Ⅰ
「みんな、体育祭の種目を考えるぞ!」
文化祭が終わって1週間。
部室に入ってくるやいなや薫が突然そんな事を言い出した。
「へ……?」
思わず明彦が間抜けた顔を見せる。
「めんどくせぇ……もうそんな時期か……」
誠がノートパソコンを弄りながら怠そうにぼやく。
「体育祭の種目を考えるって……考えてどうするんですか?」
雪菜の質問には美華が答えた。
「うちの体育祭は生徒会が仕切ってて自由にできるらしいの。
だから毎年ルールとかが違うんだって。
今年の会長は去年と同じだからまた部活毎に競技を決めるって話なんじゃないかな?」
いい終えてからちらりと薫を見ると、彼女はうむと首肯した。
「毎年ルール違うとか生徒会やりたい放題だな……」
奏が呆れた様子で呟く。
「それで、どうしようか。
今美華が言った通り今年も部活毎に競技を決めることになった。
まあ当然ボツになることもあるのだろうが、ここは一つ花のある競技を考えてみようではないか」
薫は定位置である一番奥の席に座って部員達に意見の発表を促す。
「因みに今年は部活が競技を考えるだけでなく、部活対抗で争うらしい」
「二人三脚!」
「男女ペアの障害物競争!」
薫の言葉を聞いた瞬間奏と雪菜が勢いよく発言する。
「おっ、おお……
うん、まあ王道を攻めるというのもありだろう」
二人の迫力にたじろぎながらも薫は机の上に開いた手帳にメモを書き込んでいく。
「雪――冬野ってスポーツ好きだったのか?」
名前を半分だけしか呼んでいないにも関わらず顔を真っ赤にさせる雪菜を見て、明彦は改めて名字を呼んで尋ねる。
「えっ?
いや、そうゆう訳じゃ……ないんだけど……」
(どっちかって言うと広瀬君が好き……かな……
なんちゃって……)
咄嗟に雪菜の脳裏にそんな言葉が浮かぶ。
(そんな恥ずかしい台詞言えるわけないじゃない!!
何考えてるのよ私!!)
顔から火が出るのではないかと思うほど顔が熱くなり、彼女は顔を赤らめたまま黙って俯く。
「ん?
どうした?」
明らかにおかしな様子の雪菜の顔を明彦が怪訝そうに覗き込む。
「や、うん。
なんでもないの。
なんでもないから……こっち、見ないで……」
彼女は右手で顔を覆い、左手を明彦に翳す。
「えっ……ああ、うん……
なんか……ごめん……」
恥ずかしがる顔も可愛いななどと思いつつも言われた言葉で微妙に心が傷つき、なんとも言えない感情のまま取り敢えず謝罪する。
「他に、案はないか?」
「もう決まってる種目ってあるの?
去年はあったよね?」
「うむ。
たしか部活対抗リレーと騎馬戦、タイヤ争奪戦は決定しているそうだ」
美華の質問に薫は一度頷いてからそう答えた。
「じゃあ、パン食い競争とか……どうかな?
私あれ一回やってみたいんだよね」
「分かった、候補に入れておこう」
少し恥じらいながら出された彼女の案を薫が手帳に書き込んでいく。
「草苅君は……どうだろう?」
「昼寝」
誠がパソコンの液晶に視線を固定したまま答える。
「ははは、バカだなぁ草苅君は。
昼寝なんてどうやって順位を付けると言うのだ」
「うっせえ」
鈴を転がすような声で笑う薫に彼は不機嫌そうにいい放つ。
が、そんな些細な、決して微笑ましくなどなく、寧ろ険悪な雰囲気の会話であったにも関わらず、その他の部員は驚愕のあまり絶句していた。
(((あの草苅先輩が……!!)))
(あの草苅君が……!!)
((((女子と喋ったぁぁぁぁぁ!!??))))
