捕食者系魔法少女・外伝『Sacrifice's Archive』   作:J・イトー

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今更ですが本作はオムニバス形式です。

海棲インクブスが全然見せ場ないのがかわいそうだったので書きました。


シー・ストライカー

 トライデントを構え、海棲インクブスの隊を束ねし高位のマーマン──オスカルは前方を眺めていた。

 

 彼の周りには、同種である他のマーマンや、主戦場を同じとするケルピーらに加え、オスカルを挟むように海上を航行する二隻の工作船──インクブスに隷属したヒトの操る鉱物運搬船だ──の姿がある。しかしながら、現在オスカルたちは船団の護衛をしている訳ではなかった。目的地は黄海のとある海域だ。そこを狩場にしているというウィッチに用があった。

 

 異界の住人である彼らは、ヒトの駆る軍船を寄せつけぬ攻撃力、防御力をエナと呼ばれる魔力を用いて獲得しており、既に地球の七割を占める海を手中へ収めて久しい。しかしあるとき、同志たるインプが催す余(・)興(・)を潰されたという噂が耳に入ってきた。

 隷属するヒトから無作為に選んだ船員が、戦闘艦より逃れて隣の島国へ上陸できるか──恐怖を流布させる見せしめとは名ばかりの娯楽を意味するそれが、途中で遭遇したウィッチによって救出され不首尾に終わったのだという。

 高度なマジックを数多修めるが故のプライドを持つインプたちはこれをよしとせず、件のウィッチが目撃された海域へ向けオスカルの隊が駆り出されたという訳だ。

 

「ふん、無駄な余興なぞ催すからだ」

 

 ヒトのみならず同胞にも悪辣な振る舞いをするインプの失態に、そう鼻を鳴らすオスカル。

 彼を含む大抵のマーマンにとって、人類とは都合のよい苗床あるいは食料であれどそれ以上ではない。肉をかなぐり捨てる行いでしかない件の余興には、苦言を呈する者がほとんどだ。これで少しは大人しくなればよいが、とオスカルが溜飲を下げたところで、右方を潜航していたケルピーがこちらへ泳ぎ寄ってきた。

 

「オスカル、もうすぐ例の地点だ」

 

 訳知り顔でそう告げてきたのは、例の余興の際に居合わせていたという者であり、この討伐隊を興すきっかけとなった報告をもたらした存在だ。

 

「例の地点……ウィッチどもの目撃された場所か?」

 

「ああ。そこで俺の仲間が……船から降りてきた奴らにやられた」

 

 訊き返すオスカルに、ランスを握る力を強めながら応えるケルピー。少し前に聞いたところによると、同族たちと偶然にも周辺の巡回をしていたところ遭遇したという件のウィッチに惨敗を喫してきたのだそうだ。半殺しにされたもうひとりとともにあとを尾け、所属を突き止めるのが精一杯だったという。

 

「ほう。しかし、この海ということは……此奴らの隣人ということか」

 

 ふと近くを航行する工作船を見やりながら、そうオスカルが呟く。かの船を操るヒトが住んでいた地である国は、今やインクブスに隷属した者とそうでない者たちとで苛烈な陣取りゲームの様相を呈しているが、狙いのウィッチは、その後者に与する存在だろうと想像できたからだ。

 

「ああ。だが、傀儡になった腰抜けどもとは明らかに違う」

 

「そうか……それほどにか」

 

 鋭い目つきで告げる同志を前に、目標の強敵ぶりを察したオスカルはそう洩らした。

 

「一緒にウィッチを尾けたあいつは、足を片方やられてるからな」

 

 そう言ってケルピーが視線を向けたのは、左前足に丸ごと──よく見れば左半身にも広がっている──再生痕を作った彼の同族だった。おそらく先述の生き残りで半殺しにされた方だろう。

 

「あいつや、あのマーマンだって、例の地点に向かった仲間が帰ってないって聞くぜ」

 

