童貞よ、女を抱け   作:リバプールおじさん

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一途に

 

 強い!雑に強い!

 

 とりあえず1階層分を丸々サーチ。そして探知したのをそのまま遠隔で魔法使ってぶちのめしつつ、それでも潰れないくらい骨のあるやつは目の前におびき寄せて始末。意味不明なくらいに強い。

 

 みんながRPGに徹している中、1人だけ作業ゲーを消化している感じ。サマーセールで50円くらいだったという理由で買ったその類のゲームにのめり込んだ結果、一時期社会性を著しく欠損した俺が言うのだから間違いない。

 

 バランス調整の6文字をどこかに置き忘れた、自分のゲームエアプのプログラマーがぶん投げてきたような魔法スキルの強みを100%発揮しつつ、ほとんどお散歩と変わらないスピードで迷うことも特に無く進む。

 

「はぁっ......あの、マチルダ...様。ふぅ...この街のダンジョン...じ、16階層まで...の...はぁ...はず、なのです...が」

「何言ってるのあなた...今もう18階は下ってるわよ」

 

 もうそんな下ってたっけ。あんまり覚えてない...。と言うかアビーがめちゃくちゃ息切れしてる。冷静に考えたら、なんで付いて来たんだろうこの子。ただ聖遺物渡したら終わりじゃなかったっけ。

 

「...休みます?」

「お、お願い...します...ひぃ...すみません...」

「別に私は良いけど...そうね、そうしましょう。ちょっと待ってなさい」

 

 おもむろにマチルダはその場にしゃがみ込んで地面に手をかざすと、周りの景色がホテルの一室のように変わり始めた。これ知ってる。空間魔法だ。

 

「これ、密室以外で使えたんだ...」

「え?これ原理的には魔力で壁作って、そこを書き換えてるだけだから。どこでも出来るわよ」

「知らなかったそんなの...」

 

 初知りである。俺が使ってた魔法そんな感じだったんだ。

 

「......あんた、原理も知らないもん使ってて怖くないの?」

「下水道局の場所と配管を知らなくても、トイレは流せるだろ」

「なっんっで!そこで出てくる例えがトイレなのよ!下手っぴ!」

 

 だってスマホとか家電製品で例えようとしても、君たち知らないじゃないか!うんこ流すことの何が悪いんだ、その口で言ってみろっ!

 

 まぁ、そんなこと面と向かって言う度胸は無いわけですが。面倒臭いからさっさと直してもらっちゃおう。右手を差し出した。

 

「お願いします」

「......いや、あんたは別に要らないでしょ。治癒魔法」

 

 ...そうじゃん。いつもの癖で剣握ってる手出しちゃった。うっかりうっかり。夜中の10:00か。......エイラ、今何してるかな。もう寝てるか。

 

「と言うかその手...ちょっとあんたヤバいわねこれ、タコだらけじゃない。やっぱり直してあげよっか?」

「うーん......いや、良い」

 

 申し出はありがたいのだけれど、丁重にお断りだ。半年分の頑張りの証がパッと消えると考えると、なんだか惜しいものがあった。

 

 その代わり、疲労困憊ではひはひ言いながら肩で息をしてる運動不足シスターの方に治癒魔法。

 

「あ、ありがとう...ございます...」

「体力つけた方が良いですよ絶対」

「そうよ、あなた魔王とか関係ないところで死んじゃうわよ」

 

 流石に街中で体力不足で干からびてる、雨の次の日に死んでるミミズみたいなのは嫌だな...見たくない。

 

「すみません...私、ちょっと寝ます...」

「おやすみ」

「早く寝なさいよ」

 

 アビーはすぐに寝息を立て始めた。部屋の真ん中に据えられた椅子と机に、俺とマチルダだけが残る。いつに無く真剣な紅い瞳は、いつものギラギラと煮詰まっていた感じは鳴りを潜めて、ただ静かにこちらを見据えている。......マジで猫みたいな目してるな。猫といえば、アイツまだ俺のタオルケット独占してんのかな。......腹立つわ。

 

「........で、何考えてんのよ」

「タオルケット」

「なんで?......まぁ良いわ。今日は逃さないから」

 

 な、なんて男らしい...!そんなセリフ、19年間男やってる俺でも全くの無縁だったのに!ずるい!

