ニコ研!   作:増田 幹太

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文化祭編
Ⅰ


 

夏休みが明け、漸くいつも通りの日々に馴染み始めたある日の放課後。

 

ニコ研の部室では緊迫した空気が漂っていた。

 

薫の正面――最近奏の定位置となった場所に増田先生はどっかりと座り、奏は薫の隣に座っている。

 

重々しい雰囲気が辺りを包み込み、なんとなく息苦しさを感じる。

 

珍しく雪菜や誠も他の事を一切せずに増田先生の方を見つめている。

 

そんな中、増田先生がおもむろに口を開く。

 

 

「で、なに?

 

結局まだ企画書出来てないの?」

 

 

「はい……申し訳ありません……」

 

 

呆れきった様子で尋ねる増田先生に、薫が申し訳なさそうに答える。

 

 

「普通さ、こうゆうのって夏休み前から計画立てとくもんじゃねぇの?

 

しかもお前らの場合は特に、さ……」

 

 

「はい、返す言葉も御座いません……」

 

 

粘着質な声でいう増田先生に、再び薫が謝罪する。

 

 

「これじゃあ夏合宿も何のためにやってんだかわかんねぇな……

 

お前ら向こうで遊んでただけか?」

 

 

「おう、もち――」

 

 

「勿論だ!」なんて言おうとした奏の口を慌てて明彦が押さえる。

 

 

「ちょっ、なにすんだよ!」

 

 

奏が苛立った様子で明彦に顔を向ける。

 

 

「お前は知らないかもしれないけど、この部活今年の文化祭で成果を出さないと廃部なんだよ」

 

「なっ、本当か!?」

 

 

増田先生と薫の会話を邪魔しないように声を潜めて明彦が説明すると、奏が驚いた表情を見せる。

 

 

「本当だよ。

 

だから俺らが不利になるようなことは言うな」

 

 

「おっ、おう……分かった……」

 

 

奏は納得してれたのか、真剣な表情でそう応える。

 

 

「……まぁいいや、まだ期限を過ぎた訳じゃねぇからな。

 

俺はもう職員室戻るわ」

 

 

増田先生はくたびれた様子で大きく伸びをすると、机の上に肘を着いて手を組む。

 

 

「でも、これだけは言っておくぞ。

 

お前らの考えてる程世の中は甘くねぇんだ。

 

なにもしてないのになんとかなるなんて考えるなよ?

 

神崎も学校に来るようになったし、例年と比べて雰囲気もいい。

 

これはお前らが真面目に活動してた証なんだろうよ。

 

でも、やることはちゃんとやれ。

 

俺がお前らの活動を認めるのは当然だ、顧問だからな。

 

でもそれを他人に認めさせねぇと意味無いんだ……少なくとも今回はな」

 

 

増田先生は「んじゃ、あとは頑張れ」と言って席を立つ。

 

 

「でないとマジで潰れんぞ、この部活」

 

 

そして、そう言い残して増田先生は部室をあとにする。

 

増田先生がいなくなっても重苦しい空気は払拭されない。

 

寧ろ最初の頃よりもその重さが増したようにも思える。

 

 

「広瀬君……」

 

 

雪菜が不安そうに明彦の服の裾を掴む。

 

 

「むぅ、取り敢えず文化祭でなにをするのかを考えねばな……

 

すまないが、誰か妙案はないか?」

 

 

重たそうに頭を抱えながら薫が部員達の意見をあおぐ。

 

しかし、いつまでたっても沈黙が続くだけでなにも出てこない。

 

 

「広瀬君……」

 

 

雪菜が再び不安そうに明彦の服の裾を掴む。

 

 

「明彦……」

 

 

雪菜の真似をしたのか、奏が期待を込めた目差しで明彦を見つめる。

 

 

「広瀬君……」

 

 

「広瀬君……」

 

 

それに続いて薫と美華か奏と同じく期待の目差しで明彦を見つめる。

 

誠もなにも言わないが、身を乗り出してこちらを見ている。

 

フードで影になっていて目が見えないが、明らかになにかを期待してこちらを見ている事がその体勢や気迫から伝わってきた。

 

 

(えっ、なにこれ……

 

俺言わなきゃいけない感じ?)

