そうして……数日後。
8月の中旬。
芳香は今まで住んでいた家を出て雄英の敷地内に建てられた寮へと向かっていた。
先んじて荷物などは郵送している為に今持っているのは鞄と現在着用している制服、そしてスマホくらいのものだ。
そうして雄英へと到着した芳香。
時間に余裕を持って到着した筈だが芳香が最後であり遅刻ではないのを腕時計で確認していると八百万百が双眸に涙を溜め泣きじゃくりながら芳香へと駆け寄り抱きついてきた。
あまりの事に驚いていたが八百万百以外の女子達も八百万に続き芳香に抱きついてきた。
もみくちゃにされて動けないが全員、芳香の事を心の底から心配していたのが理解できた。
数分後……落ち着いたのか離れるが八百万のみ芳香の手を離そうとはしなかった。
聞けば八百万は己を責めて悔やんでいたらしい……あの毒ガスを吸気して足手纏いにしかならず、結果として芳香が攫われるキッカケになったと、悔やんでも悔やみきれないと話しており……更にクラスメイト達の心を圧し折ったのはあの記者会見での記者の一言、過去に実験台にされていたと。
それを聞き……皆思い詰めていた……。
そんな皆を見回して芳香は自身の胸に顔を埋めて泣きながらひたすらに謝りっぱなしの八百万百の頬を引っ張って無理矢理笑みを作らせて語る。
「八百万さんにそんな顔は似合わない……あの時、あの場所ではアレが最善の一手だった……それに悲劇的な話で私だけが目立っているけど……拉致されてたのは私だけじゃない、爆豪も……今は普通そうにしてるけど、普通ならトラウマとかになってもおかしくない」
そう語る視線の先には不満そうにしている爆豪。
拉致されて心配されていないから……などではないのであろう事は皆が理解している。
切島や瀬呂といった普段から絡みが多い者達が爆豪に対して話を振ろうとした時……相澤先生の声が響き渡る。
「全員居るな? とりあえず一年A組、全員無事に集まれて何よりだ……」
そう語る相澤先生の眼には若干の隈や疲労が滲んでいるがそれを指摘するものは居ない。
相澤先生の言葉に瀬呂や葉隠らが頷き蛙吹さんが何処かホッとした様な口調で言葉を紡ぐ。
「無事集まれたのは先生もよ……記者会見を見た時は居なくなってしまうのかと思って悲しかったの」
その言葉でクラスメイト一同が沈み込む。
あの時の戦闘指示が問題アリと見做されていた場合……担任が相澤先生から変わる可能性は無いとは言い切れなかった。
しかし担任が他の先生き変わる事なく相澤先生で続投となった事にクラス一同とても安堵していた。
それに対して相澤先生は何処か遠い眼をして生徒達の声に応える。
「……俺もびっくりさ……まぁ色々あんだろうよ」
そう呟くも相澤自身は心中穏やかとはいられない。
あの記者会見で宮古芳香の過去を暴露した記者が死体になって発見されたと連絡を受けたからだ。
あの記者は調査や報道に際してかなりの悪どい手も使っていた……非合法実験やマフィアといったアングラ系のネタでかなり際どい記事を書いていたようで……宮古の件もその時に知ったのだと思われる、そして何らかの情報を掴んでおり……命の危険を察知したその記者はヒーローと警察に助けを求める通話記録が残されていた。
だがその通話の最中に焼死体にされたらしく……現場にもなっている被害者宅は酷く荒らされており……もし仮に被害者の死に繋がる情報があったとしても被害者と共に消されたと思われる。
復興作業の最中に塚内警視正より聞いた話だ……。
あんまり良い気分とは言えない、いくら心底反吐が出る様な相手だろうと死んで喜ぶ様な精神性までは持ち合わせていないのだから。
ここからは塚内直正の仮説であり……推測の域を出ないと前置きされて話された事だ。
そもそも過去に宮古芳香を救い出した施設と今回の脳無格納庫に共通する点が1つある。
あの研究レベルは5年やそこらでは絶対に到達できないという事。
しかるに10年や15年前には別の場所で人体実験が行われていたと見るのが妥当……あの様な人体実験を伴う兵器開発はその犯罪性故に人体から『アシ』がつく可能性がある。
