ニコ研!   作:増田 幹太

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「ふっふっふっ、この幻想世界に迷いし愚民どもよ!

 

なんでも聞くがよい……!

 

この俺様が華麗に対処して魅せようぞ!」

 

 

奏は勢いよく席から立ち上がり、バーンという効果音が聞こえてきそうな勢いでそう言い放つ。

 

 

「おい神崎……?」

 

 

明彦が呆れたような視線を奏でに向ける。

 

 

「まだ誰も来てないぞ……?」

 

 

「うん、練習」

 

 

ストンと椅子に腰を落としながら奏が応える。

 

 

「いや、お前失礼すぎるだろ……

 

意味不明だし……」

 

 

ますます呆れの色を濃くする明彦。

 

 

「甘いな明彦!」

 

 

「おっ、おう、なんだ?」

 

 

勢いよく反論され、明彦は思わずたじろぎながら応える。

 

 

「知ってた!」

 

 

「たち悪いなおい!」

 

 

「暇なんだよぉ~。

 

なんで客が来ないんだ」

 

 

明彦のツッコミを受け、奏はぐったりとした様子で机に突っ伏す。

 

 

「さっきもこんな感じだったからな……

 

お前の時間帯に人が来るかどうかも怪しいぞ?」

 

 

「マジか……!」

 

 

「ああ、マジだよ……」

 

 

愕然とした様子の奏でに、哀れみの念を込めて明彦が応える。

 

 

「ふああぁぁぁ~マジか~暇だ~」

 

 

奏は机に突っ伏したままバタバタと足を前後に動かす。

 

 

「ときに明彦。

 

お前、ぶっ ちゃけ雪菜とどうなの?」

 

 

思い出したように奏が突然真顔になる。

 

 

「どうって、どうゆうことだよ」

 

 

動揺した様子で明彦が聞き返す。

 

明彦の頬が僅かに朱に染まってるのを見て奏は少し大袈裟に溜め息をつく。

 

 

「そうゆうことだよ。

 

分かってんのに聞くな」

 

 

「別に……冬野とはただの友達だし……

 

一応……」

 

 

「お前なぁ、嘘はダメだろ嘘は。

 

文化祭の会議の時あんだけいちゃつきやがって……

 

絶対友達以上だろお前ら」

 

 

どこか残念そうに言う奏。

 

 

「嘘じゃねえよ……

 

ただ、俺が冬野に告って、そんで友達からお願いしますって言われたんだよ……」

 

 

明彦は恥ずかしそうに奏とは逆方向に顔を向ける。

 

 

「ふぅん……

 

やっぱり雪菜の事好きだったんだな……」

 

 

奏は頬杖を付いて部室のドアの方へ目をやる。

 

 

「うるせぇ」

 

 

明彦の頬により一層赤みが増す。

 

 

「俺さ……実はお前の事狙ってたんだぜ?」

 

 

「はぁっ!?

 

なっ、なんだよ急に!」

 

 

思わず奏の方へ顔を向ける明彦。

 

すると、奏の顔がすぐ近くにありった。

 

明るく快活な奏の性格をそのまま表したような大きくくりくりとした可愛らしい瞳。

 

それが今、真っ直ぐに自分の事を見つめていた。

 

 

「にひひひ、冗談だよ冗談 」

 

 

思わず明彦がドキッとしたところで奏が笑う。

 

 

「お前は俺の友達。

 

そんで、俺もお前の友達。

 

それだけでもう十分幸せなんだ。

 

だから、そんな感情ある筈ない」

 

 

奏の言葉にはどこか無理があり、まるで自分に言い聞かせるかのように聞こえた。

 

 

「お前……まさか、本当に……?」

 

 

「バーカ、冗談だっつってんだろ?

 

お前あれか?

 

どこぞの主人公気取りか?」

 

 

恐る恐る尋ねる明彦に、奏が軽い口調で応える。

 

 

「うん、ああそうだよな……

 

悪い」

 

 

明彦がそう応えると、部室のドアが数回ノックされる。

 

 

「おっ、客か!?

