塚内直正は警視庁の資料室で椅子に座って資料を漁っていた。
データ化されていない資料である為に段ボールを片っ端から開けて中身を確認してを繰り返して……15箱目に到達してようやく目的の書類を引っ張り出す。
こういった書類もいずれは電子化されるのだろうと考える……尤も、自身が持っているこの書類は……事件の重要性から観てこの事件は電子書類に変換するのは御法度なのだが……紙の書類が超常ひしめくこのご時世になっても残存しているのにはそういった理由がある。
ハッキングやデータ流出の可能性がある電子よりもまだ紙の方が流出の危険性はグッと減る。
紙は紙での問題があるが……少なくとも紙の書類はその場所に入り込まなければ盗む事も見る事も叶わない。
目的の書類を見つけると……塚内は背もたれにもたれつつ報告書を読み始める。
「『未解決事件ファイル・未解決調査報告書』……今でも思いだすな……」
それは宮古芳香という少女の救出までを纏めた報告書であり……自身の無力さを噛み締める事になった事件でもあった。
神野での人体実験以降、宮古芳香の身体には変化は無いが……違和感は感じていた。
故に過去の報告書を読み解き、この違和感を解消できればと思い塚内は今此処に居る。
ちなみに……この宮古芳香に関する調査ファイルはヒーローに閲覧権限が無い。
警察内部でも閲覧できるのは過去に作戦に従事した塚内と三茶……それと2人の共通の友人でありUSJの際に宮古芳香を見た検視官、そしてその3人が許可をした者のみ。
当時を思い返して塚内は無力感に苛まれる。
あの時ほど自身の無力さを思い知った時はなかったのだから。
AFOとオールマイトが死闘の末にAFOを討ち倒した4年と2ヶ月後。
積み重ねた捜査と潜入の果てに得た情報を精査して地下空間を改造して広大な施設を設置。
そこで人体実験が行われているという施設に強襲をかけた。
抵抗が激しかったが当時選抜したヒーロー達と特殊部隊により研究施設の殆どの人員を逮捕する事には成功した。
常識を遥かに超えたセキュリティ設備であり死傷者も出たが……捜査によって得た情報を考えると、此処は十中八九AFOとその関係者が作り上げた研究設備だ、それも当然と言えた。
見取り図によると地下に作られた……だだっ広い空間があるが其処に行くには分厚い隔壁をどうにかする必要があった為にアセチレンバーナーで焼き切って中へと踏み入った塚内と三茶……そして特殊部隊隊員とヒーロー達。
其処で……地獄を見た。
どこまでも広がっている空間に、1000本どころか2,000……もしかしたら5000はあるであろう大量の培養槽。
培養槽の中には例外無く何かの液体と共に人が入れられており……非合法で非人道的な人体実験だというのが本能的に理解できた。
何せ……臓器を何かの機械に置換された遺体や脳を分割された上で別種の動物の脳と身体を繋ぎ合わされた遺体……身体中に電極を繋がれて苦悶の表情で息絶えている遺体……1人の身体に10個の脳が繋がれている遺体……生後4〜5ヶ月程の赤子にも吐き気を催す程の人体改造が施されていた……そんな遺体が培養槽の数だけある。
培養槽が連なる空間に……それらの実験結果を円滑に確認できる様に設置されたモニターには人間を人間とも思っていない様な非道な実験記録が記載されており……ナンバリングの横には例外無く死亡や変異後死亡の文字が羅列されていた。
そして……だだっ広い空間の片隅や壁側にはまるでゴミでも纏めているかのように積み上げられた大量の人骨……。
チラリと壁に積み上げられた頭蓋骨の数をざっと見れば其処に積み上がっているだけで100はくだらない。
性別も人種も国籍もそれらは一切関連しない……此処の実験は素材ならば何でも良かったのだろう……人体実験の素材とあらば、関係無く世界中から掻き集められた素材を使う、かつてない規模の人体実験場……。
その光景に耐え切れずに嘔吐する者も少なくなかった。
……そして空間の把握を行い……状況を精査していると突如呼ばれて其方に向かう。
唯一……他のよりも目立つ様に、尚且つ中央部分に他と重ならない様に意図的に配置された培養槽の中には1人の少女が入れられていた。
それは……他の実験台とは明らかに異なる扱いである。
ヒビが入り壊れかけの機材と所々が破損しているモニターに羅列された実験記録と職員の物と思われた実験日誌を読み解くと……この少女に行われた非道な実験の内容が羅列されていた。
隊員に指示をして……現場の保存や保持の為の指示を出そうとした刹那……培養槽に入れられていた少女の眼が動いた様に感じられた。
塚内がモニターに眼を落とすと……実験結果の末尾にはこう記載されていた。
『実験結果……完了……生存確認……個体名宮古芳香』
それを見て塚内は急ぎ指示を出して救護班などを呼び……培養槽から1人の少女を助け出した。
培養槽の中には液体で満杯であり呼吸する事は不可能だった筈なのだが……そういう改造を為されたのだろうと一先ずの結論付けを行い少女を助け出す。
その後の調査と精査により少女以外には生存者無し。
培養槽の本数に等しい夥しい遺体と……積み上げられた万を軽く越す人骨を見て塚内はAFOとその関係者の実験施設だと理解するが煩わしい事に何処を探そうともAFOに繋がる決定的な証拠がない。
しかも……少女の救出とほぼ同時に施設に仕掛けられた爆弾を発見……解除が不可能な物であった為に少女を連れて総員が退避した刹那……地下施設は跡形も無く木っ端微塵になった。
なんとか実験記録日誌と手記、それにこの人体実験場を映した写真や映像だけは持ち出せたが遺体や人骨……人体実験の痕跡の殆ど全ては灰になって消え失せた。
その後……これ程の人体実験場の公開は社会を根底から揺るがす可能性が大きいとの上層部の判断により捜査そのものが凍結。
未解決事案として厳重に保管されている。
宮古芳香は病院での検査で殆ど全ての記憶を喪失していると判定が為され……憶えているのは青い衣服の女性と自分の名前だけだと。
何故あそこに居たのかは結局謎のままとなっていた。
調査報告書を再度読み解き……塚内は確信にも近いモノを感じとる。
そして前に検視官から手渡された報告書の内容を反芻していた『宮古芳香と脳無との関連性について』と題された報告書。
その中に気になる一文があったのを思い返していた。
明らかにあの実験ではないナニカが宮古芳香を形作っていたと。
それに付随して注釈と共に記載された一文にはこう書かれていた。
脳無とは宮古芳香を参考にして作られた存在である可能性が極めて高い。
全ての脳無の始まりが宮古芳香であり……詰まる所、宮古芳香とは始まりの脳無だというのが検視官・笹塚真守の見解だと記されていた。
後書きになります
本編に書き切れなかった実験記録の追記となります。
モニターに表記されていた『生存確認』の文字ですがこれは襲撃された際に実験施設の研究員が人体実験データ消去中に強襲された為にモニターを含めた機材が全て破損した為に所々の記録が中途半端に残った実験ログです。
機材ごと壊れた為に培養槽内の正確な検知が行えず結果として生存確認という表記になっていますが宮古芳香は救出された時点で既に肉体的には完全に死んでいます。
病院での検査の際は宮古芳香の脳や神経系にまだ僅かな電気信号や神経伝達が残存していたのと感情や流暢な会話をする事もあって死亡とは判定されませんでした
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