「うへぇ~腹減った~」
奏が支給されたビニールシートに腰を下ろす。
「ほんとだね~」
美華がそう言いながら同じくビニールシートに腰を下ろす。
午前の競技は全て終わり、現在は昼休憩の時間である。
「午後からはいよいよ団体戦がプログラムに入ってくる」
「団体戦は勝てば全員か景品をゲット出来ますからね。
一発逆転ができるわけですよ」
薫がそう言ってビニールシートに座ると、杏佳がその隣に現れる。
その後ろには魔術研究会の部員たちを従えていた。
「といっても私達結構今順位高いんだよね」
歌音がいそいそと弁当を広げながら言った。
「合計金額九万二百円で、三十二チーム中五位です」
歌音の言葉に茜が先程発表された中間結果を確認する。
「確かに善戦はしてるな」
一足早く弁当を食べていた誠が呟く。
「ああ、だがやはり狙うのは一位だ。
みんな、午後からも気合いを入れて挑むぞ」
薫の呼び掛けに一同「はい」だの「了解」だのと適当に答え、漸く彼らの昼食の時間となる。
明彦は弁当箱を包んでいたバンダナを外して蓋を開ける。
「おっ、明彦は手作り弁当か。
相変わらず女子力たけぇな」
パッと見で美味しそう、且つバランスが取れていると分かるような弁当の中身を覗きながら奏が言う。
「いや、それどうゆう意味……?
ってか相変わらずって、俺そんな事言われたの初めてだぞ?」
「まぁまぁ、細かいことは気にすんな。
どれ、女子先輩として味見をしてしんぜよう」
「ますます意味不明なんだけど……」
困惑する明彦を他所に奏は彼の弁当箱から玉子焼きをひょいっと摘まんで口の中に放り込む。
「むぅっ!?」
数回の咀嚼の後、玉子焼きをごくりと呑み込んだ奏が突然踞る。
「えっ、どうした!?
もしかして不味かった!?」
明彦が慌てた様子で奏の肩に手を置く。
彼自身一人暮しであるがために多少の自炊はしている。
故に自信があるとまでは言わないが、人間に危害を与えるようなレベルではないと自負していた。
だから、こんな反応をされるとは正直思ってもみなかった。
(あれ……?
調味料の分量とか間違えたかな……?)
「大丈夫だと思うよ?
これ普通に美味しいし」
どうしたものかとオロオロしていると、後ろからそんな声が聞こえた。
見てみると半分かじられた玉子焼きを持ってモフモフと口を動かしている雪菜の姿があった。
「じゃぁ……なんで」
明彦は困惑の表情で奏に視線を戻す。
「――い……」
「おい大丈夫か?」
漸く言葉を発した奏に明彦が心配そうに声を掛ける。
「俺が前作ったのより数倍旨い!」
ガバッと顔を上げた奏は泣いていた。
「は?」
思わず唖然とする明彦。
「男に料理で負けるってヤバくね?
俺女子力低すぎじゃね?
ぅあぁぁぁこんなんじゃお嫁に行けねぇよぉ!」
「ちょっ、落ち着け!
大丈夫だから、料理なんて数こなしてれば自然と上手くなるから、な?」
「本当?」
「うん。
だって、結構適当な俺がそんくらい作れるんだよ?
きっと奏ならもっと上手くやれるさ」
明彦がそう言うと、奏の表情が明るくなる。
「そうか、そうだよな。
うん、俺頑張るよ!」
「いやはや白井君の弁当は相変わらずの謎クオリティですね」
「えぇ、それ誉めてるんですか?」
「超誉めてます」
「やっ、止めてくださいよこれ結構適当なんですよ?」
胸の前でグッド拳を握る奏の耳にそんな会話が飛び込んできた。
思わずその方に目を向けると、材料こそ高級なものではないのだろうが豪華で手の込んだ弁当がそこにはあった。
味もいいのだろうが、少なくとも見た目だけであれば十分にお金を取れるレベルだ。
「ぅええぇぇぇやっぱ無理だぁぁぁ!!
