三機のガンダムを退けたフリーダム。
だが、キラの心は晴れなかった。
勝利ではない。ただ、戦いを“終わらせた”だけ。
そして――
「……アスラン……!」
戦場に乱入してきたジャスティス。その赤い機体が、フリーダムの目前に降り立つ。
キラは咄嗟に無線を開こうとした。彼の“真意”を、確かめねばならない。
だが、そのときだった。
カメラの端――砂煙の向こうに、異様な“影”が映った。
「……っ……!?」
見る間に、それは輪郭を持ち、巨大な“黒いガンダム”として立ち上がる。
そして、容赦なくビームを放った。
オーブの街が、焼かれる。
炎と爆煙が地表を舐め、建物が吹き飛ぶ。
「やめろぉぉぉぉッ!!」
咄嗟にトリガーを引き、フリーダムのビームライフルが黒き巨影を撃ち抜く。
だが――
「弾かれた……!?」
光が、はじけて散る。
ビームは、届いていなかった。
キラの目が見開かれる。
「……っ、あれは……!」
その瞬間。
フリーダムの目前に、青い影が割り込んだ。
青と黒。奇妙に禍々しい機体――モノアイが、ぎょろりと動き、キラを見据える。
目が合った。
ほんの一瞬だった。だが――
そこに“意志”を感じた。
(こちらを知ってる?)
そう直感した瞬間、フリーダムは横跳びする。
直後、そこへ青い機体が撃ったビームが襲いかかった。
光がフリーダムの“いた空間”を貫き、地表を抉る。
キラは、戦慄した。
「こいつらは……!」
――兵器か? 人間か?
“誰が”オーブを焼いている? あれは、本当に“人の意思”で動いているのか?
答えは出なかった。
ただ、恐怖と怒りが入り混じった感情が、キラの胸を締めつけていた。
◇
目前には、蒼きフリーダム。
C.E.世界の主人公が、ついにこちらを捉えていた。
対するは、俺の――ハンブラビ。
ただし、いつものそれではない。
地球連合の技術者が血眼になって改修を繰り返し、ようやく搭載された“新装備”。
ついに、ビームが撃てるようになった。
……が、正直どうでもいい。
「ドゥー、派手にやってる“フリ”でいくぞ。アストレイの足元と、武装だけを狙え」
『……了解、相棒』
僅かな間があった。
しまった。つい“アストレイ”と言ってしまったが――どうやら伝わったらしい。
ドゥーのサイコガンダムが、轟音と共にビームを放つ。
狙うのは、既に崩れた建物や無人の広場。その射線は、あからさまな“威嚇”。
その意図に気づく者など、この場にはいない。
「来たな……」
フリーダムがビームライフルを構え、サイコガンダムへ牽制射撃。
だが、その一撃は、サイコ・フィールドに阻まれ弾かれる。
一瞬、フリーダムの動きが止まる。
(よし、驚いてるな)
こちらの性能を把握しきれていない……その“スキ”を逃す手はない。
「……サービスしてやるよ」
スロットルを全開。ハンブラビが宙を切り、フリーダムの目前に飛び出す。
狙いすましたビームを撃つ――当然、避けられる。
だが、それでいい。
(どうだ、“C.E版ハンブラビ”、かっこよかったろ?HGプラモ出せよバ〇ダイ)
その瞬間、通信が入る。
『ゲーツ、気をつけて。白いの、嫌な感じ……してきた』
ドゥーの声は、珍しく強張っていた。
「わかった」
こちらに向けて照準を合わせ始めたフリーダムに、ビームを乱射。
着弾地点はズラし、“あくまで戦っているように”見せかける。フリーダムは上空へ跳躍、軌道を変えた。
同時に、ビームライフルの反撃。
だが――サイコガンダムが前に出て、ビームを防いでくれる。
頼もしすぎるぜ、ドゥー。
(いいぞ、その調子で暴れるだけ暴れて……“壊すなよ”?)
だが、次の瞬間。
「っ……!」
ジャスティス。
紅のMSが、爆炎の向こうから飛び出した。
(やはり来たか、アスラン・ザラ……!)
