捕食者系魔法少女・外伝『Sacrifice's Archive』   作:J・イトー

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続いたー!?まあ前回とは繋がりがない話なのですが。

時系列的には原作の『粉砕』のちょっと後の別戦線で起きてたことの話。銀蓮さんがアメリカにファミリアを空輸してインクブスを狩らせてるときです。

前回にも増して捏造部分が多いので、寛大な心でご覧ください。


アナザー・ウォーロード

 アメリカ軍とインクブスの集団による、西海岸付近の都市部を巡る侵略戦争が激化の一途を辿っていた頃。後に「日本国からの()()によって戦局が好転した瞬間」として人類史に刻まれる数日間を生きし者たちにとってしかし、ここは地獄にも近い戦場だった。

 

『2名負傷! 後送の援護を!』

 

『無茶だ、敵弾が止まない!』

 

 もはや廃墟にも等しい住宅街を前線とした兵士たちは、銃声と怒号をかき鳴らしながら憎きインクブス(淫魔)どもと相対する。しかし、エナと称されし超常たる魔力を用いるインクブスたちには、銃火器は効果が低減されてしまう。現にインクブスの種の中で特に矮躯たるゴブリンですら、数発被弾させた程度では倒れもせず手にした矢弾を放ってくる始末だ。

 

『ウィッチはまだ来ないのか……!』

 

 兵士のひとりが予備弾倉を懐から取り出しながら口走ったのは、人類の守護者たる少女たちの総称。人智を超えた力を秘めしマジックを扱うための核となる、エナを用いることができる存在だった。

 ここアメリカでは、インクブスへの対抗戦力として軍に引き入れられた者が大多数を占めていることで知られているために、インクブスと対する実働部隊にとっては概ね命綱として認識されているのが現状であるものの、彼女らを傍らに置かない行軍の最中に襲撃に遭ったのが不運だった。

 

『ち、中隊へ通達! HQより、増援は20分後に到着と!』

 

『増援? まさか、オレンジ・ストリートの……?』

 

 通信兵からの唐突な吉報に、困惑と歓喜を滲ませる士官。各地で総力戦の様相を呈する中で捻出できる予備戦力とは──と考えを巡らせた彼の脳裏によぎるのは、北上中だったある中隊を救いに戦略輸送機から降り立ったという何者かのファミリア(使い魔)の逸話。

 しかし、その陣容を尋ねる前に、通信兵より新たな報せが告げられようとしていた。

 

『また、それに先んじて──』

 

『──こちらノブレス5! 援護を行う!』

 

 まるで通信兵の声を遮るように無線から響いたのは、少女特有の高い声。

 間もなく兵士たちの頭上より飛来してきたのは、色とりどりの装束を身に纏う3人1組のウィッチだった。

 

『吹き飛べ!』

 

 そう叫んだ左翼のウィッチから放たれたマジックは、前方のインクブスの集団ど真ん中へ吸い込まれていった。

 

『おお、ウィッチだ! ウィッチが来たぞ!』

 

『ゴーストではないのか……!?』

 

 苦しめられていた敵がウィッチによって吹き飛んでいく様を見て、表情を変えた中隊の兵士たちは思い思いの言葉を呟く。

 右翼のウィッチも得物を構えて攻撃を開始しようとしている傍らで、中央のウィッチが陣形から外れると士官のもとへ降り立つ。

 おそらくリーダーであろうそのウィッチは、得物としてファンタジックな盾と無骨なアンチマテリアルライフルを携えていた。

 

『遅参、お詫び致します。陸軍特殊……いえ。ウィッチチーム『ノブレス5』、ニコレット・パーマー……もといウィッチネーム・グランブレイバー。増援に先んじて参りました』

 

『ああ、待っていたぞ!』

 

 敬礼と共に改めて所属を簡単に示すノブレス5のリーダーへ士官たちも敬礼で応じると、彼女は硬い表情を崩さないままこう続けた。

 

『これよりギャラクシーによる増援が到来予定。差し当たって我々は敵の対空戦力の削減並びに撹乱を命じられています』

 

 ひと息に任を口にしたグランブレイバーへ、あたりの兵士からどよめきが起こる。大型の戦略輸送機を表す呼称の登場に、誰もが増援の規模を感じ取っていたようだった。

 

『負傷者は早急な後退を。他の皆様は前線の維持と砲撃による援護を願います』

 

『ああ、向こうは頼んだ』

 

 要請をひと通り言いきったグランブレイバーは、すぐさまチームのふたりの方へと文字通り飛んでいった。

 

『ギャラクシー……あのファミリアの用意が整ったというのか』

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『合流する』

 

『お、遅いですよリーダー!』

 

 突入前まで右翼を務めていた同僚のウィッチ──サードミナンスの苦情を受けながら、グランブレイバーは死線へ身を躍らせる。

 後方の中隊からの砲撃音が響き渡る中、彼女は高らかに叫んだ。

 

『これよりノブレス5、作戦行動を開始する! 目標はインプ、オーク型!』

 

うん、蹴散らしちゃおう!

