「……もう、ドゥーでもいいか」    作:ヨリヨリ

6 / 25
6

 

 

 

あれから、何度か実戦を経験した。

だが――今日は、いつものアレキサンドリアではない。

 

俺は今、ネルソン級戦艦の格納区画にいた。

上層部の指示で派遣されたらしいが、正直、よくわからない。

 

船も違えば、クルーも違う。

整備兵たちの視線が、どこかよそよそしくて落ち着かない。

格納庫の隅に、MA用スペースを無理やり改造して詰め込まれたハンブラビが一機。

その隣にあるべき――サイコガンダムの姿は、ない。

 

今回、ドゥーは“留守番”の予定だった。

というのも、あの巨体は稼働時間が短く、こうした小規模な任務では基本、お休みになるはず…

 

……はず、なのだが。

 

俺の膝の上には、ドゥーがいる。

 

「アレキサンドリアで待ってりゃよかったのに」

 

バスクお手製の“バスクサンド”をもぐもぐしながら、

彼女は当然のように鎮座していた。

 

「だって、ボクはゲーツの“相棒”だから」

 

当然のように言い切るその顔は、いつもどおり無表情。

だけど――こいつ、本当にそう思ってるんだろうな。

 

「……そっか」

 

苦笑しながら、つい頭を撫でてしまう。

最近、どうにもこいつに甘くなってる気がする。

撫でられたドゥーは、やっぱり嫌そうな顔をした。

 

……ただし、たぶん、本気ではない。

そのときだった。

格納庫のあちこちから、ひそひそと声が漏れ聞こえてきた。

 

「おい、出たぞ……ロリコン中尉だ」

 

(ふざけんな)

 

……いや、でも……否定しきれない状況なのが悔しい。

俺は渋々ドゥーを横に降ろすことにした。

だが――

 

その瞬間、肌を通して伝わってきたのは、不安と恐怖の混じった感情。

 

(……っ)

 

そっと、何事もなかったようにドゥーを膝に戻す。

俺は頭を抱えたくなった。

どうすればいいっていうんだ……!

 

「おい、今度はイチャイチャし始めたぞ……」

 

(誰か俺を撃て)

 

「……もう、ドゥーでもいいや」

 

そんなとき――艦内放送が鳴り響いた。

 

『第一戦闘配備、第一戦闘配備。全乗員は指定位置に配置せよ』

 

低く響く警報音。

艦が小さく揺れた気がした。

 

(……来やがったか)

 

ザフトだ。

 

俺は無言で彼女の肩を叩いた。

 

すると彼女は、ぴょんと膝の上から軽やかに跳ね降り――

そのまま、ハンブラビの方へ小走りで向かっていく。

 

「……おい、なにやってんだ?」

 

問いかける俺に、彼女は振り向きもせず答えた。

 

「早く乗って」

 

それだけ言って、コックピットを開く。

先に入り込んだかと思えば、俺の席を空けるように位置をずらし――

 

そのまま、俺の膝の上に座った。

 

「……はぁ。お前なぁ……」

 

文句を言いかけたその瞬間、

彼女がぽつりと、遮るように呟く。

 

「だって。ボクは……」

 

もう聞き飽きた、けど――嫌じゃない。

 

「……“相棒”、だろ? ……しょうがないな」

 

俺は、つくづく甘い。

その様子を、格納庫のモニター越しに見ていた通信士が言葉を失っていた。

 

が、しばらくの沈黙のあと――咳払い一つ。

 

『ハンブラビ、発進どうぞ』

 

(……なんだこの空気)

 

俺は無言でスロットルを握った。

体温の残る膝の感触が、逆に集中力を削る。

 

――重力が抜ける。

ハンブラビが、艦を離れて宇宙に飛び出す。

 

(……誰かほんとに俺を殺してくれ)

 

どこかで笑ってる奴の声が聞こえそうだった。

 

 

 

「中尉のハンブラビが出るぞ!! 整備兵、道を開けろ!!」

 

格納庫に、怒鳴り声が響く。

慌ただしく動くクルーたちの間を縫って――

 

機体後方には、まだ電源ケーブルが繋がっていた。

 

ポーンッ。

 

軽快すぎる電子音の直後。

ハンブラビが――電源ケーブルを、引きちぎった。

 

