『皆さん、大変長らくお待たせいたしました。
本日、現時刻をもちまして自由ヶ原高校文化祭、フリーダムフェスティバル(通称フリフェス)を開催いたします!』
そんな放送があってからはや数十分。
「お客さん来ないね……」
「そうだな……」
部室の扉を開くものは誰一人としていなかった。
「なんか拍子抜けだな。
このまま誰も来ないで冬野の番終わんじゃねぇの?」
「そうかもね」
二人は部室の扉を見つめながらふぅと溜め息をつく。
「広瀬君……」
「どうした?」
思い出したように雪菜が明彦の方へ顔を向ける。
「いま、二人っきりだよね……」
「えっ、ああうん。
そうだけど……」
突然の質問に明彦は戸惑いながら答える。
「誰も、見てないよね?」
「ああ、多分……」
「あのね……お願いがあるの……」
雪菜は下からのぞき見るように明彦の顔を見つめる。
「なに?」
周りを警戒した様子の雪菜に少しの疑問を抱きながら明彦が応える。
「あの、その……付き合ってほしいの……」
その言葉を聞いた瞬間明彦の思考が一瞬にして固まる。
(えっ、ええ゛ぇぇぇぇぇ!!??)
「いやっ、ちょっ、お前……
だって正式に友達になってからまだそんな経ってないし……
いや別に冬野がいいなら全然いいんだけどさ……」
待ちに待ったいた言葉を聞けた喜びと、「友達からお願いします」と言われたにも関わらずこんな数ヶ月でそこまで発展するのかという驚きと不安により明彦の言葉がしどろもどろになる。
「っていうか…… 」
明彦は恥ずかしさのあまり適当な場所を泳がせていた目を雪菜の顔に向ける。
「そうゆう事はマスクとって言えよ……」
「あっ、うん……そうだね。
ごめん……」
雪菜はそう言ってライオンのマスクを外す。
(冬野のって告白するとき雰囲気とか考えないのかな……?
それとも恥ずかしかったからとか……?)
明彦は狼のマスクを外しながらそんな事を考える。
後者だったら大変可愛らしいのだが、前者だった場合、なんというか非常に残念な感じである。
(まぁどちらであっても嬉しいことに違いはないんだけど……)
「やっぱり、まだ早いかな……笑顔の練習に付き合ってもらうの……」
雪菜がライオンのマスクを両手で弄りながら残念そうに呟く。
「えっ……?」
再び真っ白になる明彦の思考。
「えっ、笑顔の……練習……?」
明彦は絞り出すように雪菜の言葉を確認する。
「うん。
私だって笑いたいときは素直に笑いたいの。
まだ人前じゃ無理かもだけど……少なくとも広瀬君と二人っきりの時はそうしていたい……」
雪菜は頬を朱に染め、恥ずかしそうに明彦を見つめながら両手の指と指を合わせる。
「だから……その、私が上手く笑えるように広瀬君に手伝ってもらおっかなって……
こうゆうこと広瀬君にしか頼めないし……」
「はぁ……」
期待や緊張が一気に打ち砕かれ、明彦の口から思わず溜め息が漏れる。
「ごっ、ごめん……
その、迷惑……だよね……?」
それを見た雪菜がしょんぼりした様子で言う。
「いっ、いやいや違う違う。
全然嫌じゃないよ」
ハッとした様子で明彦が慌てて彼女の言葉を否定する。
「本当……?」
今だ不安そうな表情ではあったが、雪菜の顔が明るくなる。
「ああ、俺でよかったらいくらでも付き合うよ」
「うん、ありがとう広瀬君!」
明彦が微笑みながら差し出した手を雪菜が嬉しそうに両手で掴む。
しかし、それでも雪菜は笑わない。
口元がほんの少し緩むだけで、その顔は笑顔と呼ぶにはままだ程遠いものだった。
それを見て、明彦は雪菜の笑顔を見たいと再び強く思うのだった。
「あっ、あの……広瀬君……?」
「なに?」
気付くと顔を真っ赤にさせている雪菜に、明彦が不思議そうに尋ねる。
「ちょっ、ちょっと……顔……見過ぎ……」
どこに視線を置けばいいのか分からずあちこちに視線を飛ばす 雪菜。
「あっ、ごっごめん……」
ついまじまじと雪菜の顔を見つめてしまった明彦は、彼女と同じく顔を朱に染めて顔を逸らす。
「あっ、ううん、いいの……私こそ、ごめん」
二人はお互い部室のドア側に体を向けて俯く。
なんとなく気まずく、しかし居心地のいい沈黙が二人を包む。
雪菜は恥ずかしさからか、膝の上に置いていたライオンのマスクをいそいそと被る。
(しかしかなぁ……)
その姿を微笑ましく思いながら明彦はそう物思いに耽る。
(“付き合う”って単語に過剰反応して勘違いするなんてな……
漫画じゃねぇんだから……
ってあれ?