 

 作戦開始の声と共に主の眼下から響くは、ペンダント型のパートナーの声。了解、とやがて両翼のウィッチが返答したのを聞き届けながら、グランブレイバーは対空戦力となり得るインクブスを捜索する。目標とする2種のうち、前者はマジックを扱える最優先討伐対象であり、後者も高い身体能力で投擲物を砲弾代わりにする危険個体だ。

 

 索敵報告を厳となせ、と釘を刺しつつ、自らもライフルで手近なインクブスへ発砲する。

 ゴーストのコールサインで知られる少女たちと異なって散開を躊躇しないのは、彼女らがウィッチナンバー3に輝く同国の英雄・ヘカテイアの加護に与らない純粋なウィッチであるからだった。

 

『左方にオーク型を発見! 投石を試みているもよ──うぉっ!?』

 

 左翼のウィッチ──ネクストゲネシスからの報告に振り向けば、風切り音と共にバスケットボール大の何かが隣を通過した。どうやらこちらを狙っての遠隔攻撃だったようだが、幸いにも誰ひとりとして被弾はしていないようだった。

 

 見れば報告の位置へ、ゴブリンを侍らせたオークの巨躯がその存在を主張していた。

 

単に突っ込むのも難しそうだね……どうする?

 

『……まだエナは使いきりたくない。オーク型へトリプルアタックを仕掛ける!』

 

 タフネスに優れる相手だが、他の討伐対象を確認していない現状でリソースのすべてを注ぐことはできない──そう考えたグランブレイバーが両翼にそう命ずると、オーク型へ向け進路を変更する。

 

『使え』

 

 短く告げたグランブレイバーが、背負っていたアンチマテリアルライフルをネクストゲネシスへ放り投げる。難なく受け取った彼女は、自身も背負っていた同型のライフルをウィッチとしての得物であるハンマーと持ち替える形にして二丁持ちとし、すでにソードを構えるサードミナンスと共に対象へ先行する。

 

『喰らってくださいっ!』

 

 まずサードミナンスがオークへ火弾のマジックを放つ。間もなく着弾に伴う爆発を確認したものの、すでに飛び道具ではなく棍棒に持ち替えたらしいオークは防御の体勢をとっていたため、ダメージを与えることはできていないようだった。だが、狙いはハナから一撃必殺ではない。

 

『散らしました、行きますっ!』

 

 爆発にあたって、オークの取り巻きであったゴブリンたちが吹き飛んでいたのを見たサードミナンスはそう叫ぶ。ソードを納めると自身もアンチマテリアルライフルを構え、ネクストゲネシスと共にオークへ急接近した。

 

『こっちこっち!』

 

『撃たれちゃってくださいよっ!』

 

 左右から囲い込むようにして飛び回りながら、ライフルをオークへ向け発砲する両翼のウィッチ。彼女らが手にしているのは銃器の中でも反動が格段に強いカテゴリのものだったが、ウィッチへ覚醒して与えられた膂力が、腕の1、2本のみでの無茶振りな運用を可能としていた。

 

ぬ、ぬうぅっ……!

 

 エナの防壁によって弾丸の貫通は免れようとも、衝撃までは殺しきれないオークは、忌々しげに発砲音が聞こえる方向へ棍棒を振り回していた。

 

『そのままだ……そのままあっちを向いていろ……!』

 

 両翼のふたりからやや遅れたタイミングで接近したグランブレイバーは、左腕の盾からナイフ程度の大きさの()を取り出す。それは盾と同じくエナで生成された専用の武器であり、取り出してエナを込めることでビーム状の刃を形成し剣とできる代物。同じものをいま手にしたものと合わせて3つ盾の内側に格納しているので、状況次第で2刀流での戦闘も可能だ。

 

決めてよ、グラン!

 

『ああ』

 

 パートナーの声に反応しながら、刃を形成した剣を振りかぶる。

 やがて両翼のふたりが視線の奥の方でオーク越しに一度まとまると、そそくさと退散していく。それを不思議がっているのか、こちらに背を向けたまま息絶え絶えに突っ立っているオークへ、飛翔の勢いそのままに斬りかかった。

 

ぐおおあああぁっっ!!

 

 相手の右肩から左腹部へかけて袈裟斬りにしてやると、グランブレイバーは反転して上空に離脱していった。

 

『オーク型の沈黙を確認!』

 

 おそらく爆発の衝撃から復帰したゴブリンたちのものであろう矢弾を回避しながら、グランブレイバーは同僚の報告を聞き届ける。

 

さっすがグラン!

 

『褒めるほどのことじゃない』

 

 飛び道具が脅威でなくなる距離まで到達すると、彼女は刃を引っ込めた柄を盾へとしまう。視界に人影がふたつ現れたのはそれから間もなくだった。

 

『さすが隊長』

 

見事。我らも続かねば

 

『ああ。どうも』

 

 たいして感動してもいなさそうな声色で言ったネクストゲネシスとそのパートナーへ適当な返答をしてやり取りを片付けると、グランブレイバーは貸していたライフルを受け取り、それを背負い直した。

 

『さっさと次を探しちゃいましょ……ああっ!?』

 

 サードミナンスが切り出したのと、ノブレス5へ紫電が襲いかかったのはほぼ同時だった。

 

