夢のヒーローアカデミア   作:ZAT23

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第一層

同級生たちはこの意味不明な状況に対して、警戒はしていても恐怖はしていないようだった。口田くんだけは小さい亡者の声を聞いて以降ビクビクと落ち着きがないが、それは仕方ないだろう。

 

彼らと自分はあまりにも違う。彼らはいつも全力で、命だって一度きり。危険を承知で危険に飛び込むヒーローたちだ。自分にそんなことはできない。

 

「まずは、索敵をしよう。百ちゃんに口田くん。できるだけここの構造を把握してから動きたい。お願いできる?調べて、準備して、作戦を立ててから動いていこう」

 

真っ当な意見である。未来が見えなければみんなそうしているはずだ。

可能な限りは石橋を叩こう。準備をして、『創造』で有効な道具を作っていけばいい。そう思っていると、爆豪から声がかかった。

 

「おい、チンタラやってるのがノーリスクってのは都合が良すぎんだろ。嫌な予感が止まりやしねえ。できるだけ早く行ったほうがいい」

 

「えっと。僕も、かっちゃんに賛成、かな。『危機感知』がおかしくて。今ここに留まっていることも安全には思えないのは、僕も一緒なんだ」

 

「乗っかってきてんじゃねえ!てめえと同じなら留まったるわ!」

 

いきなり自分の判断を疑われ、面食らう。今まではこんなことはそうそうなかった。彼らの直感は多くの場合正しく、そして自分の助言や先導は結果的に正しかったから間違えることは多くない。

 

初見の時にはままあることだが、自分は特に迷いはしていないかった。確信を持ってそれを突き通し、間違っていても次に繋げていたから。意見を受けて再考するというのはあまりやったことがないのだ。

 

しかし、極限状態での最善を選ぶ力は確実に彼らの方が上だろう。爆豪と緑谷の意見の方が遥かに頼もしい。

 

「わかった。それなら索敵だけで、準備は最小限に。マッピングだけはしよう口田くんならそこまで時間はかからないはずだから」

 

全員が同意し、そしていよいよ動き始める。金属扉によって隔てられた先には一体何があるのか、『危機感知』に反応するものであり、血の匂いをさせている何かがあるはずだ。

 

できれば扉を隔ててやれることをやってから進みたいが、石橋を叩いているうちに洪水で流されないという保証もない。

 

扉を開けてから索敵をしていくことにした。重い扉を二つほど持ち上げると、広々とした空間に出る。

 

 

天井は高く、奥行きもある。一般的な体育館くらいの大きさ。地下空間にある遺跡というだけで考古学者なら卒倒するかもしれないが、今は歴史的な発見よりも目立つものが多すぎる。

 

扉を開けてすぐに炎が焚かれている台座のようなものがあり、煙を上げながらオレンジ色の光が空間を揺らしていた。

 

 

「索敵開始しますわ!」

 

 

百ちゃんが放った小型のドローンは小さな球体にプロペラがついただけ簡素なもの。それでも、センサーでその先を走査することはできる。

 

「小さきものたちよ。力を貸してください」

 

口田くんは生き物と意思を通わせて、ある程度操ることもできる。爬虫類や哺乳類など複雑な脳を持つ動物にはできない命令も多いが、虫などの単純な生き物には命を投げ捨てるような特攻に近い命令すら下せるのだった。

 

生き物が必要ということで、当然ながらサポートアイテムが用意されている。彼が懐から取り出したのは赤と白の球体で、そこには遺伝子操作され改造された小蠅が入っている。

 

数百の羽虫が解き放たれ、空間へと散っていく。この二人がいれば大抵の捜索はどうにかなるのだ。

 

 

「あ!扉の横、何かいますわ。人影……?っひ!!」

 

モニターで映像を見ていた百ちゃんがナガンのような情けない悲鳴を上げる。その映像には、死体にしか見えない青白い人体が映されていて、刃物を持って呆然としている様子が見えていた。ドローンのことは認識しているようで、追いかけようとしている。手に持った刃物を投げてきた!

