ただいま
大量の段ボール箱と一緒にやってきたのは、新エリー都ヤヌス区の六分街に構える我が家ことレンタルビデオ屋Random Play。最近はワケあってスロノス区の衛非地区に滞在していたものだったが、その間にもこちらの事情などお構いなしと言わんばかりに新作ビデオが続々とリリースされていた事態を受けて、僕とリンは急遽こちらに戻って店の対応をする羽目になった。
道中で新作ビデオを大量に仕入れ、それをリンと共に車へと詰め込んでから、ぎゅうぎゅうになった車内をがったんごっとん揺らして久方ぶりの街並みに迎え入れられる。家の駐車場に車を停めてからも、リンと手分けしてご無沙汰していたご近所さんの下へと顔を出し、挨拶や世間話を済ませてからRandom Playに戻って品出しに勤しんだ。
その最中、それこそ我が家に帰ってきた瞬間とも言えるタイミングだっただろう。見計らったように鳴らされた着信と、スマートフォンの画面には『ヒューゴ』のアイコン。僕は応答し、語るような仰々しい喋りの彼から“ひとつの頼み”を託されると、想定外の約束に備えるためリンと協力して手早く作業を終わらせた。
時刻は夕。Random Playも閉店し、長らくと店番を担当してくれたボンプの
慎ましやかで控えめなノック。向こう側にいる人物が今か今かともじもじ待ち構えている様子が容易に想像できる。悪戯に待たせるわけにもいかないため、僕は「どうぞ」という言葉を投げ掛けて入店を促した。
ガチャッと開かれた扉の先からは、愛用の日傘を手に持つ女性ビビアンが姿を現した。その佇まいは高貴なるご令嬢そのもの、凍てつく冷気が如き冷淡な風格で普段の澄まし顔を浮かべているものだが、その眼差しは期待と情愛のピンク色に満ち溢れていて実に物欲しげだ。
「『パエトーン』様、久方ぶりの再会をビビアンは喜ばしく思うのです」
取り繕った平静さで、顔色を伺うような視線を向けながら瞳をうるうるさせる。感動の再会よろしく大きな期待を抱いた彼女に待ち受ける最初の絶頂は、ビビアンの挨拶と共に駆け出したリンのアクションによってもたらされたものだった。
「ビビアーン! 久しぶりー!」
迫る『パエトーン』様にキョドるビビアン。だが眼前から駆け寄ってきたリンによる容赦のない再会のハグを全身で受け止め、ビビアンは日傘を落とすほどの感極まるショックを受けながら動揺の歓声を上げていく。
「パパパ、『パエトーン』様!?」
「んぅ~、ビビアンの匂いと温もりだ~。なんかビビアンと会うと、我が家に帰ってきたって感じがするんだよねー」
「そ、それは、『パエトーン』様にとってわたしという人間は、実家のような安心感の存在……というような意味合いで受け取ってもよろしいのでしょうか……!?」
「うーん。よく分からない部分はあるけれど、なんだかビビアンと会えるとすっごくホッとするんだよね! なんだろう、ビビアンセラピーって言うの?」
「そんな、『パエトーン』様が、わたしに……! なんて勿体無きお言葉……!」
「そんなことないよ。相手がビビアンだから、会えて嬉しいんだよ? そういうわけで~……ただいま、ビビアン!」
「ハァ、ハァ…………ッ、パ、『パエトーン』様……ッ!!」
もはや禁断症状とも喩えられる限界ビビアンの様子に、僕は半ば人命救助という単語を脳裏に
「せっかくこうして店まで足を運んでもらったんだ。査定という名目で入荷したばかりの新作ビデオを一緒に観ながら、これから夕食でもどうだい?」
「パ、『パエトーン』様……! ですが、長旅で疲れていらっしゃるお二方にこれ以上と気を遣わせてしまうのは、些か心苦しいというもの……」