漫画みたい……?)
明彦はそこである可能性を見出だす。
今まで雪菜は漫画等に有りそうな台詞を知ってて言ってみたり、そう言ったシチュレーションに食い付いたりしていた。
過去を思い出してみると、明彦はたまにそういった雪菜の言動でからかわれた事が何度かあった。
もしかしたら今回も敢えて“付き合う”という単語を先に出して自分の動揺を誘ったのではないか。
明彦はそう考えたのだ。
「もしかして……わざとだったのか……?」
「なにが?」
思わず吐露してしまった明彦の言葉に、雪菜がキョトン とした様子で応える。
「ああいや、なんでもない……」
(まぁ流石にあんな真面目な話でふざけたりしないだろ……)
そう思いながら明彦が狼のマスクを被る。
すると、勢いよく部室のドアが開かれ、馬のマスクを被った人物が現れる。
恐らく客人第一号なのだろうが、その光景はなんともシュールなものであった。
体型からして女性であろう。
「どうぞ、そちらにお掛けください」
ゆっくりとこちらに向かってくるその女性に明彦が手を伸ばして正面の椅子を示す。
女性は特に反応を見せず、明彦に指示された通りに正面の椅子に座る。
「ねぇ雪菜、その隣の狼くんは広瀬君?」
少しの間があってからなんとなく聞き覚えのある声が放たれる。
あまりに唐突な質問に咄嗟に回答が出来ない二人。
「……?
ああ、はいはいそうゆうことね」
女性は不思議そうに首を傾げると、納得した様子で何度か頷く。
「マスク被ってたから分からなかった?
私よ、冬野萌。
雪菜のお姉ちゃんよ」
「ワッ、私雪菜ジャナイヨ~」
「声を変えてもダメよ。
雪菜はいっつもその格好なんだから。
服装でバレバレよ」
ヘリウムガスを吸った雪菜の声にも動じず対応する萌。
素性があっさりとばれて諦めたのか、雪菜が不満気に被っていたマスクを外す。
「っていうかなんでマスク被ってるんですか……?
別に顔隠す必要なかったじゃないですか……」
「えっ、これ被んなくてもいいの?
なんか入り口に仰々しく置いてあったから被らなきゃいけないものなのかと……」
「べつに強制じゃないですよ。
顔見せたくない人用のマスクですから」
そう言って明彦は狼のマスクを外す。
「え?
じゃあ一緒に置いてあったリ○ッシュも?」
萌も馬のマスクを外して膝の上に置く。
「え?
いや……何に使ったんですか……それ?」
「体を清めてから入んないといけないのかなって……
取り敢えず全身に満遍なく吹き掛けたよ」
(ああもう本当に変わってんなこの人……)
「あれ、使い終わったマスクに掛けるやつですから……」
明彦は内心そう思いながら引き攣った笑顔を見せる。
「へぇ、そうだったんだ」
「で、今日はどういった用件ですか?