 瞬時に散開こそしたものの、叫び声をあげていたサードミナンスへ、大丈夫か、と訊く代わりに振り向いて状況を確認すれば、先ほどの攻撃によって白煙をあげている彼女の左腕が目に入った。

 

『くそ、インプのマジックか?』

 

『攻撃方向を確認……いや、あれは──!』

 

 電撃の出所を推察しているグランブレイバーに、ネクストゲネシスが反応し索敵を行うと、間もなく衝撃に値する情報が確認された。

 

『ウィッチ、ウィッチだ! あいつら──インプがウィッチを従えてる!』

 

 なんだと、と洩らすグランブレイバーが同僚に指された方向を見てみれば、長物を持つくすんだ色彩のウィッチが目に入った。

 

『そ、そんなことって……』

 

 左腕へ被弾したことなど遠い昔になったかのような、サードミナンスの驚愕する声が聞こえた。まだ軍に入って間もない彼女にとっては、さぞ稀有な光景だったことだろう。

 

『向こうもなりふり構ってられないってことか』

 

グラン……

 

 気まずげなパートナーを横目に、敵となった同類を見やるグランブレイバー。

 インクブスが後生大事にしている()()()()の中に、あのようなウィッチが混じっていることはそうそう珍しい話ではない。だが、奴らにとってウィッチという存在は、その頑健さやエナの潤沢さから、他の女性たちと変わらず苗床とするのが主な使い道だった。いくら心を堕とす術に長けた種族でも、それを戦力化に向けるのは稀なケースとして認識されていたのだが。

 

(何にせよ、生かしてやるだけの余裕はない)

 

 そう内心でグランブレイバーは非情な決断を下す。

 今回のように戦場で相対した者だけでなく、生還を装って襲ってきた元同僚など、既に様々なウィッチを手にかけてきた彼女にとって、もはや人殺しの汚名を被ることなど大した問題ではない。加えてその判断には、自分たちの後に控える増援の性質の問題も背景にあった。

 

()()が隷属したウィッチを保護対象として識別できるかは報告されていない……よってインプもろとも撃滅する』

 

『……えっ?』

 

 同族を手に掛ける、と遠回しにグランブレイバーが示唆するや否や、サードミナンスが驚く声を洩らす。一方ネクストゲネシスは、ため息をつくことで感情を処理しているようだった。

 

『そんな、ウィッチは同じ人間なんですよ!?』

 

『さっき撃たれたのを忘れたのか?』

 

 抗議をノータイムで受け流したグランブレイバーに、サードミナンスは明らかに狼狽えた表情を作った。結局反論する材料を見つけられなかったのか、彼女はわずかに頷くことで賛意としたようだった。

 

『……ウィッチは私が相手をする。ふたりは周りを頼む』

 

 手短に分担を決めると、グランブレイバーはインプたちが待つ区画へ飛び込んでいく。タイムリミットが確実に迫っている上に、いつウィッチの2撃目が来るかも分からない現状で長話はしていられない。

 

『よくもまあ、あんな死に体を……』

 

 距離が詰まるごとに浮き彫りとなる敵のウィッチの満身創痍ぶりに、ネクストゲネシスが呟く。あの有様では、どのみち戦うための力を長くは捻り出せないはずだ。エナを効率よく貯蔵するための健康な心身を、まさかインクブスたちが維持させているとは思えない。もっともそういった戦闘力の脆弱化は、軍属化によって自由意志を取り上げられている自分たちとて例外ではないのだが。

 

『だからこそ気を抜くな。あの執念は、私たちにはない』

 

 釘を刺すように告げるリーダーの言葉を実証するかのように、2撃目の紫電が放たれてきた。

 

『ぐぅぅっ……!』

 

『気を抜くなと言った!』

 

 回避した後ろで金属音と共にうめき声をあげたサードミナンスへ喝を入れながら、グランブレイバーは盾を前に構え突貫する。ソードで空気を裂いたらしい風切り音が聞こえたことから、「斬り払い」をして凌いだのだろうと思ったので、そのままマジックの指示を下すことにした。

 

『サー、マジックを撃て!』

 

『は、はいっ』

 

 右翼へ向けた声を投げれば、返事から間もなく炎の球体が自分たちを追い越していくのが見えたが、それは着弾する手前で爆裂する形になった。ウィッチか、それと傍らのインプがマジックで迎撃したのか──しかし何であれ対応は既に決めていたグランブレイバーは、それを煙幕代わりにといった調子で飛び込んでいく。既に取り出していた柄は、もう剣としての役割を果たせる状態だ。

 

『邪魔させるかっての』

 

ぐおぁっ!

 

 ウィッチのそばにいたインプはネクストゲネシスによってライフルで撃ち抜かれ脱落。これによってひとまず1対1の状態となったグランブレイバーは、気兼ねなく敵対するウィッチのみを視界に収めた。

 

『だあああっっ!』

 

 剣を左手に持ち替えたグランブレイバーが、飛翔の勢いのまま相手へ振り下ろした。その斬撃は得物であるらしいハルバードに受け止められ拮抗する形になったが、ハナから力比べに付き合うつもりはない。均衡を保ちつつも盾の内側からもう1本の柄を取り出し、そのまま右手に持って刃を作り出すや否や、がら空きの喉元に突き刺そうとして──。

 

「……ヒヒッ」

 

 ──その笑みに殺気を感じ後方へ飛び退いた。ちっ、と舌打ちをしていた相手を見やると、その左腕にはパチパチと電流が迸っていた。もしあのまま刺突を狙っていたなら、至近距離で電撃の餌食になっていたに違いない。

 

大丈夫かい!?

