ホークスは戦慄していた。
眼前の女性から滲み出る邪悪さに。
青娥が食事の合間に掛けた電話1本。
たったそれだけでホークス達が4ヶ月掛けて緻密な調査を繰り返して壊滅に追い込もうとしていた犯罪組織4つ……青娥の邪魔もしていたその組織を纏めて組織の構成員1人残らず『行方不明』に追い込んだ。
電話が終わった後にさらりと『行方不明』となった……眼前の霍青娥からはそう告げられた。
誤解のない様に先んじて警告するが……公安のヒーロー達や霍青娥が使う『行方不明』とは『死体の所在が掴めない』という意味で使われる。
「ごめんなさいねぇ? ちょっと電話で外してしまったわ……それで話の続きをしましょうか」
ホークスは怖気が止まらない。
眼前に座る女性は自分達の手に負える存在では無かったと、公安委員会が首輪を付けて隷属させる計画もあった……しかしそんな事をすればどうなるか……今それを見せつけられても尚その選択肢を選ぶ度胸はホークスには無い。
別のヒーロー公安委員会直属のヒーローが宮古芳香を攫って言う事を聞かせれば良いなどとほざいていたが……そんな事をすればどうなるか、今それをまざまざと眼の前で見せられた。
「交渉だったわね? 私の持つ影響力や権力その他を見逃せないと言う事でしょうね……ヒーロー公安委員会や直属のヒーロー達は目的の為ならば何でもする集団……だけどね? 手紙を書き電話を掛けて花束を贈り服を選び髪を整え靴を磨きピカピカの車で出迎えて予約したレストランへと向かったとしても……交渉の結果というのは常に求められた側に最終的な決定権があるのよ?」
そう告げる青娥、その氷の様な冷たく射抜く様な視線は空気を伝わりホークスの全身を包み込む威圧となっている。
この状況で……いや、この状況で無くとも青娥に対して、ヒーロー公安委員会直属のヒーロー達や公安委員会の人間がが宮古芳香の事を一言でも語ったらどうなるか? そんなの分かりきっている……即刻『行方不明者』の仲間入りだ。
霍青娥にはそれが出来る圧倒的な権力がある、圧倒的な能力がある……善悪や道徳心などという不確かな物に依らない絶対の意思がある。
「そう言えば、話は変わるけど……ヒーローが暇を持て余す……でしたっけ? 良い望みね、そも実現不可能と言う事が大前提でなければ」
ホークスが語るそれらに関しては青娥も概ね好意的に受け取ってはいる、ただ夢想家の戯言に付き合う程優しくはないだけだ。
それを聞き……ホークスは思考を高速で巡らせる。
(俺はこの人の事を人伝と書類の情報……その程度だけの……かい摘んでしか知らない……だけれど、……『権力者』っていうのはこういう人を指すんだろうとは理解できる……俺を人だと思っちゃいない……絶対に選択を間違えるな、魅力的な言葉を探せ、余計な説明をせずにほんの1ミリでも心を傾かせろ)
そして、数秒程思考を高速で巡らせた後でホークスは口を開く。
「夢で終わらせませんよ……どれだけの地獄だろうとも必ず達成して見せます」
そう語るホークス、それに対して青娥はクツクツと喉を鳴らして含み笑いをして……ホークスへと告げる。
「夢を見るだけではただの妄想、その実現には現実との折り合いが必要不可欠なの……人はホークス、貴方を夢想家と笑うでしょう……だけれど嫌というほど辛くつまらない現実を見たあとで、現実に逃げぬ者だけが夢の世界で暮らせるの……まぁ良いでしょう、貴方との問答は久しぶりの楽しいモノだったわ……あぁ、それと……ホークス、貴方……愉快な程に真っ直ぐに歪んでるわね? 均衡と平和の為に物凄い努力をしている、でもその価値を保証してくれる何かが欲しい……」
心の中を見透かされている様な感覚に包まれるが……ホークスは外向けの貼り付けた笑顔を作って無言で対応する。
その後は連絡先の交換を行い……互いに別れる。
なお……余談ではあるがこの料亭、一席500万だが青娥はもとより、ホークスもその連れと言う事で料金は無料であった。
ホークスとの対談を終えた青娥。
るんるん気分で空をゆらゆらと揺蕩いながらスーツのポケットからスマホを取り出してとある場所に連絡を取る。
「あぁ……私だが? そう、それで良い……手筈通りによろしく頼む……えぇ、そいつらよ……2人とも簀巻きにして私の前に引き摺り出してくれると嬉しいわ、後の処理はコッチでやるから……15分後に……えぇ、ではよろしく」
通話を終了して青娥は空中を浮遊しつつ夜空に浮かぶ月を観ながら語る。
「阿吽の呼吸……2人で1つ……響きだけはとても美しいけれど、要は半人前の雑魚ですって公言してるのと何も変わらない……」
そう呟き自身が指定した廃倉庫に向かう青娥であった。
時間きっかりに到着した青娥、なんの躊躇いも無く倉庫の中へと入ると其処に居たのは黒服にサングラスを装着した長身痩躯の女性。
どう見ても裏社会の者の風体のその女性は慣れた手つきで中央を指し示す。
月明かりが差し込むその場所には……四肢を粘液の様なナニカでぐるぐる巻きに拘束されて居る2人の男女。
ヒーロー公安委員会直属のヒーローであった。
この2人は青娥の逆鱗に触れていた。
事もあろうに宮古芳香をどうにかして青娥の事を縛ろうと画策していたのだ、それも独断で。
青娥には古い友達や付き合いの長い相手はそれなりに多い。
それ故に……こういう裏に精通した人物も数多く付き合いがある。
それはさておき……青娥は屠殺寸前の家畜を見る様な冷たい眼差しで簀巻きにして倉庫の床に転がされている2人へと言葉をかける。
「阿吽の呼吸、2人で1つ、……言葉の響きはとても美しいし素晴らしい……だが、それは自分達が半人前という何よりの証左……君達2人は『友人』としては素晴らしいが相棒としては『最悪』の一言しか出てこない……2人で1つだから同じ発想しか出てこない……2人で1つだから同じミスを一緒に見落とす」
氷の如く冷たい声音と眼差しで簀巻きにされている2人に諭す様に告げる青娥。
その口調は酷く恐ろしさを感じさせた。
ゆっくりとしゃがみ込んで2人の耳元で呟く。
「貴方達が如何に逃げようとも無駄よ? 貴方達が触れた逆鱗は……決して触れてはいけないモノだったという事をその身に刻みながら死になさい」
彼らは理解の及ばないモノを理解できなかった、ホークスと違い……圧力で大概どうにかしてきた秩序側の人間故に。
しかしながら、秩序とは……言い換えれば権力である。
無秩序にも秩序がある。
そんな混迷極まる混沌で形作られた秩序の世界では簀巻きにされているヒーロー公安委員会直属のヒーローたる彼らではなく、ほんの少しだけ指示と金を出すだけで何だって出来てしまう、倫理のないイカれた邪仙が最も秩序たる存在である。
触れてはならない存在に触れた事を遅まきながら察した2人であるが……死ぬ以外の選択肢は無い。
今宵……2人のヒーローは『行方不明者』の仲間入りを果たした。
劇場版は入れた方がいいですか?
-
絶対いる
-
絶対みたい
-
超要らん
-
そんなもん書く暇あるなら本編進めろボケ