外にも書いてあったと思いますけど、一応俺達人生相談的な事今してるんですけど……」
人生において一片の曇りも無さそうな萌に、明彦が探りを入れるように尋ねる。
「特にないわよ 」
「……え?」
即答でそう言った萌に明彦は思わず呆けた表情を浮かべてしまう。
「だって私雪菜の様子見に来ただけだもん」
「はあ……」
「雪菜ったら酷いのよ?
最近全然電話もメールもしてくれないし……
もう私雪菜がちゃんとやっていけてるか心配で心配で」
それを聞いた雪菜は申し訳なさそうに小声で唸りながら俯く。
「ちょっと前まではいっつも広瀬君が広瀬君がって電話で話してくれたのに……」
「ちょっ、お姉ちゃん!」
溜め息混じりに放たれた萌の言葉に、思わず雪菜は机から身を乗り出す。
「いいじゃない、本当の事なんだから」
「そっ、そうだけど……!」
思わず自分からその事実を肯定してしまった雪菜はハッとした様子で横の明彦に視線を向ける。
明彦の顔はこれ以上ないほどに緩みきっており、見るからに嬉しそうな表情を浮かべていた。
「そんな幸せそうな顔すんな!」
「ぶへっ!?」
恥ずかしさのあまり雪菜の平手が明彦の頬を打ち抜く。
「あっ、ごっごめん……つい……」
「いやいや、仲良さそうで安心したよ」
痛そうに頬を押さえる明彦と罪悪感と羞恥心の混在した混沌の仲に居る雪菜を他所に萌が嬉しそうにそう言う。
「やっぱり、雪菜が私に連絡とらなくなったのはそういう事なんだね。
ありがとう広瀬君。
ちゃんと、私からの無茶ぶりを最後までやり遂げてくれたんだね」
萌は安堵の、しかしどこか寂しさも含まれている優しい笑みを浮かべる。
「いっ、いえ……そんな……」
唐突に礼を言われ、戸惑った様子で明彦が応える。
「やっぱりなんかちょっと寂しいね……
いつかはこんな日が来るって……ううん、来なきゃいけないって思ってた。
私がいなくても雪菜が平気に、普通に暮らせるようなそんな日……」
「お姉ちゃん……?」
どこか遠い目をする萌に、雪菜が怪訝そうな表情を見せる。
「もう、私はお役目ごめんかな……
雪菜はもう私がいなくても大丈夫そうだし……私、少し遠くに行こうと思うんだ」
「そんな……なんで……?」
「しょうがないの……これが私の仕事だから……」
萌はそう言って静かに席をたつ。
そして、おもむろに部室のドアへ向かって歩いていく。
「待ってよお姉ちゃん!
行かないで!」
堪らず雪菜は萌の背中を追い掛け、背中から姉を抱き締める。
「遠くって……どこに行っちゃうの……?
もう会えないくらい遠いところなの… …?
お姉ちゃんの仕事ってなんなの……?」
雪菜は納得いかないといった表情で静かに、しかし捲し立てるように尋ねる。
「大丈夫、二泊三日で札幌に取材しに行くだけだから」
たった一言で雪菜の問い全てに答える萌。
「え……?
お姉ちゃん……今、なんて……?」
雪菜は訳がわからないといった様子で自らの姉を見つめる。
「ん?
仕事の都合で遠くに行くんだよ?」
((まっ、紛らわしい言い方すんなぁぁぁぁぁ!!))
明彦と雪菜が同時に心の中で叫ぶ。
「もぉお姉ちゃんのバカバカ!
なんですぐそう言わないの!?
ほんとに不安だったんだから!」
雪菜が目尻に涙を浮かべなからポカポカと萌の背中を拳で叩く。
「あはは、ごめんごめん。
普通に言うよりもこっちの方が面白いかなって……」
「面白くない……」
雪菜が表情に影を落としながら今までよりも強く背中に拳を打ち込む。
「うん……ごめん……」
溢れ出る雪菜の殺気に萌の顔が青くなる。
結局萌はそれを伝える事が一番の目的だったらしく、その場を適当に納めて去っていった。
(全く……私もそろそろ妹離れしないとな……)
萌はそう思いながら部室棟の廊下を歩く。
(いい友達が出来てよかったね……雪菜……)
ニコ研の部室を一瞥して萌が微笑む。
「もぉ、ほんとにお姉ちゃんは人騒がせなんだから」
萌を見送った雪菜はそうぼやきながらどかっとパイプ椅子に腰を落とす。
「まあまあ、あの人も寂しかったんじゃないの?