 

『ああ。にしても躊躇なしか』

 

 なんてウィッチだ、と冷や汗を拭いながら、久方ぶりに地に足をつけたグランブレイバーは2刀を構え直す。いまのやり取りを傍から見れば、ただ1度、太刀を合わせたようにしか見えなかっただろうが、彼女にしてみればミスひとつが致命傷につながる駆け引きを長い間していたに等しかった。

 

『攻撃開始!』

 

『倒れちゃってくださいっ!』

 

 同僚が周囲でインプたちと交戦する声が聞こえる中、グランブレイバーはこの状況では発砲を望めないアンチマテリアルライフルを放棄すると、敵のウィッチへ向け再度飛びかかる。

 

 そこからは斬っては受け、受けては斬っての繰り返しだった。均衡状態になれば電撃のマジックを叩き込まれることを分かっているグランブレイバーは、相手のウィッチを軸に見立て、そこへ回り込むようにしてポジションを変え続けることで相手に虚を突く暇を与えないよう努めた。もっとも、これは周囲にまだ存在するであろうインプがマジックなりで横槍を入れてくるのを避けるためでもあったのだが。

 

『そこっ!』

 

 やがて、相手が斧頭を振り下ろしたのを隙と見たグランブレイバーは、飛び上がって上段からの斬撃を狙った。

 

 そのまま両肩部へとエナの刃を叩き込もうとしたものの、それはハルバードを手放したらしい相手に手首のそれぞれを掴まれることで未遂に終わった。

 

迷うな、グラン!

 

『言われずとも……!』

 

 予想外の対応だったが、このまま切りつけてしまえば──とグランブレイバーが力比べの腹を決めたところで、掴まれている手首からパチパチとした感覚が迸っていることに気づいた。

 

『なっ、う、ヴアアアアアッッ!!』

 

 そのまま全身を駆け巡った電流に、グランブレイバーは空中で悶える。握力を維持できなくなった掌から2刀がすり抜けていく中、彼女は己の迂闊さを呪った。何ということはない、相手は自ら対象に触れることで電撃を浴びせる、いわゆる「人間スタンガン」を試みたのだ。

 

ぐぁぁっ、グ、グランー!!

 

 共に電撃を浴びながらもこちらを案ずるパートナーの声は耳に入ってこず、グランブレイバーの肉体は飛翔のマジックを維持できず落下を始めていた、

 両腕を失う可能性があろうとも、敵を倒すことを優先するその戦いに、彼女は呑まれてしまった。決して油断ではない、覚悟が足りなかったのだ。帰る場所のある人間と、そうでない人間の違いは、戦いにおいて大きな差となるのだった。

 

「どうしたァ!」

 

 グランブレイバーにとっては理解できない言語と共に、よろよろと地に墜ちる彼女の腹は蹴り飛ばされた。

 地面をバウンドする中で盾は辛うじて放り出さずにいられたが、まだ電流が抜けない肉体に再起動を求めるには時間を要しそうだ。

 

「ヒッヒッヒ……!」

 

 暗い笑顔を浮かべたそのウィッチは、やがて左腕を下敷きにしているような形でうつ伏せとなったグランブレイバーを幾度も足蹴にした。それはまるで、《向こうの世界》でインクブスらに嬲られていた分の憂さ晴らしをしているかのようだった。

 

「オゥラァッ!」

 

 やがて彼女は大きくグランブレイバーを蹴飛ばすと、先ほどの鍔迫り合いのときから放置していたハルバードを手に取り、ゆっくりと獲物の方へ歩き出していった。

 

 寝返りを打つようにして仰向けの体勢になったグランブレイバーは、息絶え絶えに相手のウィッチを見やる。開閉を命じた右手の五指は、まだ動きがぎこちない。

 

「心配すんな、手足もぐぐらいで許してやる……生かせば何でもいいって()()が言ってるからなァ……!」

 

 エナ──電撃をも纏わせたハルバードで、相手のウィッチは引導を渡そうとしているようだった。

 

ぐっ、グラン! よけて!

 

 まさに万事休す。やがて力任せに振り下ろされたそれを、グランブレイバーはスローモーションとなった世界の中で捉えながら──。

 

「……ぐ、ぐっ!? お前……!」

 

 ──辛うじて、刃の軌跡に盾を滑り込ませた。結局振り下ろされたハルバードは甲高い音を奏でたのみで、肉を割くには至らなかった。しかし体勢は最悪。押し返すつもりで望めば、たちまち決着はついてしまうだろう。しかし、グランブレイバーが狙っていたのはそんな破れかぶれな抵抗ではなかった。

 

「大人しく、切られてろ……!」

 

 ハルバードに添えた手により力を込め、そのまま押し切らんとしてくる。グランブレイバーの頭部へ、じりじりとハルバードを受け止める盾が近づいてきた。

 

グラン、このまま脱出して!