「僕とリンにとって、ビビアンと一緒に過ごせる時間そのものが癒しになるんだ。まだ帰ってきたばかりで何も用意できていないのだけれど、それでも良ければ上がっていかないかい?」
「『パエトーン』様にそこまで言われてしまっては、かえってお断りすることが失礼に思えてしまうのです。……では、お二方のご厚意に甘えて。このビビアン、今宵は『パエトーン』様方にお供いたします!」
両手をグッと握り締める仕草を交え、その眼差しから溢れ出す文字通りの『期待通り』を醸し出しながら承諾するビビアン。今夜の予定が明確に決まると、ビビアンをハグしていたリンは即座に彼女の手を引いて、「じゃあこっち行こ! 1名様ご案内~!」と言いながら困惑するビビアンの背を押して店の奥へと移動した。リンのアプローチにビビアンは喜び混じりの戸惑いを見せながら共に足を走らせ、その様子を僕は苦笑しながら見守りつつ落ちていた日傘を拾ってきたイアスと一緒に奥の部屋へと移ったものだ。
僕達が六分街に帰ってきたという情報をどこから入手してきたのかは不明だが、先にも応答したヒューゴとの電話で“ビビアンの慰労”を提案されたことにより、今回このようなゲリライベントを迎えることになったというのが一連の
彼との会話を意訳してまとめたものになるが、どうやらヒューゴ曰く『店長コンビが店を留守にしている間にも、ビビアンはモッキンバードの仕事で大役を果たした』のだという。『その功績を讃えるには、相応の報酬が必要になる』『彼女の功績に見合う褒美は、親愛なるパエトーン兄妹に囲まれながら過ごす甘美なるひと時こそ相応しい』『手間を取らせるようで申し訳ないが、どうか彼女を慰労してやってはもらえないだろうか?』といった旨の内容を受けて、僕とリンはそれを快諾した。
追加で、『ビビアンがパエトーン兄妹と心置きなく交流するためにも、ヒューゴからの計らいという真意を徹底して隠し通してほしい』『飽くまでパエトーン兄妹からのお誘いという
そんな背景はひとまず置いといて、H.D.Dシステムが置いてある奥の部屋へと移った一同。ソファに座らされたビビアンが落ち着かない様子でいそいそしていく傍らで、僕とリンはスマートフォンやチラシを手に取りながら掛け合っていく。
「こうして大切な客人を招いたんだ。せっかくだし出前でもとろうか」
「いいねー! じゃあじゃあお兄ちゃん、このデリバリーピザとかどう? 郵便受けに入っていたチラシを取ってきた時から気になってたんだ~」
「どれどれ? ……PIZZ●-LA? 僕達が六分街を留守にしている間にオープンした新しいピザ屋かな。うん、どれも美味しそうなピザだ。それじゃあここで頼んでみようか」
「やったー! いやぁ、ラーメンの出前だけじゃなくって、ピザもデリバリーできるようになっちゃうなんて、新エリー都の未来は明るいね~」
「チョップ大将からすれば、新たなライバルの登場に気が気じゃないだろうね」
僕達の会話は本当に他愛もなく、至って平凡で特別な意味合いもない至極単純なそれであったことは言うまでもないだろう。だからこそ、ビビアンの手元に収まるボイスレコーダーを目撃した時には、何だか申し訳ない気持ちすら芽生えたものだ。
直に宅配ピザが届き、熱々のピザボックスをテーブルに置きながら映画を選別する一同。ここでリンが、アストラさん主演の新作ホラー映画を提案したことで僕の感情に真冬の吹雪が到来し、加えてビビアンがホラーとは真逆の感情とも言える期待と高揚のおねだり顔でこちらを見遣ってきたものだったから、僕だけが却下する勇気を振り絞れず2人に流される形でホラー映画を観ることになった。
