは。いや、それよりもこの状態の異常性を伝えなければ。

 

「ああ、悪い。でも、多分だけど。俺は眠ってないと思う。『目覚め』が効いてたらこうはなってない。明らかに目覚めたけど、起きてない。これは普通の状態じゃあないと思う。ていうか、調子が悪すぎるな。個性なしで起きるのってこんなに辛いの?」

 

麻酔を食らったかのようなこの混濁、体が重いこの最悪な状態でみんな朝を始めていたのだろうか。ずっと眠っていたいようなこれを毎朝。それって凄すぎないか?

 

「いえ、違いますわ。私たちも感じています。それより」

 

「ねえねえ!淡輝くん!ここはどこでしょう!!こんなに古くて強い血の匂いがする場所なんて初めて……。わぁ!すごいなぁ。楽しみですねぇ!」

 

他の全員の深刻そうな顔を置き去りに、うっひょいとでも掛け声をかけて飛び跳ねそうなトガちゃんがそこにいる。テンションは今まで見た中でもMAX。嫌な予感しかしない。ていうかダメだ絶対に悪いことが確定で起きている。

 

その周囲を見渡せば明らかに先ほどの遺跡ではない場所に立っているとわかる。GPSや通信は途絶しており、当然のようにマリアの応答はない。

 

ここの第一印象は、「暗い」というシンプルなもの。

 

だが、何も見えないわけではない。それぞれが手に持っていた灯りは効いている。ただ、先まで届かない。本来届くべきはずの場所まで照らされている感じがしておらず気持ちが悪い。だってライトを掲げたなら、10m先が見通せないはずがあるだろうか。

 

なぜか光が弱すぎて数歩先の壁が、そこで終わっているように見える。

 

空気が重い。湿っているが、水気は感じない。代わりに、土と石が長い時間閉じ込められていた匂いがある。そこに、トガちゃんが言っていたかすかな鉄の臭いが混じる。血だと断言できるほど新しくはない。だが、消えきってもいない。

 

そして何より感じるのは、全身に鳥肌が立つような既視感と懐かしさ。そしてそれを上回る嫌悪感である。戦いを前にして沸き立つ血を自覚するが、それよりも辟易とした感覚のほうが強い。自分の中の狩人が深く項垂れて最悪だとこぼしているような。そんな不吉な感じがまとわりついて離れない。

 

周囲の同級生を確認すると、6名がいるようだった。大人はどこにもいない。

緑谷、爆豪、轟、トガちゃんに百ちゃん。そして口田くんが混じっていた。

 

戦える男子たちは周囲を警戒していて、奥に見える別室にはまだ足を踏み入れていないらしい。いや、今まさに行こうとする爆豪と止める緑谷で揉めているところだ。

 

奥の別室へ続く通路。その入口の前で、床の感触を確かめるように足先を置き、体重をかける直前だった。ためらいはない。むしろ、遅れていること自体が不満だという動きだ。

 

「おら、起きたんだからもう行くぞ。こんなクソみてえな場所からは1秒でも早く抜けるべきだろうが」

 

低く、短い声。怒鳴ってはいない。だが、譲る気もない。

 

「かっちゃん。ここまで待ったんだし、狩峰くんに一度相談しよう。ナイトアイから何か聞かされているかもしれないし。明らかに雰囲気が変わったよ。ここは危険だ」

 

肩を張るでもなく、爆豪を押し返すでもない。声をかけただけ、それだけで十分だと分かっている距離感だった。

 

これ、起きるのがもう少しかかっていたら面倒なことになっていたかもしれないな。

 

「すでに数時間、ここにいます。みなさん、ずっと待っていたんですわ。あーくんが目覚めるのを。あの爆豪さんもずっと堪えてくださいました」

 

まじか。それは爆豪に対して申し訳ない。彼のことはずっと乱暴者の短気なやつという印象が拭えていないようだった。

 

「ていうか、数時間!?俺は、ずっと立ってたの?」

 

「ええ、そうですわ。立った状態で寝ているようなそんな雰囲気のあーくんに、誰も触れることすらできませんでしたの。緑谷さんだけが、少し髪を揺らすことができるくらいで。なんというか、そこにいるのにいないかのような。そんな状態でしたわ」

 

どうやら自分はアメンドーズのように、不可触の存在になっていたらしい。というか幽霊みたいな?