 

『安心しろ、その必要はない』

 

 まだ慌てているパートナーに告げると、グランブレイバーは盾に右手を入れる。それから逆転の手を打ったのはすぐのことだった。

 

「死なない程度に死んで……ぐぁっ」

 

 盾に伝わる圧力が消え、相手の全身が硬直した。やがてエナの気配が消えたハルバードは取り落とされ、地面に転がる。

 

 ──そのウィッチの腹部は、エナの刃によって貫かれていた。

 

『ここまで使わされるのも久しぶりなんだがな』

 

 勝負を決定づけたのは、盾の裏に残っていた3本目の剣だった。種を明かせば何ということはない。競り合いの最中、それを気取られぬよう取り出して相手に突き立てたまでのこと。

 

「お……ま……」

 

 腹をそのまま右に裂いてやると、同じ方向へ敵のウィッチは倒れ伏した。

 

やられちゃうって思ったよ……

 

『あぁ、今回は危なかったな』

 

 そうパートナーに応えた通り、危うい勝利であった、とグランブレイバーは振り返る。こちらの武器の性質がたまたま状況に適していただけだ。もし相手が加虐道楽に走らなければ、敗れていたのは間違いなく己のほうだったろう。

 

『結果オーライというやつだろうな』

 

ごめんね、グラン……こんなことをさせるためにウィッチになってもらった訳じゃないのに

 

『何、今さらだ』

 

 無駄な反省会を切り上げ、パートナーとのやり取りもそこそこにグランブレイバーは立ち上がった。いまは物思いに耽っている場合ではない。この身体が言うことを聞いてくれるうちに、生きて戻るだけのなにかをしなければならない。

 

『隊長、左──!』

 

あっ、危ない──!

 

 同僚とパートナーの警告が聞こえたのは、そう決意した直後のことだ。

 叫ばれた通りの方向へグランブレイバーが振り向くや否や視界に飛び込んだのは、今まさに眼前へ迫る紫電であり──。

 

『ぐああああああっっ!?』

 

 間もなく襲った電撃に悶え叫ぶ。勝利の余韻と激戦のダメージが残る肉体には、もはや回避行動をとるだけの力がなかったのだ。

 

クックック……、愚かなウィッチが──ぐぉっ!

 

『くそっ!』

 

 下手人らしいインプは、それから間もなくネクストゲネシスのハンマーに頭を潰されていたが、それを気休めにするだけの余裕は彼女になかった。

 

 もう1度地面に倒れ伏す前によぎる走馬灯。その中で、覚えていられないほど昔のことになった上官の訓示が特に強く印象付けられた。

 

(人は勝ちを確信したとき最も隙ができる……か……)

 

 なぜ忘れていたのか。つい先ほど窮地に陥った理由も、逆転が叶った理由も、それが根底にあったからだというのに。

 

『学ばないな、私も……』

 

 再度背に伝わるのは地面の感触。その際に後頭部を強打したが、生憎と気を失うことはできなかった。

 

『隊……返……てく……い……長!』

 

 ぼやけた意識の中、致命に値する電撃を2度も受けたというのに全壊を免れていたらしい無線から叫び声が響き渡る。

 

起き、て……グ、ラン……

 

 パートナーの力のない声も聞こえたが、グランブレイバーには何ひとつとしてできることがなかった。やがてその力ない声すらも聞こえなくなると、ウィッチとしての命運が決定づけられたような気がした。

 

『人殺しの、報いか……』

 

 急激に近づく死の気配へそう自嘲すると、やがて自分の視界を影が覆った。その主はこれ以上ないほど焦った顔をした、サードミナンスだった。

 

『インプは、どうした……』

 

『もう大丈夫です! 援軍も来ますし、あとはあなたと撤退すれば──』

 

『──無駄だ、もう助かりはしない』

 

 突き放すように伝えるも、サードミナンスは諦めた顔をしてはくれなかった。既に役割は果たしたというなら、脱兎の如き撤退こそ肝要であり、そこに木偶の坊の重しなど邪魔でしかない。飛翔のマジックとて、タダで使える訳ではないというのに。

 

馬鹿言わないでくれ! この子にはまだ君が必要なんだ!

 

『そうですっ! ひとり置いていくなんてできませんっ!』

 

『馬鹿を言え。それで共倒れになってみろ……お前は、私を後悔させたまま逝かせるつもりか』

 

 なおも食い下がる同僚とそのパートナーに拒絶の言葉を投げるも、それでも、と相手は折れなかった。そうこうしているうちに、もうひとりの人影が現れる。

 

『ギャラクシーが来る。それに、もう帰らないとエナもまずい』

 

 周囲の警戒、掃討でもしていたのか、遅れてこちらへ降り立ったネクストゲネシスはそうタイムリミットを告げた。見ればマジックなりで手ひどくやられたのだろう、彼女の装束は四肢の部分がほぼ消し飛んでいた。

 

『その怪我……』

 

『ああ、見ての通りだ……このままサーを連れて帰れ』

 

 助からない、と端的に伝えると、自分を見捨てろとグランブレイバーはネクストゲネシスに告げた。彼女はサードミナンスよりも少しばかり長い付き合いだったので、慮ってくれるだろうと思ったからだ。