案の定、中々の出来に僕は大人げなく震え上がった。あとリンも。同じようなタイミングでビクッと肩が跳ね上がる兄妹と、それに挟まれたビビアンもぶるぶると震えていく。尤も、ビビアンの震えに関しては何かこう、別の要因があるように感じられなくもなかったが、きっと気のせいだろう。
段々と恐怖に蝕まれてきた僕とリンだが、この最恐ホラーを完走できたのは間違いなくビビアンのおかげだった。彼女は僕らの手を取り、ゆっくりと自身の下へ引き寄せて、きゅっと握り締め、恐怖シーンが続くにつれて腕を組み、それを脇に挟み、体ごと引き寄せて、気付けば僕らはビビアンに寄り掛かる姿勢でその映画を観終えていた。
涙目になったリンの「こ、怖かった~……」という悲愴感。未だに背筋が凍っている僕の「映画業界の未来も明るいね……」という感想。そして冷静な面持ちを浮かべるビビアンの「生涯に2度も巡ってこないであろう貴重な体験だったのです」というどこか満足気な様子から、結果的にこの映画を選んで正解だったのかなという見解に落ち着いた。
映画も終わり、意外と就寝にちょうどいい時刻となった。ソファの方ではリンが残っていたピザを手に取って、ビビアンに「あーん」を促している。リンの催促にビビアンは感極まる悲鳴を上げて動悸を激しくしながら興奮気味に、されど淑女たるもの慎ましやかな所作を意識しながら幸せそうにピザを咥え込んでいく。
ビビアンが楽しそうで何よりだ。そんなことを思っていると、次にもリンは僕に向かってそれを提案してきた。
「お兄ちゃん! 時間も時間だからさ、今日ビビアンには此処に泊まっていってもらおうよ!」
「いくらホロウ内を渡り歩ける実力があるとはいえ、こんな時間に女性を帰宅させるわけにもいかないな。ビビアンが良ければそうしてもらえると、僕らとしても安心できるのだけど。どうかな?」
ピザをもぐもぐしていたビビアンが、口元に手を添えながら見開いて驚いていた。途端に紅潮する彼女の顔面。咀嚼する動作すら恥ずかしくなってきたのか、持ち上げた両手の平で顔を隠しつつ、挙動不審に泳ぐ目と控えめながらも主張の激しい期待感を漂わせてビビアンは喋り出す。
「よ、よろしいのでしょうか……? パ、『パエトーン』様。そんな、ご無理をなさってまでわたしをおもてなしする必要はございませんから……!」
「無理はしてないさ。リンと僕の2人でそう決めたのだから」
「で、では……!! このビビアン、今夜は『パエトーン』様方のご自宅に宿泊させていただくのです……っ!」
ビビアンは瞳をうるうるさせて、頬に両手をつけながら幸せに浸るようしっとりとそう答えた。
慰労の件を抜きにして、壮絶な過去を体験した彼女には多幸感で満たされた日常を送ってもらいたいと思っている。特に他人の危険や不幸を予兆してしまうという異能を持つビビアンだからこそ、当たり前のように過ぎ去る平穏な日常のささやかな幸せを噛み締めてほしいと、そう願うばかりだ。
しかし、ここで次にも言葉を投げ掛けてきたのはH.D.Dシステムに居座るAI『
『警告。マスターと助手二号そのどちらか片方が、ビビアンと2人きりの密室で夜を過ごすことはオススメできません』
「どうしてだい、Fairy?」
何気無く問い返した言葉だが、これに対してリンが身を乗り出しながら反論してくる。
「当たり前でしょ!? お兄ちゃんは男の人なんだから、ビビアンと2人きりにできるわけないじゃん!」
「待ってくれリン! 何か大きな誤解をされているような気がする!」
慌てる僕の反応とは裏腹に、ビビアンはボソッと「わたしは構わないのです」みたいなセリフを呟いた気がする。彼女のことはひとまず置いといて、僕はリンとの会話を続けていく。
「Fairyが言っていたのは、僕だけじゃなくてリンも含めた警告だ。なにも僕とビビアンが2人きりになる場面を限定したものじゃない!」