 

「ナイフも刺さりませんでした。なんか、アレみたい。ロード中って感じです?」

 

「なんだそれ、ゲームのロードのこと言ってる?」

 

トガちゃんには色々と前世紀趣味に付き合ってもらっているが、ゲームで遊ぶのも自分が教えていた。それがこんな感想を引き出すとは不思議なものだ。

 

「キャラだけ読み込まれてて、まだ操作できない感じ。あれにとっても似てたのです。接続が悪いのかと思いました。切断にならなくてよかったですねえ」

 

ニタアと笑う彼女は、とても可愛らしいとは言えないほどの危険度を感じさせてくる。そしてその例えはどうにもしっくりくるのだった。

 

「おい、クソ七光り。お前があの杯に触れて、これが起きた。んで、お前が目覚めるまでなんもここは動かなかった。お前が起きてからだ。んな感じがし始めたのは」

 

「そうです。血の匂いもさっきから香り始めました。というか、この場所自体が動き始めた感があります」

 

なんだ、それは。そしてもう一つ、無視できない疑問を投げざるを得ない。この感覚についてだ。

 

「ていうか、この怠さっていうか。体調不良は俺だけか?」

 

「ううん。みんなだよ。なんていうかいつもの半分くらいしか力を出せない感じがする。いや問題なく動けるんだけど、耐えられなさそうっていうか。なんていうんだろ……」

 

緑谷は違和感についてブツブツと持論を展開し始めているが、それを見て少しだけ落ち着いた。

そうだ。なんだか体が虚弱になっているかのような、そんな感じがしている。これは悪影響に間違いない。

 

「わたくし、これと同じではないですけれど近い感覚を知っていますわ。拳藤さんに協力している『生命線』の個性を逆にかけた時に似ています。相手への妨害として使えないか検討していたようですが、実用には至らなかったはず。生命力が半減しているような感じと言えばいいでしょうか」

 

「トガもわかるのです。これ、HP半減です。他はそのまんま。ゲームってやっぱり役に立つんですねえ。淡輝くんはすごいなあ」

 

こんなつもりでゲームをやらせていたわけでは全くない。しかし、あまりにもしっくりと来る例えを否定もできなかった。まさにそのような感覚だったから。

 

 

そこまで話して壁の近くへと進む。ここの壁は石材だ。切り出された形が整っている。墓所か、通路か、用途は分からない。そのはずなのに、ここは墓場であると直感が囁く。感覚が信用できず、しかし確信までできてしまうのは不気味にすぎる。

 

 

「っ!!おい、なんだこれは!攻撃するぞ?」

 

 

それまでずっと警戒を続けていてくれた轟が、何かに向けて注意を向ける。それは部屋の中にあった唯一の物と言える物体。

 

淡輝がある程度まで近づいたそれは、胸元の高さまである壊れたランプだ。轟はそれを指差していた。

 

淡輝は息をのむ。そのランプに群がる、亡者のような小人たちを見て戦慄したのではない。それは淡輝が日常的に見ている幻覚の類であって、他の人には決して見えないもの。

 

「きゃあ!なんですのあの化け物は!き、気持ち悪い!」

 

咄嗟に銃を『創造』して構える百ちゃんの変化に頼もしく思うが、それどころではない。

 

「おい、みんな。見えてるのか。こいつらが……」

 

「ああ、やっぱ先に攻撃して……」

 

「明らかに人間じゃねえ。やるんなら先制すんぞ」

 

その悍ましい白い小人たちを同級生たちが認識している。オールマイトも緑谷ですら見えなかった彼らを、なぜかみんなが見えている。

 

これは一体どういうことだ?

 

「いや、待って。ちょっと待ってくれ。あれは前から見たことがある。今のところ、害があったことはない。ちょい待ってくれ」

 

混乱で思考が空まわる。この一ヶ月ほど、ずっと真新しいことがなかったところにこれだ。ちょっと心の準備が出来ていなさすぎた。こんな方向で進展するとは思えていなかった。サプライズすぎる。

 

観察すれば、亡者たちは必死にランプを叩いているようだった。しかしランプは灯らず、壊れたままだ。亡者たちは悲しそうにそれをどうにかしようとしている、ように見えなくもない。

 

「ナガンが見てたら、漏らしてたかもな」

 

どうにかユーモアを捻り出して心を冷静に保つ。ごめんレディ・ナガン。普段なら女性をこんなふうに使ってジョークは言わないことにしているが、今は余裕がないんだ。

 

こいつらを見慣れているこちらとしては、こんなに困っている様子は初めて見る。だからきっと何かがうまくいっていないのだろう。なぜか小さい彼らを敵とは思っていないので、きっと自分にとっても良くないことが起きていると感じてしまう。

 

 

「ああああ、あの。わかる。わかります。彼らが何を言っているのか」

 

それまでずっと、身を小さくして怯えるだけだった口田くんが、ここでようやく口を開いた。

なんとその小人たちの言葉がわかるという。

 

意を決して、それを聞く。

 

「壊れてる。不完全。狩る人、だめ。死は終わり。戻れない。光らない。」

 

 

たった一人を除いてごく当たり前のこと。死んだら終わりという常識を、なぜか悲痛そうに繰り返しているらしい。

 

 

それを聞いて狩峰淡輝は、怖気が背中を掻きむしるような感触に、ずっと冒涜していた常識に殺されるかと思うほどの衝撃を感じさせられた。

 

 

・・- ・-・・-- ・・- ・・・・- 

 

 

 

 

 

床はところどころ沈み、割れ目がある。割れ目の奥は見えない。石板には文字が刻まれている。読めるようで読めない。認識のピントがボケているというか、そんな曖昧さが現実感を失わせる。

 