 

『……うん。聞こえた? 行くよ』

 

『い、嫌ですっ! 置いていったら、隊長がっ』

 

 少し視線を泳がせたものの、すぐさま要請を呑んだネクストゲネシスが促すも、それでもサードミナンスは折れなかった。その後やや口論になったようだが、時間にしてさほど経たないうちにサードミナンスがこう告げた。

 

『じゃあ……私が隊長を背負って帰ります』

 

『いくら何でも無茶でしょ』

 

 まだ3人で帰ることを諦めていないらしいサードミナンスへ、ネクストゲネシスもグランブレイバーと同じ答えを吐いたが、引き下がるつもりは毛頭なかったようだ。

 

『無茶でもやりたいんです! 私に、もう……誰かを見捨てさせないでください……』

 

 サードミナンスは、泣きじゃくってしまったかのようにそう懇願した。かつて目の前で家族を失ってしまったという彼女は、自分の手の届く範囲の誰かを見殺しにすることに恐怖を感じる性質があった。それがこんな土壇場でも表れるとは思っていなかったが、先ほど敵であるウィッチを処理するときですら食ってかかった姿を思い返せば、ある意味で当然の成り行きだとも思えた。

 

『……わかった。殿なら自分がやるから』

 

 結局ネクストゲネシスが折れたらしく、礼を告げるサードミナンスは間もなくグランブレイバーを背負う。グランブレイバーには、もはや振り払うだけの腕力も、立ち上がってふたりのもとを離れるだけの脚力すらも残されていなかった。

 

『……死ぬなら、せめて一緒です』

 

 おそらくグランブレイバーに向けたのだろう言葉を吐きながら、サードミナンスは空中を進む。

 その後ろでは、インクブスたちの追撃を捌いているのだろうネクストゲネシスの戦闘音が響いてきた。

 

『お前は本当に……馬鹿だ……』

 

 呆れているような、嬉しがっているような声色で呟きながら、重くなりだした瞼が視界を埋めていく様を見るグランブレイバー。

 

 今際の際に、視界の奥──サードミナンスが進む先へかすかに見えたのは、米国が誇る戦略輸送機の姿。

 

 その後部の貨物室から落とされた純白の影が、妙に印象に残った。

 

「……Western Hercules?」

 

 兵器にしては有機的な輝きを放つそれが、鞘翅を開くや否や飛び出した半透明の後翅を以て飛翔する様を見て、グランブレイバーはある甲虫を思い返す。

 それはかつて、虫嫌いで通っていた亡き弟が珍しく心を許していた、米国の白き甲虫。彼がこの戦場に顕現している理由を探したときに、それこそが自らが先導せんとした()()であると思い至った彼女はようやく、真の意味で安堵の吐息を漏らした。

 

『我が、アメリ、カに……じゆ……とえ……いこ……を』

 

 まるでその戦士に願うかのようにして、グランブレイバーは意識を手放した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『遅くなりましたか……。エルザ! 行軍中の中隊はどうなっているので!?』

 

 空を駆ける灰色の4つの影──それらを束ねる少女が唇を噛みつつ問いかける。14の番号を背に刻むロングコートを纏う彼女たちは、ゴーストのコールサインで知られる存在だった。

 

『目標地点にはウィッチチーム、そしてパッケージ13の増援が先行中。必ず持ちこたえているはずっす』

 

 エルザと呼ばれた少女は隣からそう告げたが、それを受けたほか3人の面持ちは硬い。

 

『けどよ、それも俺らの助けなしにゃあ持たねぇだろ!?』

 

『モリーさん、それは……!』

 

 粗暴な声色で悲観的に問いかけるもうひとりの少女──モリーへ口籠るエルザ。言及された戦力は、詳細にはウィッチ3人とファミリア2体。字面のみを捉えれば、これで精鋭たる軍人をあっさり退けるインクブスの軍勢を捌けというのは少なくとも彼女らの価値観において「死んでこい」と命じられているのと大差ない。だからこその自分たちだろう、とモリーが焦るのは分からないではないのだが。

 

『だからこうして急いでいるのでしょう? 我々はこれ以上、皆様を失う訳にいきませんのよ!』

 

『っ……ああ、分かってんだよ!』

 

 力強く放たれたリーダー──ヘンリエッタの言葉に、ネガティブな感情は飲み込んだらしいモリー。矛先が鈍ったことに安堵した様子のエルザは、賛意を交えながらこうおどけた。

 

『そうっすね! 間に合わず報告上の幽霊隊員、なんて勘弁っすから!』

 

 幽霊──部隊のコールサインをもじったそのセリフは、スケジュールが厳しい任務になるたび言う、彼女のお気に入りのジョークだった。

 

『ええ、給料のタダ取りなんて、あの方に顔向けできませんものね!』

 

 そう片一方の口角をねじ上げながら、自分たちにインクブスと戦う力を与えた同国の英雄たるウィッチを脳裏に思い浮かべたヘンリエッタは口にする。このようなときでさえ会話に加わらない4人目──イヴへ視線のみを向けながら。ほか3人より身の丈も歳もミニマムな彼女は、ここではないどこかをメンバーお揃いの青い瞳で追っているだけだ。

 