俺どう頑張ってもあれを作れる気がしねぇよぉ!!」
再び踞って絶望にうちひしがれる奏。
「いや、うん。
あれは超越してるよ、いろんな意味で……」
正太郎の圧倒的女子力に気圧されていると、くいくいジャージの裾を引かれた。
なんだと思って顔を向けると、袖を引いた相手が雪菜であることが分かった。
「どうした?」
明彦が尋ねる。
「あっ、あの……ね?
私の作ったお弁当食べてくれないかなって……
ほら、さっき私勝手に広瀬君の食べちゃったし。
その、お礼って言うかお詫びって言うか……」
雪菜は頬を紅潮させて斜め下に置いた視線から何度も明彦に向けていた。
「それに、私の部屋に来たとき結局私が作った料理食べさせてあげられなかったし」
そして、最後にそう言い添えた。
その言葉を聞いた瞬間、明彦の脳裏に初めて雪菜の部屋に行ったとき――あまり思い出したくはないが萌と初めて会ったときの記憶が甦った。
「ああうん、そう言えばそうだね」
「だから……これ……」
雪菜がそっと小さな弁当箱を差し出す。
「じゃあ、一個だけ……」
そろりと箸を伸ばして玉子焼きを摘まんで口の中に運ぶ。
「おお、美味しい。
美味しいよこれ」
「ありがと。
広瀬君にそう言ってもらえると嬉しい」
「へ~冬野さんって料理上手なんだ」
嬉しそうに口元を僅かに緩ませる雪菜の後ろから美華が覗き混むように彼女の作った弁当を見る。
「ほほう、それは聞き捨てなりませんな。
是非私の――いや世界の嫁と名高い白石さんと手合わせ願いたい所ですね」
「いやなんなのそれ!?
ってか僕おお嫁さんじゃなくてお婿さんだからね!?」
「広瀬君、見ちゃダメ。
お婿さんにされちゃう」
「えっなに?
そうゆうシステムなの?」
ばっと視界を遮られ困惑する明彦。
「それは私が見ても白井嬢の婿となってしまうのか」
愕然とした表情で薫がごくりと生唾を呑み込む。
「わざとですよね!?
その言い方絶対わざとですよね!?」
「おそらく……」
正太郎のツッコミを盛大にスルーして杏佳も表情を陰らせながらごくりと生唾を呑み込む。
「もぉ、なんなんですかぁ!!」
正太郎が悲痛な叫びが響きながらも和気藹々とした昼休憩の時間は過ぎていく。
「さぁさぁやって参りました午後の部!!」
そして、生徒会長である聖佳のアナウンスにと共に再び戦いの火蓋が切って落とされる。
「早速始まるのは男子部員による騎馬戦です!!
今回の騎馬戦はサバイバルトーナメント形式を取らせてもらいます。
まず皆さんは四ブロック八組に別れてもらいます。
そして、各ブロックで勝ち残った一組が次の決勝戦に進出する事ができます」
「みんな強そうだなぁ……大丈夫かな?」
ぞろぞろと入場門から競技スペースへと入っていく生徒達の中で頭に赤色のはちまきをつけた白井正太郎は不安気に辺りを見回していた。
「大丈夫。
万が一危なくなったら、俺が守る」
そんな台詞を言いながら隣にいた秀信が力強く彼の肩に手を置く。
「ありがとう、頼りにしてるよ」
その言葉に曇っていた正太郎の表情がぱぁっと晴れ渡る。
「おっ、おお……」
秀信は気恥ずかしくなったのか頬を指先で掻きながら彼から視線を叛ける。
「なにこの雰囲気……」
「ホモォ……」
どこか甘酸っぱい香りを漂わせる二人の言動に明彦と誠が困惑の表情を浮かべる。
「なぁ雪菜、あいつら大丈夫かな?」
入場してくる明彦達を見ながら奏が呟く。
「分かんないけど……男子四人しかいんだし負けてもしょうがないんじゃない?」