「みんな、どうした?」
そんな中薫だけが唯一キョトンとした表情で小首を捻る。
「ええ……いや、あの……」
動揺が収まりきらず、しどろもどろになりかけながらどうにか説明しようとする。
「おおそうだ、まだ広瀬君にも聞いていなかったな。
どんな種目がいい?」
思い出したように尋ねられ、明彦は思考を一旦落ち着かせて体育祭の競技へと考えをシフトさせる。
「そうですね……」
何故か薫と、ついでに奏と雪菜から期待の眼差しを向けられつつ思考を廻らせる。
「あっ、そうだ借り物競走とか面白そうじゃないですか?」
「ふむ、なるほど。
借り物競走か……悪くないな」
薫はそう言って再びメモ帳にペンを走らせる。
「ばっ、バカ野郎明彦っ!」
しかし、そこで奏が不満げに口を開いた。
何故か頬を紅潮させている彼女に明彦は不思議そうに視線を向ける。
「そのっ、すっ好きな人とかゆうお題だったらどうすんだよ!」
「いや、それ借り物じゃないでしょ……
ってか嫌だよ、そんなお題」
「今の会長いろんな意味でぶっ飛んでるからな……
無くはないかもしれないぞ?」
「マジですか……?」
思わず表情が固まる。
「たしかに……
(生徒会長こえぇ……)
そんな公開処刑のような所業を平気でやってのけるような生徒会長に戦慄を覚える明彦。
「あっ、いやっ、でも、さすがにそこまではしないんじゃないかな……多分」
美華はどうにか生徒会長=怖いという先入観を払拭しようと試みるが、完全に逆効果である。
彼女の言葉によって明彦の中の恐怖感は急速に加速するのであった。
「会長、借り物競走でいきましょう」
そんな彼の心境を知ってか知らずか、雪菜が借り物競走をプッシュし始める。
「あれ、冬野さん!?
なんでそうなんの!?」
明彦は雪菜に驚愕の表情を見せてから泣き付くように薫に顔を向ける。
「会長!!
なしで、借り物競走だけは無しでお願いします!!」
「え?
いや、まぁ構わんが……急にどうしたのだ?」
「え?
嫌じゃないんですか?
その場で全校生徒に好きな人バレるんですよ?」
驚いたような薫の表情につられ、明彦まで驚いたような表情になる。
「いや、別に構わないのだが……そうだな。
好きな人がその場にいなかった場合大変なことになってしまうな。
うむ、これは無しの方向で行こう」
一人で納得してうんうんと頷く薫。
(いや……会長?
気にするポイント絶対おかしいですよね……?)
それを見て明彦の顔に影が落ちる。
「ううむ……どれもいい案なのだが平凡な気がしてならんな……」
そんな彼の事など気にも留めていない様子で薫はメモを見ながら難しそうに眉根を寄せる。
「別に奇をてらわなくてもいいだろ……
全部が全部通る訳じゃねぇんだし……」
誠が面倒臭そうに呟く。
「そうですよ、シンプルが一番です」
少しでも奇抜な要素が入っているとどんな方向に転がるか分かったものではないので、ここは大体の人が同じようなイメージを持っている王道競技を薦める。
「そうか……でも、それはそれで迷う……」
誠と明彦の言葉を踏まえてもやはり煮え切らない様子の薫である。
相も変わらず薫が難しい表情を浮かべていると、遠慮気味にドアを叩く音が聞こえてきた。
「どうぞ」
最早情景反射のごとく彼女は顔を上げてノックに応える。
恐る恐るドアノブが回り、おもむろに顔を出したのは――
牛の頭蓋骨のようなものだった。
予想外の来客者に部員の全員が唖然とする。
ただ、その中でも雪菜と明彦には何処と無くデジャビュを感じていた。
((あの人……もしかして……))
というかあんな世にも奇妙な被り物を校内で堂々とつけている人物は他にいてほしくない。
「かっ、かっけぇ!!」
