教室での一悶着もあったがいよいよ入学式
体育館に所狭しと並べられた椅子に腰を下ろし、あの勇者をどうすれば良いかと思考を巡らせる。
(とりあえず
「よっ!」
「...何だ?」
思考を巡らせ続けていると、隣から突然声をかけられた。
「何だよ、つれないなぁ〜。同じクラスなんだから仲良くやろうぜ〜」
声をかけてきたのは白い髪をツーブロックの様な感じにし、耳にもピアスをつけていていかにもチャラそうな男だった。
「いや、初対面だったら普通だろ」
「おい、
「誰がダル絡みだよ!
ダル絡みをしてくる男の後ろから現れたのは今時珍しい坊主頭、そして身長が2メートルはあるかの様な大男だった。
「すまないな、こいつはいつもこんな感じなんだ。悪気がある訳じゃないから許してやってくれ」
厳つい見た目とは裏腹に丁寧にこちらに頭を下げる男。
とりあえず悪人というわけではなさそうだ。
「いや、まぁ良いけど」
「何だ俺の顔に何かついているか?」
「あ、いや、でっかいなって思っただけだ」
「そうか?普通だと思うが...」
「いや、次郎はでけえよ!」
こっちの事などお構いなしと言わんばかりに喋り続ける2人を眺めていた。
「...仲がいいんだな」
「俺と次郎は
「腐れ縁だ」
「おい!その言い方はないだろ!?」
「事実だが?」
「ファッキュー!」
「喧嘩なら買うぞ」
「フッ...」
「何わろてんねん」
「いや、知り合いを思い出してな」
言い争いをしている2人を見ていると、ふと昔を思い出す。
若かった時から一緒に戦場を駆けた2人の部下、
自分の無謀な夢を叶えるため、最期の戦いにまで付き合い続けてきた
「俺と次郎で思い出すような奴らとか絶対碌でもない奴じゃん」
「そうだな」
「...お前ら、自分で言ってて悲しくないか?」
「別に」
「特には」
何とも言えない返答が返ってきて反応に困る。
先ほどまでの会話に比べて少し卑屈すぎる。
「...まぁいいや、まだ名前を聞いてなかったな、教えてくれないか?」
「俺の名前は
「俺は「こっちのでかいのは
「
「おー!これからよろしくな!」
「同じクラスだ、よろしく頼む」
「ああ、こちらこそよろしく」
右手を差し出して2人と握手を交わす。
こうして俺は新たな友人を得た。
ーー
「この後、体育館裏に来てくれるかな?」
入学式が終わり、教室での軽い顔合わせも済ませ、皆が帰宅の支度をしている最中に隣の席の
美少女からの呼び出ししかも体育館裏
人目につきにくい所等を考慮すれば普通は告白イベントだろう。
だが、こいつは元勇者そして俺は元魔王つまり導き出される結論は...
「...いやだ」
絶対暗殺イベントである。
ここでノコノコとついて行ってしまえば
確実に人目のつかない所で
なので絶対に拒否しなければならない。
「なぜだい?」
「
「ふーん...断るんだ...だったら」
「何だ?無理矢理引き摺っていくのか?」
「...ぐすん」
「は?お前何急に泣いて...」
どんな行動をするのか身構えていると、こいつは突然の涙を流し始めた。
「ちょっとあんた何したのよ!」
「え!?いや何もしてな「最低!このクズ!」ええ...」
「テメェなにユウ様を泣かせてんだ!ぶっ殺すぞ!!」
「最初の一目見た時からテメェがどうしようもねぇゲロ野郎なのはわかっていたが、ここまでのカスだとは思わなかったぜ」
「何でこんな事するんですか?貴方の事、もう殺すしか無くなっちゃったじゃないですか」
そしてその策略通り完全にクラスの雰囲気は俺が悪役に仕立てられてしまった。
それにしても殺意がすごい。ここまでの殺意を向けられたのは前世の時、不正を行っていた役人や貴族どもを粛清した時以来かもしれない。
だがしかし俺も腐っても元魔王。他者から非難や反感なんか山の様に浴びてきたのだ。
この程度では当然へこたれない。
「いいや、断るね」
「そっか...じゃあ仕方がないね」
そう言うと突然あたりの空気が変わった
極寒の地にいるかのように背筋が凍り、