「確かに先輩や明彦じゃ他の選抜メンバーとは渡り歩けそうにないしな。
魔術研のやつらもなんか頼りなさ気だし……」
雪菜の意見に奏は難しそうな表情を浮かべながら同意する。
「ふっふっふ、侮ってもらっては困りますね。
内の齋藤君と白井君、かなり強いですよ……」
「なんだと、あのがたいのいいやつだけじゃなく女子力高いあの男子まで強いのか!?」
杏佳の言葉に奏が驚いた様子で尋ねる。
「そうだよ~特に白井君はね、ほぼ最強。
誰もあの子に傷をつけるなんてできないんだから」
その質問には杏佳の隣にいた歌音が楽しそうに答えた。
「そっ、そんなに強いのか……」
奏はごくりと喉を鳴らして競技スペースへと目を向ける。
競技スペースではもう既に一ブロック目の戦いが終わろうとしていた。
「おおっと野球部主将池田君が取ったぁぁぁ!!」
どうやら野球部の馬が残ったようだ。
「よし、次は俺らだな」
戦場となる正方形の白線から数メートル後ろで座っていた明彦が尻に付いた土を払いながら立ち上がる。
「なんでこうゆう時ってどいつもこいつもアホみたいにテンションたけぇんだ?
マジめんどくさいだけど……こんな暴力的な競技出んじゃなかったな……」
死屍累々と横たわる崩れた馬や騎手を見ながら怠そうに誠が立ち上がる。
「みんな、頑張ろうね」
「うむ」
誠とは対称的にヤル気十分な様子の魔術研究会の二人。
四人は指定された場所に並ぶと合図と共に馬を組む。
秀信が前、明彦と誠が後ろ、そして騎手が正太郎である。
「ほっ、本当に僕が騎手で大丈夫かな?」
次々出来上がる馬に乗る騎手はどれも屈強そうな男子ばかりであった。
「大丈夫大丈夫、体重の一番軽い人を騎手にしようってことになっちゃうくらいだし負けても誰も文句言わないよ」
比べてニコ研の騎手の選定はかなり適当である。
明らかに周りから対戦相手として眼中に入っていない。
(城井先輩、本当に大丈夫なんですかこれ……)
明彦が不安そうにため息をつく。
実は正太郎が騎手になることを強く薦めたはなにを隠そう魔術研究会会長城井杏佳なのだ。
ついでに体重が軽い人という選定基準も彼女の考えたものだった。
が、やはり周りと比べてしまうとどうしても正太郎のような優男が騎手というのは不安を感じてしまう。
明彦自身が言ったように負けたところで誰かが責められるというのはないだろうが、男としてやる以上は勝利を納めたいところである。
(まぁ今更考えてもしょうがないよな。
なるようになれだ)
明彦は覚悟を決めて戦場を睨み付ける。
「位置について」
係員の生徒が雷管を高々と掲げる。
暫しの沈黙。
競技スペースに緊張が張り積める。
そして――
「よーい」
圧縮された緊張感が暴発したかのように雷管がはぜ、男達の雄叫びが響き渡る。
明彦達は周りから少し遅れて戦場に足を踏み入れる。
その様は正しく戦場。
各部の馬と馬がぶつかり合い、騎手同士が取っ組み合う。
といっても流石に危険行為は失格となるのでそこまで過激なことはしていないのだが。
しかし、そんな最中でも彦達の騎馬は眼中にないのか誰も襲ってこようとはしない。
「これ俺らなんもしなくても勝てんじゃね?」
誠が早くも面倒くさそうに呟く。
「確かにそうかもですね……」
それにつられてか、明彦も呆れ気味に呟く。
「でも、それでいいのかな……?」
正太郎が笑いながらどこか申し訳なさそうな表情を浮かべる。
が、流石に時間が経つとそんな悠長な事もいっていられなくなる。
「おいあっちだ!