毎日連絡してたんでしょ?
それが突然無くなったら寂しくもなるって」
「そうかもだけどさ……
お姉ちゃんの悪戯は毎回度が過ぎるんだよ」
明彦が宥めるも、雪菜は不満そうに口を尖らせる。
「冬野ってさぁ……」
「なに?」
「お姉さんの話になると表情が豊かになるよな」
「そう……かな……?」
雪菜は両手で僅かに朱に染まった頬をふにふにと弄る。
「なんか……表情って難しいね……
こうやって意識してないと色々と出来るのに、意識すると上手く出来ないんだ……
本当は広瀬君の前でもいろんな顔を見せたいのに……」
「バーカ」
悲し気な声で言う雪菜に、明彦は一言そう告げた。
「元々表情なんて意識して作るもんじゃねぇんだよ。
もっといろんな事経験してさ、頭空っぽにして楽しんでたらいいんだよ。
そうすりゃきっと表情なんて幾らでも作れるよ。
意識なんかしなくてもね」
「広瀬君……」
雪菜の顔がどこかスッキリしたような表情になる。
「うん、そうだね……
ちょっと難しく考えすぎてたみたい。
でも―-」
雪菜が明彦の方へ体を向ける。
「笑顔の練習には付き合ってもらうからね」
口元だけを吊り上げる雪菜。
これが今彼女の出来る最大級の笑顔だった。
そして、最近よく雪菜はこの表情になる。
笑う事に対しての抵抗が薄れてきているのであろう。
「うん、いつでも付き合ってあげるよ」
このまま自然な笑顔を見せられるようになればいいなという思いも込めて、明彦は雪菜に微笑み返す。
「すいません、入っていいですか……?」
丁度その時ドアをノックする音が鳴り、その後に女性の声が聞こえた。
「はい、いいですよ」
雪菜と明彦は慌ててマスクを被り、そう答える。
すると、ゆっくりとドアが開かれ、恐る恐る一人の女性が部室の中へ入ってきた。
体型を見る限り恐らくこの学校の生徒であろう。
しかし、その女子生徒は普通ではなかった。
「あっ、あの……それはいったい……」
明彦が困惑した様子で尋ねる。
なんとその女子生徒、美術部がデッサンに使ってそうな大きな牛の頭蓋のようなものを被っていたのだ。
「あっ、これですか?
自分達の部活のをそのまま着けて きたんですよ」
顔は見えないが、恐らく笑ってるのだろう。
にこやかな口調で彼女は答える。
(いや……貴女なに部ですか……?)
明彦はマスクの内側で表情に影を落とす。
「で、なんのご用ですか」
雪菜が愛想のない声で問う。
「ええ、はい。
実は私が所属する魔術研究会が今廃部の危機に瀕してまして……
同じく廃部の危機に陥っているという人間関係及び対人コミュニケーション研究会の方にアドバイスでもいただけたらなと……」
「広瀬君、あいつ微妙に失礼」
「うん、そういうのは俺だけに聞こえるように言おうな」
「失礼なの否定して!」
少女は心外そうにツッコミを入れると、気を取り直して言葉を続ける。
「まぁでもそうですね……
今日はそう言われる事を覚悟してここへ着ました」
彼女も自分の所属する部活を守ろうと必死なのだろう。
その真剣な眼差しは厳つい牛の頭蓋越しからでも感じられた。
「失礼を承知でお願いします!
貴方達みたいな本当になにしてんのか分かんない空気な部活が今までどうやって生き延びて来たんですか!?
教えてください!
やっぱり生活指導の増田先生の圧力ですか!?」
「広瀬君、あいつ殴っていい!?」
「よし、 許可する」
「いやっ、ちょっ、待ってください!