しかし遺体となれば話は別なのだ……遺体の摺り替えさえしてしまえば後に残るのは骨だけ……確か脳無は生きてはいない、死体の集合体という話だったか……そして宮古芳香も既に生きてはいない……死体だという話……だがしかし、増えすぎた情報は結論を変える、それも驚く程に鮮やかに。
重苦しい想像が相澤の脳内をぐるぐると終わる事なく無限に巡り続ける。
しかし、生徒達の前でその様な心情を吐露する訳にはいかない。
故に一旦この思考を脳の片隅に追いやると手を打ち鳴らして注目させるとこれからの事について説明を行う。
「さて、これから寮について軽く説明していくがその前に1つ……当面は合宿で取る予定だった『仮免』取得に向けて動いていく……気を引き締めて行こう」
そう告げて寮の説明に入る。
それぞれのスペースの説明が行われる。
1棟1クラス。
右が女子棟、左が男子棟。
1階は共同スペース、ソファやテレビもあり結構豪勢だ。
食事や洗濯はここで行うとの事……大浴場もあるらしい。
部屋は2階から男女各4部屋5階建。
20畳程の広さであり、個人でゆっくり入りたい時の為にシャワー付き浴槽、エアコン、トイレ、冷凍庫付き冷蔵庫、クローゼット、ベランダ付きの結構贅沢な空間である。
部屋割りは
2F男子、峰田実、緑谷出久、青山優雅、常闇踏陰。女子は無し
3F男子、上鳴電気、飯田天哉、尾白猿夫、女子、耳郎響香、葉隠透。
4F男子、障子目蔵、切島鋭児郎、爆豪勝己。女子、麗日お茶子、芦戸三奈。
5F男子、砂藤力道、轟焦凍、瀬呂範太。女子、八百万百、宮古芳香、蛙吹梅雨。
となっていた。
とりあえず部屋を作ってゆっくりしてろとのお達しに皆が返事をする。
明日からまた今後の動きを説明するとの事。
部屋の荷解きとは言われるもそもそもの荷物が衣服くらいしか無い為にものの10分程度で終わる芳香……しばらくしてやる事も特にない為に芳香は共有スペースで寛いでいる。
おもむろに隣に居た上鳴が口を開く。
「いやぁ……経緯はともかくとして、共同生活ってなんかワクワクするよな」
その言葉に対してウンウンと頷く芳香、緑谷、切島。
芦戸三奈や他の女子陣も皆降りてきて芦戸が問いかけてきた。
「部屋できたー?」
それに対して上鳴や男子達が肯定の意を示す。
芦戸三奈がそれを聞いて、じゃあさじゃあさと前置きして告げる。
「あのね! あのね‼︎ 今話してて‼︎ 提案なんだけど」
芦戸は一度言葉を区切り息を整えてから告げる。
「お部屋披露大会しませんか?」
それを聞いて反応が別れる。
カチンッと固まる者。
楽しそうッと好意的に受け取る者。
無言を貫く者。
緑谷出久ルーム。
一面オールマイトのグッズで埋め尽くされている。
麗日さんがオールマイトだらけダァ‼︎ オタク部屋だぁぁとにこやかに叫び……それを聞いて緑谷出久がカチコチになりながら呟く。
「……憧れなんで……恥ずかし……」
常闇踏陰ルーム。
真っ暗……何だろう……映画とかドラマで見る部屋っていうのがしっくりくる。
青山優雅ルーム。
先程の常闇ルームとは真逆……眩しすぎる。
キラッキラしてて目が痛い……。
続いて峰田実ルーム。
いつもそれなりに猥談などをしている峰田だが意外な事に部屋は至って普通であった。
強いていうならばポスターやタペストリーがチョットだけセクシーすぎる……位だろうか。
尾白猿夫ルーム。
凄い、THE普通……。
女子陣だけでなく男子からも普通だ、これが普通と言う事なんだねと口々に言われており若干の物悲しさを漂わせていた。
飯田天哉ルーム。
なんか法律書や哲学書などの難しい本がいっぱい。
これ全部読破してるのか? ……そして棚には大量のメガネ、レンズやフレームが傷まない様に丁寧に梱包がされている。
上鳴電気ルーム。
凄い、なんかチャラチャラした感じのお部屋だ。
統一感はない様であるが……手当たり次第感が否めない。
男子の部屋を大体半分程見終わったところで女子からのコメントに釈然としなかった者達。
峰田実。
尾白猿夫。
常闇踏陰。
青山優雅。
その者らが口を揃えて呟く。
「釈然としねぇ……」
そして、峰田実が代表で口を開く。