まだあいつら残ってたぞ!」
騎馬の数が少なくなり今まで存在感のなかった明彦達の騎馬がここにきて初めて標的にされた。
「ああ、やっぱそうなるか……」
誠がやはり面倒くさそうに呟く。
「どうします?」
「前進、あるのみ」
明彦の問に秀信が答えた。
「えっちょ無理――」
正太郎が情けない声を上げるが、秀信はそれを最後まで聞くことなく敵に向かって突進していく。
無謀だとは思ったが先頭である秀信が移動している以上後ろも動かざるをえないので仕方なく二人も後に続く。
「馬鹿が、正面から突っ込んで来やがった!」
敵の騎手が正太郎のハチマキを掴み取ろうと手を伸ばしたその時。
「やめっ……」
自信のなさもあってか、思わず正太郎は目尻に涙を溜めてきゅっと目を瞑る。
(えっ……?)
その時、彼の目に一瞬だけ可憐な乙女が写ったのだった。
そして、それによって正太郎に伸ばしていた手は一時的に止まってしまう。
その可憐な乙女が正太郎であると気づいた時には彼の乗る馬は秀信に当たり負けて崩れてしまっていた。
「えっ?
やっ、やったの?」
瞑っていた目を開いて不思議そうに辺りを見回す正太郎 と、何が起きたのか分からず唖然とする相手の騎手。
「体当たりってありでしたっけ?」
「ありだろ。
ってか最初の試合も大体こんなだったろ」
「然り」
「ああ、確かにそんなんでしたね」
自分達に背中を向けて去っていくニコ研魔術研連合騎馬から聞こえる会話を聞きながら彼等はここで敗退となった。
「さて、残るはあと一騎か……」
明彦達の正面に立ち塞がった馬の騎手が眼鏡の位置を指先で戻しながら呟いた。
「なんかすげぇオーラだ……」
男から滲み出るとてつもない迫力に思わず明彦な言葉を漏らす。
「ここまで生き残ったことは誉めてやろう……
だが、それもここまでだ!
貴様らは我々手芸部の手によってここで破れるのだ!」
「あっ先輩、これ余裕ですわ」
バァンッという擬音語が聞こえてきそうな勢いで言いはなった手芸部の騎手に対し、明彦は鼻で笑うかのように呟いた。
「ふん、今のうちにせいぜいいきがっておくがいい!」
「いや、でも手芸部でしょ……?
逆になんでそんな強気なのか凄い気になるんだけど……」
再び眼鏡を指で持ち上げ見下ろすかのごとく明彦達の騎馬を指差す敵騎手に明彦が呆れたように応える。
「そうかそうか。
ならば冥土の土産に教えてやろう。
我々の強さの秘密……それはな――」
(なんかさっきからめっちゃむかつくなこいつ)
そう思いつつも明彦は口を出すわけでもなく彼の言う強さの秘密とやらに耳を傾ける。
「今日この日のために密かに特訓をしていたのさ!
それも部活の時間中ずっとだ!」
(いやちゃんと部活やれよ!
なにしてんだこの人達、バカなの!?)
「くくく……恐れのあまり声も出ないか」
呆れた様子の明彦に勝ち誇ったような笑みを浮かべる敵騎手。
「先輩、鬱陶しいんでさっさと終わらせて退場しましょう」
「そうだな。
もう勝敗とかどうでもいいからあいつを黙らせたい」
「然り」
「えっ、ちょっまだ僕心の準備が――」
馬を組んでいる三人の意見が合致し明彦たちは騎手である正太郎の言葉を完全に無視して手芸部の騎馬に突っ込む。
「ふん、勝てないと分かり自棄にでもなったか」
敵騎手は高慢に組んでいた腕をゆっくりと解くと正面から明彦たちを迎え撃とうと身構える。
が、
「ちょっとは僕の話も聞いてくださいよぉぉぉ!!」
(なっなんだこの感覚は……!?
小動物的というか、なんか攻撃しちゃいけない気がする……!!)
