悪食少女のヒーローアカデミア   作:紅葉紫苑

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象徴の喪失

 ふわりふわりと……まるで天空を歩き渡るかの様に軽やかに空中を跳躍して地に堕ちたAFOへと追撃を行う青娥。

 それに合わせてオールマイトもAFOへと追撃を行う。

 AFOは限界寸前まで余力を振り絞ったオールマイトが誰1人救えず血の海に沈む事に思いを馳せて悔しがる面見たさにわざわざオールマイトを狙わずに一般市民やビル群へと攻撃していたのが仇となった。

 それが無ければ少なくとも青娥の攻撃を喰らう前にオールマイトを確実に殺す算段位はつけられていたというのに。

 阿吽の呼吸と言うべきか……青娥がオールマイトに合わせつつ激烈な攻め手を緩めない。

 青娥より繰り出される遠当てにより距離を取れば即座に遠当てを打ち込まれ……それを嫌っての接近戦を行えばオールマイトと同等のパワーにて殴打される。

 それを嫌い浮遊して一旦距離を取ろうにも縮地による移動法で彼我の距離を一瞬で詰められて寸勁を撃ち込まれて地面へと再度叩き落とされる。

 そして……その隙を見てオールマイトが最後の、最後の残り火を灯して……全力の一撃を振るってこようとしたが当然喰らってやる訳にはいかない。

 個性を総動員しつつ退避行動を取ろうとした刹那……自身の身体が束縛される感覚がAFOを包む。

 それは糸による束縛……しかしジーニストは腹に風穴を空けており気絶している。

 誰の手によるものか……数多の個性を総動員せずともAFOは理解する。

 天に浮かぶあの邪仙の仕業だと。

 

「煩わしい‼︎」

 

 そう叫び……個性を総動員して回避を試みるがほんの僅かな遅れが致命的であった……。

 数多ある感知系個性がけたたましくアラートを鳴らして眼前に迫るオールマイトの攻撃に対して危険だと警鐘を鳴らすも避ける動作を取る前に邪仙からの邪魔が入り回避が不可能となる。

 眼前に迫るは仇敵の拳であり……オールマイトの最後の灯火を全て注いだ一撃がオール・フォー・ワンの頭部を打ち砕いた。

 

「ユナイテッド・ステイツオブ・スマァァァァァァッシュ‼︎」

 

 その一撃で悪の帝王は敗北しオールマイトが勝利した。

 そうして、それを見届けてから……天から霍青娥がゆっくりと優雅に地面へ足を下ろす。

 

「お見事ね……流石平和の象徴だわ」

 

「……お褒めの言葉を素直に受け取っておきたいが……君は何だ?」

 

 そう拍手を打ち鳴らしながら最後のスタンディングと『次は君だ』という折れない言葉を語り終わったオールマイト……。

 それが終わった後で称賛の言葉をオールマイトに告げるが返って来るのは訝しげな視線。

 オールマイトは肌で感じ取っていた。

 眼前の女性の異質さと異常さを……先程のAFOとの戦闘に際してこの女性、霍青娥と名乗った相手は本気など欠片も出していなかった。

 数多の(ヴィラン)と対峙してAFOとの死闘を繰り広げたオールマイトだからこそ感じ取れる違和感と異質さ。

 それはそのまま訝しむ視線になって眼前の女性へと突き刺さる。

 

「名前だの職業だのを聞いてはいない……聞きたいのはそんなもんじゃないって分かってくれるよね?」

 

 その言葉に対して眼をパチクリとさせて顎に手を当てて暫し含み笑いをしている女性……唐突なそれに対して唖然とするオールマイトやグラントリノを置いてけぼりにして堪え切れない笑いで笑っている女性。

 一頻り笑って、笑って……笑い続けてからスンッと真顔に戻って語る。

 

「私は人間が大好きで大好きでたまらない……人間が大好きなただの仙人……霍青娥よ、私の事は一先ず置いておいて……まだやるべき事があるでしょう? 宮古芳香を救わないとね……AFOは戦いの最中でも最奥への攻撃を何が何でも阻止してたわ」