「男子だけが言われっぱなしてのは無いよなぁ……お部屋『披露大会』っつったよなぁ……なら当然、女子の部屋も見てから決めるべきだよなぁ‼︎ 誰がクラス一のインテリアセンスか全員で決めるべきだよなぁ‼︎」
女子達による容赦ない口撃が一部男子の競争心に火を点けた。
それを聞いて芦戸三奈が乗る。
「良いじゃん楽しそう‼︎」
隣にいた耳郎響香が『えっ⁉︎ マジで⁉︎』みたいな顔をして芦戸三奈を見る……芳香も特に興味はないが楽しそうなので賛同する。
そして、続く男子のお部屋。
切島鋭児郎ルーム。
……なんて言うのだろうか、必勝や大漁と書かれた旗……そして部屋の中央にはサンドバッグ……うん、個々人の好みはあるからね、否定はしないけど肯定もしないかな。
……芦戸三奈はとんでもない程の微妙な表情で。
葉隠透は『彼氏にやって欲しくない部屋ランキング2位くらいにありそう』と暗に苦手だなこの部屋、と切って捨てていた。
麗日お茶子は嬉しそうな笑顔で『熱いね‼︎ アツクルシイネ‼︎』とも告げていたがソレ褒め言葉じゃないよね……。
障子目蔵ルーム。
ミニマリストなのか机に座布団、それに布団一式のみ。
これはこれで……。
瀬呂範太ルーム。
ペルシャ絨毯を敷いておりそれを基調として統一している。
凄い……これは拘りがある凄い部屋だなぁ。
そして轟焦凍ルーム。
まさかの和室であった。
聞けば即日リフォームをしたとか……。
続くは男子最後。
砂藤力道ルーム。
本人曰くつまらない部屋との事だが、テーブルに置いてあるスイーツ系のレシピ本。
そして部屋に漂う甘い匂い。
シフォンケーキを焼いていたらしく皆に振る舞う砂藤力道。
全員から好評でありほんわかした雰囲気で和む。
もきゅもきゅ……美味しい。
男子は以上となり女子部屋となる。
女子ルーム1番最初。
耳郎響香ルーム。
ドラムセットやエレキギター、ゼンハイザーのヘッドフォンや音響機器……めちゃくちゃ楽器や音楽が好きなんだなぁというのが伝わるお部屋。
可愛い。
ここぞとばかりに上鳴電気や青山優雅が色々言うがイヤホンジャックを突き刺されて悶絶していた。
葉隠透ルーム。
巨大なぬいぐるみや花柄のベッドなど可愛いモノが所狭しと並べられている。
可愛い。
芦戸三奈ルーム。
紫色に統一されたカーテンや敷物、布団。
統一感があって美しい。
麗日お茶子ルーム。
シンプルなデザインのお部屋。
本人は味気のない部屋と言っているがシンプルイズベスト。
いいお部屋だ。
蛙吹梅雨ルーム。
カエルの個性故に寒いのが苦手なのか暖房がつけられており少し蒸し暑い。
肝心のお部屋はカエルのぬいぐるみやカエルモチーフの小物が揃えられていた。
可愛い。
宮古芳香ルーム
クローゼットとベッドとエアコン、勉強机、冷蔵庫以外はなーんもない……。
つまり荷解き前の部屋とほぼ変わらない。
変わっている箇所は……スマホが置いてあるとか衣服があるだとか……そういう間違い探しのレベルだろうか。
八百万百ルーム。
部屋の中央にドンッと置かれた超巨大なベッド。
どうやって部屋に搬入したのかが非常に気になる所……。
本棚には色々な書物。
そうして、各部屋の見回りが終わり……芦戸三奈が叫ぶ。
「さてみなさん‼︎ 投票はお済みでしょうか⁉︎ 自分への投票は無しですよ? あとケーキとか部屋以外の理由による投票は無しです‼︎ 純粋にお部屋で決めて貰います‼︎」
結果。
一位独走で轟焦凍。
そうして……明日からまた1日が始まる。
劇場版は入れた方がいいですか?
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絶対いる
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絶対みたい
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超要らん
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そんなもん書く暇あるなら本編進めろボケ