牛の頭蓋骨のようなものに続いて体を覆うように纏った紺色のマントが姿を見せると、奏が興奮気味に声を上げた。
その姿はやはりこの前の文化祭の時に表れた少女とぴったりと合致していた。
また何を言いに来たのやらと明彦が白けた視線を送っていると、彼女の後ろからさらに四人の人物が現れた。
一人は女性。
明るい栗色のロングヘアーで顎紐のついた三角帽子を首に引っ掛け、黒いローブを着ている。
一人は性別不明。
身長がかなり低く、150cm程度だろうか。
ニコ研で一番背の低い雪菜よりも小さい。
袖がかなり余るほどだぼだぼの黒いトレンチコートによく似たフードつきの上着を着て誠のようにフードを目深に被っている。
一人は男性。
ラグビーボールのような形の大きなお面を被り、体は腰に大きめの木の葉を合わせたスカートのようなものをつけている。
最後は恐らく女性であろう。
魔法少女といった感じの派手で且つ可愛らしいドレスのような服を着ている。
黒髪のショートカットでスポーツでもしていたのかスカートや袖から覗く手足はほんの少し筋張っていた。
とまぁ、パッと見完全にコスプレ集団である。
最後の一人がとてつもなく恥ずかしそうにしているのが唯一の救いだが、裸族のような格好をしている男はどう考えても危ない。
いろんな意味で。
「なにかご用か?」
うわぁと白けた視線を送っていると薫が手帳を閉じて尋ねた。
「あの……すっごく言いづらいんですけど……
体育祭、私達と組んでもらえないですかね……」
やはりと言うか、当然と言うべきか、彼女の声は文化祭の時に雪菜と明彦が聞いたものと同じだった。
「ん……?
ああ、そうか、そうだな。
それはこちらとしてもありがたい提案だ」
「どうゆう事ですか?」
牛の頭蓋骨を被った女子生徒を訝しく見ていた雪菜が薫に視線を向ける。
「さっき言ったもう決まっている三つの種目があっただろ?」
「はい……たしかリレーと騎馬戦と、タイヤ……争奪戦?でしたっけ?」
「うむ。
体育祭に参加している生徒はどれか一つの種目に必ず出場しなければいけないんだが、その三つはそれとは別で全ての部活が必ず出場しなければいけない種目なのだ。
まぁ騎馬戦は男子限定でタイヤ争奪戦は女子限定なのだが……
そして、それに伴い男子四人、女子五人、そしてリレーのメンバーとしてプラスもう一人の計十人が最低でも必要になるのだ」
「なるほど、それで体育祭の時だけ一時的に、仕方なく合併して数合わせをするわけですね」
雪菜は納得した様子で軽く頷く。
「なんか、言い方に棘があるんですけど……」
「でも、この人達とだと男の子が一人足りないような……」
牛の頭蓋骨を被った彼女が心外そうに呟くと、美華が魔術研究会の面々をまじまじと眺める。
「俺と、先輩と……その、彼……
たしかに男子は三人しかいませんね……」
明彦が自分を、次に誠を指差し、最後に大きなお面を被った男を嫌そうに指差して呟く。
「あっ、あの……ぼっ、僕も……男です……」
すると、魔法少女のような格好をしている生徒が恥ずかしさやら虚しさやらなにかマイナスな感情が混ぜ合わさったような表情を浮かべながら弱々しく挙手する。
「えっ……?」
明彦が呆けた声を漏らし、部室の空気が一気に硬直する。
「「「「ええ゛ぇぇぇぇぇ!!??」」」」
圧縮した空気が爆発したかのように驚愕の声が轟く。
その反応に彼は瞳を涙で潤ませ、真っ赤になった顔を俯かせる。
指先はきゅっとスカートの裾を握り締め、もう遠目から見ると女の子にしか見えない。
「えっ、ええっと……その……なんかすいませんでした……」
何と無く気まずい沈黙が流れ、明彦はとっ散らかった思考のまま取り敢えず謝罪をしておく。
すると彼は俯いたまま小さく頷いた。
「で……なぜ女装を……?