「私はビビアンと同じ女の人なんだから、別に問題無いでしょ?」
「そこに問題がある可能性も出てきたから、Fairyが忠告してくれたんじゃないか」
「えー、じゃあどうするの? ビビアンを1人で寝かせるのも可哀想だし…………それならいっそのこと、ビビアンとお兄ちゃんと私の3人で寝る?」
本人は何の気なしにそれを発したのだろう。僕が絶句して反論できずにいた傍ら、ビビアンはものすごく幸せそうに見開きながら口元を両手で隠して驚愕していた。
リンはこちらの返答を待つことなく、ソファの背に肘をついてもたれながら「それなら問題無いでしょ、Fairy?」と訊ね掛けていく。それに対してFairyは『マスターと助手二号が1か所に留まって就寝する環境であれば、危険の可能性が薄まります』と返したものだから、これを聞いたリンは納得するように頷きながら「じゃあ今日は3人で寝よ! お兄ちゃんもビビアンもいいよね?」と訊いて今夜の予定をまとめたものであった。
場所は僕の部屋に移り、当の僕はベッドに腰を掛けた状態で呆然と待ちぼうけている。扉は開かれた状態で放置されており、隣にあるリンの部屋からは談笑しながらお着替えをする2人の声が聞こえていた。直にもその声が迫ってくると、リンに背中を押されてやってきたビビアンが顔面を紅潮させた様子でこちらの部屋に入ってくる。
リンの寝間着を借りたビビアンが、落ち着かない心境で息を切らしながら僕を見つめてくる。その表情や佇まいから、羞恥、興奮、高揚、多幸感といったありとあらゆる情熱的な感情が彼女の内で目まぐるしく巡り巡っていたことが容易に見て取れた。
そんなビビアンにお構いなく、リンは彼女の両肩に両手を乗せながら僕に言葉を掛けてくる。
「どう! 私の服、ビビアンにも似合うでしょ!」
「よく似合ってるよ。何なら、持ち主のリンよりも似合っているくらいだ」
「あー! お兄ちゃんひどーい! 比較対象が実の妹だからって、ぞんざいに扱われたら妹も傷付くんだよ?」
「その、悪かった。リンのセンスがビビアンにも似合っていて、2人とも完璧な着こなしだ」
「えへへ~、なんか簡単に言いくるめられたような気がするけど、悪い気はしないねー。私、思ったんだけどさ、お兄ちゃんってもしかして女たらしでしょ?」
「褒めたら褒めたで難癖つけられるのは、ちょっと納得いかないな」
理不尽に対して苦笑しながら返答する一方で、ビビアンは部屋、服、空間、人物といった複数の崇高な要素に包み込まれた現状で今にも爆発してしまいそうな赤面を浮かべながら慎ましやかに喋り出してくる。
「パ、『パエトーン』様のご自宅に宿泊できるだけではなく、お二方に囲まれながら眠りにつけるなんて……! あぁ、今この瞬間を幸せと呼ばずして、なんと呼ぶのしょうか……!? この際だから、ビビアンはお二人の『パエトーン』様に挟まりながら死んでしまいたいくらい……!」
今の感情を誇張抜きに語ったビビアンの本音。しかし彼女のセリフを聞いたリンは顔を覗き込ませながら一言。
「ダメだよ。ビビアンにはこれからも生きてもらって、もっともっと幸せになってもらわなきゃ」
「そ、それって、これからもわたしとお会いしていただけると、そう仰ってくださっているのでしょうか……?」
「誰も会わないなんて言ってないじゃん。私もお兄ちゃんも、ビビアンとはこれからも仲良くしていきたいと思ってるよ? でもビビアンが死んじゃったら私もお兄ちゃんも2度と会えなくなっちゃうから、そんなの嫌だしビビアンにはこれからも生きててもらわないと」
「あぁ、『パエトーン』様……!! あなた方に思い焦がれ、来る日も来る日も信望し続けてきて良かったと、ビビアンは心から思います……!!」