 

 

「広瀬君……!」

 

 

「明彦……!」

 

 

「広瀬君…!」

 

 

「広瀬君……!」

 

 

「…………!」

 

 

「えっ、ええっと……お化け屋敷……とかじゃダメですかね……」

 

 

有無を言わせない部員達の声に、明彦が絞り出すように答える。

 

 

「……正気か?

 

広瀬君……」

 

 

「……お前それ本気で言ってんのか?」

 

 

一瞬まるで時が止まったかのような沈黙が走り、薫と奏が信じられないといった様子で言葉を漏らす。

 

 

「広瀬君……さすがにそれは……」

 

 

美華が困惑と呆れを混ぜ合わせたような表情を浮かべる。

 

そして誠に至っては無言でパソコンを起動させる始末。

 

明彦は無表情のまま救いを求めるように雪菜に顔を向ける。

 

 

「えっ、ええと……ごめん……

 

私も的外れかなって……」

 

 

その言葉を聞いた瞬間明彦の中でなにかが壊れる音がした。

 

 

「うぅぅぅ……冬野まで……

 

みんなが無茶ぶりするから……」

 

 

「わわわ!

 

ごめん、ごめんってば!」

 

 

涙を流しながら小さくなる明彦と慌ててフォローする雪菜。

 

 

「いいんだ、放っておいてくれ……」

 

 

「よし、では他になにか案はあるか?

 

他に」

 

 

「ちょっ、会長!?」

 

 

本当に明彦を無視して話を進めようとする薫に雪菜がツッコミを入れる。

 

 

「やっぱり普通のやつじゃダメだよね……」

 

 

美華が心配そうに明彦に何度か視線を飛ばしながら言う。

 

 

「ああ、そうだな……

 

我々の活動実績を的確に表現できるようなものでなくてはな……」

 

 

「壁新聞とか……ですかね……?」

 

 

雪菜が明彦を宥めつつそう言う。

 

 

「冬野……」

 

 

「なに?」

 

 

「お前、今までの俺らがやって来たことを全校生徒とその他大勢の人に晒すつもりか?」

 

 

「あっ……」

 

 

明彦にそう言われ、雪菜の顔が一気に赤くなる。

 

部活の活動実績を報告することに気をとられ過ぎて、大勢の人の目に触れるというごく当たり前のことを忘れていたのだ。

 

 

「会長……今の話は無かったことに……」

 

 

「そうだな……」

 

 

薫にとってもそれは本意ではないらしく、素直にそう言って頷く。

 

 

「それもう詰んでないっすかね……

 

俺らの活動実績なんてどう頑張っても表現できないっすよ……」

 

 

奏が暗い表情で呟く。

 

再び部室に重い空気が蔓延し、静寂が辺りを包み込む。

 

 

「もう広瀬の人生相談室みたいなのでいいんじゃねぇの」

 

 

沈黙に耐えかねたのか、誠が酷く適当な声でそう呟く。

 

 

「いやいや先輩、流石にそれはないですよ……」

 

 

どうせいつもの冗談だろうと思い明彦が苦笑いを浮かべながら応える。

 

 

「いや、中々に良い意見だ」

 

 

しかし、明彦の思いとは裏腹に、薫がその意見に食い付いた。

 

 

「えっ、ちょっ会長……?」

 

 

思いの外好感触な様子の薫に、明彦が不安そうな表情を見せる。

 

 

「うん……他に代案もないし、草苅君の意見を採用しようと思うのだが、どうだろうか」

 

 

「意義なし」

 

 

「おい、神崎……?」

 

 

「私も……それでいいかな……」

 

 

「あの、立花先輩……?」

 

 

不穏な空気を感じ、明彦は慌てて誠の方へ顔を向ける。

 

 

「せっ、先輩……冗談ですよね?」

 

 

明彦の頬を冷や汗が伝う。

 

 

「バーカ、そんなん決まってんだろ」

 

 

誠の軽い口調に、明彦は安堵のため息をつく。

 

 

「全然本気だ」

 

 

「――!!??」

 

 

全力で期待を裏切られ、明彦の顔が硬直する。

 

 

「なっ、なんで……」

 

 

「だってお前よく考えてみろよ。

 

神崎が学校に来るようになったのも、立花と、ついでに冬野が雰囲気変わったのも全部お前がやったんだろ?