 

「お、奥にも何か……。あ!」

 

広い空間の左側には待ち伏せしていた死体が一つ。右側は非常に広いため、そちらにドローンを飛ばしたのだが突然に、映像が消えてしまった。

 

「その直前に急激な温度の上昇を確認しました。何か炎のようなものをぶつけられたと考えるのが妥当でしょう」

 

「その先の部屋には二つ生き物がいるみたい。一つはさっきの死体。もう一つは小さくて死にそうな熱い何かということしかわからなかった。ごめんね」

 

正体は不明だが、それでも情報は集まった。

 

「熱い何かの方に俺と半分野郎で行く。刃物の方は七光りと地雷女でやれ。慣れてんだろ。デクと残りは間で両方のサポートだ。これでいいな」

 

 

爆豪はこういう時に間違えない。アイコンタクトで賛成し、そしてその通りに動き出す。爆発的に飛んだ爆豪と、氷を使って自分を射出する轟は視界から一瞬で消えていく。

 

これでいいのか?まだできることがあったのでは?

 

この一瞬でお願いした防刃の布を百ちゃんから受け取って、その上でまだ考えてしまう。

 

いつもは頼もしい思考も、今だけは邪魔だった。迷いの分だけ自分だけが少し踏み込みが遅くなる。トガちゃんが先行する形になってしまい、急いで後を追いかける。

 

「メス投げてきます。たぶん毒ありです〜」

 

トガちゃんが投げたクナイがすでに死体へと刺さっていたが、それでも相手は構わずに叫び。そして手の刃物を投げつけてくる。

 

自分の方へと飛んできた。いつも通りなら対処することは容易だ。軌道は単純だし、速度もそれほどじゃない。これよりも洗練された攻撃をいくつも素手で防いできた。

 

だが、今回は布でそれを覆うようにして防いでおく。多分つかめた。けれど、恐ろしくて出来なかった。それをミスして死ぬのが俺だけならまだいいが、みんなも死んでしまうかもしれない。

 

最適、最善の動きを思いつく。体はそれを実行しようとするが、理性でどうにかねじ伏せた。狂ったような紙一重の動きなんてとてもじゃないがしてはいけない。

 

「爆発でもするんです?」

 

トガちゃんが俺の過剰な対応に疑問を持ちながらも、戦闘を有利に進めていた。練り上げられた近接戦闘能力は入学時からさらに磨きがかかっており、死体の投擲などでは脅威ではない。

 

 

刺さったままのクナイを気にも留めず、足を引きずるように前へ出る。関節の動きはぎこちないが、距離の詰め方だけは正確だ。視線が合う。濁っているのに、狙いだけは外さない。

 

トガちゃんが一歩、斜めに踏み込む。

間合いをずらす動きだ。死体の肩が遅れて追う。メスは頭のあった位置を通り、壁に当たって乾いた音を立てた。

 

次の瞬間、今度は二本。腕の振りは遅いが、力だけは込められている。当たりどころが悪ければ傷を負うだろう。けれどトガちゃんは無駄に避けない。半歩だけ前に出て、空中にある刃を手首の返しで弾く。床に落ちた音が重なる。

 

狩人のような無駄のない動き、その動きを教えたのは自分なのに今は彼女だけが動いている。

 

 

死体が叫ぶ。だが、意味のある音ではない。肺の空気を押し出しているだけだ。

 

トガちゃんが懐に入り腕を蹴る。関節が外れ、手首がぶら下がる。それでも死体はまだ動く。首元へ一歩。顎の下に刃を入れ、持ち上げる。切らない。引っかけるだけだ。身体の重心が崩れる。

 

「いただきます。それで、これは返します」

 

その隙に、手癖の悪い彼女は相手の凶器を奪ったらしい。

 

その勢いのままに2本を相手の目に深々と差し込み、視界を奪って組み伏せた。床へ叩きつける勢いと二人分の体重を歪な形でかけたのだろう。死体の首が大きく曲がり、制圧が完了した。

 

えげつない猛攻、しかしこれらも自分が彼女に教えてことだった。

 

「被身子さん!殺してしまったのですか?」

 

「血が死んでます〜。トガは殺してないですよ。もう死んでましたこれは」

 

ほっとして息を吐こうとする自分が信じられない。この問答も今じゃない。まだ戦いは終わっていない。

 

「今はいい!あっちの援護に向かうぞ。あいつらは殺せない」

 

そうして向かう先には、すでに炎が盛大に撒き散らされている。こちらが駆け寄るより先に、爆豪が飛んできて言葉を投げつけた。

 

「制圧用の麻酔もスタンも効きやしねえ!氷と低音でも止まらねえ!燃えねえロープをよこせ!」

 

百ちゃんが急いで不燃性の頑丈な縄を出そうとするが、それを止める。

 

「いや、今『創造』をそれに使う余裕はない。あれは人じゃない。殺して大丈夫だ」

 

「ああ?ババアみてえな形で動いて生きてるぞ。脳無とは違うってのは明らかだ。これは……」

 

