「……もう、ドゥーでもいいか」    作:ヨリヨリ

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ストックが無くなったので毎日投稿できないかもです…助けてバスク~


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―二年後、オーブ。

 

潮の匂いが混じる風が、開け放たれた窓からふわりと入ってきた。

 

ボクは、自室のベッドで目を覚ます。

重たいまぶたを擦りながら、ゆっくりと身を起こした。

 

……なんだか、夢を見ていた気がする。

でも、もう思い出せない。

 

目をこすりながら、足を床につける。

ゆるやかに流れる時間。

この二年間――戦火の記憶とはまるで違う、穏やかすぎる朝だった。

 

あれから、ボクはオーブにある海辺の屋敷で暮らしている。

新型MSのテストパイロットとして籍を置いてはいるけれど、

ナタルが「働かせすぎないように」と周囲に圧をかけているらしく、

実質、ほとんどが休暇のような日々だ。

 

――そういえば、今日はフレイが「買い物に行こう」って言っていたような……

 

そのときだった。

 

「ドゥーオキロ! ドゥーオキロ!!」

 

部屋の片隅で突然跳ね上がったのは、真っ黒なハロ。

甲高い電子音声が、けたたましく鳴り響く。

 

「……起きてるよ」

 

ボクは苦笑しながら、シャツに袖を通す。

 

「ハヤネハヤオキ! シンライデキル、オカタダ!」

 

黒ハロは名を“ハロアイン”という。

あのアスランが、ラクスのピンクのハロを見ていたボクの視線に気づき、

「欲しがってるんだ」と勘違いして送りつけてきた。

 

……その気持ちは嬉しいけど、どうして黒なんだろう。

しかも、なんだかちょっと壊れてる気がする。

 

「クランクニーダ!!」

 

「……ちょっと何言ってるか、わからない」

 

跳ね続けるハロアインを、軽く足で蹴飛ばした。

バウンドして、部屋の壁に当たって跳ね返る。

 

「ナンテコトダ!! キミノツミハトマラナイ! カソクスル! カソクスル!!」

 

どこでそんな言葉覚えたのか……

うるさいけど、嫌いじゃない。

 

と、下の階から声がした。

 

「ドゥー! 起きてるー!?」

 

――フレイの声だ。

 

ボクは荷物を肩にかけ、騒がしいハロアインを小脇に抱えて、階段へと向かう。

 

 

 

一階に降りると、フレイが玄関先でこちらを振り返った。

いつもより少しだけ気合いを入れた装い。きっと、今日の街歩きに合わせたのだろう。

腕を組んだまま、にこりと笑う。

 

「……あら? 今日はちゃんと起きてたのね」

 

ボクはむっとして返す。

 

「今日はって、ボクはいつも――」

 

「この間、お昼まで寝てたのは誰だっけ?」

 

「……むむ」

 

ぐうの音も出なかった。

あれは夜更かししていただけで、別にサボっていたわけじゃない。

 

「しかもまた、その服?」

 

フレイの視線が、ボクの服装をじろりと見た。

袖なしのニットにマフラー、黒地に赤い線が入ったレギンス――いつもの格好だ。

 

「いいじゃん、これで」

 

「今日は他の服も買いましょ。せっかくの街だし」

 

玄関の扉を開け、フレイが軽やかに外へ出る。

そのとき、奥の廊下からもう一人の声。

 

「……二人とも出かけるのか?」

 

ナタルだった。

スリーブのある制服風の私服姿で、姿勢はきっちりしているのに、口調はどこか柔らかい。

 

「えぇ、ちょっと街に買い物に行ってくるわ」

フレイが即座に答える。

 

「そうか。気をつけてな」

 

ナタルは短くそう言い、また部屋の奥へと戻っていった。

 

……以前から気になっていた。

ナタルとフレイの声は、妙に似ている。

テンポも言葉の選び方も、どこか通じるところがある。

ふたりが会話を始めると、誰が話しているのか分からなくなって、ボクはよく混乱する。

 

屋敷の外には、銀色のコンパクトカーが一台止まっていた。

陽の光を受けて、ガラスがきらりと光る。

 

ボクが運転席に乗り込み、フレイは助手席。

その間に、いつものように黒い球体が飛び乗ってくる。

 

「ワカル! ワカルゾ! コレコソガ、オレノ……アルベキスガタ!!」

 

……何が?