 あいつも、あいつも、と言い終わってからも続けてケルピーが指差していったのは、オスカルにとっては見知らぬ面々。自身にとって外様となる彼らが同行する理由を、暇を持て余した故のものであろうと軽く捉えていたオスカルは内心で驚愕する。

 目の前のケルピーが報せるまで決定的な脅威として話題に上がらなかったということは、かのウィッチは接敵したインクブスたちを残らず葬っていることになる。海棲インクブスの全体数を考えればまだまだ微々たるものであるが、もしその活躍が抵抗するヒトたちに知れ渡ろうものなら面倒な事態を招きかねない。

 

 その処理をしなければならないのが自分であることは遺憾だが、久方ぶりに歯応えのある雌を手に入れる好機かもしれない、と考えてオスカルは不満を押し殺した。

 

「しかし、ほぼ体の半分を消し飛ばせるマジックとはな。果たしてどれほどのものか……」

 

 同胞と比べ格段に発達した頭角を掴むようにして撫でると、再生痕がある方のケルピーへ視線を向けながら思案に耽ろうとしていたオスカルだったが、それは間もなく打ち切られることになる。

 

「前方にヒトの船を確認!」

 

 配下からの報告に、開戦を予感したからだった。

 

「こうも都合よく現れるとはな……!」

 

 件の船を目的のウィッチが乗るものであると確信したらしいケルピーが、真っ先に威勢のよい言葉を紡いだ。

 

「ああ。目立つよう二隻を連れたのが良かったのか?」

 

 そう応えながらオスカルは工作船を見上げる。ただ群れて探すだけでは向こうが寄りつかない可能性もある、とエサ代わりに配されたそれは、同志たちのエスコートを以て港湾地区制圧の要となった実績があった。

 

「空からも攻める、と積(・)ま(・)れ(・)た(・)インプは言っていたが」

 

 接敵した瞬間、工作船の貨物に扮しているというその同志が飛び出す手筈だと知らされている。たとえ砲台などで武装していようとマジックで軽減できる以上、空と海からの挟撃が成ってしまえば、増援を望めない敵船は海の藻屑となって散るしかない。そうなれば懸念となるのは、乗艦しているであろうウィッチの実力だった。

 

「さらにウィッチのエナを確認!」

 

 敵船の到来を報じたときと同じ声を受け、周囲に張り詰める雰囲気は戦いにおけるそれに変わる。数は三、と続けられたので周囲を注視していると、目当てはすぐに見つかった。

 

「ふん、潜ってくるか……」

 

 水中で戦うウィッチとは珍しい、とオスカルは鼻を鳴らす。今まで交戦してきたウィッチたちは、空中戦の延長として絨毯爆撃を行う者、水上を滑走しながら戦闘を試みる者など様々だったが、こちらの土俵に上がってくる者は稀だ。理由はおそらく単純で、人間が元来水中で呼吸をできない種族だからだと推測していた。仮にマジックなりで酸素を確保する術があったとしても、戦闘以外にエナを割かねばならないハンデを背負ってまで水中に潜るメリットは薄い。

 

 見れば推進力を窺わせる何かに掴まっている機械然とした装束が特徴の者、周囲にシャボン玉を張ったようなマジックを使っている者、そしてその間を縫うように潜航する、グレーのプロテクターが特徴的な者の三人がこちらへ迫ってきていた。その全員に共通していたのは、潜水用の装備であろう何かで顔全体を覆っていたことだった。

 

「来い、ウィッチどもに水中戦を教育してやる」

 

 手にしたトライデントを構えるオスカルが、同志たちに一斉攻撃の下知を出そうとしたそのときだった。

 

「ウィッチが散開、続けて……雷撃!?」

 

 三方に分かれた敵小隊を見た同志の声に、攻撃の思考は一時遮られた。見れば陣形中央に留まる機械然とした装束のウィッチが、最初に掴まっていた物体を放しこちらへ直進させている。ヒトの船が扱う魚雷とは異なるそれは、彼らが「水中スクーター」と呼称する玩具とよく似ていた。