呼吸をしているはずなのに息が詰まってしまう
そんな空気だった。
そんな空気を作り出しているのは目の前にいる
だがその殺意は自分に向けられているのではなく、自分を取り囲んでいる周りに向けられている。
お前の返答次第で周りの奴らはすぐにでも死ぬぞと、そんな風ににこちらに訴えかけてくる。
「...行きます」
流石にそこまでされると断れなかった。
いくら何でも自分のせいでクラスの奴らを犠牲には出来ない。
「なら良かった」
行くと言った途端に涙を引っ込め、周りに振り撒いていた殺意も収めて何事もなかったかのように話しかけるこいつに恐怖しか湧かない。
「なら、先に行っておいてくれるかい?」
「あ?なんでだよ」
「もう彼らも待っているだろうから」
ーー
「あー...行きたくねぇー...」
体育館前まで来たはいいものの
それがこれ以上無いほどにこちらの気持ちを憂鬱にさせる。
「でも行くしかないよな...」
憂鬱な気持ちを押し殺し、重い足を引き摺る様に動かしながら体育館裏へと足を運ぶ。
「おや?ようやく来ましたか、あまり人を待たせるのは感心いたしませんよ?魔王」
「うるせえなハンド、来たくもないのに呼び出されたこっちの身にもなりやがれ」
「ハハハ!でもこうして来るのは相変わらず律儀だな魔王!」
「お前も黙れ、バール」
嫌味を言ってきた眼鏡は魔法使いハンド
豪快に笑っているオールバックは聖騎士バール
「あー...お久しぶりぶりっす、ソドンさん」
「お久しぶりっす!元気にしてましたか!」
顔が傷まみれの男とその男に肩車をされている小さい少女が口を開き、挨拶をしてくる。
傷まみれの男は戦士ガイア
小さい少女は弓兵ミケ
「久しぶりだな、ガイア、ミケ」
「うっす」
「うっす!!」
予想通り体育館裏にいたのはかつて幾度となく対峙し続けた勇者一行。
(フィオレの姿が見えないのが気になるが...それよりこの状況をどう対処するかだな)
僧侶の姿が見えない事が気になりつつも、この状況を打開するべく思考を巡らす。
できれば今すぐに逃げ出したいが...これでも勇者一行。こっちが逃げようとすれば自分の足を切り落とす事など造作もなくできるだろう。
「しっかし、勇者一行がわざわざ待ち構えてるとはなぁ...集団で襲わないと俺に勝てないってか?」
安い挑発をしつつ相手の出方を伺う。
この挑発に乗ってくれればまだ幾分逃げ切れる可能性が出てくるので出来れば乗ってほしい。
「...いや、俺たちソドンさんと
「え?」
てっきりここで『お前を殺す』ぐらい言われると思っていたので予想外の返答に思わず変な声を出してしまった。
「少なくとも俺とミケはあんたには恩がありますし」
「まぁ...確かにお前とミケに簡単な読み書きや計算のやり方を教えたけどよ...」
前世で人に化け、勇者の仲間として旅をした時読み書きや計算が出来なかったガイアとミケに
簡単な読み書きや計算のやり方を教えはしたが
そこまで恩を感じていてくれた事に少しだけ嬉しくなってしまった。
「それに、今のソドンさんは人間ですし」
「アニキの言うとうりっスよ!」
「いや、お前らはいいかもしれないけど、他の奴らは...」
獣人とエルフ...差別の対象であり、そのせいで実験台として扱われて来たこいつらはそもそもあまり人間に対して好感は持っていなかったと言うのもあるだろう。
だが聖騎士団団長であるバールと王宮魔法使いのハンドが魔族である俺を見逃すとは到底思えない。
「まぁ、悪事を働いている訳でもなさそうだしな!なので俺はお前を見逃す!」
「私も貴方個人に恨みがある訳でもないので」
「それでいいのか...」
本来であれば魔族を見つければ即殺する聖騎士と魔族の存在を一切許す気のない王族に使える魔法使いが、こんなことを言うのは職務放棄ではなかろうか。いや職務怠慢の方かもしれない。
「なぁにこれからは仲良くやろうじゃないか、魔王ソドン」
「...ああ、これからよろし」