「ええ、みんなそうですわ。これは読めません。まるで夢の中みたいな不自由さとでも言いましょうか」

 

「マジで、こんな悪夢は勘弁だわ。頼むからやめてほしい」

 

そんな願いは決して叶わないらしい。叫び声が止まらない。

 

「うわあ!なななな、なんで!?だれ!?危機感知には何にも反応してなかったのに!」

 

「今度はなんだ!?」

 

最後尾にいた緑谷が今度は飛び上がる。そちらを振り向くと、その異常が迫ってきていた。

 

「死柄木!??嘘だろ!?」

 

死柄木弔が、霊体のような半透明な姿で歩いてくる。避けた緑谷をスルーして。そして反応できなかった百ちゃんを素通りしてこちらに来ている。

 

「燈矢兄!!何でここに!」

 

荼毘も同じく歩いており、轟焦凍は臆さずに兄の肩を掴もうとするがその手は何も掴めなかった。

 

彼らは別のヴィランを伴って歩き、閉ざされているはずの扉を貫通して歩いて行った。こちらのことを一切気づいていないように。まるで、幽霊かのように。

 

最後尾のヴィランが消える前に、爆豪は飛びかかって爆破をした。

 

「死ねえ!!!」

 

しかし、何も殺せずに

 

 

「なんなんだ……。ここは……」

 

全員の意見を代弁してくれた緑谷の言葉に同意しつつも、様々なことを確認し状況を整理した。

 

「ではここまでの事をまとめますわ。まず我々は先ほどとはどこか違うところにいつの間にかいる。そしてそれはおそらくは予知されていないか。事前に警告を受け取っていないなら、ナイトアイが織り込み済みの状況である可能性が高い」

 

「もしくはナイトアイにとっても未知の状況ってのもあり得る。彼は万能じゃない」

 

「ええ、それが最悪のパターンですわね。そしてここはあーくんが起きるまで起動しておらず、起きてから活発化した。その亡霊のような小人たちは幻覚だったのに、全員が見えている。そして先ほどのヴィラン連合たちの透明な姿。まるで幽霊のようでしたわ」

 

「さっきの淡輝くんとおんなじ感じでした。じゃあデクくんなら触れたかもしれないねえ」

 

つまり、つまりはどういうことだこれは。

 

「信じがたいことですが、ここは現実と別の次元の狭間とでも言いましょうか。そのように位相がズレているとでも表現するのが適切ではないでしょうか」

 

「あの世とこの世の間みたいなものかもですね〜」

 

「本当に、まるで夢みたいだ……」

 

 

緑谷が何気なく言った言葉。これが夢だとしたら、一体誰の夢なんだ?

決まっている。これは俺の、狩峰淡輝の夢なのだろう。この悪夢に友人たちを巻き込んでしまった。

 

懸念はたった一つだけ。そしてそれが何より重い。淡輝はそれだけしか考えられなくなっていた。死んだらおわり。本当に?

 

 

「おい。そのバケモンが敵じゃねえなら、こっち見ろや」

 

爆豪の声の方向、通路の先に扉がある。

 

かなり大きい。

 

下から上に持ち上げる形式のような取っ手はあるが、ずっと使われていないと一目でわかる。金属製で補強が何本も打ち付けられている。

 

扉の左右の壁に、彫刻がある。仮面をつけてローブを深く被った誰か。立っているのか、膝をついているのか、判別できない。腕は胸の前でクロスさせるようにしていて、手にはランタンのようなものがついている。燭台のような彫刻だろうか。

 

「この扉、さっきは少しも動きやしなかったが、今は動くぞ。結構な重さでも、持ち上げられないほどじゃねえ」

 

「血の匂いは奥からです。進みましょう!ヴィランもあっちに行きましたし、ここはもう飽きたのです」

 

最悪の後押しをトガちゃんがしてくれたことで、進む決心がついた。まぁポジティブなことは良いことだが、それどころじゃない。

 

淡輝はこのところ、ずっと現実が夢だと思っていた。

 

だから自分が死んだら目覚めてなかったことになる。そして新しい夢をみるという繰り返し。この現象を自分が起こしているとは思っていないが。きっと『この世を夢にする個性』が生まれて、自分の『目覚め』と悪夢的な噛み合わせを生み出したのだろうと仮説を立てていた。

 

じゃあ、ここはどうなる?

 

自分が起きる時、あるはずの『目覚め』がなかった。

夢の中で見る夢は、非現実として扱っていいのだろうか。自分にとって。夢の逆、それは現実と変わらないと言えないか?

 

あの小さな亡者たちの言葉は無視できない。

仮に自分がUAIで起きる時に戻ったとしても、ここで死んだら彼らは一体どうなる?

 

何かの不具合に焦る亡者たち。この嫌な予感。全てを総合して、この場所が自分にとって不吉であることだけは間違いない。

 

 

方針が決まった。死んではいけない。誰も死なせてはいけない。

 

 

狩峰淡輝は戦い初めてようやく、命の重さというものを背負い。

当たり前に体が震え始めるのを感じた。

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