ああっ、ライオンさんこっち来ないで!
すいません!
マジすいません!
お願いだからその振り上げた拳しまって!」
さながら猛獣のごとく迫る雪菜に、女子生徒が怯えた様子で必死に制止を試みる。
「やだ」
しかし、雪菜は無慈悲にもその言葉をたった二文字で一蹴する。
「しっ、失礼を承知でって言ったじゃないですか!
ぼっ、暴力反対ですよ!」
「あんたさぁ……
失礼を承知でって言えば人の顔面に糞投げつけても許されると思ってんの……?」
「冬野落ち着け!
今明らかに女の子がいっちゃいけないっぽい台詞言ったぞ!?」
背筋が凍るような恐ろしい声を放つ雪菜を明彦が慌てて宥める。
このままだとなんか凄惨な事件が発生しそうな勢いであった。
(冬野さんマジ怖いっす……)
女子生徒に舌打ちをした後すたすたと自分の横に帰ってくる雪菜に、明彦はマスクの内側で恐怖に震えていた。
「で、まぁ取り敢えず部活を存続させるにはどうすればいいかって質問でいい?」
「はい……」
先程までの明るさはどこへやら、すっかり借りてきた猫のように畏縮してしまっている女子生徒。
「やっぱり顧問の権力の差でしょうか……」
ガタッ―-
「はっ、はい!!
嘘です、冗談です!!
ごめんなさい、ごめんなさいぃぃぃ!!」
無言で立ち上がる雪菜に、異常なほどに怯える女子生徒。
(て言うかそれ、あんたらの顧問の先生にも大分失礼だぞ……)
「えと……この学校校則緩いからやることやってれば背部なんて事にならないと思うんだけど……
普段はどんな活動を?」
内心で魔術研究会顧問に同情しつつ明彦が尋ねる。
「魔術の研究です」
「具体的には?」
「魔術の研究です」
ガタッ―-
「なっ、なんで!?
私失礼なこと言った!?」
「今から辞書渡すから、それで具体的って言葉の意味調べな」
雪菜は鞄から取り出した辞書を片手に大きく腕を振りかぶる。
「待って待って!!
それ明らかに渡すときのモーションじゃないよね!?
違うんですよ!!
本当に私達の部活は魔術の研究しかしてないんですよ!!」
「例えば?」
女子生徒の必死の叫びが通じたのか、雪菜は一旦辞書を机の上に置いて話を聞こうとする姿勢を見せる。
「それは……言えません……」
「もしかして、とある機関に監視されてるからとか……?」
「なんでわかった んですか?」
キョトンとした様子でそう答える女子生徒。
(ダメだ……こいつ神崎と同じ臭いがする……)
「まさか……貴方関係者……?
それとも機関からの回し者か!?」
一気に面倒臭そうなオーラを放つ明彦を他所に、女子生徒が警戒した様子で身構える。
「いやいや、違うから……」
「なるほど、同業者の方でしたか。
これは失礼」
(なんか勝手に同じカテゴリーに分類された……!?)
「それだったら話してもいいかもですね」
そう言うと、女子生徒は被っている牛の頭蓋のようなものの口先に手を当て、僅かに声のトーンを落として続ける。
「私達の研究は基本的に魔法陣とかが主ですね。
この世界の人は、勿論私たちも含めて魔力が低いですから。
故に、魔法陣の研究をして魔法を使えるようにしようと……
あっ、因みに最近の目標は悪魔を呼び出すことですかね」
明彦はこの訳の分からない会話にどう反応すればいいものかと複雑そうな表情を浮かべる。
案外、予想に反して活動はしっかりとしているらしい。
一応。
「あ~えぇっと……今回の文化祭の出し物は……?」
戸惑いながらも取り敢えず明彦はそう尋ねてみた。
「悪魔召喚の儀式をしています。
私達が解説を踏まえ、悪魔が我が部室に出でる様を皆様にご覧にいれるのです」
成功するか否かとか、好きか嫌いかという問題はともかく発表の内容としてはそれほど悪くないと思い、明彦は少し驚く。
「去年は?」
「去年も一昨年も、私達の部は毎年これをしているそうです」
(多分毎年失敗してんだろうな……)
「毎年ちゃんと文化祭に参加してるのになんで廃部寸前なの?