 

 すると突如爆発を起こしたそれは、ウィッチらの動向を隠すかのようにエナの煙幕を作る。

 

「奴らが見えぬ」

 

「追撃を警戒っ──」

 

 口々に狼狽える同志たちの声が聞こえて間もなく、目の前の煙幕と味方の胴に風穴が空く。エナのビームだった。

 寸分狂いなく前方のマーマンを貫いたそれは、弾道を遡るに機械然としたウィッチによる攻撃に違いなかった。

 

「動きを止めるな!」

 

 予想外の先制に動揺が広がる隊へ一喝し、オスカルはトライデントを構え直す。

 

 彼らマーマンが得意とするのは、マジックで切っ先に真空を形成することで水の抵抗を解決したトライデントを投擲する必殺の一撃。だが、オスカルが今から使うのはそれではない。

 

「両翼の者はそれぞれウィッチを相手せよ」

 

 左右に散った他のウィッチの対応を命じ、オスカルはトライデントの切っ先へエナを充填する。真空ではなく、電撃を纏わせるためだった。

 

「貴様ら、儂のマジックが命中した瞬間、奴を貫け!」

 

 付近の配下に中央のウィッチへの対応を指示し、次の敵の一撃を待つ。部下に不動を禁じておきながら自分がそうしていないのは、かのビームが自らに飛んできたとしてもマジックで打ち返せる自信があるからだった。

 

 二弾目が放たれた瞬間、弾道を遡り大元へ向けこの電撃を放つ。そう自分と決め事をして間もなく、薄れつつある煙幕に再び穴が空いた。

 

「好都合!」

 

 寸分狂いなく自らへ飛んできたビームへ吠え、得物の切っ先を突き出しマジックを放つ。紫色の電撃は、ビームのど真ん中を穿ちながら進み、発射元であるウィッチへ浴びせんと迫った。

 

「──!?」

 

 機械然としたウィッチが痺れで震える様が目に映り、命中を直感したオスカル。彼が促すまでもなく放たれた部下たちのトライデントが、次々とウィッチへ殺到する。いくら金属装甲を模した装束と言えど、同じく人智の理を外れたインクブスの攻撃を幾度も阻むことはできず、肉体を貫通した。

 

「ふん、他愛ない……ん?」

 

 撃破を確信し敵方を嘲笑ったのは配下のマーマンだった。だが、その視線の先で異変が起こる。息絶えたウィッチが背負っていた何か──ビームの出所と思しき肩部の砲台が繋がっているものが激しく発光する。

 

「な、なに!?」

 

 ひと間の沈黙のあと、それはウィッチの全身を容易く巻き込む爆発を遂げた。原型を留めた両の脚部が、勢いよく回転しつつ爆心を離れていく。気づけば、ウィッチだったものが水中に散らばる格好となっていた。

 

「爆発……!?」

 

「なに呑気にしてる、雌が消えたんだぞ!」

 

 マーマンたちが慌てることには訳があった。彼らにとって人間の女性とは苗床や食料でありそれ以上ではないが、種の存続に欠かせぬ程度の価値はある。よりエナを潤沢に保有するウィッチとなれば質が段違いに跳ね上がるため、こちらから打って出てでも獲得したい資産だったからだ。

 こうなるとマーマンたちの思考は明確に「撃破」から「生け捕り」に変わる。

 

「くっ……! 優勢はより確固となったのだ、残りは逃すな!」

 

 戦利品がひとつ減ったことに歯噛みしながらも、そう叫んでオスカルは隊を二分するよう指示した。自身はプロテクターのウィッチの方へ向かっていると、反対のシャボン玉のウィッチを相手している同志たちの戦況に動きがあった。

 

 多数のマーマンに応戦を続けるそのウィッチの得物である銃器からは、次々に緑色の弾丸が吐き出されている。

 マズルフラッシュを経ても強い蛍光を示す独特の色彩と、水中でも衰えない弾速を見るに、エナを用いるウィッチ固有の武装であることが読み取れた。

 

