表情ひとつ変えないチート美少女を号泣させるのが癖です 作:美少女仮面
ある日のことだ、村に一つの騒動が持ち上がった。
近隣の森で、正体不明の魔物が発見されたという報せが村長からもたらされたのだ。
数は少ないものの、村人たちだけでは対処が難しいという。
助けを呼ぶほどの大事でもなく、しかし自分たちでは解決できそうにはない。
……村長は困った顔で、だから俺たちに相談を持ちかけてきたのだ。
「すまないが、君たちに頼めないだろうか……? もし、セリカ殿の力がまだ残っているのならば……」
村長は、俺がセリカの過去をぼかしながらもある程度話したことを覚えていたようで、だからこそその場では直接「勇者」とは言わなかったが、その意図は明白だった。
セリカは俺の顔を伺うように見つめる。
その瞳には、かつて「勇者」として戦ってきた経験と、今の「普通のセリカ」としての生活の間で揺れる明らかな迷いがあった。
だが、俺は最初から彼女の選択を尊重しようと決めていた。
「セリカ、どうしたい?」
沈黙がしばらく続き、セリカはゆっくりと口を開いた。
「……行きます。村の皆が困っているのなら、私にできることがあるのなら」
その言葉に村長は安堵の表情を浮かべたが、セリカはそこから付け加えた。
「ですが、今回は『勇者』としてではありません。ただ、村の皆を守るために、セリカとして戦います」
それは間違いなく彼女自身の意思で、彼女自身の言葉で語られた「使命」だった。
だとしたら、俺もまた己の「使命」を全うしなくてはならない。
剣は使えないが、彼女のサポートならできる。
「俺も行くよ、セリカ。サポートは任せてくれ」
セリカは一瞬安堵の表情を浮かべた後、すぐに真面目な顔つきに戻る。
「では、行きましょうか」
そして宣言通り、彼女と俺はすぐに準備をした後森へと向かった。
危険な気配は森の外からでも察する事ができ、久方ぶりの「それ」を感じた俺は武者震いをする。
「間違いなさそうだな」
森の奥へ進むと、瘴気は薄いものの確かに魔物の気配が濃くなっていく。
やがて、森に足を踏み入れてから数分もしないうちにその気配の持ち主が目の前に姿を現した。
それは、かつて魔王軍の斥候を務めていたという素早い動きをする狼型の魔物だった。
「あれは……」
セリカはその場に立ち止まり、深く息を吸い込んだ。
「……っ!」
その手に光が灯る。
かつての「聖剣」ではなく、彼女の体から溢れ出す純粋な光の剣。
それは彼女自身が持つ「力」そのものだった。
「準備はいいですか?」
その声には、かつての冷たい完璧さはなく、しかし確かな意志とわずかな緊張が混じっていた。
「グルルロロロロッ!!!!」
こちらが武器を構えた瞬間、戦闘態勢に入っていた魔物が雄叫びをあげてこちらに向かってくる。
セリカは素早く反応し、光の剣を振るった。
その動きは、かつて魔王軍を圧倒した勇者そのものだったが、明らかに勝手のそれではなくどこか「人間味」のようなものが宿っていた。
「せいっ!」
凄まじい剣筋。
魔物はセリカの素早い動きについてこれず、あっという間に切り伏せられた。
そして以前のように血が飛び散ることはなく、魔物がチリとなって霧散していくのを確認したセリカは深呼吸し、俺の方を振り返った。
その顔には、戦い終えたばかりの疲労と、しかし同時に達成感が滲んでいた。
「……俺がサポートする必要もなかったな」
「いえ、そんな事ないですよ」
彼女は笑って言った。
「貴方が一緒にいてくれる、それだけで私は嬉しいですから」
「そう、か?」
「ええ、やっぱり一人きりで戦うのは心細いですから……誰かがそこで私を見守ってくれる、ただそれだけで良いんです」
「俺としては、やっぱり一緒に戦いたいんだけどな」
「そう、なんですか?」
意外そうにそう呟き、それから彼女はクスリと笑った。
「意外と──男の子、なんですね?」