趣味って感じじゃなさそうですけど……」
チラチラと視線を向けながら明彦は恐る恐る彼の格好の秘密を解き明かそうと試みる。
「僕……いっつも会長に可愛い可愛いってバカにされてて……」
「いや、私はバカにしてるつもりないんですけどね……」
途中で会長(牛の頭蓋骨を被った女子)が小言を挟むが、彼は構わず続ける。
「それで、今日こそはちゃんと男扱いさせてやるって思って、会長に言ったんです。
そしたら、丁度皆でニコ研の部室に行こうと思ってたから、その時に僕が女装してすぐにばれたらちゃんと男扱いしてくれるって……
約束……したのに……」
彼の表情は徐々に青さと黒さか増していき、言葉尻も殆んど涙声みたいになっていた。
「僕……当然ですけどノーメイクなんですよ……?
なにもしてないんですよ?
なのに……なんでみんな気づいてくれないんですか……!!」
とうとう自棄になったのか八つ当たりめいた怒声を上げる女装男子。
「いや……その……だって、ねえ?」
困惑した様子の明彦が周りに目配せすると、全員がうんと頷いた。
そんなこと言われても女の子しか見えないのだから仕方がない。
しかもそこそこ可愛い部類の。
その反応に絶望してしまったのか、とうとう彼はその場で膝を抱えて静かに泣き始めてしまった。
口からはぶつぶつと聞き取りづらい言葉を漏らしている。
(大丈夫だよね?
呪術とかそういった類いじゃないよね!?)
「うむ、確かに人数的には問題ないな。
このまはま彼ら魔術研究会と連合チームとして体育祭に出場しようと思うのだが、みんな異論はないか?」
明彦が人知れず恐怖していると、薫が纏めるように部員達を順番に見ていく。
「よし、そうゆう事だからこれからよろく頼む、魔術研究会諸君」
誰も反論がないことを確認すると、魔術研究会の面々に向かってにっこりと微笑んだ。
「あっ、はい!
よろしくお願いします!」
すると、魔術研究会の会長はハッとした様子でお辞儀をする。
「よし、連合も組んだところだしお互いに自己紹介といこうか。
私は天猫院薫、このニコ研の会長をしている」
薫は胸の上辺りに手を置いて自己紹介すると、部員達を順番に手で指し示していく。
「彼女が立花美華、私と同じく二年生だ」
「よっ、よろしく、おお願いします……!」
「そして彼が草苅誠君、彼も二年生だ」
「ん」
「彼女は冬野雪菜君、一年生」
「……」
「そして最後が広瀬明彦君、この部のエースだ」
「いや会長……俺だけ紹介おかしくないですか……?」
雪菜は敵意剥き出しで魔術研究会の会長を睨んでいたが、それ以外はまぁ概ね当たり障りのないと言っていい返事をする。
が、最後の明彦の説明だけ何かがおかしかった。
思わず明彦がツッコミを入れる。
「む?
なにか変だったかな?」
不思議そうに小首を傾げる薫に明彦が呆れた表情を浮かべる。
「いや、変っていうか……
エースってなんですか?」
「エースはエースだ。
この部の中で私は君が一番有能だと自負している」
「はぁ……」
「つまり、君こそがエースだ」
「そうだ広瀬、お前がエースだ」
薫に続き何故か誠がそう言って親指をビシッと立てる。
が、その視線はパソコンに釘付けである。
明らかにからかっている。
が、
「やったな明彦、お前がエースだ!」
何故かそれに奏まで便乗してくる。
「広瀬君……かっこいい……」
更に雪菜までもが恍惚した表情で明彦を見る。
そして美華は周りの様子を窺ってから訳がわからないながらも力強く頷く。
(え……何この雰囲気……)
「くっくっく……そうですか、彼が君達のエースだと言うのですか……
ならば私達のエースも紹介しましょうっ!」
(なんか乗ってきたし!!)
魔術研究会の会長はノリノリでマントをはためかせながら手を真横に上げる。
「紹介しましょう、我がエース!
