童貞よ、女を抱け   作:リバプールおじさん

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休日にも仕事はあるんだよなぁ

 

 

「あー...確かに、ちょっと雨漏りしちゃってますねここ。直しちゃいましょっか?」

「出来るならよろしく頼むよ。ここじゃあ、そんなに高いところに行けない人たちばかりでねぇ」

 

 近所に住むおばあちゃんの発言である。今日は休みにしようという事だったので、社会科見学がてら近所をぶらっと散歩してたら助けを求められた。

 

 おばあちゃんとか、おじいちゃんの類は好きだ。父方と母方の2人ずつ、合わせて4人とも、この初孫を蝶よ花よとチヤホヤして、たまに帰省するタイミングでは光源氏でもおもてなしするかのごとく接した。なので俺はおじいちゃんっ子とおばあちゃんっ子の二足の高齢者向け介護靴を履いている状態である。

 

 まさか、まさか、こんなのに育つとは思っていなかっただろう。でも許してほしいと天国に向けて、心の中で手を合わせる。子供なんてのは皆神童なんだ。お母さんのお腹の中からオギャーって生まれて、スタートダッシュ切るまでは幸せなんだ。マラソン大会とかに時々いるじゃん?最初の50メートルだけ突っ走って注目集める目立ちたがり屋の市民ランナー。あれです俺は。あのペースで走れるわけないじゃん42.195キロ。舐めてんじゃねえぞフルマラソンをよ。

 

 まだ若いんだからとか言って慰めてくれる人もいるけどね、もう19年も世間の寒風に吹かれつつ、自分自身のせいでじめじめした環境に身を投じてりゃ、尾鷲のヒノキも捻じれて曲がって虫に食われて腐りますよ。鍛えられたというより風化って表現が正しいんじゃないかな。もう一度練り直そうとしたら、ボロボロに崩れて二度と組みなおせないでしょうねこれ。

 

「はぁ...」

「疲れたかい?お茶でも飲んでいきな」

「いや、そういうわけじゃないんですけれど。ちょっと最近悩み事が多くて...」

 

 主におっぱい女とか日銭とか距離感壊れてる同居人のせいでね!

 

「まだ若い身空で難儀だねぇ。これでもあげっから、話しておゆき」

「なんです?これ」

 

 渡されたのは、なんか薄い板。日本の神社にあったお札とか、そういうのに似ている。家に会った神棚を思い出した。やっべ、お焚き上げ行けないな来年...。

 

「懺悔室の許可証さね。これ見せりゃ、誰でも悩んでることぶっちゃけられるからね、行くと良いや」

「へぇ...教会。ありがとうございます」

 

 努めて爽やかな青少年、お母ちゃんの腹からポンと出てきた、あの頃の瑞々しく新鮮な輝きを今でも忘れずに胸ポケットに詰め込んでいる天衣無縫のナイスガイ

 

 この世界の宗教は、確かキリスト教的なあれである。金取られないなら行ってこようかな。

 

 

 

_______________

 

 

 

「へーぇ...初めて見た...」

 

 初詣の時に神社とお寺さんをはしごするくらいには適当というか無頓着な、とりあえず目の前にある宗教施設を、年初にお参りしたという達成感を味わう闇鍋にぶち込むための素材としか思ってない俺だが、こういうタイプの施設は初めてだ。テンション上がってきた。感覚としては、美術館に来た時とかそういう感じ。

 

「お待たせしました。こちらへ...それと、一つだけお願いしたいことがあります。必ず、必ず、この部屋で話したことや起きたことを、誰にも言わないでいただきたい。......よろしいですか?」

「え?あぁ、はい」

 

 神父さんに手招きされて、目の前を分厚そうなカーテンが遮っている、狭い暗室へと通される。それだけだと、なんだか身に危険が及んで来そうだが、どこからか爽やかな香の匂いが漂ってきていて、これが結構リラックスさせてくれる。

 

 この香、後で教えてくれないかなとか思っていると、カーテンの向こう側から無機質な、くぐもった男っぽい声が聞こえてきた。

 