 

客が来たのか!?」

 

 

奏が興奮した様子でライオンのマスクを被る。

 

 

「どうぞ」

 

 

奏に倣って明彦も狼のマスクを被ってドアの外に居るであろう人物に声を掛ける。

 

 

「はい……」

 

 

馬のマスクを被って現れたのはまたまた女性であった。

 

この学校は服装も自由なので正直この学校の生徒かどうかは分からないが、ここに来るあたり恐らくこの学校の生徒なのだろう。

 

 

「ぷふふふっ……」

 

 

私服と馬のマスクとのアンバランスな感じが可笑しいのか、奏が静かに笑う。

 

 

「あっ、すいません。

 

そこにお掛けください」

 

 

マスクの下で軽く奏を 睨みなが明彦が言う。

 

 

「はい……」

 

 

奏の笑い声に気づいたのか、少女が困惑した様子で応える。

 

 

「で、何のご用件でしょうか」

 

 

少女が椅子に座り、落ち着いたところで明彦が切り出す。

 

 

「あの……なっ、なんでも相談していいんですよね?」

 

 

「おうとも、なんでも訊いてくれ!」

 

 

もじもじと尋ねる少女に奏が力強く言い放つ。

 

 

「はい。

 

じゃあ……恋愛の相談なんですけど……」

 

 

(恋愛関係か……なんか難易度高そうだな……)

 

 

わざわざこんなところにまで来る程だ、かなり深刻に悩んでいるのだろう。

 

これは慎重かつ丁寧に対処しなければと、明彦は身構える。

 

 

「あの……私、友達と同じ人を好きになっちゃったんです……

 

いや、その、別に横取りしたいとか本当はその友達のことが嫌いとかそう言う訳じゃないんです。

 

ただ、なんとなく一緒に過ごしてたら好きになってて……

 

だから、私悩んでるんです。

 

友達の為にスッパリと諦めるか、それともこのまま私の思いを貫き通せばいいのか……」

 

 

予め身構えていた明彦だが、想像を上回る相談内容の重さに思わず顔が強張る。

 

しかし、それ以上に心を乱している人物が明彦の隣に居た。

 

 

(おいおい、なんだこいつの質問……!!

 

まんま今の俺じゃねぇか……!!

 

いや、まぁ明彦は俺の友達だし?

 

うん、どっちかって言うとにてるって感じかな?)

 

 

心の平穏を保とうと必死に言い訳をしながら奏は散漫した思考を纏める。

 

 

(とっ、兎に角俺にとって答えづらい質問なのには違いねえ……

 

くそっ、いったいどうすれば……)

 

 

「おい神埼?」

 

 

「ひゃっ!?

 

なっ、なんだ?」

 

 

考え込んでいる途中で突然名前を呼ばれ、奏が肩を跳ね上がらせる。

 

 

「どうした?

 

珍しく女っぽい声出して……」

 

 

「おい、ぶっ殺すぞ……?」

 

 

失礼極まりない明彦の言葉に、奏は狼のマスクの口から手を突っ込んで明彦の両頬を思いっ切り指で押す。

 

 

「ふぁっ、ふぁい……すいません……」

 

 

「で、なに?」

 

 

明彦の顔から手を離して奏が尋ねる。

 

 

「いや、こういう場合他の女子だったらどうゆう風に考えるのかなって思って……」

 

 

明彦は乱れたマスクを整えながら言う。

 

 

「なっ、ななな……!!??」

 

 

奏の顔が真っ赤に染まる。

 

が、マスクのおかげでそれは周囲に気付かれることはなかった。

 

 

「ん?

 

どうした?」

 

 

密かにマスクに感謝する奏に明彦が尋ねる。

 

 

「俺は……その、あれだ……」

 

 

自分の顔を覗き込むように見る明彦から目を反らし、口ごもりながら言う。

 

 

「最近の女子高生の友情とはなんたるかを考えていてだな、そもそも女同士の友情の定義とはどういったものなのか。その根底たるなにかを私達は理解するべきであり、それを理解することこそ今回の議題における最大の問題なんだ。よって――」

 

 

「いや、待て待て待て。

 

お前は何を語ってんだ?」

 

 

突然壊れたレコーダーのように言葉を垂れ流す奏を明彦が慌てて制止する。

 

 

「へっ?

 

あれ?

 

俺……?」

 

 

「お前、本当に大丈夫か……?」

 

 

ハッとした様子で我に返る奏に明彦が心配そうに尋ねる。

 

 

「うぅぅ……悪い、今はちょっと調子悪い……かも……」

 

 

「そうか……?

 

じゃあいきなり俺の意見を言わせてもらうけど……」

 

 

“今は”という言葉に違和感を感じながらも明彦は相談相手である女子生徒に視線を戻す。

 

 

「やっぱり、告白はするべきだと思うよ?」

 

 

「へ……?

 

なんで……?」

 

 

女子生徒は少し驚いた様子で応える。

 

 

「だって、貴女が告白しても、貴女の友達が告白しても、はたまた別の誰かが告白しても結局決めるのはその人個人じゃん。

 

結果なんて誰も分からない。

 

だったら考えるよりも行動した方がいいと思うな」

 

 

「えと……それはどういう……」

 

 

女子生徒は困惑した様子で尋ねる。

 

 

「つまりは、仮に貴女が告白してふられればもうそれでおしまいでしょ?

