斯くして大激論(?)の末広瀬明彦と愉快な仲間達による人生相談所に出し物が決まったニコ研。
早くもその次の日から準備は始まった。
「いや、機材の調達って……
もしかして磨りガラスとかボイスチェンジャーとか持ってくるんですか……?」
やる気に満ちた声音で機材の調達を申し出る薫に明彦が困惑した表情を浮かべる。
「うむ、相談者のプライバシーは守らなければならないからな」
「文化祭ごときでそこまでマジにやらなくても……」
奏が呆れ気味に呟く。
「ごときとはなんだごときとは!
「何事をなすにも取り敢えず全力」とお母様も言っておられた。
しかも今回はニコ研の存続がかかってるのだぞ!?
尚更本気にならなければならんだろうに!」
「えっ、あっ、はい……すいません……」
軽い気持ちで発言した事に対し結構な勢いで叱らた奏は、驚いた様子で弱々しく謝罪する。
「でっ、でもそのお金どうするの?
私達って部費が少ない上にこの前の合宿で殆んど使っちゃったでしょ?
そんな高そうなの買えそうには……」
「うむ、そこなのだ」
美華の問いに薫は深く頷いて言葉を紡いでいく。
「残念ながら私達の資金力は非常に乏しい。
しかし、だからといって悲観することはない。
「ピンチの時こそプラス思考」これもお母様の御言葉だ。
即ち――」
「盗むのか」
薫の言葉を遮るように誠が呟く。
「いや、それのどこがプラス思考なんですか先輩。
犯罪ですよ犯罪」
それに対して明彦が呆れた様子で言う。
「いいや、違うぞ草苅君。
つまり私が言いたいのはお金がないならお金を使わないようにすればいいということだ 」
「何処かから借りるってことですか?
それとも作る……とか?
どちらにせよお金が掛かる気が……」
雪菜が不安そうな表情を浮かべる。
「ふっふっふ、甘いな冬野君。
確かに他の所から機材を借りたり、自分達で材料を集めて作ったりするのは時間が掛かる。
だかしかし、機材を借りる場所がこの学校内だったらどうたろうか!」
「そうか、学校から借りればお金は掛からない……!」
バーンと効果音が聞こえてくるような勢いで言い放たれた薫の言葉に、思わず雪菜がハッとしたような表情を浮かべる。
「……って学校にそんなのあるんですか?」
が、直ぐに冷静になってその疑問に行き着く。
「…………」
「…………?」
まるで凍りついたかのように突然黙りこむ薫に、雪菜や部員達が不思議そうな表情を浮かべる。
「どうしたんですか?」
「いやっ、その、あれだ。
ボイスチェンジャーは放送室にある……かもしれないし……
磨りガラスも最悪廃材からガラスを拾ってきて適当に傷を付ければ……」
「要するにそこまで考えてなかったんすね……」
奏はどんどん尻すぼみになっていく薫の言葉に、やれやれとでも言いたげな表情を見せる。
「うぅ……面目無い……」
「とっ、取り敢えずやれるだけやってみようよ。
もしかしたら放送室にボイスチェンジャーとか本当にあるかもしれないし、磨りガラスだってもしかしたら余ってるかもしれないよ?」
「それもそうですね」
そんな訳で一行は幻の秘宝“ボイスチェンジャー”と“磨りガラス”を探すために校内を練り歩くのであった。
が、
「まぁそう都合よくはいかねぇよな……」
部室に戻って来るやいなや奏が残念そうに呟く。
「漫画とかだったらこうなんかいい感じに機材が揃ったりするんすけどね……」
「広瀬君、それは言っちゃダメだよ……
漫画は漫画だから……」
思わずぼやく明彦に美華が言う。
「よお、遅かったな」
ぞろぞろと部室に入ってくる部員達を見ながら誠が軽い口調で言う。
「いや、先輩も探してくださいよ……
なんかいないなぁって思ったら、もしかしてずっとそこにいたんですか……?」
明彦が疲労した様子で尋ねる。
「ん?
まぁな。
めんどくせぇし」
「そんなこと言わないでください。
この問題はニコ研全体の問題なんですよ?
それは先輩だって例外じゃないはずです」
雪菜が諭すようにそう言うが、 誠は返事をしない。
「……広瀬君、お願い」
苛ついた様子で雪菜が明彦に後続を任せる。
「先輩、聞こえてると思いますから二度は言いませんけど、冬野の言う通りですよ?
先輩だってニコ研の一員なんですからもう少し――」
「知るか」
明彦の言葉を遮るように誠が冷徹な一言を言い放つ。
「そもそも俺は担任に半強制的に入れられた人間だからな。
ニコ研が無くなろうとどうなろうと知ったこっちゃねぇ」
「草苅君……!
君はなんて事を……!」
珍しく薫の声色に怒りの色が混じる。
「でもまぁ、今更そうゆう訳にもいかねぇしな。
ここが潰れたら俺はこまんねぇけどお前らは困るだろ?