正太郎から滲み出る庇護欲をそそられる雰囲気に敵騎手は思わず攻撃を躊躇ってしまう。
(こっ、この程度の事で我等が費やしてきた時間を全て無駄にする訳にはいかん!!)
「ぬぅおおおぉぉぉぉぉ!!!!」
今までの苦しかった練習の日々を思い出し、敵騎手は再び動き出す。
「うわあぁぁぁぁぁ!!!!」
そんな彼に冷や汗と涙で顔を濡らした正太郎が迫る。
(うん、無理)
彼には怯えきった小動物の様な正太郎に手を加えることなど出来なかった。
故に、心優しき彼は自ら敗北の道を選んだのだ。
激突する馬。
崩れ落ちたのは自分達であった。
しかし、散り逝く彼の表情は酷く穏やかなものだった。
「手芸部の馬が崩れましたぁぁぁ!!
なっなんと勝利したのは人間関係及び対人コミュニケーション研究会と魔術研究会の連合チームですっ!!
一体この勝利を誰が予測していたでしょうかぁっ!!」
「会長、長いんで律儀に正式名称言わなくていいですから……」
生徒会長謙現在実況放送を勤めている聖佳の声(+ツッコミ)と共に歓声が沸き立つ。
「へぇっ?
あれ?」
正太郎が訳が分からないといった様子でキョロキョロと辺りを見回す。
「ねっ?
うみの白井君は強いでしょ?」
その様子を見ていた杏佳が誇らしげに胸を張る。
「おっ、おう……」
(確かに誰も触れなかったけどさ……
あれ、強いっていわなくね……?)
戦力と言うよりは魅力が凄まじいよなと思いつつ奏が表情を暗くさせながら応える。
それから第三、第四ブロックと勝負は進み、遂に決勝戦となった。
「さぁ、やって参りました決勝戦!
残ったチームは野球部チーム、サッカー部チーム、生徒会チーム、そして今回のダークホースニコ研、魔術研連合チームです!
頑張れ生徒会チーム、負けるな生徒会チーム!」
「会長、一応実況者なんですから発言は公平にお願いします!」
相変わらずの聖佳の実況を聞きながら明彦達はゆっくりと騎馬を組み上げる。
もう既に他の三つの騎馬は完成されている。
見る限り、野球部とサッカー部のチームはやはり体育会系なだけあって馬の三人がどれも秀信と同じぐらいの体をしている。
先程のように勢いだけで勝ち抜くのは困難になるだろう。
ここからは正太郎にも騎手としての役割をしっかりとこなしてもらわなければ勝てない。
「白井さん。
準備はいいですか?」
「うん。
僕、やるよ。
みんなのおかげでここまで来たんだから……」
不安気に明彦が尋ねると、妙に覚悟の籠った声が返ってきた。
「今、入った」
「ええ、入りましたね」
突然歌音がそう呟き、杏佳がコクりと頷いた。
そのやり取りを不思議に思い奏は二人に視線を向けた。
「入ったって……なにが、ですか?」
その隣にいた雪菜も不思議そうに彼女達に顔を向ける。
「よく見ておいた方がいいですよ?
白井君の強さはここからが真骨頂です」
「なんだと……!!」
奏はごくりと生唾を呑み込んで視線を競技スペースへと戻す。
(なにこの無駄なバトル展開……)
呆れた様子でそう思いつつ、雪菜も視線を戻した。
(イメージするんだ……
僕は騎士、それも最強の騎士だ。
ここで負ければ王国は滅びる……
残る敵はたった三騎。
勝つんだ、必ずっ!!)
正太郎が閉じていた目をカッと開いたのと同時に競技開始の雷管が炸裂した。
「いくぞっ!!」
彼の言葉に応じて馬が動き出す。
彼、白井正太郎の目に写るのは平原。
そして武装された騎馬と騎士。
数は三。
それを確認すると彼の脳内に勝利のイメージが浮かんだ。
後はそれを行動に移すのみである。
「右っ!!
