「……もう、ドゥーでもいいか」    作:ヨリヨリ

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怒声が、部屋を裂いた。

 

「――君たちはッ! 何をやっていたんですかッ!? “茶番”にすらなっていないッ!!」

 

長机を叩いたアズラエルの手が、白くなるほど握りしめられていた。

ブリーフィングルームに集められた士官たちは、凍りついたように沈黙している。

その中心で、俺とドゥーだけがまっすぐ立っていた。

 

アズラエルは、鋭い視線を俺に突き刺した。

 

「フリーダムのカメラを潰しておきながら、なぜ追撃しなかった? ジャスティスの装甲も割れていたはずだ。何が、“手を止める”理由になるというんですか?」

 

その言葉に、隣のドゥーが小さく肩を揺らす。

俺は一歩進み出て、静かに答えた。

 

「私が止めました。……あれ以上の交戦は、こちらの損耗が大きすぎると判断しました。エネルギーも、弾薬も――」

 

「僕はッ! 言い訳が聞きたいわけじゃない!!」

 

アズラエルが一喝した瞬間――

「次は!! ボクがやる!!」

 

ドゥーが怒鳴った。

ブリーフィングルームが一瞬、静まり返る。

その細い身体から発された声は、驚くほど大きく、鋭かった。

 

「次は……次こそ、あの二機は……ボクが沈める。だから……」

 

声が震えていた。

 

「だから……これ以上、ゲーツを……いじめないで」

 

その言葉に、アズラエルは一瞬だけ目を見開いた。

視線をそらすでもなく、ただ黙って彼女を見つめたあと――静かに息を吐いた。

 

「……わかりました。次で必ず、結果を出してください」

 

「……はい」

 

俺とドゥーは、揃って敬礼を送り、その場を辞した。

背後からは何も言葉が届かなかった。

 

だが、俺にはわかっていた。

 

あれは――彼女なりの「誓い」だった。

 

 

 

 

 

考えが甘かった。

……いや、すべてが甘かった。

 

こうなることは、少し考えればわかるはずだった。

 

フリーダムとジャスティス――

原作の主人公機だ。

性能も、パイロットも、圧倒的だった。

 

手加減できる相手じゃない。

最初から、そうだったんだ。

 

なのに俺は、“戦ってるフリ”でなんとかなると、本気で思っていた。

 

……ドゥーが不安になるのも当然だった。

普段と違う行動をとった俺に、彼女は戸惑い、乱れた。

結果――彼女の中でフリーダムとジャスティスは、明確な“敵”になってしまった。

 

そして、結果を出せなければ――

ムルタ・アズラエルがああなるのも、わかっていたはずだ。

俺は、全部、わかっていた。

 

なのに、選ばなかった。

俺が……甘かったんだ。

 

「やらなきゃ、やられる……か」

 

クロトの言葉が、今さら胸に刺さる。

次はない。

次こそ――確実に、“殺さなければならない”。

 

キラ・ヤマトを。

アスラン・ザラを。

 

あの“主人公たち”を殺さなければ――

俺と、ドゥーが、死ぬ。

 

指先が、震えている。

その手を、俺は強く、握りしめた。

 

……覚悟を決めなければ。

誰かを殺してでも、生き残る。

その選択を、いま俺がしなければ――ドゥーを守れない。

 

不意に、俺の手に小さな温もりが触れた。

ドゥーが、俺の手を両手で包み込んでいる。

 

顔を上げると、彼女はまっすぐ俺を見ていた。

その目は、揺れていない。

 

「……悩んでる?」

 

静かな声だった。

だけど、まるで心の奥を覗かれているようで、思わず息を詰める。

 

(……マズい。顔に出てたか)

 

「いや、なんでもない」

そう言って身を翻そうとした。

だが――ドゥーの手に、ぐっと力がこもる。

 

「……ボクに、話してみて?」

 

優しい声だった。

だけど、逃げ道を与えない声音だった。

 

話せるわけがない。

何を言う?