 やがてヘンリエッタが前方に目を戻したときには、目標地点に駐屯する中隊が視認できるまでの距離になっていた。

 

『ゴースト14、作戦区域に到達! 敵戦力との交戦を──』

 

 無線に彼女が言い切る前に、その声はせき止められてしまった。それははるか前方に広がる蹂躙劇を目の当たりにしたからだった。

 

『あの白いのは……インクブスではないので!?』

 

 ゴブリンらを次々に蹴散らす有機的なフォルムを目の当たりにしたヘンリエッタは呆気に取られた声を吐き出した。

 

『虫の形ってことは……あれがパッケージ13の遣いっすか!』

 

 遅れて対象──純白の重量級ファミリアを認識するや否や、興奮の面持ちのまま断定したエルザ。

 

『しかもウチ(アメリカ)の虫とは……分かってるっすよ!』

 

 そう彼女が笑みを浮かべるのも無理はなかった。アメリカ産の甲虫──日本では『グラントシロカブト』の名で知られる存在が、原種よりはるかに拡大された姿で戦場に顕現していたのだ。

 

ぐおおおっ!?

 

 やがてライカンスロープを1対の角で挟み込んだグラントシロカブトは、獲物ごとグルグルと回転した果てに天高く放り投げていた。真下のゴブリンたちを圧し潰しながら頭から着地したそのインクブスはピクリとも動かなくなった。

 

『ホッホーゥ!! やれやれっすー!!』

 

『……あ。お隣にも……いる』

 

 グラントシロカブトの活躍に興奮するエルザの奇声を聞きながら、珍しく口を開いたイヴが指差したのは、ややクリームみがある白を携えたファミリアだった。

 

『あれもお仲間なの?』

 

『うん……でもたぶん、違う子』

 

 耳を貸せるように見えないエルザでなくイヴに問いかけたヘンリエッタへもたらされたのは、ノーの回答。あとで知ったことだが、かのファミリアの原型は、グラントシロカブトと同じくアメリカに住まう甲虫であるそうだ。こちらは日本で『ティティウスシロカブト』と呼ばれる種なのだとか。

 

 改めて目を向けてみれば、1度、2度とあっさり打撃をいなしたティティウスシロカブトが、頭角と胸角でゴブリンを挟み、そのまま回転した勢いで投げ飛ばしているところだった。

 

『ファミリアは補助役なんじゃなかったのかよ……』

 

 あくまで一般のウィッチの視点で呟くモリーに、肩を竦めるほかに術を持たないヘンリエッタ。すると、彼女はふと自分たちの方へ向かってくる人間を目視した。

 

『っ、味方?所属を名乗りなさい』

 

『わわっ、ゴーストの皆さん……!?』

 

声を投げれば慌てふためいたそのウィッチは、ソードを片手に誰かを背負っていた。敵意はなさそうだが──と感じながらも訝しんでいたヘンリエッタの前に、件のウィッチを追い越す形でもうひとりの少女が現れた。

 

『失礼。陸軍第5特殊対応部隊所属……ウィッチネーム・ネクストゲネシス。と、そっちの子が背負ってるのがリーダーのグランブレイバー』

 

『あ、どうも……自分はサードミナンスです……』

 

 あまり抑揚のない声で告げられたのは、ゴーストの面々と異なりパートナーに選ばれた純粋なウィッチが集められる部隊名だった。やってきた方向からして、彼女たちこそが増援として先行したウィッチ3人に違いなかった。リーダーが物言わぬまま背負われているところを見るに、熾烈を極める戦いを経てきたのだろう。

 

『そう。私たちは同じ陸軍の危機即応部隊第14分遣隊ですわ。この場は引き継がせて頂きます』

 

『承知。あとはお願い』

 

 短く告げてメンバーと飛び去っていったネクストゲネシスたちが向かった方向を目で追ったあと、ヘンリエッタはファミリアたちが猛威を振るう戦場へ視線を戻した。

 

『つってもよ、引き継ぐったって俺らの出番あんのかよ』

 

 ネクストゲネシスらが去るのを待ったあと、不貞腐れているようなモリーが問いかけてきた。普段の振る舞いから直情径行の弾丸娘と評される彼女でも、軍人である以上与えられた任務を遂行するのが何よりも優先されるべきなのは理解していただろうが、こうも一方的なファミリアの蹂躙劇を見ればひとこと言ってやりたくなるものなのだろう。

 

 実際、あれほどの戦闘力を持つ存在は心強い限りだ。もしかすれば、自分たちが手を出すまでもなく敵を全滅させてくれるのではないか。しかし、その期待はすぐさま打ち砕かれた。

 

『え、エナの解放を感知、これは……?』

 

 唐突に知覚したエナの奔流に呟くヘンリエッタ。まだファミリアの衝撃が抜け切っていない頭脳で索敵を試みれば、12時の方向に赤い渦が発生しているところだった。

 

『おいおい、ありゃポータルだぜ』

 

 リーダーが続けるより早く口にしたモリーの言葉に、チームへ緊張が走る。インクブスどもが住まう別世界に通じるその渦の登場は、増援の到来を意味するからだ。

 

『っ! あいつは……!?』

 