こちらに笑顔で手を差し出してくるバールに不気味さを覚えながらこちらも握り返そうと手を差し出した瞬間
ー
突然
「...あっぶね」
メイスには大量の棘がありこれだけでも殺意の高さが伺える。加えてあの重量が頭に当たっていれば確実に命は無かったであろう。
そんな凶器を振り下ろした張本人は回避した俺を見ながら首を傾げている。
「...なぜ避けるのですか?」
「避けなきゃ死ぬだろ」
「?殺すためにやってますから」
そんな事を平然と言い放ち
翡翠色の髪の隙間から覗かせる黒色の瞳には狂気を孕んだ光が宿っていた。
「やっぱりお前もいるよなぁ...久しぶりだな、フィオレ」
「...あたしの名前、覚えてくれてたんですね」
「一応、3年も一緒に旅をしたからな」
「ありがとうございます、では死んでください」
「...まじかよ」
「次は避けないでくださいね」
攻撃を止めると思い話しかけたものの、フィオレはそんな事はお構いなしともう一度メイスを振りかぶり躊躇なくこちらの頭蓋目掛け振り下ろした。
「クソが!!」
頭上へと振り下ろされたメイスをギリギリで回避し、すぐさま
「
「そんな手は喰らいません」
地面を凍らせ動きを奪う予定だったが、フィオレはジャンプし凍らせた地面から離れる。
「ああ、当たると思ってないぜ」
ジャンプをして
メインはもう1つの
「これでも喰らえ!」
「な!?」
「
右手から発生した黒い炎が辺りを包み込んでゆく、全員が炎を防ぐための防御姿勢に移ったのを確認し、その隙に身体強化を発動して全力で逃走した。
「逃げられてしまいましたね...」
「あの...これラムルさんになんて説明するんすか?」
「知らん!」
「フィオレがいきなり殴りかかるからっスよ!」
「...一撃で仕留めるつもりだったのに」
「もー!そういう問題じゃないっスよ!」
ーー
「危ねぇ...本当に死ぬ所だった...」
身体強化を発動し、全速力走り続けたでお陰か
何とか撒くことができたらしい。
「...フィオレの奴、相変わらず魔族を憎んでたな...まぁ...仕方がない...よな」
故郷を魔族によって滅ぼされ、その復讐の為に勇者一行にまで入り、魔族を滅ぼす為だけに自らも魔族に堕ちた僧侶フィオレ。
結局彼女とは最後の最期まで和解する事ができなかった。
あの時どうすれば良かったのかそんな考えが頭の中で廻り続ける。
「いや、もう考えても仕方ないか...」
「...それより俺の状況ヤバくね?」
学園に勇者とその一行がいる。
油断すれば明日...下手をすると今日が俺の命日になってもおかしくはない。
「あー...何で俺1人だけなんだよ...せめて1人ぐらい幹部の奴らがいれば...いや、1人だけだと普通に負けるな...5人ぐらいか...うーん...5人でも負けそうだな...」
魔王軍幹部である
現状、俺は1人であの化け物どもに対処しなくてはならないのだ。
「はぁ...帰るか」
「あー!もう!あんたどこ行ってたのよ!」
あまりの絶望感に打ちひしがれて
教室に向かってトボトボと歩き始めると後ろからめぐみに声をかけられた。
「なんだ、まだ帰ってなかったのか?」
「あんたを探してたのよ!」
既に時刻は14時をすぎており、殆どの生徒たちは既に学園からいなくなっていたので、てっきりもう帰ったとばかり思っていたがどうやら自分を探す為だけに残っていたようだ。
「あんたのクラスメイトに聞いたら体育館裏に行ったって、言ってたから行ったのにいないし!ほんとどこ行ってたのよ!」
「あ...いや...その...」
言えない、体育館裏で殺し合いになりそうになったんで全力で逃げて来た...なんて言っても信じないだろうし、そもそも余計な心配はかけさせたくない。
「はぁ...ほら、帰るわよ」
「...あいよ」
こちらが口籠るとそれ以上は深く聞こうとはせず、手を差し出してくれる幼馴染が今はとても暖かかった。
自分を気にかけてくれる人がいる。それだけでもまだ死ねない理由にはなるだろう。