その次左っ!!」
素早い指示にも馬は的確に動く。
やはりこの馬は良いものだと改めて自分の相棒である愛馬に彼は惚れ直した。
「まず、一つ……!!」
正太郎が勢いよく手を振るう。
彼の手に握られた剣が敵の首を撥ね飛ばす。
間髪入れずに馬に指示を出す。
馬は素早く進路を変え二人目の敵へと正太郎を導く。
流石に相手も今の一撃を見て彼が一介の騎士でないことを察したのだろう。
重厚な楯を構えつつその影でいつでもその体に風穴を空けてやると言わんばかりにランスを持つ手に力を籠める。
(こいつ、強い……)
彼の纏うオーラがそれを物語っていた。
(いい構えだね。
でも――)
正太郎はニヤリと笑みを浮かべ、素早く馬の向きを90゜変えて剣を振るう。
(狙いは君じゃない)
彼に不意打ちを仕掛けようとしていたであろう敵の騎手の首は彼の剣によって呆気なく撥ねられてしまった。
正太郎は動作を止めることなく流れるように先程の敵騎手に突っ込む。
それに応えるかのように相手の騎馬もこちらに突っ込んでくる。
お互いが得物を構え、すれ違う刹那にそれが振るわれる。
両者とも落馬はしていない。
が――
ゆっくりと拳を天に突き上げた正太郎の手には相手のハチマキが握られていた。
「なっ、なんと勝利したのは今回のダークホースニコ研、魔術研連合チームだぁぁぁっ!!」
数秒の静寂の後、正太郎達の勝利を告げる放送と共に大歓声がグランドに響いた。
「すっ……すげぇ……」
正太郎の驚異の活躍ぶりに思わず奏が言葉を漏らす。
「どうですか、白井君の実力!」
杏佳がえっへんと胸を張る。
「ああ……正直侮ってたぜ。
でも、どうして急にあんな強くなったんだ?」
「白井君は一端妄想の世界に入るとそこでの自分のキャラを完璧に演じる事が出来るんだよ。
きっと今のは最強の騎士かなんかの妄想だったんじゃないのかな。
まぁ白井君自身はそんなつもりないらしんだけど」
(いや、なんだそれ……
凄いのか凄くないのかよく分からないぞ……)
歌音の回答に奏がどうリアクションすればいいものかと表情を陰らせていると、杏佳が続けた。
「ただ、一つ欠点がありましてね。
彼、一回入っちゃうと誰にも手をつけられないんですよ」
「ああ、馬やってた先輩と明彦が死にそうだよ」
グランドで肩で息をしながら疲労困憊の表情を浮かべる誠と明彦を一瞥して奏が言う。
「最後の方もうあのおっきい人に引き摺られてる感じだったもんね……」
雪菜が恐怖を孕んだ表情で同情の言葉を呟く。
「あははは、すいませんねうちのもんが」
口ではそう言うものの杏佳の表情に悪びれた様子はない。
「でも、人の心配をしている場合じゃないよ。
次は私達の番なんだから。
きっと、戦争になる」
歌音がそう言ってポンと二人の肩に手を置く。
「そういえば冬野君と神崎君、それに魔術研のみんなは競技の準備をしなくていいのか?
たしかタイヤ争奪戦は次だったと思うのだが……」
薫の言葉に彼女達の表情が固まる。
彼女達が固まった表情のまま視線をグランドに向けると、もう既に騎馬戦を終えた男子達が退場していた。
「やべっ、行きますよ花沢さん!」
「合点!」
「雪菜、俺達も急ぐぞっ!」
「えっ、ちょっまってよぉ!」
慌てて走り出す杏佳と歌音を追い掛けるように雪菜と奏も走る。
「みんな、間に合うのかな……?」
そんな彼女達の後ろ姿を眺めながら美華が不穏そうに呟く。
因みにタイヤ争奪戦は各部女子五人が出場出来る種目で、薫と美華はエントリーしていない。
「まぁ、なるようになるだろ」
薫がそう応えた頃にはもう彼女達の姿は見えなくなっていた。