 

友情も壊れることはないし、その人への思いもキッパリ割り切れる。

 

逆に成功したら貴女の友達は脈なしだったってことでしょ?

 

それとも貴女の友達はそうゆう事で逆恨みするような人なの?」

 

 

「いえ、そんなことはないと思います……

 

でも、やっぱり狡い気がして……」

 

 

「なんで?」

 

 

「友達の方が先に彼の事を好きになったから……

 

やっぱり、なんか、横取りしているようなものじゃないですか……」

 

 

「いや、でもさっきも言ったけどそんなの相手側次第じゃ……」

 

 

「私の友達はまだ彼に思いを伝えてないんです」

 

 

明彦の言葉に少し食い気味に女子生徒が言う。

 

しかし、その一方で明彦は唖然としていた。

 

 

「へ……?

 

だから?」

 

 

「あれだろ?

 

もしもその人に好きな人がいなかった場合先に告白した方が有利って話だろ?」

 

 

訳が分からないといった様子の明彦に説明するように奏が女子生徒に確認をとる。

 

 

「はい……」

 

 

「そうゆうもん?」

 

 

明彦が意外そうに尋ねる。

 

 

「おっ、俺に聞くなよそんな事……」

 

 

奏が明彦から視線を反らす。

 

 

「じゃあもうその友達に相談するしかないな」

 

 

暫し考えるような間を開けてから明彦が告げる。

 

 

「え……っ、ええ゛っ!?」

 

 

女子生徒が驚いたような声を上げる。

 

 

「やっぱりこうなったらとことん話し合うべきだよ。

 

そんで、貴女も、貴女の友達も納得できるような答えを出せばいい」

 

 

「でっでも……」

 

 

「大丈夫、真剣に話せば友達も分かってくれる。

 

友達なんでしょ?

 

だったら信じてあげないと」

 

 

「はい……

 

そう、ですね……

 

分かりました。

 

今度友達に全部話してみます。

 

ちょっと、怖いけど……でも、きっと幾恵なら分かってくれる……!」

 

 

女子生徒は熱い決意を言葉にすると、グッと胸の前で拳を握り締める。

 

 

「……ってあ…………!!

 

すっ、すすすすいません!!

 

今の忘れて下さい!!

 

友達の名前はトップシークレットでぇぇぇ!!」

 

 

思わず友達の名前を暴露してしまった女子生徒は慌てて身ぶり手振りを加えて明彦達を説得しようとする。

 

 

「あはは、大丈夫ですよ。

 

こんなへんてこな被り物しているくらいですからプライバシーはちゃんと守ります」

 

 

「そっ、そうですか……よかった……」

 

 

女子生徒はそう言って ホッと一息つく。

 

 

「それでは、私はこれで」

 

 

「あっ、はい。

 

お疲れさま」

 

 

席を立つ女子生徒を明彦がそう言って見送る。

 

女子生徒は部室を出る前にペコリと一礼してから静かにドアを閉める。

 

 

「ふぅ……最初はどうなることかと思ったよ」

 

 

女子生徒が去ってから暫くして、明彦がどこか疲労感の籠った声で告げる。

 

 

「……神埼?」

 

 

なにも反応を示さない奏に、明彦が不思議そうに彼女の名前を呼ぶ。

 

 

「あっ……悪い……

 

ちょっと考え事してて……

 

なんだ?」

 

 

「いや、別にそんな大したことじゃないからいいよ。

 

それよりお前が考え事とは珍しいな」

 

 

明彦がそう言いながらマスクを脱ぐ。

 

 

「さっきから思ってたけどお前は俺をなんだと思ってるんだ?

 

俺だって人並みに悩んだりするわ」

 

 

(まぁこんなに悩んだのは初めてだけど……)

 

 

奏はそう思いながら明彦同様マスクを脱ぐ。

 

 

「あはは、ごめんごめん。

 

そうだよな。

 

神埼って空気読めないようで意外とみんなの事考えてるし見てるよな」

 

 

「ばっ、ばか……

 

おだててもなんも出ねぇぞ……」

 

 

奏は僅かに頬を朱に染めて伏し目がちに言う。

 

 

「なぁ、明彦……」

 

 

奏は頬を朱に染めたまま上目使いで明彦を見る。

 

潤んだ瞳、艶っぽい唇、どういうわけかその時の奏はとても女らしく、可愛いと明彦は思った。

 

 

「どっ、どうした……?」

 

 

明彦は動揺した様子で応える。

 

 

「雪菜とは、その……友達なんだろ……?