「いや、悪かった。俺に銃を作ってくれ。その方が早い。今後も俺が俺の責任で殺すよ」

 

そうして求められるこの場の判断は八百万百に委ねられることになる。そして彼女は明確な方針を持っていた。

 

「いえ、わたしは。あなたに殺してほしくはありません。それに相手をよくも知らない時にいきなり殺すというのは……」

 

「おい。七光りにバカやらせんのはムカつくが。あれを直接見てみろや。あれはぜってえ……」

 

老婆の声には決して聞こえない絶叫が響いた。その声は聞くものに確実な理解をもたらすであろう響きを持っている。

 

あれは人ではない。

 

それが全員にとっての共通の理解になった瞬間だった。

 

恨みと殺意が膨れ上がり、炎になって周囲を焼こうとする。轟がそれを止めているが、這いつくばる老婆のようなその動きは止めることはできていない。

 

これはダメだ。放置してはいけない。動いているのを放っておくのは危険すぎる。

 

百は気付けば淡輝がよく使っている銃を作って渡していた。先ほどの葛藤などは後回しになってしまうが自分でも驚くほど気にならなかった。これだけ確固たる人を救う意志を持つヒーローたちが、銃を向けることを止められないほどの確信を得る。

 

ここにいるのは人外の敵である。絶対に外に出してはいけない。

 

淡輝へと向かってくる炎弾は人を殺すのに十分すぎる火力があるようだったが、轟焦凍はそれを許さない。みるみるその熱量が失われていき、最後は氷の壁に砕かれた。

 

そうして守られながら淡輝は接近し、やけに汗ばむ手を誤魔化すように強く銃を握り締めてそれを撃つ。

 

大口径の一発が相手を掠め、そして続く一発が老婆の頭部を吹き飛ばし、そしてそれは動かなくなった。

 

「ようやく、止まったか。あれは……あの炎は普通じゃない。止めてくれて助かった」

 

「普通じゃないって言うと、どういう違いがあった?」

 

震えを誤魔化すようにして、轟と対話をする。あんな至近距離で外すなんて、本当にまずい。今まで積み上げてきた技能がボロボロになっていくような感じがする。

 

「あれは当たったら多分。死んじまうと思う。物を燃やすというより、相手を燃やすためっていうか。目的がある炎だった。俺と爆豪以外は、あれは防いじゃダメだ。それに、あれだけの熱を出しておいて、あいつの中の熱は少しも減ってなかった。たぶんずっと撃ち続けられる。なぁ、あれは本当になんなんだ」

 

「わからないよ。でも、人じゃない。それは間違いなさそうだ」

 

「ああ、俺もそう思う。でも悪い。嫌なこと、任せちまった」

 

 

大きな空間にしては敵の数もおらず、二体だけ。そしてそれの脅威レベルもそこまでは高くない。食らえば死んでしまうような攻撃を放ってくることは脅威ではあるが、普通のテロリストの銃撃だって食らえば死んでしまうのは同じだ。

 

ここにいる化け物はそれ以上に、何かが違うと全員が直感していたが誰もはっきりとはわからない。

 

 

そうして索敵をしていると、上に続くハシゴと。奥へと続くだろう閉ざされた扉が発見された。

 

 

 

「奥を進んだ突き当たり、そこを右に行ったところに大きな何かがいるらしく、その近くに機械のようなものがあると小さきものたちが言ってます」

 

すでに探索の形も決まってきている。大まかに口田くんが調べ、そして詳しく百ちゃんが調べるというコンビネーションができていた。

 

「映像出ました!レバーのような仕掛けですわね。それを守るために、そこにいるように見えますわ。一定の範囲内は追いかけてきますけれどレバーからは離れないようですわね」

 

そこにいるのは軽く2mを超える巨体。そして横にも奥にも大きな人間であった。XYZ軸の全ての方向に肥大化しているような巨漢が、布で顔を隠してボロ切れをエプロンのようにして纏い立っている。

 

右手にはカンテラを持ち周囲を照らしてはいるが、あまり光量があるようには見えない。

左手には赤熱するナタのような大きな刃を抱えており、それを振り回してドローンを威嚇していた。

 

「こいつと、戦うのか……」

 

「かあいくない……。パスです。たぶん刃渡りもパワーも足りないですし」

 

「手榴弾などをドローンにつけることもできますけれど……」

 

その通り。彼女の『創造』さえあれば密室から動かない敵の殺し方など無限にある。けれど、それはあまり使いたくなかった。

 