接近戦に持ち込もうとするジャスティスは、サイコガンダムに肉薄する。
迷いのない動き。勘が鋭い――
「勘のいいやつめ」
言いながら、ビームサーベルを抜く。
迫るジャスティスの斬撃を、ハンブラビのブレードが弾き返す。火花が散る。
刹那の交錯――
その奥で、サイコガンダムの瞳が、じりじりと赤く染まっていた。
(……まだ大丈夫だ。だが、ドゥーの負荷は高まっている)
俺は――その重圧ごと、受け止める覚悟を、もう決めていた。
◇
サイコガンダムのコックピット。
振動とノイズに包まれた閉鎖空間の中――通信が入る。
『ドゥー、派手にやってる“フリ”でいくぞ。アストレイの足元と、武装だけを狙え』
……アストレイ?
知らない単語だった。
それでも、深く考えるのはやめた。
「……了解、相棒」
彼が言うなら、それが“正解”だ。
“フリ”ならば、殺さずに破壊の演出だけ。
“アストレイ”は……恐らくあの、赤と白の新型機。
なら――
足元と、武装だけを撃てばいい。
両手を操作し、感覚を重ねる。
サイコガンダムの目が赤く輝き、両手の砲門が熱を帯びる。
「…………」
照準、合わせて、ずらす。
“人”がいない場所、“無人”の建造物だけを焼く。
空が焼ける。炎が走る。爆風が瓦礫を巻き上げる。
(よし、これでいい。これなら、誰も……)
その時だった。
視界の端――白い機体。
(来た……)
白いガンダムがこちらへ向けてビームを放つ。
咄嗟に防御行動。
サイコ・フィールドが瞬時に展開され、熱線が弾かれた。
だが――その機体の“視線”が、妙だった。
まるで……心を、覗かれているような感覚。
「……ゲーツ、気をつけて。白いの、嫌な感じ……してきた」
胸の奥がざらつく。
理解ではなく、本能が警鐘を鳴らしている。
それに、相棒の動きが――微かに“ブレて”いた。
普段のような、鋭さがない。
(だめ。……あの白いのが、ゲーツをおかしくしてる)
ボクのゲーツを。
ボクだけの、相棒を――惑わせるな。
その思考のまま、右手が勝手に動いた。
照準は、白い機体と、それに近づく赤い機体――二機の間に。
牽制でも威嚇でもない。“排除”の一歩手前。
「……ボクが、ゲーツを守る」
サイコガンダムの砲門が開き、赤と白のガンダムに向けて咆哮する。
――ボクの世界に、彼を“奪う”者は要らない。
◇
やばい――
まただ。ドゥーが、暴走し始めている。
通信は沈黙したまま。
サイコガンダムは、フルスペックで火を吹いていた。
白と赤、二機のガンダムに向け、容赦なくビームを連射する。
それでも、驚異的な精密さで――味方やオーブの民間施設だけは避けている。
(……いや、感心してる場合じゃねえ!!)
こちらが“抑える役”を忘れていたら、普通に死人が出ていた。
だが、問題はそこじゃない。
三機とも、今後の戦場に必要なんだ。
フリーダムも、ジャスティスも、サイコガンダムも――ここで潰し合うなんて最悪だ。
……と、
警告も間に合わず、フリーダムの頭部カメラが吹き飛んだ。
(まずい!!!)
ジャスティスが飛び込み、サイコガンダムに斬りかかろうとする――
その刹那、俺は反射的にハンブラビを操った。
「ドゥーッ!! 落ち着け!!」
咄嗟に叫ぶが、返事はない。
完全に“視界”からこちらを切っている。
(やるしかねえ……!)
ハンブラビは急降下。
ジャスティスの一撃を蹴り上げで弾き飛ばし、瞬間加速でサイコガンダムに取りついた。
「クソ……間に合え!」
俺は手持ちの武装を、わざとジャスティスとフリーダムに見えるように捨てた。
攻撃の意思がないことを示す。牽制だ。
そして――
コックピットを解放する。
視認性の高い位置に、わざと姿を晒す。
風が吹き込む。視線が痛い。
「……ドゥー。もう、いい。帰るぞ」
俺は、サイコガンダムの装甲に手を当てて、静かにそう言った。
その瞬間。
サイコガンダムの発光が徐々に収まり――ビーム砲が静止する。
変形モードへ移行。
大気を切り裂き、彼女は帰路へと向かった。
ハンブラビはその背に乗ったまま、飛び去る。
俺は開いたコックピットから、二機を――ジャスティスと、フリーダムを、見下ろす。
……彼らは撃ってこなかった。
こちらの意図を、理解していた。
あるいは――俺たちの“絆”を、見ていたのかもしれない。