「ええっ、僕!?」
突然名前を呼ばれて驚きの表情を見せる女装男子――もとい正太郎君。
「なっなんで僕がエースなんですかぁ!」
思わず立ち上がって異議申し立てをする白井に彼女は自信満々といった様子で応える。
「何を言ってるんですか、私は白井君が部の中で最もスペックが高いと思ってるんですよ?」
「へ……?」
突然誉められて呆気にとられる白井であったが、少し嬉しかったのかその頬は僅かに紅潮していた。
「いつも気づいたら部室が綺麗になってますし、絶妙なタイミングでお茶出してくれたり手伝ってくれたり……
それに裁縫とかもできるんですよ?
みんなが着てる衣装とも彼が作ってくれました。
あっ、あとたまに作ってくれるお菓子もすごく美味しいです」
彼女はそう言うと誇らしげに胸を張ってフンスと鼻を鳴らす。
(いや、確かにスペック高いってか……)
((((女子力たけぇ……))))
正太郎の圧倒的女子力に衝撃を受けるニコ研の部員達。
「会長……これは、勝てませんよ(いろんな意味で)……」
「うっ、うむ……確かにそうかもしれないな(いろんな意味で)……」
「やりました白井君!
私達の勝利ですよ!」
少しだけ青ざめた顔で向き合う薫と明彦を見て、魔術研究会の会長がグッと握り拳を握る。
「いや、なんか素直に喜べないんですけど!?
って言うかいつの間に競ってたんですか!?」
「まぁ、冗談はここまでにしといて……」
正太郎の言葉は完全に無視して話題をもとの路線に戻す。
「ちょっ、会長!?
僕無視ですか!?」
その反応に正太郎は悲痛な声を上げるが、彼女はそれすらも無視して話を進める。
「改めまして彼は白井正太郎君。
一年生です」
「どっ……どうも……」
もう諦めたのか、正太郎が涙声で弱々しく頭を下げる。
「そして私が魔術研究会会長、
魔術研究会の会長はそう名乗ると、おもむろに被っていた牛の頭蓋骨のようなものを外す。
そこから現れたのは藍色がかったポニーテールとくりくりとした幼げな瞳であった。
牛の頭蓋骨とのギャップに思わず一同息を呑んでしまう。
が、本人はそんな雰囲気の変化など歯牙にもかけず話を続ける。
「それで、彼女が
私と同じく二年生です」
「よろしく~!」
杏佳がそう言うと、フードを目深にかぶった背の低い人物がパタパタと余った袖を揺らして応える。
(ってかあの人二年生だったの!?
失礼だけど身長低いから同級生ぐらいだと思ってた……)
「そして、彼が
白井君と同じく一年生です」
「どうも……」
大きなお面を付けたどこぞの民族のような男が重々しい声と共にお辞儀する。
「そして最後が
彼女も白井君達と同じく一年生です」
「よろしくお願いします」
魔女帽子を首に引っ掛け、ローブを着た女性がペコリとお辞儀する。
「うむ、白井君、城井君、花沢君、斎藤君、新崎君だな。
こちらこそよろしく」
薫は立ち上がってにっこりと微笑むと、座り直して閉じていた手帳を再び開く。
「さて、どうしようか……」
そして再びううむと唸る。
「そういえば種目決めの最中でしたね」
雪菜が薫の手帳を覗き込むように見る。
「うむ、そうなのだが……」
薫はそう応えて視線を魔術研究会の面々に戻す。
「魔術研究会の諸君はどんな種目がいいと思うかな?」
そう問われ適当に談笑していた杏佳が話を止めて彼女に顔を向ける。
「どうしたんですか?