『あ、あー。えと、聞こえているでしょうか』

「ん?あ、はい。聞こえてます」

『あ、聞こえるんだこれ......えーと、はい。それでは始めましょう。なんでも言って、スッキリして行ってくださいね』

「はぁ......」

 

 聞こえるんだこれ、じゃないよ。聞こえるでしょうよそりゃ。なんでそっちが把握してないのよ。俺は分からないよ初見なんだから。というか、もうちょっと厳かに始まるもんじゃないだろうか、こういうの...。

 

「うーん、そうだな...まずですね」

『はいはい』

 

 深夜ラジオみたいな相槌。もしかしてマイク使ってる?ここどっかの放送局?ラジオネーム、12人の怒れる小野小町さんからのお便り。

 

「その、同居してる女の子がいるんですよ」

『へぇっ!』

「.......んで、まぁ...割と長くやってるんですけれど。その...ちょっと距離が近くてですね。色々と惑いそうになるんですよ」

『は、はへぇ〜...な、なるほど...』

「何とかなりませんかね」

『な、なんとか...とは...』

「性欲ってどうすれば治るんでしょうか」

『せ、せっ!?』

 

 こいつ絶対素人だろ!もっとちゃんと話聞いてくれるの連れてきてくれよ!リアクション全部でかいんだけど!さっき言ってた「この部屋で起きたことを誰にも言わないように」って、悪評判を防ぐための保険だったりする?星1レビューしちまうぞ。

 

『えっと...そ、そう...ですね...別のことをされるというのは...?例えば...その、歌を歌ったりとか...』

「ずっと歌うことになりません?それ」

『あぅぅ...で、では絵を描いたり...』

「それもずっと絵描く事になりそうですけど...」

 

 ダメそう。じゃあなんですか。絵描けて歌えて踊れるダヴィンチさんは性欲魔人のど変態、脳みその代わりに海綿体が詰まっている異常者って事ですか。モナリザの手を描いてる時も勃起しっぱなしだったって事ですか。

 

『う、うぅ...その、もし色香に我を忘れそうになったとしても、天に在します主は我らを見ておられますから...そ、そのことを忘れずにいれば...抑制できるのではないかと...』

「......はい。以後、気をつけます」

 

 ダメみたいっすねこれ。やめだやめだアホらしい、やっぱりお悩み相談室みたいなのが全く使えない無能なのは世界共通か。はー帰ろ帰ろお家に帰ろ、でんでんでんぐり返しで猫蹴っ飛ばしながらエイラと夕飯準備して寝よ。

 

 軽く別れの挨拶だけ済ませて暗室を出ると、なぜだか神父だのシスターだのが喧しく騒ぎながら右往左往していた。火事とかだろうか。

 

「どうしました?」

「お、おぉ!終えられましたか。いや、実は...聖女マチルダ様からのご命令で、聖遺物を根こそぎ持ってきて欲しいとのことでして、今こうして大騒ぎです」

「あー...あのお...人...」

 

 おっぱいの女の子と呼びそうになったのを、社会性でなんとか堪えた。ここは聖なる場所である。

 

「その、あなた冒険者でいらっしゃいますよね?少し頼まれてはいただけませんか?報酬は弾みます、倉庫に行って、聖遺物を探してきて欲しいのです」

「......まぁ、良いっすよ」

 

 このままじゃ、何しに来たのか意味分からんし。小遣い稼ぎの休日出勤に来てたんですよ実は。

 

 休日出勤って冷静に考えたら意味分からないな。休日ってのは、休む日なんだから働かない日だろ。そして出勤ってのは仕事をするために家を出るんだろ。なんだこのヤリチンの童貞みたいな言葉は......。

 

「おぉ助かります!あなたの冒険に神のご加護が有らんことを!しばしお待ちください、お連れの者を呼んで参ります。おーい、アビー!アビー、ちょいと来てくれ!」

「はいっ!」

「おぉアビー、突然で悪いのだが聖遺物を探す事となってな。この方と一緒に倉庫まで行ってくれないか」

「はい、かしこまりました。お任せください!ではご案内しま...す...ね......?」

 

 俺の方を見て白い耳まで真っ赤に染めたのは、黒髪セミロングの丸メガネをつけた女の子。

 ............カーテンの裏にいたの、絶対君じゃん。

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