部員が少ないから?」
明彦は同情するような表情を浮かべると、再び質問を投げ掛ける。
「いえ、部員はちゃんと規定人数以上います。
ただ……」
「ただ?」
女子生徒が言いづらそうに言葉を紡ぐ。
「文化祭での発表は人に見せられないからっていっつも生徒会に拒否されているんですよ」
「え?
じゃあ……」
「はい、一昨年も去年も今年も非公開にして自分達で勝手にやってます」
「いや……どう考えても廃部の理由それでしょ……」
何処と無く楽しそうな声音の女子生徒に対し明彦は呆れと困惑が入り雑じったような様子で呟く。
「うん……って言うか廃部の理由私達と一緒じゃん……」
雪菜もどこか拍子抜けした様子で呟く。
「おお、それはそれは。
是非ともアドバイスをお願いします」
「うん、文化祭でちゃんと発表しような」
「でも……中途半端な儀式じゃ成功なんて出来ませんし……
それに、生き血を出すために鳥の首落とす時とか盛り上がりますよ?」
「アウトォォォォォ!!!!」
当たり前のように首を傾げる女子生徒に明彦の叫びが部室に木霊する。
「お前ら馬鹿だろ!?
んなん拒否されるに決まってんだろ!!
どんだけグロテスクな事してんだてめぇら!!
完全に十八禁じゃねぇか!!」
「はい、問題解決。
帰って」
明彦とは対照的に冷徹な声音であしらう雪菜。
「えっ、ええ゛ぇぇぇぇぇ!?
酷いですよ!
まだ問題解決してないじゃないですか!」
「帰って。
後がつっかえてるから」
「いや、さっき来たときは人っ子一人居まんでしたよ!?」
「取り敢えず別の発表考えろよ……
勿論全年齢対象のやつな」
明彦が疲労感の籠った声で纏めるようにそう告げる。
「えっ、いや……でも……
はい……わかりました……」
いまいち納得していない様子ではあるが、女子生徒は素直に頷いて部室を後にする。
「なんか……疲れた……」
明彦が上半身を机に乗せて呟く。
「お疲れ様」
雪菜がそう言うとドアが勢いよく開かれる。
それを見て、明彦と雪菜は肩を跳ね上がらせて驚く。
そして、どんな人物が来ても良いようにと身構える。
「お~っす雪菜~!
繁盛してるか?」
部室に表れたのは奏だった。
「なんだ、神崎か……」
緊張の糸が切れた様子で明彦が言う。
「むぅ、なんだとはなんだ」
「神崎さん、なんの用?」
心外そうに頬を膨らませる奏でにマスクを取った雪菜が尋ねる。
「ん?
なんの用って交代だよ交代。
次は俺の当番だからな」
そう言われて雪菜は時計を見る。
確かに雪菜の担当する時間帯はもうすぐ終わりを告げようとしていた。
「っていうかこの学校の文化祭すげぇな!
マジで漫画みたいだ!
売店も一杯あるし、面白いこと目白押しだぞ!」
「本当?」
興奮した様子で語る奏の言葉に期待が膨らんだのか、雪菜の瞳がキラキラと輝き出す。
「おう、本当だぜ!
あっでも……」
奏はグッと親指を立てると、思い出したように残念そうな表情を浮かべる。
「でも?」
雪菜が続く言葉を催促しながら首を傾げる。
「そこにあった悪魔召喚の儀式とか見たかったんだけど開いてなかったんだ よな……
まだやってないのかな?」
「いや……神崎……そこはやめた方がいいと思うぞ……」
「うん……」
気の毒そうに言う明彦に、マスクを取った雪菜が頷いて同意を示す。
「え……なんで……?」