だからちょいと調べものをな。
大体俺この学校にそんなものないの知ってたし」
「いや、だったら早く言ってくださいよ……
ってかなんでわざわざ喧嘩売るようなこと言ったんですか……?」
今までの疲れが数倍になってドッと押し寄せてくる。
全くもって誠の思考は理解不能である。
「で、なにを調べてたんですか?」
明彦がそう尋ねると、誠は無言でパソコンのディスプレイをこちらに向ける。
そこにはヘリウムガスがずらりと並んでいた。
「そんでこれも」
誠がそう呟きながらインターネットの別のタブをクリックすると、今度はバラエティーやらパーティーやらで時たま見かける動物の頭部を模したマスクが沢山表示される。
「えと……先輩?
これを……何に……?」
明彦が引き攣った表情で尋ねる。
「これで顔と声は解決だ。
値段も残りの部費で収まる範囲だしな」
「え?
それ本気で言ってますか……?」
「ああ、おおマジだ」
酷く困惑した様子の尋ねる明彦に対し、平然と答える誠。
「どっ、どうします?
会長……」
明彦は錆びたブリキの人形の様にぎこちなく薫に顔を向け、恐る恐る尋ねる。
「なにを言っている。
そんなの――」
「ですよね、ないですよね」
なんだか重苦しい雰囲気を漂わせる薫に、明彦は安堵の表情を浮かべる。
「いいに決まってるじゃないか」
((((え……!?))))
物凄く言い笑顔でグッと親指を立てる薫に、薫と誠を除いた全員の表情が固まる。
「いや、あの……会長?
あれやるくらいなら普通になにもしないでやった方が……」
「そっ、そうですよ。
あんなの着けて人生相談なんか完全に怪しい宗教団体じゃないですか……」
雪菜が眉を八の字に曲げながら言う。
「薫ちゃん、一回落ち着こ?
ね?」
美華も困った表情で薫を止める。
「そっ、そうっすよ。
まだ他にも方法がある筈ですよ」
奏も表情を僅かに青くさせて薫の制止を試みる。
「うむ……確かにそうだな……
私は少し熱くなりすぎていたのかもしれないな」
その言葉を聴いて四人は安堵の表情を浮かべる。
「大事なのは形じゃない。
様は顔や声の問題を解決できればそれでいいのだ」
なんだか雲行きが怪しくなり、明彦達の表情が強ばっていく。
「実は私も少しためらっていたのだが……
これで踏ん切りがついた!
草苅君の案を採用する!」
((((ええ゛ぇぇぇぇぇ!!??
なんでそうなった!!??))))
―文化祭当日―
「これ……本当にかぶんの……?」
明彦はゴム質の狼のマスクを持ちながら嫌そうな表情を浮かべる。
「嫌だったら被んなくてもいいけど……
変な事言ったりしたとき本人割れしてると色々とめんどくせぇぞ?
あと、お前の言った通りにやったのに上手くいかなかったとか言われたりな」
今は長机が横に一つだけ置かれた部室で誠が応える。
「えっ、なんすか……?
これってそんな危険なお仕事なんですか……?
ってかこの学校の生徒だったら即ばれじゃないですか」
「安心しろ、この部はこの学校じゃ空気だ。
実態を知るやつなんて殆んどいねぇ。
ってか部活棟の三階自体空気過ぎて人来ねぇから。
あとまぁさっきの話はそうゆうやつも世の中にはいるから予防しとくに越したことないって意味だ。
頭にいれておくだけでいい。
あんま深く考えるな」
「はあ……」
不安や呆れ、その他諸々が入り雑じり、なんだか複雑な心境になった明彦は手にある狼のマスクに視線を向ける。
「大丈夫だよ広瀬君。
頑張ろ」
一番最初の当番である雪菜が明彦の肩に手を置く。
「冬野……」
明彦が振り替えると、そこにはライオンのマスクを被った雪菜がいた。
「お前……順応早いな……」
それを見た明彦が表情に影を落とす。
「客用のマスクは外に馬と鹿のを用意しといたから。
使い終わったら同じく外にあるリ○ッシュかけとくように言ってくれ」
「いや先輩、マスクのチョイス……
ってかなんで草食と肉食に分けたんですか……?」
「偶然だ偶然。
そっちの方が面白そうだとか全然思ってないから」
「先輩、隠す気無いですよね……?」
「まぁそれはおいといて、パーティー用のヘリウムガスの予備はそこの段ボールの中に 入ってるから。
大量に」
ジトッとした視線を向ける明彦を無視して誠は自分の足元に置いてある段ボールを踵で突っつく。
「だから使いたかったらお前らも使っていいぞ」
「はあ……」
多分使わないよな……と思いながらも適当に明彦が返事を返す。
「んじゃ、説明は終わったから他のやつらにはお前が説明してやれ」
「はい、分かりました」
明彦の返事を聞き、誠は教室をあとにする。
「……なんか、やけに先輩協力的だよな?」
明彦は誠が去っていった部室の入り口を見ながら後ろにいる雪菜に意見をあおぐ。
明彦は誠の態度になんとなく嫌な予感というか気持ち悪さを感じていた。
「ソウダネ」
「お前……今ヘリウム吸ってただろ……」
もうなんだかそんな違和感などどうでもよくなってしまった明彦は振り返らずに呆れたような声をかけるのであった。