童貞よ、女を抱け   作:リバプールおじさん

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ある少女の孤独

 

 

 燃える家。踏み躙られていく親しかった顔。ボクを赤ちゃんの頃からずっと見てくれた青い目は、泥の中で光を失っていた。

 

 どこからか、醜悪な高笑いが響く。

 

 

_______________

 

 

 そこで目が覚めた。久しぶりに......もっと詳しく言うと、半年ぶりに見る夢だった。首筋に冷たく流れる脂汗をタオルで拭こうとして、寝起きの重たい体を動かした。部屋の中は暗闇に包まれているままだが、カーテンの隙間から少しだけ紺色の光が見える。なんだかすごい中途半端な、深夜と早朝の狭間に起きちゃったみたい。

 

 汗でベトつく体をタオルで拭いて、コップ一杯の水をちょびちょびと呷る。あんまりにも急ぎすぎたせいで、口元から水が少し溢れて、寝間着の胸元を濡らした。あぁ、やっちゃった。濡れた布地が肌に当たると、なんだか恐ろしいくらいに冷たかった。

 

 もう一度寝ようとしてベッドに体を沈み込ませた。ボクの他には誰もいない。猫ちゃんは相変わらず彼の部屋の方で寝ている。まっさらな、ボク一人の体重で歪むベッド。

 

 ......ボクも、猫ちゃんと彼のところへ行った方が、寂しさも紛れるだろうか?だけれど、この暗い中で廊下を1人で歩くのは少し恐ろしく感じられたので、やめることにした。

 

 しかし眠ることも出来ない。ただモゾモゾとタオルケットを蹴ってみたり、枕を丸めてギュッとしていたら、ようやく窓の外が明るくなっていった。長い夜だったと思いながら、一気にカーテンを開ける。とっても綺麗な朝焼け。まるで、誰かの素敵な未来をお祝いしてくれてるみたいな、気持ちの良い快晴だった。あまりにも眩しかったせいで、思わず目を瞑ってしまった。

 

「みーう」

「あ...忘れてた。ごめん、ね」

 

 昨日のお夕飯のお皿が置きっぱなしなことに、猫ちゃんの鳴き声で気が付いた。もちろん皿の中身もそのままで、一夜放置していたせいで脂がパリパリに乾いてる。猫ちゃんもひとつ嗅いだだけで、すぐに机から降りて、どこかに行っちゃった。変なもの嗅がせちゃってごめんね。臭かったよね。

 

 もう食べられないので、生ゴミで捨てる。1人分のご飯。1人分の食器。昨日から半分になっちゃった。食費も浮いたりするのかな?でも稼ぎは多分半分以下になっちゃうから、これからどうしよう?

 

 なんだか朝ごはんも食べる気がしない。キャットフードだけお皿に開けてあげて、そのままもう一度ベッドへ。また眠る気はない。ただ、立っているのも億劫だった。天井だけ見ていれば、余計なものを見ずに済むから。

 

 

 

 

 

 カッコよかった。初恋だったと、ハッキリ言える。

 

 生まれたところが魔法使いの珍しい田舎だったから、ボクはちょっと魔法が使えるだけで天才だった。故郷が燃えた後も、心のどこかで天才だという浮ついた気持ちがあって、そこを突かれた。

 

 魔物に襲われて、そのまま押し倒され、止めに武器を向けられた時のあの感触は今でも覚えていて、足がすくむ。

 

 けれど、彼が雷魔法と一緒に現れた。逆光であまり顔は見えなかったけれど、笑いかけてくれたのは覚えている。あの時、腰の抜けてしまったボクを立たせるために差し出してくれた手の温かさを、今でも覚えている。きっと、もう、ずっと忘れることはないんだろう。

 

 ハーレムが作りたいと彼は1人の時にボヤいていた。ハッキリ言って、最初に聞いた時は頭おかしいんじゃないかと思ったよ。だって、女の子のこと全然知らなかったのに、そんなこと言ってたから。というか、普通女の子1人捕まえておいて、そういうこと言う?すごく失礼じゃない?独り言聞いちゃったボクも悪いんだけどさ。

 

それから先は、もうめちゃくちゃだった。なんだかキミの照れてる姿が可愛くって、いっぱい見たくなっちゃった。恥ずかしかったけれど一緒のベッドで寝てみてもした。そしたら、結局ボクの方がこの始末だ。隣にキミがいないと、おちおち寝られやしない体にされてしまった。

 

 だけど、本当は、ただ取られたくなかった。あの日見たキミと魔法の輝きを、ボクの物だけにしたかったんだ。でも、それは出来なかった。君は持っている力を人のために役立てたいと願った。ボクは自分だけの物であってほしかった。どちらが正しいかなんて、火を見るよりも明らかだ。

 

 それに、こんなやせ細っていてつまらない女より、もっともっと可愛い女の子なんて、この世にはいっぱいいる。だから、もし、あなたがボクの前からいなくなる時が来ても、その時は負けたんだと思って、すっきりと諦めようと思っていたし、そういう切り替えがスパッとできる自信はあった。

 

 半年前までは肩口に掛かるくらいだった黒髪は、今では胸のあたりまで毛先の伸びたロングになっていた。右手の人差し指でクルクルとウェーブを掛けるように巻いてみたりする。お店で素敵な匂いだと思ったから、この前変えてみたシャンプー。変えた日の夜は、なんだかいつもより彼は動揺していた。そして次の日になって、すごく良い匂いだねって言ってくれた。なんだか、ちゃんと見ててくれているんだなって思えた、あの時が忘れられなくて、嬉しくて。

 

「......あれ?」

 

 いつの間にか、という表現が正しかった。なぜか、自分でも気が付かないうちに鼻の奥がツンとして、目尻から涙がポロポロと溢れてくる。泣いちゃだめだと思って、指先で涙をぬぐったけれど、喉に石でも詰まったみたいに声が出ないまま、ただ涙と引き攣ったような嗚咽だけが漏れる。

 

 あぁ、ボク、負けたんだ。

 

 しばらくの間、涙が枯れるまで、思いっきり泣いてやることにした。けれど、声は出なかった。静かに、静かに。ボクは泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 しばらくして、ふと目が覚めた。窓から差し込む光の強さと角度は、今が大体お昼過ぎくらいだと示してくれている。目元と口元に、なんだか乾いたような感覚が残り、視界にはいっぱいの黒い枝毛が映る。きっとボク、今酷い顔してるんだろうな。

 

「...おなかすいた」

 

 なんか適当にありあわせでも混ぜようかな。どうせ、これから贅沢は出来ないわけだしね。

 

 さてどうしようかな、と考えていると、突然爆音が家中に響いた。ゴーストは全員祓ったはずだけど...。多分、位置的には玄関の方だ。ボクはゆっくりと、魔法だけいつでも打てるように準備して玄関へと向かった。 

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