 

「で、どうするの?来るの、来ないの」

「......君は、どうしたい?」

「ハッキリ言って、今すぐにでも一緒に行きたいわ。こんな魔法使い始めて見るもの。あなた、特別だから」

 

 質問に質問で返す、出来ない男のフォローとして返答するマチルダ。そりゃ当然だ。こんなところまで来てやっぱなし!とか言われたら泣いてるところだ。

 

「でも、最後に決めるのはあなただから。ちゃんと、あなたの口から答えて。どちらでも私は受け入れるから」

 

 そう言って、真っ直ぐにこちらを見つめてきた。

 

 人生にはモテ期があると人は言う。モテ期というのは、大安売りセールだ。いつもはプライドばかりは高い割に品質の悪いやつが、プライドが安くて質も悪いやつになる時期だ。時々プライドは高いままに品質が上がる奴もいるが、そんなやつはほとんどいない。

 

 安かろう悪かろうを地でいく俺からすれば、多分これがモテ期なのかもしれなかった。少なくとも、余震のような、雨が降る前にアスファルトから香り立つ匂いのような、そんなモテ期の予兆めいたものを感じていた。

 

 ハーレム作りてぇなぁと、そういうバカなことを考えていた。多分だけれど、今ここで彼女に付いていけば、その望みも叶えられる。そんな奇妙な確信があった。

 

 さて、猶予はそんなに残されていない。早く出さなくては。

 

「............すみません、聖女。一緒にはいけません」

「そっか」

 

 喉奥から絞り出した言葉。俯いて机の方ばかり見ている俺に、分かってたわよとマチルダは聖女みたいに優しく笑った。

 

「一応理由だけ良いかしら」

「......エイラっていうんです、この前一緒だったやつ。その、俺なんかよりよっぽど出来た人間なんだけど...ちょっと抜けてるというか、子供っぽいところもあったりして......えぇっと......」

 

 そこで言葉に詰まる。マチルダは相変わらず穏やかに話を聞いている。言わなくては。しっかりと。男女とか関係なく、人の礼儀として。ここで逃げることは、女の子と話すことよりよっぽど恥ずかしい。

 

「......俺がいなくちゃ、あいつ、どうやって日曜日に夕飯食べるんですか......」

 

 その言葉に、マチルダはにっこりと微笑んだ。

 

「言えたじゃない」

 

 その笑顔を見て、ピンと一つ閃いた。そうだ、こんな話を長引かせておいてやっぱり良いですじゃ申し訳ない。これが1番良い!

 

 思いついた勢いそのままに、マチルダの両手を掴む。うわっスベスベ。

 

「ちょ、ちょっと!なになに......目が、目が怖いわよあんた!」

「良いこと思いついたんだ!任せてくれマチルダ、仕事はちゃんとするから!見てくれなくても良いから!」

「ちょ、こ、怖いから!手離して...!あ、アビー、アビー!起きて!モンスター入って来た!」

 

 

 

 顎がカクカクします。

 

「......で、魔王の討伐には行かれないと?」

「うん。申し訳ないけど」

「本当は四天王くらいはやってほしかったけれどね。あんな泣きそうな顔で惚気られたら、怒る気も失せちゃったわ」

「泣いてないです」

 

 泣かないです。俺が泣くのは、アラバスタでビビとお別れするときだけです。

 

「...で、アンタこれからどうするのよ」

「とりあえず一眠りしたら地上に戻りましょう。アビーは...身体強化魔法かけます」

「そうじゃなくて!その...エイラちゃんと、どうするのって聞いてんのよ」

「正直に打ち明けて、派手で無くても良いから、楽しく暮らそうと思います」

「素敵じゃない」

 

 深く頷いてくれるマチルダ。やっぱ持つべきものは聖女です。人生に1人は聖女の知り合いが必要だ。

 

「あ、あの...確か、その方に心乱されていると...私、ただの開き直りを聞いたわけじゃないですよ...ね...?」

「明日早いしさっさと寝よう。水置いてない?」

「奥行って右に冷蔵庫あるわよ」

「ありがと」

「違いますよね!?ねぇ!お返事お願いします!エイラさんと何されようとしてるんですか!?」

 

 ナニでしょうねぇ。

 

 

_______________

 

地上に出て、アビーを教会まで送って、マチルダとホテルで別れ、その足でそのまま家に向かった。全速力で。

 

 ヤバい家の鍵忘れた!開けてくださいお願いします!トテトテとした軽い足音。聞き慣れた足音。それが近付いてきて止まるのが、永遠に感じられた。

 

 ドアが開く。体を捩じ込み、そのまま見慣れた華奢な体を。

 




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