 

 神野区が半壊どころか全壊しており衝撃波で更地と化した周囲。

 しかしAFOはその戦闘の最中で宮古芳香のデータ抽出機がある場所だけは死守しており一切の衝撃すらも通さなかった。

 まぁその衝撃波が後ろに行かなかった分……更に被害の拡大が為されており結果として神野区どころか神野区の両隣の2つの区すら巻き込まれる被害になった。

 神野区はインフラ設備や防災設備など含めて都市機能のほぼ全てが全壊、両隣の区にも70%以上の設備などに壊滅的被害が生じた。

 当然家屋や雑居ビルや高層ビルなども倒壊しており……人的被害も物的被害も尋常ではない。

 必死になってウワバミや虎……その他プロヒーローや自衛隊、救急救命士達……医療従事者達が救助に当たっており塚内はその権限を使って今現場に掻き集められるだけの救助専門のプロヒーロー達を召集している。

 13号も駆けつけて救助を行っていた。

 マンパワーに長けるエンデヴァー事務所のサイドキック達には避難所や救護所の設営を依頼、そして食事に際してはランチラッシュや食堂を経営しているプロヒーロー達に召集命令をかけていた。

 それらを横目で見つつ霍青娥と名乗った無名のプロヒーローは飄々と雰囲気を醸し出したままAFOが死守していた最奥への道をゆらりゆらりと歩いていく。

 女性警官に自身の身分を説明して押し通るオールマイトとグラントリノ、そして霍青娥は培養槽に入れられている宮古芳香を見ることになった。

 カタカタと無機質に動いているコンピュータと……液体の中に浮かんでいるその少女の姿に……三者三様、異なる反応を見せる。

 グラントリノは悍ましい実験の醜悪さに怒りを。

 オールマイトはAFOらの非道な実験の対象になってしまった芳香に対しての申し訳なさから哀しみを。

 霍青娥は……自身の大切な大切なモノを勝手に弄られた事による不快感を露わにしていた。

 

「破片が飛び散って危険だから下がってなさいな」

 

 そう呟き周囲の人間を一先ず避難させた後で青娥が機材に近寄り内容を読み取ると即座に機材諸共に培養槽の強化ガラスを素手で砕き割る。

 コンピュータの画面からは基盤の故障による煙が立ち昇り電気系の破損により火花が散り20ある画面が全て暗転し二度と動かなくなった。

 培養槽から救出された宮古芳香は女性警官からバスタオルで身体を覆われて少しでも裸体を晒さない様に配慮を為されるがその女性警官の表情は何処か暗い。

 女性警官が踏み入って培養槽の中を確認した時……宮古芳香は呼吸機器すら装着されていなかった状態であった。

 その為に呼吸は止まり心音も感じ取れない、その挙句に青娥の腕に抱えられている今も四肢は完全に脱力しており瞳孔は完全に散大している。

 普通に見ればあの状態は完全なる死を迎えた状態である。

 死亡の三徴候と言われる状態がある。

 呼吸停止、心臓停止、瞳孔散大が死亡の三徴候として一般的に認識されており医師もそれを確認して死亡診断を下す。

 医師以外の人間は死亡診断を下せない為に心肺停止や呼吸停止と称するのが一般的である。

 しかし……保護者たる霍青娥からは悲痛な声も涙も見えない。

 袖からゆっくりとお札の様な何かを取り出して何かの文字らしき物を書き、芳香の額に貼り付けて自身の唇に人差し指を付けて何かを唱える。

 すると額に貼り付けていたお札淡い光を放ち始めた……数秒もするとそれは収まり先程まで死んでいた筈の宮古芳香の肉体が動いた。

 

「せいがー‼︎」

 

 宮古芳香の声が響いて……青娥への熱烈なハグを行っていた。

 青娥は用意していた衣服を芳香に着させると警官に状況説明を行い爆豪勝己の居る警察署へと一時保護されていった。

 そして激動の1日が終わった。

 