火花を散らしながら、スラスターが点火。

滑るように射出軌道へ。強行発進である。

 

ブリッジでは、モニターの情報が切り替わり、騒然とした空気の中――

 

通信士が、そっと口を開いた。

 

「た、大佐……あの、彼女は……なぜ中尉の膝の上に……?」

 

言葉の語尾が情けなく消える。

 

モニターには、ばっちり映っていた。

コックピット内で、堂々とゲーツの膝に座るドゥーの姿が。

 

しかも――腕を組んで仁王立ちのバスク・オムは、

艦内にいるはずのない本人がなぜかそこにいた。

 

本来はアレキサンドリアで留守番の予定だったのに、

2人が心配すぎて勝手にネルソン級に同乗してきたらしい。

意味がわからない。

 

通信士が視線で助けを求めると、バスクはゆっくりと言った。

 

「見てわからんのか。あれが――最新型のインターフェースだ」

 

自信満々に。

 

「そ、そうだったのですね!! 失礼しました!!」

 

通信士が慌てて頭を下げる。

他のクルーたちも、こくこく頷く。

誰も逆らわない。思考を放棄している。

 

――ブリッジには、あほしかいなかった。

 

 

 

ハンブラビ、出撃中。

だが、問題がある。

 

……コックピットの、膝の上。

そこに今、ドゥーが座っている。

 

しかも――手が、恋人繋ぎ。

 

(やりにくい……が、言えるわけがない)

 

彼女は、まるで当然のようにそこにいて。

当然のように、手を握ってきた。

無言で、無表情で。

 

……けれど。

 

わかる。

一緒にいたのは短い期間だが、それでもわかる。

 

今のドゥーは――

今までで一番、うれしそうにしている。

なぜだ、とは思うが。……でも、わかる。

 

そのとき、ドゥーがぽつりと呟いた。

 

「ジン、四機くるよ」

 

まだ目視できていない。

だが、彼女には“見えている”のだろう。

 

「……わかった」

 

俺はスロットを握る。

同時に、握られている手にも――力が入った。

 

(おいドゥー、握るな)

 

どんどん強くなるその“恋人グリップ”を振りほどけず、

俺はただ、目の前の戦場を睨みつけるしかなかった。

 

 

 

 

「隊長! 青い機体です!」

 

通信が、ザフト小隊の戦術網に走った。

視界の先、濃紺の異形――ハンブラビが、宙を滑るように接近してくる。

 

「うろたえるな! 各機、散開! 四方から囲め!」

 

隊長機からの鋭い指示。

四機のジンが連携を取り、ハンブラビを囲むように展開する。

 

その瞬間だった。

 

ハンブラビが、滑らかに変形を開始する。

空気を裂くような音とともに、MS形態へと移行。

 

「今だ、撃てッ!!」

 

四方向から同時に火線が奔る。

しかし――

 

ハンブラビは、それらを“滑るように”かわしていた。

機体の重心移動、旋回、加速。すべてが異様なまでに滑らかで、

まるで、すべての攻撃を“知っていた”かのように。

 

「っ、なッ――」

 

そして次の瞬間、重火器が火を噴く。

大型リニアガンから放たれた砲弾が、一機のジンを正面から撃ち抜いた。

衝撃と共に、爆炎が弾ける。

撃破、わずか一撃。

 

「武器が! 武器が報告と違いますッ!!」

 

「きさまぁぁぁぁっ!!」

 

焦りに駆られた僚機が突撃する。

連携は崩れ、散発的な攻撃へと変わっていく。

 

だが、ハンブラビの動きは鈍らない。

ひとつ、またひとつ――

音もなく、順番に“落ちていく”。

 

やがて残った隊長機が、吠えるように剣を抜き、突進した。

 

「うおおおおおッ!!」

 

刃が振り下ろされる。

だが――

 

ハンブラビは一歩も動かず、わずかに身をひねるだけでそれを避ける。

そして次の瞬間、装甲の隙間にアーマーシュナイダーが突き立った。

狙いは、迷いなくコックピット。

 

「……ッ!!」

 

何かを言う暇もなく、ジンは爆ぜた。

火花と煙が宙に舞い、四機編成の小隊は、わずか数十秒で壊滅した。

宙域に、青い悪魔の影だけが残る――。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。