悪食少女のヒーローアカデミア   作:紅葉紫苑

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始まりの脳無

「芳香の事で知りたい事や聞きたい事は全て聞けたわぁ……ありがとうねドクター? やっぱり人間、お互いに誠心誠意本心を語るのが1番よね」

 

 青娥はこれ以上ないくらい満足そうな表情でそうドクターへと語る。

 ……枕詞に、瀕死状態のと付く状態のドクターに、であるが。

 今のドクターの有り様はそれは酷いものであった。

 身体中の骨という骨を粉々に折られて……生きたまま腹を掻っ捌かれ生存に不必要な臓物をじっくり裏漉しされて、臓器周辺の肉を丹念にミンチにされてなお……意識を飛ばす事も許されず自殺も出来ず発狂も許されず……自由意志で死ねない身体にされているドクター。

 その様な状態でありながらも五感及び痛覚だけは残している。

 そして痛覚は10倍の痛みを増幅して感じる様にしてある。

 

「して……殺して……」

 

 もはや精神が完全に擦り減って壊れたラジオの様にソレ以外呟く事がなくなった壊れて腐り落ちた肉袋、それが今現在のドクターの状態である。

 傍目から……失礼、誰がどう見ても、いっその事一思いに殺してもらった方がマシであると言い切れる。

 精神は絶対に壊れない、確かにそう言った仙術が掛けられている。

 しかし壊れないだけで精神が磨耗するのは青娥の知った事ではない、精神(こころ)が擦り減り死を求め渇望する様になったら……再度完璧に治すだけ。

 強欲にも……ドクターは完璧な死体人形であり、また青娥の大事な大事な『宮古芳香』に穢れた手で改造を施した。

 その報いは受けるべきである。

 

「聞きたい事は全部聞いた、知りたい事も全部知れた、貴方の地下研究施設の研究も全て把握した……仙術を使って心の中も頭の中も丸裸に出来た……もう貴方、用済みね……やっと楽になれるわね、じゃあねバイバイ」

 

 そう語ると青娥はドクターへと近寄って忘却の仙術を使う。

 最初は殺そうとも考えたが……AFOとドクターにとって最も嫌な事は何だろうか? ドクターが死ぬ事? ソレは確かに嫌であろうが……AFOの事だ、計画半ばにも差し掛かってない状況で協力者が死んでも、代替を探すか、それがダメならそれはそれで諦めがつくだろう。

 AFOとドクターがされて最も嫌な事。

 それは……青娥がやられた様に自身の大切な物を奪い取る事。

 特に幸福の絶頂であればある程ソレは良い、

 青娥にとってはそれが『宮古芳香』であり……AFOとドクターにとってはそれは『マスターピース』と呼ぶ物である。

 今度は青娥がタイミングを合わせてソレを掠め取るでも奪い取るでもぶち壊すでも、とにかくあの忌々しいAFOの顔が苛立ちと怒りに染まれば青娥としても万々歳である。

 その為には非常に不本意ながらドクターは生かしておく必要があった、臓腑が煮え繰り返る思いだがこればっかりはしょうがない。

 目先の小魚を数匹網で掬い取る程度の楽しみより後々釣れるであろう身の丈を超える大魚の釣り上げを楽しみにした方が気分も良い。

 今日の小銭より未来の大金を取る方を優先した青娥はドクターを仕方なく万全の状態で直して気絶したドクターを、元いた場所である病院地下の研究施設に放り捨てる。

 暫くしてドクターは気絶から目覚め嫌な夢を見ていたとでも言う様に身を震わせて……ソレを忘れる為に研究に没頭していった。

 


 

 青娥はゆらゆらと成層圏を漂いながらドクターから拷問(平和的なお喋り)で聞き出した芳香の事を思い返していた。

 宮古芳香を強奪したのち……完璧な死体人形たる芳香を見たドクター及びAFOは……宮古芳香を参考に脳無を作った。

 言い換えれば……宮古芳香という存在は原初の脳無と言っても過言ではない。

 原初と言えばスペックや各性能で劣ると思うかも知れないが元はと言えばそもそも芳香は青娥の持ち物である。

 宮古芳香を参考に脳無を作ったが、後発の脳無達は芳香を参考にした下賎な猿真似で死体を改造したに過ぎない。

 それは、どう頑張っても後発の脳無達では宮古芳香に凡ゆる面に於いて勝てない。

 だからこそ宮古芳香を躍起になって改造し、参考にして更なる脳無を造り出す事に注力していた。

 そして、何処かの段階で発送の方を逆転させたのであろう。

 そも、全スペックが芳香を超えた領域の脳無を造るには果てしない時間と膨大な量と質の素体、数十世代を経た遥か未来の個性が必要となる。

 時間は待ってはくれないのだ、特に青娥を怒らせてからは音よりも速い速度で時間の猶予が消えていきドクターは焦りを見せていた。

 そうして、考えに考え……発想を変える。

 宮古芳香以上のスペックを有した脳無を作るのではなく……宮古芳香に全ての脳無の個性を喰らわせて……宮古芳香という存在を用いてマスターピース……ひいては魔王へと移植させる。

 と言うのがドクターの計画らしい、青娥から見ても……とてもよくできた……実に素晴らしい計画だ。

 肝心要である計画の成就が不可能だと言う事にのみ眼を瞑れば……ではあるが。

 

 

「愚かな事ねぇ……」

 

 成層圏を揺蕩いながらそう語る青娥はゆらゆらと浮遊しながらやるべき事を思案する。

 即ち……AFOとドクターの2人が尤も嫌がるタイミングで最も最高の『邪魔』を行う為に最適な道程、最適な手順、最適な方法を即座に1,000は考え出して、その内の幾つかを使う為の事前策を仕込んでおく。

 

「それにしても……芳香の完全下位互換である脳無でもあの程度の能力は付与出来るのねぇ……」

 

 成層圏を揺蕩いながらそう呟く青娥……。

 芳香のキョンシーとしてのスペックは非常に高い、キョンシーの中でも強弱はあり優劣があり序列がある。

 脳無という名のキョンシー共は……まぁ最底辺すら到達出来ていない雑魚なのでどうでも良い。

 素晴らしく完成された死体人形(キョンシー)である芳香は……序列、強弱、素質……どれをとっても素晴らしい。

 改造によって得られた特性や個性など青娥からしてみればこの一言に尽きる。

 そんなのは『蛇足』である、と。

 青娥は……成層圏から地上に戻るとグイッと伸びをして懐からスマホを取り出してある場所へと電話をかける。

 

「えぇ、私よ? 面白い情報があるのだけれど……どうする?」

 

 にっこにこの笑顔を振り撒いて電話先にそう告げる青娥。

 電話先の相手は喜んで青娥の語った情報に見合う対価を支払う、少なくともその価値はある。

 

「商談成立ね……、ではよしなに」




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