 

「うるさいよ、ハロ」

 

小脇に押し込むと、彼は抗議するようにぴょんと跳ねた。

 

「ミトメタナ! サイコー!! ミエタゾ、ミライガ!!」

 

どんな未来なのか、聞かないでおく。

 

エンジンをかけ、アクセルを踏む。

車は静かに屋敷の前を離れ、オーブの町へと向かっていった。

 

静かで穏やかな日常の中――

それでも、ボクの胸の奥には、今もなお、戦場の記憶が霞のように残っている。

 

でも、今日は……それを忘れてもいい日だと思った。

 

 

 

 

 

 

仮眠室

知らないはずの天井を、俺は黙って見上げていた。

だが――不安も、焦りも、ない。

「知らない」という事実に、何の感情も湧いてこない。

まるで、それが“当然”であるかのように、静かに時間だけが過ぎていた。

 

ブツッ、と通信が入る。

 

『ロアノーク大佐。お時間です』

 

「――いま、行く」

 

無意識に口をついた応答。

身体は機械のように正確に動き、起き上がる。

目の前、机の上には――漆黒の仮面。

 

手に取る瞬間、

どこか、胸の奥が、ざらりと逆撫でされるような感覚が走った。

 

疑問が浮かぶ。

「なぜ仮面をつけるのか?」

「なぜ、俺はネオ・ロアノークなのか?」

 

思考が、そこで止まった。

 

霧――それは比喩ではない。

何か重たい霧のような圧力が、脳を包み込む。

言葉にならないざわめきが、思考の輪郭をぼやけさせる。

 

思い出そうとした“何か”は、

まるで濡れた紙のように破れ、消えていった。

 

――俺は、ネオ・ロアノークという男だ。

 

それ以上でも、それ以下でもない。

記憶はない。だが、それを疑う理由も、もはや浮かばない。

 

軍服を正し、廊下に出る。

歩くたびに、階級章とティターンズのワッペンが揺れる。

 

第81独立機動群。

俺の所属。そして、俺の任務。

 

「ネオ・ロアノーク」

小さく、自分の名を口にしてみる。

 

……やはり、どこか他人の名を借りているような感覚が残った。

 

 

 

ガーティ・ルー級・ブリッジ

ブリッジに入ると、イアン・リー少佐がすかさず敬礼を寄越す。

それに応じ、俺も自然と手を挙げた。

 

「どうだ作戦は?」

 

「奪取には成功したようです」

 

「やるじゃないか。さすが、俺の部下たちだ」

 

軽く笑いながら艦長席へ腰を下ろす。

だが――口にした“俺の部下”という言葉が、

どこか生まれたばかりの皮膚のように馴染まない。

 

しばし沈黙。

だが霧が思考を呑む前に、口を開く。

 

「――迎えに行くとするか」

 

仮面越しの視界に、赤い警告灯が点滅する。

アラート音が、戦いの始まりを告げる。

 

それはまるで、

記憶の断絶と

新たな物語の始動を同時に告げる、静かな鐘の音のようだった。

 

 

「ちょっとは面白くなってきたな」

 

目前には、スペースコロニー《アーモリーワン》。

その周囲を、ザフトのナスカ級が警戒網を張っている。

 

「――よし、行こう。慎ましく、だ」

 

仮面越しに、いつも通りの軽口を叩いた俺の声。

すぐさまオペレーターが淡々と応じる。

 

「ゴットフリート1番・2番、起動」

「ミサイル発射管、1番から8番、コリントス装填完了」

 

「主砲照準、左舷前方ナスカ級。発射と同時にミラージュコロイドを解除。機関最大」

 

俺の指示が飛ぶと、艦がわずかに震える。

ミラージュコロイドが解除され、隠れていた艦影が宇宙に晒される。

 

「ゴットフリート、てぇッ!」

 

イアン・リー少佐の号令。

ゴットフリートの主砲が火を吹き、閃光がナスカ級を呑み込んだ。

 

「命中確認。ナスカ級、撃沈」

「左舷後方よりゲイツ、三機接近!」

 

「アンチビーム爆雷散布、加速20%。十秒維持。スレッジハマー、1番から4番装填」

 

間髪入れず、俺は指示を出す。

だが頭の隅では、別のことを考えていた。

 

「……彼らは?」

 

そう訊ねる俺に、オペレーターが答える。

「まだ連絡はありません」

 

「ふむ……」

 

奪取作戦には成功したはず。

だが、未だ脱出には手間取っている。

ザフトのコロニーの軍事工廠――厄介な港は潰したとはいえ、こちらに残された時間はわずかだ。

 

「失敗、ですかね?」

 

隣のイアン少佐が肩越しに問う。

 

「港は潰しましたが、敵も黙ってはいないでしょう。長引けば――こっちが保たない」

 

俺は口元にわずかに笑みを浮かべた。

そのまま席を立ち、少佐の隣に歩み寄る。

 

「心配性だな、イアン」

「……?」

 

「俺の部下が、失敗するはずがない」

 

その声に、仮面越しでも確かな“信頼”が滲んでいた。

 

そうだ。

あの三人は、ただの駒じゃない。

俺の指揮のもと、何度も地獄をくぐった連中だ。

その強さとしぶとさは、誰よりも知っている。そんな記憶がある。

 

「だが――俺が黙って待つタチでもない」

 

「……はっ!」

 

「格納庫に伝えろ。ハンブラビ、出るぞ」

 

くるりと背を向け、艦長席からブリッジを後にする。

仮面の下の目が、僅かに細められた。

 

「……ようやく火遊びらしくなってきたな」

 

 

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