他人に最終決定を任せるなんて会長らしくないじゃないですか」
「そうですよ、それになんでよりによってあんな人達の意見なんて……!」
明彦が不思議に思って尋ねると、それに結構な勢いで雪菜が乗ってきた。
「いや、別に決まらないから丸投げしたというのではないのだ。
ただ、連合を組んだ以上体育祭関係において私達は同じ部活のメンバーということになる。
故に、彼女達の意見も聞かないと不公平だろ?」
「そう……ですか。
それなら仕方がないですね……」
薫の言葉に雪菜は不承不承な様子で黙り込む。
「すまない、話が逸れてしまったな……
それで、どうだろうか。
一応こちらはパン食い競走と障害物レース、二人三脚という案が出ているのだが……」
「なんかその子からやたら殺気めいた感情を向けられてる気がするんですが……
そうですね……」
杏佳は訝しい視線を雪菜に向けてから顎に指を当てて思案顔をする。
「魔動殻戦とか?」
「すいません、なんですかその競技……?」
“まどう”という言葉の響きからもう既に危ない気がするが、明彦は取り敢えずその得体のしれない種目の説明を求める。
「魔動殻というのは魔力によって遠隔操作することを目的とした自立駆動型の鎧です。
大きさや形状も多種多様ですが、魔動殻の総重量に比例して消費する魔力が大きくなるんです。
そして、魔動殻戦というのはお互いの魔動殻を戦わせ合うものです。
それは謂わば騎士の決闘、誇りと誇りのぶつかり合い。
……というなんとも熱い競技です」
杏佳の説明に、魔術研究会のメンバーと、ついでに奏が目をきらきらさせながら聞き入っていた。
そして、不覚にも明彦自身少し面白いのではないかと思ってしまった。
が、暫し待たれよ。
現実を見よう。
「実際に出来る競技でお願いします」
雪菜が顔の影を濃くさせて広辞苑を振り上げる。
「わわわっ、ちょ、冗談ですよ冗談っ!!
っていうかなんかデジャビュ!!」
杏佳の顔が青くなり、慌てて手を左右に振る。
「ええっと……私達そうゆうの考えるの苦手で……
だから、皆さんの意見に反対する気はありませんので。
気にしないで決めちゃって下さい」
「いいですよね?」と確認するように魔術研究会の面々に顔を向けると、皆一様に首肯した。
「うむ、そうか、あいわかった」
薫はそう応えると再び眉を寄せて手帳を睨み始めた。
これはまた暫くは決まらなそうだなと明彦が思っていると、杏佳が思い出したように口を開いた。
「あっ、でもさっきのなかだったら障害物競走とか面白そうですね。
色々アレンジも出来そうですし……」
「それだ!」
その言葉を聞いた瞬間、薫はガタリと音を立てて立ち上がる。
「よし、私達の部が提案するのは男女ペアの障害物レースに決定だ!
ありがとう城井君、君のお陰で決心が着いた」
薫はすらすらと書類にペンを走らせると足早に部室のドアへと向かう。
「私は書類の提出と、魔術研究会と連合を組んだとの報告を生徒会にしてくる。
私は暫く席を外すが、魔術研究会の諸君は適当にくつろいでいてくれ」
そして、ドアの前にたっていた魔術研究会にそう告げると颯爽と部室を後にした。
「えと……くつろぐって一体どうすれば……ってあれ?」
気まずそうに部室の中に視線を巡らせる杏佳であったが、何を思ったのか雪菜の目が合うとその視線の動きがピタリと止まる。
「やっぱり貴方……あの時のライオンさん……ですよね?
さっきからうっすらと思ってたんですけど……」
すると雪菜は勢いよく立ち上がった。
「ひぃっ!」
文化祭の時を思い出したのか、思わず身構える杏佳。
が、雪菜は決して暴力行為のために立ち上がった訳ではなかった。
「グッジョブ」
「へ……?」
突然サムズアップされ、唖然とする杏佳。
「障害物レース推し、グッジョブ」
それだけ言うと雪菜はストンと椅子に座り直す。
「あっ、ああ、はい……」
(あれ……勘違いだったのかな……?)
「あと、さっきの話だけど個人情報だから言えない。
ライオンのマスクとか私知らないし……
貴女が失礼なことぬかしたからちょっと脅しただけだし……」
(やっ、やっぱり勘違いじゃないっぽいです……)
最後に付け足された雪菜の言葉に人知れず脅える杏佳であった。