 真っ先に現れた1対の頭角を見て、敵の正体を察知したらしいエルザが洩らした。間もなく露わになった巨躯を見て、ヘンリエッタも眉をしかめる。

 

「──虫ケラごときに、何を手間取っておる

 

 戦場に舞い降りたのは、地上における肉弾戦において頂点に君臨する存在──オーガだった。

 

『向こうも相当焦ってるのかしらね……!』

 

 上位のウィッチでも苦戦を免れない強敵の登場に、ヘンリエッタは焦りを滲ませた。さすがにかのインクブスをファミリアのみに任せるのは拙い。

 

 手を貸すしか──とチームに参戦の意を伝えようとした、そのときだった。頭上を通過したターボファンエンジンの轟音──空軍の戦略輸送機が、新たに突入してきたのだ。

 

『な、なんですの』

 

 ファミリアが応戦しているとはいえ、単体での戦闘能力に乏しい輸送機が踏み入るにはまだ危険極まりない状況だ。もしオーガが得物の投擲なりで彼らの撃墜を優先すれば、間違いなく達成されてしまうだろう。

 警告を試みようとしたものの、その前にゴースト14の目に飛び込んだのは、解放された輸送機の貨物室から顔を覗かせる影の存在だった。

 

 間もなくそこから落とされたのは、縦に頭角と胸角を備る、一見してグラントシロカブトたちと似たフォルムをしたファミリアだった。しかし、彼は先に交戦する2体を遥かに凌ぐ巨躯を有していた。その姿は、数多の甲虫の中でも伝説に数えられる存在を象っていて。

 

『ヘラクレスか!? でも羽の色が……?』

 

 正体を直感したモリーだが、そう困惑するのも無理はないことだった。そのファミリアは本来黄色で知られるかの甲虫目──ヘラクレスオオカブトの鞘翅と異なり、青みがかった白と形容するのが近い色彩を備えていたのだった。

 

『いや、あれもヘラクレスっすよ』

 

 物知り顔で続けたのはエルザだ。聞けばヘラクレスオオカブトには、ブルーと呼ばれる希少個体が存在するのだとか。かのファミリアがそれを象ったというなら、見慣れぬ鞘翅の色彩にも説明がつく、とも。

 

『生で見るのは初めてっすけどね』

 

『そうなの……って、あの子、ひとりでオーガと戦う気?』

 

 気づけばインクブスたちのもとに降り立ったヘラクレスオオカブトが、グラントシロカブトたちを後衛としオーガと相対しているところだった。

 

上等!

 

 そう吠えて手にしていた鉄塊を振るったオーガは、得物をヘラクレスオオカブトの頭角と打ちつけ合う。しかし、やがて自身と互角以上のパワーを持つことを悟ったオーガの表情には、次第に焦燥と疲弊が表れているようだった。その隙が、互角以上の敵を相手にするときに晒してはならないものだと考えもせず。

 

何っ!?

 

 決め手は一瞬だった。胸角で地面を叩きつけて振動を起こされたことによって体勢を崩されたオーガが、ヘラクレスオオカブトの角に捕まえられると、そのまま投げ飛ばされていったのだ。

 

ば、化け物が……

 

 地面をバウンドする中で首を折られたオーガは、今際の際にそう呟くと事切れた。

 

『……マジかよ』

 

 難敵を単独で撃破したことに心底驚き呆れた様子のモリー。同じく驚愕に包まれたヘンリエッタも、パッケージ13が敵でない事実に安堵するほかなかった。

 

『これがパッケージ13のファミリア……ゴースト7がご執心になる訳ね』

 

『ああ、こんなのをあと何匹も連れてるんだろ?』

 

 アメリカ軍の増援として空輸されてきたのは、あくまで総戦力の一片に過ぎないはずだ。ならば彼らのホーム──母が住まう日本では、どれほどの数がインクブスらを蹴散らすべく動いているというのか。

 

『ナンバー13とか、詐欺だろ……』

 

 モリーの呟きが、戦塵の中に木霊して消える。

 

 ゴースト14の視線の向こうで蹂躙劇を続ける3体は、まるで彼らの母たる白銀のウィッチの意志を各々のカラーで鎧に反映させているかのように見えた。




筆者はウィッチvsウィッチとグラントシロカブトを描きたかった、と供述しており……。

以下、オリジナルウィッチチームのこぼれ話

チーム・ノブレス
 捏造大隊。純粋にウィッチに選ばれた少女たちが軍に取り込まれたときに振り分けられる部隊、という想定。部隊名はメタ的には「No+Bless」で(ヘカテイアの)加護なし、というのが由来。

ゴースト14
 捏造部隊。執筆途中では本当はもう少し出番と見せ場があったのだが、あくまでウィッチの散り様+aを描く本作のコンセプトとしては文量を喰いすぎたのでカットされた経緯がある。ただの驚き役にしてごめんよ……。各員のネーミングは、名付けを面倒臭がった筆者に既出のゴースト7のメンバーのファーストネームから連想ゲームをする感覚で決められている。その辺の話は彼女ら単独でなにか話を作ることがあれば。

なお、万が一本当に同名のキャラ・同番or同趣旨のチームが原作に登場した場合、そちらを優先し改名or改番などの調整措置が行われます。
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