「ぐ、ぐぉぉっ……!!」

 

 一列に連なる弾丸の破線は、まるで視線の先のマーマンが移動する方向を分かっているように敵を穿たんと迫る。まるで自ら当たりに行ったかのように、標的だったマーマンはエナの弾丸を胸部に受け沈黙した。しかし、そのウィッチの快進撃はここまでだった。

 

「見事……だが!」

 

 そう言って投げ放たれた追加のマーマンのトライデントが、次の対象を探し機動していたウィッチのやや前方へ向かう。

 

 目の前を通過したトライデントに気を殺がれたか、急制動をかけその場に留まったウィッチは周囲を見回す。だが倍以上の物量を前に、出所を察したときには手遅れだった。別の者が発した二撃目で腕を貫かれたことによって得物を放してしまった彼女に、もはや反撃の糸口を探るだけの余裕はなく、あっという間に体のあちこちを貫通されてしまった。身体を覆うシャボン玉はバリアではなく酸素の確保を意味していたらしい。

 

「……爆発はせずに済んだか」

 

 勝敗が決した別戦線を尻目にオスカルは呟く。機械然としたウィッチの爆発は、彼女の装備による偶発的なものだったのかもしれない。

 

「隊長!」

 

 ようやく戦線に加わると、なぜか無手の同志が振り向き告げる。おそらく既にトライデントを投げてしまったからだろう、エナを練り得物の複製を試みる彼への会釈もそこそこに、いよいよ間近に捉えたプロテクターのウィッチは、これまでの二者と別格の立ち回りを見せていた。

 

「足を止められないのか!」

 

「と、止め──ぐぇっ!」」

 

 自分たち水棲インクブスに勝るとも劣らぬ速度で水中を飛び回るウィッチは、手にした銃剣で次々と同志を刺し穿っている。絶えず飛んでくるトライデントの投擲も、避けるなり、同志の亡骸を盾にするなりして受け付けていない様子だ。

 

 すると、ふとオスカルの方を見た例のウィッチが、脇目も振らずこちらへ迫ってきた。

 

「投げろ! 放て!」

 

 迎撃を命じると、全隊の持つトライデントが、マジックがウィッチに迫る。だが、そのいずれもが命中に結びつかない。

 

「こいつっ、速すぎる!」

 

「狙いきれねぇ!」

 

 横向きの螺旋階段を登るかのようなウィッチの海中機動へ目を瞠る同志たちの慄きを背に、オスカルは一騎打ちの腹を決める。敵は依然として、こちらが首魁であると分かっているかのように迫ってきていた。

 

「もうよい。儂が決める、下がれ!」

 

 それは接近戦を行う意思表示だ。オスカルの一言で遠隔攻撃が止んだことを好機と見るかのように、敵は手にしていた銃剣の切先──いや。正確には銃口を向けてきた。ウィッチとしての固有武装なのだろう、そこには集束するエナの奔流が見えて。

 

「くっ!」

 

 オスカルもエナをスピアに集束させ、来るウィッチの射撃に備えた。もし軸をずらして一時的にかわしたところで、まだ数十メートルも先にいる彼女が発射先を調整してくることは想像に難くなかった。だが、その目論見はある種打ち砕かれることになる。

 

 ウィッチが銃口からエナの放射を開始したのは、言ってみれば真上となる水面へ向けてだった。突如その場で宙返りをするような形を取ったウィッチが水上へ向け圧縮したエナの柱を立て、それをこちらへ宙返りの勢いのまま振り下ろしてきたのだ。

 

 その射撃──いや、斬撃と言った方が適切かもしれないマジックに、迎撃の目論見など露と消えたオスカルは慌てて左へ飛ぶようにして避ける。

 

「うわああぁぁっっ!!」

 

「隊長ッ──!!」

 

 哀れにもオスカルの真後ろに位置してしまった同胞たちの断末魔が聞こえたと同時に、背後から轟音が鳴り響いた。

 

「馬鹿な……!」

 