 

まぁ誰にどれくらいの影響があったかは知らねぇけど、少なくともお前がいなかったらこうはならなかった筈だ。

 

そうだろ?」

 

 

確認するように言う誠に、奏と美華と雪菜の三人が頷く。

 

 

「つまり、この部活の活動実績は全てお前にある。

 

お前がいかに有能で人心のケアに優れた人間かを証明することで、この部が如何にして実績を残してきたかが証明でいるわけだ」

 

 

「おっ、おお……」

 

 

何故か説得力のある誠の言葉に、明彦は思わず納得したような声を漏らす。

 

 

(……ってあれ?

 

よく考えたらこの人適当なこと言って俺に全部押し付けようとしてるだけじゃね……?)

 

 

しかし、その数秒後にすぐさまそんな考えが頭に浮かぶ。

 

 

「うむ、まったくもって草苅君の言う通りだな。

 

ここは一つ頼まれてはくれないか広瀬君」

 

 

が、そんな明彦の考えなど知るよしもなく薫が明るい声でそう言う。

 

 

「そっ、そうだぜ明彦!

 

これはお前にしか出来ない仕事だ、やるしかねぇよ!」

 

 

「ほっ、他に良いアイディアもないし……

 

できればやってほしいかな……」

 

 

薫に便乗してか、奏や美華も誠の意見を推奨する。

 

 

(だっ、ダメだ……

 

この人達さっさとこの話し合いを終わらせることしか頭にねぇ……)

 

 

「でも、それって企画書通るんですか?

 

部活の出し物って言うよりは個人的な出店みたいですけど……」

 

 

表情を陰らせる明彦の隣で雪菜が誠の意見に一石を投じる。

 

 

(おお冬野、やっぱりお前は俺の見方か!!

 

俺は信じていたぞぉぉぉ!!)

 

 

「広瀬君……近い……」

 

 

表情を輝かせながら抱き付こうとする明彦を雪菜が手で抑える。

 

 

「うむ……確かにそうだな……」

 

 

薫は考えるように顎に手を置いて呟く。

 

そして「よし」と一言声を出してから机の上に置いてあった紙に素早くなにかを記述していく。

 

 

「一旦これで提出してこよう。

 

細かいところは私が適当に考えておいたから、通ってからまた考えるとしよう」

 

 

そう言って薫は部室を後にする。

 

 

「会長が……会長らしいことをしている……!?」

 

 

「いや、広瀬君?

 

会長は普段からわりと会長らしいことしてるよ?」

 

 

思わず漏らした明彦の驚愕の言葉に、雪菜は薫を不憫に思いながらツッコミを入れる。

 

 

 

「通ったぞ!」

 

 

薫がそう言いながら勢いよく部室のドアを開けたのはそれから数分後の事だった。

 

文化祭について談笑していた最中に投げ込まれたその言葉は部員達、特に誠を驚かせた。

 

 

「いや、なんで先輩俺よりも驚いてるんですか……」

 

 

驚きと呆れが入り雑じった様子で明彦が言う。

 

 

「マジで通るとは思わなかった……

 

まさか文化祭の出し物までフリーダムとは……」

 

 

「やっぱり本気じゃなかったんじゃないですか!」

 

 

驚愕した様子の誠に、明彦が怒りを露にさせる。

 

 

「でっ、でもこれで文化祭なにするのかは決まったんだよね? 」

 

 

「ああ、そうだ」

 

 

ホッとした様子で尋ねる美華に、薫が力強く答える。

 

 

「ただ……これは私の意見なんだが、先程冬野くんが言ったようにこれでは我々ニコ研の発表とは言えないと思うのだ。

 

故にこれを土台として+αなにかしたいと思う」

 

 

薫はそう言うと眉間に皺を寄せ、小難しい表情を浮かべながら考えるようなポーズをとる。

 

 

「例えば……そうだな、広瀬君に相談したことと広瀬君のアドバイスを分析して今後の進路を助言してみたり……」

 

 

(いや、会長固い固い!

 

ありがたいかもしれないけど面白みゼロ!)