「いや、『創造』は温存の方向でいこう。最悪ここで数日過ごさなきゃいけない場合は。百ちゃんだけが頼りだ」

 

「近接主体なら俺が中距離で削り切れる。弾切れはそうそうしねえが、俺も銃弾は使わねえ。相手の手の内がわかるまでは俺がやる。あのナタ振り回すくらいしかやってこねえなら、半分野郎もデクでもいけんだろ」

 

ハッと気づいたように百ちゃんが補足する。

 

「地下で炎は使用するのはやめましょう。爆破も最小限に、生き埋めや酸欠が何より怖いですから。炎を使ってくる敵がいれば可能な限り早く無力化をしましょう」

 

確かにそうだ。地下で自由に戦闘はできない。やはり爆発物は武器としては繊細さがネックだ。あまり使いたくない。しかし、こういった細かなことは事前に自分が気づけたはずだった。ああ、ダメだ。思考のリソースが足りていない。

 

せめて、殺す役は自分がやろう。彼らは生き物を殺す経験自体少ない。少なからず動揺してしまうだろう。トガちゃん以外は。

 

 

レバーを守る巨漢との戦いが開始されたが、それはすぐに決着がつく。

 

そうして行われた戦闘は先ほどの苦戦が嘘のように片付いた。相手を生きたまま捕縛しなくてはいけないという縛りさえなくなればやりようはいくらでもあるのだ。

 

「爆破の通りは悪かった。打撃も効いちゃいねえ」

 

「痛覚は当然なし。でも凍らせるのは結構効いてたと思うぞ」

 

「『黒鞭』を引きちぎるくらい力は強い。近くで戦うのはダメだと思う。中距離で削ろう」

 

最終的には熱を奪われ足が凍り、動けなくなったところを俺が殺した。

 

最初の振りかぶりに銃撃を合わせて、内臓を引き摺り出して最短で殺すこともできただろうが前に出ることはできなかった。

 

みんなが余裕が出始める中、ひたすらに焦りが積み重なっていく。思うように役に立てない。殺すことだけは自分がやろうと言い聞かせているが、動揺は収まらない。

 

レバーを動かすと、どこかで扉が開いたような音がした。

 

 

 

 

・・- ・-・・-- ・・- ・・・・- 

 

天井から、鎖が下がっている。

錆びているが、切れていない。先端には輪が付いていて、中には人体のようなものがぶら下がっているものもあった。

 

おおよそこの遺跡の中で、見ていて正気に慣れそうなオブジェは一つもない。

 

一つ一つが正気度を削ってくるような、息が詰まるような空間だった。

それでもこの地下空間を探索し、いくつかの戦闘を比較的安全にこなす。同級生たちは経験するごとに慣れていくようで頼もしい。

 

しかし一回死にかけたこともある。

 

明らかに何かありそうな宝箱の横を通りがかった時に、先ほどまで何もなかった場所に大きな音と衝撃音が鳴り響き、四方からいきなり鎌や斧を持った骨と皮だけの死体たちが出現し襲いかかってきた。

 

咄嗟に百ちゃんを庇ったが、それでも守りきれなかっただろう。結局は緑谷が衝撃波を出して全体へと攻撃し、どうにか凌いでくれたのだった。

 

「あれ、そういえば被身子さんは……」

 

「百ちゃんトガはここですよ〜。気にしてくれて嬉しいなぁ」

 

ニヤつく彼女はそういばしばらく姿を見ていなかったかもしれない。気づけなかった。

 

「いかにもボス部屋って感じです。一番血の匂いも濃いですし。淡輝くんは調子悪そうですし、どうなりますかね」

 

その目の奥には期待が渦巻いている。底の見えなかった相手が、弱っている。傷ついた獲物を見定めるようにして、それが演技ではないかと警戒しているような目つきである。

 

そうして探索も最低限にして、たどり着いたのは最後の部屋である。

 

両開きの重厚な扉を開くと、また広い空間に出る。

 

扉が開いた瞬間に部屋の中心に暗黒が広がって、そしてそこからは長身の人影が出ていた。

 

カツカツと音を立てながら歩いてくる。

 

つばが広い、魔女のような帽子を被った性別のわからないやけに長い人影は、それでも人ではないと直感できる。

 

 

「旧主の番人……」

 

 

 

淡輝はまた自分でも理解のできない言葉をつぶやいた。

かつて見たことがあるような、狂いそうなデジャブに溺れそうになりながら。

 

刃を振りかぶり、炎を虚空から生み出して襲いくるその番人と対峙するのだった。

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