 よろめく間に目の当たりにしたのは、はるか背後にあった船体が両断される光景。オスカルの印象に残ったのは、工作船の片方を失ったことよりも、同志や船を両断するマジックの威力だった。おそらく少し前に話したケルピーも、これにやられたのだろう。

 

「ウィッチ風情が……味な真似を!」

 

 オスカルが吐き捨てた先では、既に近接用に銃剣を持ち替えたウィッチが映っていた。

 

 あれほどのマジックを見せたにも関わらず、彼女はあくまでもエナを介さぬ接近戦で決着をつけるつもりらしい。まだ残っているもう一隻の工作船を撃沈するときのためにエナを残しておきたいのか、逆にもうエナがないからこその選択であるのかは分からないが、オスカルにとっては好ましい決断だった。

 

「オオオオオッッッ!!」

 

 自身も倒すべき標的へ向け泳ぎ出すと、あっという間にウィッチが眼前に迫る。タイミングを見計らい、刺突を狙うべく切っ先を突き立てるが──。

 

「ぐっ!」

 

 間もなく響いたのは硬質なもの同士がぶつかり合った鈍い音だった。同じく刺突を狙ったらしいウィッチの得物と、刃の腹を擦り合わせた結果になったのだろう。

 

 そうしてウィッチとすれ違う形になると、その余勢で再び距離が生まれることになった。

 

 すぐさま反転したオスカルがウィッチの方を見やると、反動で回転した姿勢をやがてサマーソルトを披露するかのような動きで制御し、無の壁を蹴るように再度こちらへ向け機動を開始しようとしていた。

 

「上等……っ!?」

 

 すると、視界の外からまたも爆音が響く。横目で音の方を見てみれば、再び船が爆発しているのが映った。

 

 二隻目の工作船が叩かれたのかと思ったが、それは誤りだった。もしそうであるならば、一隻目の漂流物がその周囲に浮かんでいるはずだからだ。どうやら敵方の船が、空戦を担うインプたちの手によって命運を絶たれたらしかった。

 

 事実上の決着だ。あとは目の前のウィッチだけだが、極端な話、こちら側はいま退却したとしても勝利となる。彼女がエナを切らせばそこで終わりだ。尤も、もしこの戦域を離脱して近辺に上陸を試みたとしても、それを許すつもりはないのだが。

 

 口角をねじ上げると、件のウィッチと再度切り結ぶべく前進し始める。またも眼前に迫る彼女は、今度は斬撃を試みているのか銃剣を振り下ろさんとしている。

 

 打ち合えるよう、銃身の部分を目がけ柄を差し出すように持っていくと、鈍い衝撃が右腕に伝わった。

 

「ウィッチよ、船は沈んだぞ」

 

 揺さぶりをかけんとそうウィッチへ語りかける。これをすれば相手は精神的に崩れるはずだ。広大な海洋において、母艦の喪失は死を意味する。還る場所を失えば、同時に戦う理由も失うことになるのだ。

 

 しかし、ウィッチはゴーグル越しの表情を微塵も変えなかった。やがて彼女は、均衡状態が続くのを嫌ってか得物がぶつかり合った際の反動を活かして距離を離し、再度銃剣を振りかぶっている。

 

「諦めろ、我々の兵力を知らぬ訳ではあるまい」

 

 そう揺さぶりを続けるが、ウィッチの攻撃は止まらない。どうやら投降するつもりはないようだった。

 

 オスカルは思う。仲間を奪われ、孤立し数的な不利を背負ったというのに、それに動じることなく攻撃を仕掛けてくる。おそらく目の前にいる人間は、相当数な経験を積んできた勇敢なウィッチなのだろう。やはり彼女こそが、ここ一帯の同志たちを葬ってきたウィッチなのだろうと直感したオスカルはトライデントを握る力を強める。

 

「その気がないのなら……是非もなし」

 

 苗床とするのは行動不能となるまで痛めつけたあとだ。そう決めて再度得物を打ち合わせた。先ほどと違い、今度は力比べの様相を呈した。

 