 

今のところ……」

 

 

「ああ、そうだけど……」

 

 

「だったら俺が……俺と――」

 

 

――付き合ってくれって言ったらどうする?

 

 

続くその言葉を奏はグッと呑み込む。

 

訊かずとも答えは分かっていた。

 

明彦にはもう心に決めた一人がいる。

 

その点においては先程の女子生徒の悩みとは違っていた。

 

ここでその言葉を口にしたところで現状はなにも変わらない。

 

その事を奏は理解していた。

 

 

「どうした?」

 

 

急に表情が陰り始めた奏に明彦が心配そうに尋ねる。

 

 

「うん……いや、友達だったらお互い名前で呼びあったりするのかなって、思ってさ……」

 

 

奏は恥ずかしそうに指先で頬を軽く掻く。

 

 

「いや……まだそうゆうのはないかな」

 

 

「そうか……」

 

 

「でも、いつかそうなれたらいいかなって。

 

ゆっくり、信頼関係を築きながら……」

 

 

そう言う明彦は楽しそうに遠くを見つめていた。

 

 

「よし、明彦!

 

俺と名前で呼び合うぞ!」

 

 

奏が唐突にそう言い放つ。

 

奏自信なんでそんな事を言ったのか分からなかった。

 

ただ、もっと深い関係を求めていたのかもしれない。

 

たとえ、恋人にはなれずとも、一番にはなれずとも……

 

 

「大体、俺はお前の事明彦って読んでんのにお前だけ俺を苗字で呼ぶのは不公平だ!」

 

 

困惑の表情を浮かべる明彦に対し奏が勢いに任せて言葉を紡いでいく。

 

 

「そうか……?」

 

 

「おう!

 

不公平だ、卑怯だ、意気地無しだ!」

 

 

「いやもう訳わかんないけど……」

 

 

畳み掛けるように悪口を連呼する奏に、明彦が疲労感の籠った笑みを浮かべる。

 

 

「まぁ、そうだな。

 

そんなに言うんだったら今度からそう呼ぶよ。

 

今までごめんな、奏」

 

 

そして、考えるような仕草をすると、今度はしっかりとした笑顔で神埼の名前を呼ぶ。

 

 

「おう、分かればそれでいいんだ!」

 

 

奏もそれに答えるようにニッと笑う。

 

――コンコン……

 

 

「広瀬君、神埼さん……入るよ?」

 

 

部室のドアをノックする音と美華の声が聞こえたのはその直後だった。

 

 

「いいですよ」

 

 

明彦の返答を聞き、美華が部室の中へと足を踏み入れる。

 

 

「神埼さん、交代の時間……

 

……だよね?

 

私間違ってないよね?」

 

 

なんだかいつもと雰囲気が違う事を察してか、美華がおろおろと時計と奏を交互に見る。

 

 

「ええ、はい。

 

この時間で間違いないと思います」

 

 

「もうそんな時間か……」

 

 

明彦の言葉を聞いてから奏がどっこいしょとおっさん臭く立ち上がる。

 

 

「じゃあ立花先輩、あとお願いします」

 

 

「うん、お疲れ様」

 

 

そう言いながら奏は美華と入れ替わるように部室を出る。

 

 

「にひひ……奏……奏だってよ……」

 

 

我ながら気持ちが悪いとは思ったが、滲み出る笑みを奏は押さえることが出来なかった。

 

しかし、嬉しさの反面何処か切ない気持ちが混み上がってくる。

 

やがて、その感情は嬉しさよりも数倍に膨れ上がり、いつの間にかそっちの方が感情の殆どを占めるようになった。

 

ふと気付くと自分の頬に涙が伝っているのが分かった。

 

 

「あれ……おかしいな……

 

俺、今……幸せな筈なのに……」

 

 

涙は止まらなかった。

 

止めようとしても、涙は次から次へと零れ落ちる。

 

それはまるで自分の中にある明彦への思いを少しでも追い出そうとしているかのようであった。

 

 

「ずっと一人だった俺に……やっと、やっと友達が出来たんだ……

 

これ以上望むものなんて、ないのに……」

そう思っても奏の思いは少しも薄れない。

 

 

「うっ……うぅぅぅ……

 

あぁぁぁ……」

 

 

とうとう悲しみを押さえ切れなくなり、奏の口から声が漏れる。

 

静かに押し殺されたその声はまるで奏の気持ちと同じだった。

 

他人に聞こえないように、誰かに悟られないように……

 

静かに、ひっそりと、まるで凪いだ海のように、奏の声はどこにも波風を立てることなく冷たいコンクリートの中に吸い込まれるのであった。

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