 

 

表情を曇らせる明彦を他所に薫は更に言葉を続けていく。

 

 

「あと……相談者をもてなすために飲み物を提供するとか……」

 

 

「おお、喫茶店ですか。

 

いいですね!」

 

 

先程の案とは一風かわって文化祭らしくなった薫の案に、明彦が嬉々として同調する。

 

 

「人生相談喫茶……」

 

 

美華がボソリと呟く。

 

 

「なんかスッゴいつまんなそう……!」

 

 

それを聞いた雪菜が衝撃を受けた様子で言葉を漏らす。

 

 

「光と闇のコントラストが凄まじいな……」

 

 

奏もそう言いながら表情を陰らせる。

 

 

「喫茶店か……面倒臭いな……」

 

 

「いや、先輩のそれはただの 願望ですよね?」

 

 

“人生相談喫茶”というワードに対する感想に混じってさらりとやる気のなさをアピールする誠に明彦が呆れ気味に言う。

 

 

「う~ん 、喫茶店はなんか評判悪いですね……

 

良いと思ったんですけど……」

 

 

「広瀬君の場合服装とか目当てでしょ。

 

なんかメイドさんみたいなの想像してたんじゃないの?」

 

 

残念そうに言う明彦に、雪菜が意地悪そうな声音で尋ねる。

 

 

「ばっ、そんなんじゃねぇよ!

 

ただ単に喫茶店って文化祭じゃベターかなって――」

 

 

そこまで言って明彦は次の言葉が出せなくなった。

 

雪菜の言葉のせいか、ほぼ無意識に雪菜のメイド姿を想像してしまい、明彦の顔が真っ赤に染まる。

 

 

(やばい……!!

 

超可愛い……!!)

 

 

思わず雪菜から顔を反らし、にやけてしまった口元を手で抑える明彦。

 

 

「どうしたの……?」

 

 

雪菜が不思議そうに明彦に尋ねる。

 

 

「いっ、いや、なんでもない……」

 

 

慌てて気分を落ち着かせ、平然を装って明彦が答える。

 

 

「もしかして、想像してたの?」

 

 

「いっ、いやべつにそうゆう訳じゃ……」

 

 

普通に戻っていた明彦の顔に再び朱の色が滲む。

 

 

「想像してたんだ……」

 

 

雪菜が明彦の瞳を覗きこむように顔を近付ける。

 

 

「いやっ、その……」

 

 

吸い込まれるように美しい雪菜の栗色の瞳に、明彦は思わず言葉を詰まらせる。

 

 

「とっ、兎に角他の案を考えないとですね!」

 

 

今にもピンク色のオーラが見えてきそうな二人の間に割って入るが如く奏が声を上げる。

 

 

「そっ、そうだね!

 

人生相談喫茶ってなんか微妙だもんね!」

 

 

美華も必死な様子で奏に続く。

 

 

「ああ、はい。

 

そうですね……」

 

 

そう言って顔を雪菜から背ける明彦。

 

それを見た奏と美華が安堵のため息をつく。

 

 

「みんなでできる方が良いんですよね……?」

 

 

明彦は薫に顔を向けてそう尋ねる。

 

 

「そうだな……

 

やはりそっちの方が部の発表としては好ましいだろうな」

 

 

「そうですか……」

 

 

明彦の返答を皮切りに一同は暫しのシンキングタイムに入る。

 

やはり明彦が人生相談的な事をしつつ他の部員達が活躍するというのは難しいのだろう、いつまでたっても沈黙を破ろうとするものは現れない。

 

次第にもう人生相談喫茶でいいんじゃないか?という雰囲気が漂い始める。

 

 

「あっ、そうだ会長」

 

 

そんな中、とうとう明彦が沈黙を破る。

 

 

「みんなが交代で俺と一緒に人生相談的な事をするってどうですか?」

 

 

べつにこのまま人生相談喫茶になっても良いのだが、考え付いた意見を黙ったままにするのも、このまま重い沈黙の中にいるのも明彦には心地よくなかった。

 

 

「うむ……確かにそれならば部員全員の評価になるかもしれんが……」

 

 

薫は明彦の意見を肯定しつつも不安を拭いきれないといった様子であった。

 

 

「なにそれ、超面倒臭そう……」

 

 

「先輩はちょっと黙っててください……!」

 

 

早くも愚痴を溢す誠に明彦が釘を刺す。

 

 

「どうですか、会長……」

 

 

「そうだな……私はべつに構わんが……みんなはどうだ?」

 

 

「う~ん……」

 

 

「しっ、知らない人と……話す……!」

 

 

「大丈夫かな……」

 

 

薫の問に、奏と美華と雪菜が不安そうな表情を浮かべる。

 

 

「だろうな……

 

私もそれを危惧していたのだ……

 

部内では大方のコミュニケーションをとれる我々だが、果たして見知らぬ相手と上手くそういった事が出来るのかと……」

 

 

薫のその言葉を聞いた瞬間明彦の中で変なスイッチが入る。

 

 

「それで良いんですか会長!!」

 

 

明彦は机を叩いて勢いよく立ち上がる。

 

 

「どっ、どうした……?