「……ぬぅ」

 

 その鍔迫り合いの最中、横に重心を流し旋回を強いてくるウィッチにオスカルは舌を巻く。

 

 回転し合って常に位置が入れ替わりになるこの状況では、同志たちがウィッチのみを狙い撃ちにすることは厳しい。タイミングを誤れば、自分ごと撃ち抜く羽目になるからだ。

 

「ぐぅっ……!」

 

 接近戦に付き合ったのは失敗だったかと逡巡した瞬間、銃剣を強く跳ね上げたウィッチによって、トライデントを持つ両腕が浮かんでしまう。素早く腕を引き戻したウィッチが、ノーガードとなったこちらを刺し穿たんと切っ先を向け突貫する姿が眼前まで迫り──。

 

「……っ!?」

 

 ──だが、想定された胸部への苦痛は訪れなかった。絞った瞳を開けば、まるで見えない壁があるように押し留められたウィッチが目に映った。

 

「足を止めたぞ!」

 

「刺せ、オスカル! 左脚の仇だ!」

 

 後ろから聞こえたのは間違いなく同志の声。視線だけで振り返れば、両脇からランスをウィッチへ向け突き出すふたりのケルピーの姿が目に入った。微妙に迸るエナの奔流から察するに、彼らが得意とする高圧水流を放つマジックを敢えて威力を抑えて放つことで局地的な逆潮を作ったのだろうと思えた。

 

 だが、未だ予断を許さない状況である。見れば目の前の銃口にエナが集束しようとしていた。刺突が叶わなくなったために、先ほど船を斬った時のように至近距離からのエナの発射を試みたのだろう。だが、苦し紛れの一撃だろうとも、それを放つ猶予を与えるつもりはない。

 

 頷いたオスカルは、未だ動きを封じられているウィッチの胴体をトライデントで貫く。ゴーグル越しに初めて目を見開いた彼女は、体をくの字に折りながら銃剣を放した。

 

「有角的混蛋(角付きめ)……」

 

 やがて顔を覆うゴーグルの内を鮮血で染めたそのウィッチが恨み言を吐いて脱力する様を見て、勝利を確信したマーマンは笑みを浮かべた。

 

「やったな、オスカル」

 

「ああ、感謝するぞ」

 

 構えを解き労いをかけてくるケルピーたちに感謝を示すと、討ち取ったウィッチを改めて見やるオスカル。勝利こそ収めたが、もし一騎討ちであれば危うかったと死闘を振り返る。

 仲間に恵まれなかったな、と吐き捨てて無意味な反省会を切り上げた彼は、ウィッチを抱きかかえるとポータルを取り出す。いくらエナによって生命力に優れたウィッチが相手でも、内臓を潰したまま海中で致(・)す(・)のは拙いと考えたからだ。治癒のマジックを扱えたのは──と顔馴染みの同志を次々に思い起こしながら、オスカルは手中にある極上の雌を苗床とする未来を想像し嗤った。

 

「さて、これほどの強者だ……さぞよい子を孕んでくれよう」

 

「俺にも使わせろよ? 半身を焼いた礼をまだまだしてもらわなくちゃな」

 

 口角をねじ上げながら呟いたオスカルやケルピーたちは、間もなく異世界へ繋がる紅い渦の中に消えた。

 

 

 

 

 

 ──こうして人類は、対インクブスにおける海戦史へまたひとつ黒星を刻んだ。

 

 人類が地球の海にて逆襲を果たす刻は、日出ずる国へ咲く銀蓮の到来を待つこととなる。

 

 制海権をあっという間に覆すか(・)の(・)母(・)のファミリアが運ぶ未来など知る由もないマーマンたちは、束の間の支配に浸るのだった。




終始インクブス視点でお送りする本話、いかがでしたでしょう。

三話目にして初の銀蓮さんのファミリア未登場回となりました。

水中型ウィッチ系二次創作もっと増えないかなー!!
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