「キラとアスランは“主人公”だから、殺しちゃいけない」だなんて――

 

(そんなこと……言えるか)

 

だけど――ちがう。

もう、ちがうんだ。

 

俺は、決めた。

どんなに汚れようと。どんなに憎まれようと。

ドゥーを守る。それだけだ。

そのために――生き残る。

 

言葉がうまく出てこない。

でも、だからこそ。

俺は、その想いだけを、抱きしめた。

 

「……生き残ろう。二人で」

 

言葉とともに、俺はドゥーをそっと抱きしめた。

彼女の腕が、ゆっくりと俺の背に回される。

 

「うん。……絶対に」

 

胸元で、小さく震える声。

この戦場で、頼れるのはお互いしかいない。

そう思った

 

 

 

 

 

 

 

 

――その瞬間だった。

 

「で、誤魔化されないよ? 何に悩んでたの?」

 

――なにィ!?

 

おい、今いい感じだったよな!?

もう一歩でBGMが静かにフェードアウトするところだったろ!?

 

「あ、いやっ……その、ほんとに……!なんでもないって!」

 

慌ててごまかす俺。

だが、ドゥーの腕の力が、じわりと強くなる。

……ちょっと痛い。

 

「ドゥーさん? ちょ、ちょっと力強くないですか?」

 

「……言うまで離さないから」

 

ギリギリギリ……

 

もう完全に締め技だ。

おい、少女の力じゃないぞ。力まで強化されちゃったのか?

 

「ちょ、マジで痛い! ドゥーさん!

出ちゃう! 出ちゃうよ!? 口から何か出ちゃうよ!? 内臓系のなにかがァ!!」

 

そのとき、横で見てた整備士たちが、

扉のすき間から「なんだこれ」って顔でこっちを覗いてる。

 

ニヤニヤしてんじゃねぇ!!!

こっちは今、死線の狭間なんだよッ!

 

「た、助けっ――」

 

「うるさい口だな」

 

ズ――ムッ!

 

唐突に、ドゥーの唇が俺の口を塞いだ。

瞬間、静まる空間。

整備士たち、全員ニヤ顔で固まる。

 

おい、なんでだよ!? なんで恋愛勝者みたいなムードになってるんだよ!?

俺、死にかけてるからな! これ、敗北者のポジションだからな!?!?

 

「ッぷは……!」

 

ようやく離れて、ゼェゼェと呼吸を取り戻す俺。

ドゥーは無言のまま、すっごい圧で見てくる。

 

「……わかった!話す!話すから!!」

 

まさか、愛が命を脅かす日が来るとは――

転生って、こええな。

 

 

もう――下手な誤魔化しも、嘘も、ドゥーには通用しない。

俺は、覚悟を決めて話した。

 

この世界が“物語”だということ。

自分が“ゲーツ・キャパ”に転生してきた存在であること。

すべてを、正直に。

 

少しの沈黙のあと――

ドゥーは小首をかしげて、優しく問いかけた。

 

「……疲れてる? 膝枕、いる?」

 

えっ。

なんでそんな慈愛に満ちた目で見てるの……?

しかも、哀れな人に向けるタイプのやつじゃないかそれ……!

 

「ほらー!! だから話したくなかったんだってば!!」

 

そう叫びながらも、本能に逆らえず素直に膝に倒れこむ俺。

――なんだこのすべすべは。高級ホテルか。

 

髪を、ドゥーの小さな手が撫でる。

いつも俺が、彼女にしてやってたみたいに。

 

「……冗談。信じてるよ」

 

え?

 

「相棒は、たまに変なこと言うけど……

それを、ボクは疑ったりしない。

話してくれて、ありがとう」

 

言葉の一つ一つが、やけに胸に染みた。

静かに撫で続けるその手は、どこまでもやさしくて――

 

 

……涙が流れる。

勝手に、止めようもなく。

この世界に転生してきて、

戦って、笑って、冗談も言い合ってきたけど。

心のどこかで、ずっと“独り”だった気がする。

 

でも――

 

いま、違うって、思えた。

俺はもう、独りじゃないんだ。

 

「なに泣いてるの? 相棒」

 

「……泣いてねぇよ。目から、汗が……」

 

「ふーん? 目玉、フェイズシフトダウン?」

 

「うっせ……!」

 

撫でられながら、俺はうつ伏せで笑った。

 

 

 

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