 

広瀬君……」

 

 

突然雰囲気の代わった明彦に、思わず薫がたじろぐ。

 

 

「どうしたもこうしたもありませんよ!

 

なんなんですかその弱腰は!

 

俺達はなに部ですか!?

 

人間関係及び対人コミュニケーション研究会じゃないんですか!

 

それなのに他人とコミュニケーションがとれるか不安なんて泣き言を言って逃げるんですか!?

 

文化祭で俺達の――いや、先輩達の努力の成果を見せるんじゃないんですか!?

 

確かに俺達はコミュニケーションを取るのが下手かもしれません。

 

でも、そんな俺達があまり関わったことのない人や他人とコミュニケーションをとれるようになったところを見せる。

 

これ以上の活動実績の証明はありますか!?

 

なにを怖じ気づいているんですか!

 

時は来たんです!

 

俺達の努力の成果をみんなに見せつけてやろうじゃないですか!」

 

 

明彦は拳を握り締めながら熱く言い放つ。

 

そして我に返る。

 

しんと静まり返った部室。

 

唖然とする部員達の面々。

 

困惑した部員達の雰囲気が伝わり、明彦の顔が徐々に青ざめていく。

 

 

(やっべぇ……

 

な~に言ってんだ俺……)

 

 

明彦は取り敢えず静かに椅子に座る。

 

 

「広瀬君……」

 

 

「はっ、はい!?」

 

 

薫が呟くように明彦を呼び、明彦が緊張した様子で応える。

 

 

「私は……

 

私は……」

 

 

俯きながら肩を震わせている薫。

 

怒っているのか、はたまた笑っているのか、明彦の表情が緊張の色に染まる。

 

 

「感動したぞ!」

 

 

(え……?)

 

 

涙を流しながらそう宣言する薫に、一瞬明彦の頭の中が真っ白になる。

 

 

「いやはやなんて素晴らしい意見なんだ。

 

まさか君がそれまでにこの部の事を考えてくれていたとは……

 

全くもって君の言う通りだ!

 

うぬ、今すぐ変更点を報告しにいかなくてはな!」

 

 

まるで先程の明彦の熱気が移ったかのような熱い口調でそう言った薫は意気揚々と部室を飛び出す。

 

薫が去り、なんだかよく分からない雰囲気に満たされる部室。

 

そんな妙な沈黙の中、明彦が口を開く。

 

 

「なんか……これでよかったのかな……?」

 

 

「…………よかったんじゃない……?」

 

 

疲労と困惑が入り交じった様子で雪菜が応える。

 

 

 

 

 

 

「結局人生相談所に決まっちゃったね」

 

 

あのあと薫が帰ってきてから部活は解散となった。

 

その帰り道、寮へ向かう途中で雪菜が言う。

 

 

「そうだな……」

 

 

隣を歩く明彦がため息混じりに応える。

 

 

「本当によかったの?」

 

 

雪菜が心配そうに明彦の顔を覗き見る。

 

 

「まぁ他に意見もなかったし……

 

何よりニコ研のためだからな」

 

 

明彦はやれやれといった様子で答える。

 

 

「あんまり無理はしないでね?

 

ほら、広瀬君だけずっと当番でしょ?」

 

 

「そんな辛い仕事でもないだろうし大丈夫だろ。

 

って言うか俺としてはお前らとか先輩達の方が不安なんだが。

 

草苅先輩の時に女の人とか来たらマジで最悪」

 

 

「そうゆうことを考慮して会長も悩んでたんだろうね」

 

 

「だろうな」

 

 

「でも私頑張るよ」

 

 

雪菜が僅かに視線を上げてグッと拳を握る。

 

 

「さっき広瀬君が言ってたみたいにニコ研のためだもんね。

 

それに、広瀬君がいてくれるからきっと大丈夫」

 

 

雪菜は頬を僅かに朱に染めながら明彦を見る。

 

 

「そう言ってもらえると有り難いよ」

 

 

明彦は微笑みながらそう応え、二人は寮の中へと消えていった。

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