 

 翌日……日も昇り切った明朝。

 被害の深刻さが明らかとなる。

 死者は約4200人。

 負傷者は重軽傷者含め1万人以上

 行方不明者2980人。

 家屋やビル倒壊数合わせて1000棟。

 インフラ設備や高速道路や鉄道網の損壊による被害総額は2500億を優に超えていた。

 


 

 警視庁上層部は会議を行っていた。

 議題は今回の事件に対して。

 

「捕らえた脳無達は何れもこれまで同様に人間的な反応はなく新たな情報は得られそうにありません……彼らの製造方法についても詳しい事は不明、追って調査を進めるしか有りません……」

 

 そう話す塚内……。

 警視監以下上層部の警察官達は書類を見ながら呟く。

 

「そもそもその倉庫というのがフェイクじゃねぇか? 生体実験なんぞ行える環境じゃなかった……BARからも連中の個人情報は上がってねぇんだろ? 大元は捕えられたが実行犯らは丸々取り逃した、飛び切り甘く採点したとして痛み分け……な訳ねぇよな、平和の象徴と引き換えるのはあっちゃならない事だ、オールマイトの弱体化が世間に晒されてもう今までの絶対に倒れない“平和の象徴”は居ない……国民にとっても(ヴィラン)にとっても……それと拉致被害者の宮古芳香は何らかのデータ抽出をされていたそうだがそっちの進展は?」

 

 宮古芳香のデータ抽出が何らかの者により行われていたのは把握していた。

 霍青娥と名乗ったプロヒーローが宮古芳香を救出した時点で70%のデータ抽出が完了しており何の実験かは不明だが70%も何かのデータを抽出されたのは非常に危険なモノだと理解しているが何の実験か不明な以上どうにもできないのが現状だ。

 1時間ほど続き……警察としても今まで以上に本腰を入れて死柄木弔達の確保に尽力することとなった。

 


 

 警視庁での会議の後。

 (ヴィラン)連合によるテロ捜査合同本部での会議に出席している塚内直正。

 その顔は酷く険しく……何かを考え込んでいる。

 会議の纏め役である三茶は塚内の顔をチラリと見て理解する。

 

(……大分疲れているようだ……無理もない)

 

 表情から察し負担をかけないようにしつつ会議を進行していく。

 

「公安やヒーローとの連携を始め我々にはやる事が山積みです……今与えられた仕事をそれぞれが確実にこなす事で……このテロへの対策としましょう」

 

 そう語るも返ってくるのは覇気がない返事である。

 無理もない……疲労困憊で日夜動き回っているのにも関わらず情報はめぼしいモノすらない。

 

「最後に……塚内さんから何か……いえ、ではこれにて会議を」

 

 そう言いかけて思いとどまる三茶。

 負担はかけない方がいい……そう考え直して会議を締め括ろうとしたその時……塚内は口を開く。

 

「諸君は……何を守るために警察に入った? 正義を守るため? 街や人を守るため? それとも単に手に職を得て自分の人生を守るためか? ああ大切だ、そのどれもが命をかけて守るべきものだ……だが今諸君が最優先で守らなければならないのは‼︎ 警官としてのプライドだ‼︎ 悔しくないか⁉︎ プライドをズタズタにされて悔しくないか⁉︎ 1人の警官として‼︎ 傷つけられたプライドを取り戻せ‼︎ 犯人を捜す者も‼︎ 2次犯罪を防ぐ者も‼︎ 市民の前にただ立って安心を与える役割の者も‼︎ 全員がプライドを持って仕事に当たれ‼︎ バラバラにされた警察のプライドを‼︎ 諸君らが拾い集めてここに持ってこい‼︎ 以上‼︎」

 

 そう締め括ると……先程の返事とは打って変わって全員顔つきが引き締まり威勢よく返事をして各員がやるべき事を行っていった。




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