「うんうん。夜も遅くなってきたから、そろそろお布団に入ろっかー」
「はい! 『パエトーン』様のお望みのままに!」
リンに背中を押されながらベッドに近付いたビビアンを招き、リン、ビビアン、そして僕という順番で布団に入っていく。上掛けもかけて照明も落とし、枕元の電球を点けながら横になると、僕とリンはビビアンと向かい合って見守るようにおやすみの挨拶を投げ掛けた。
「おやすみ、ビビアン。ゆっくりと休んでくれ」
「おやすみ、ビビアン。また明日ね!」
自分にとっての救世主。その全てに包み込まれた彼女の心中は察するに余りあるだろう。だが、彼女における“予兆”の原理はなにも感情によって引き起こされるものだけではなく、ビビアンの変化を目にした僕とリンは顔を覗かせて心配した。
……ビビアンが、涙を流しているのだ。大粒の涙をボロボロと零す彼女を見て、僕とリンは声を掛けていく。
「ビビアン? 大丈夫かい?」
「ビビアン? ビビアン? もしかして、何か“視えちゃった”?」
大振りの瞬きを挟むビビアン。涙の粒を退けるように押し潰し、長く繊細なまつ毛や紫色の髪に雫をくっ付けながら、彼女は首を横に振って、口元を両手で隠す仕草を交えつつ、震わせた涙声でそれを口にする。
「違うのです……っ。この涙は、“喜び”の涙なのです……っ。『パエトーン』様、わたしはつくづく幸運に恵まれた人間なのだと、そう実感いたします。ヒューゴと出会い、モッキンバードと出会い、数多の友人と出会い、そして、あなた様方と巡り会えた。わたしの記憶には現在も過去が付き纏い、それは夢となって、恐怖となって、わたしの体と心を蝕みます。逃れられない呪縛、忌々しき運命。賜った奇跡は不幸を映し出し、わたしにも、相手にも、災厄をもたらすのです。しかし……あなた様方との交流を通じて、ビビアンは気付くことができました。それは、涙にも種類があるということを。依然として不幸を告げる涙が流れる一方で、今のビビアンには幸福を感じる涙も流れます。これは、ビビアンにとって大きな変化なのです。だって、あなた様方のおかげでわたしは、涙を流すことにもう一つの意味を見出すことができたのですから……っ」
胸に秘めていた言葉を全て吐き出した反動か、ビビアンはそのまま顔を押さえて号泣し始めた。これまで背負い続けてきた苦労や不安を打ち明けて、それでも前に進み続けた彼女の強かさを賞賛するように僕とリンは彼女の頭を撫で掛けると同時にして、今はそんなビビアンの傍に寄り添って力になれること、支えになれること、そして共に歩めることを伝えながら、慰労の言葉通り彼女という存在を褒めるように慰めた。
頂いていた休暇を全て使い切り、六分街のビデオ屋を再び
お土産をリンに任せて門下生の皆さんに配ってもらっていく傍ら、僕は適当観の奥に佇んでいた
「師匠、いま戻ったところなんだ」
「あぁ、占いがこの時刻にお前さん達が帰ってくることを告げていたからな。出迎えは不要だったか?」
「そんなことはないさ。一同が気を利かせてくれたことに、僕達は感謝をしているからね」
「皆はお前さん達の帰りを心待ちにしていたぞ。特に、ヤヌス区の土産にとても興味を持っているらしくてな」
「それは師匠にも言えることじゃないかな?」
「話が早くて助かるよ。そういうわけで、師匠にも土産を渡してもらおうか」
「手土産なら、今はリンが皆に配っている最中だ。そうだな……今、僕が師匠に渡せるものといったら、スマートフォンの中に収められた“思い出”というお土産になるだろうか」
「ほう? それは是非とも見せてもらいたいものだな」
乗り気な師匠の眼差しによる催促を受けて、僕はポケットから取り出したスマートフォンを数回とタップした後に画面を見せていく。