「ただいまーっ!」
エイラを愛でる会(会員1名固定・新規加入者は殺す)のエントリーだ!まずは第一種目、抱っこ!うーん華奢、ちゃんとご飯一緒に食べてるはずなんだけどなぁ。これからはもっと一緒に食べような!
「しょ、ショーマ!?く、るしい...」
「あ、ごめん」
競技中断!レッドカード!伊藤選手に死刑判決!撃てェ撃てェ!
目を白黒させていたけれど、やがてエイラはなんとか言葉を絞り出したみたいだった。
「ど、どうして帰ってきた、の?」
「いやぁ...なんか、その、落ち着かなくって...ただいま」
「.........そっか。おかえり」
落ち着かなかったというのは事実である。ベッドに入った時、あるべきものがないというか、なんか裸のまま寝た時みたいな不安感があった。なので、こうして抱きしめることで人生におけるエイラ濃度を補給する。皆さんも夏場には水分と塩分補給を欠かさずに行いましょう。こんな風に。
「や、は、離れて...ボク、まだお風呂入ってないの...」
「俺も。そうだ、一緒に入る?」
「や、やだっ...!恥ずかしいし...というか、ショーマ、なんかおかしく...」
あら可愛い。黒髪の間から覗く白い耳が真っ赤に染まってるのWATCH。可愛い可愛いね。おかしいのは元からだろ。
「そっか......じゃあ、風呂沸かしてくる。先に入る?あとで入る?」
「あ、後で...」
「分かった。んじゃ入れてくるね」
なぁんだ、当てが外れた。いつもなら先に入るって言うと思ったんだけど。じゃあちょっとだけ、いつもより熱く入れるか。
_______________
「こ、こうして...ふ、二人は...し、幸せにく、暮らしま、した...」
「良い話じゃ~ん」
「なんで、こんな近いのっ...!」
「俺がこうしたかった。他意はないよ」
下心はあります。
猫カフェという施設がある...というより、俺が元居た世界ではあったらしい。行ったことないので、詳細は知らん。多分だけど、俺が行ったらそのお店は、フルーツとホイップクリームたっぷりのパンケーキとか、甘いカフェオレを提供するカフェから、全く血抜きも出来てなくて生臭い伯邑考のハンバーグ屋さんに早変わりしていたことだろう。
そこではあの猛々しい爪と牙を持つ獣を、膝に乗せたり頭を撫でたりして愛でながら、お茶を頂く場所らしい。
何で猫がいる必要あるんだ?カフェオレとかパンケーキに毛なんかが混入したら凄く汚くないか?というかつまみ食いとかされないのか?わざわざ安くも無い金を払って、たっぷりご飯を貰ってるであろう動物をさらに肥えさせてしまうのではないか?そんな感じの感想を抱いていた。食うなら食う、愛でるなら愛でるで分けて考えろ、お前ご飯食べながらスマホ見てるタイプだろ。そう言いたかった。
しかし今日、俺は異世界で、その猫カフェにお客さんが通う理由を完全に理解した。
とても捗る。いや、別にナニがではない。膝の上に乗せた命とのコミュニケーションである。
まず、習慣となっていた絵本の読み聞かせを膝の上でやってもらうことにした。最初はエイラもびっくりしていたみたいだけれど、後ろから抱き着いていたら静かになった。俺とエイラだと少し体格差が著しい所があるので、腕を回して抱き付いても、割とゆとりがある。
「やっぱいい匂いするんだよな」
「か、かがっ......うぅぅ~...も、もう、終わり!」
プルプルと震えたああと、絵本を畳んで勢い良く立ち上がるエイラ。涼しくなってしまった膝の上が寂しい。いつでも帰ってきてほしい。俺、実家になります。なれます、ならせてください!
「ボク、もう寝る!ひ、1人で寝るから、あっち行って...!」
「そんなぁ」
つれないなぁと思ったけど、頑張って声を張り上げるエイラに免じて、1人で寝ることにした。
「おやすみ」
「......おやすみ」
ぷりぷり怒っててもね、ちゃんと挨拶を返してくれるところが本当にいいなぁって。
「ほれ、どいたどいた。お前のもんじゃないよそれ」
タオルケットから、自由と無秩序を履き違えている野生と愛玩の成り損ないを引っぺがす。......ちょっとかわいそうだったので、タオルケットはくれてやる。この際だから、座布団も貸してやろう。うん、機嫌良いから今日は。万物の霊長にはこういう余裕があるんだよ。
座布団をベッドに、タオルケットを器用に体に被せたまま丸まった奴を見届けてから明かりを消した。俺のベッドの上には何もない。寝間着だけを保温の頼りにするストロングスタイルだ。無人島遭難1日目でも、もっとましなベッド環境整えてそう。まぁ夏だし。上に何か被らなくても、凍死したりはしないだろう。
しばらくして、うとうとと半分寝ぼけ掛かっていると、廊下の床板が少し軋む音がした。おや?と思う暇も無く、扉が控えめに開いた。
「......その、い、一緒に寝て...欲しい、です......」
タオルケットを持参して現れたエイラの姿に、俺は無言で両手を上げてガッツポーズを決めた。コロンビアの構えだ。おそらく、サヨナラホームランを打った野球選手というのは、今の俺と同じ気分だと思う。
「ち、近くない...かな」
「いつももっと近くなかった?」
「そ、そうだっけ...?」
嘘です。こんなにしっかりと抱きしめるのは初めてです。あぁコロッと騙されちゃって、可愛いなぁ!悪い男には騙されないでね!俺以外の悪い男には!ぶっちゃけ今日から始めようと思ってたけれど、こんな事されては無理です。許せマチルダ。明日から本気出す。...ニートではないんで。そこは信じてほしいかなって。だからそんなに睨まないでほしいです、俺のイマジナリーマチルダさん......。
胸のあたりの生地がキュッと摘ままれる感覚があった。エイラがこっちにしがみついてきているんだなと、ボンヤリ思った。彼女は、寝る直前にこういう風に俺のことを掴む癖があった。俺が止まり木になります。
しかし今日のエイラは、まだ眠りとは遠い所にいるようだった。
「ね、ね、ショーマ。なんで、戻ってきたの?」
「なんか...寂しかった」
事実である。寂しかった。魔法で全部ブチのめすより、剣握ってひーこら言いながら敵を倒して、エイラと一緒に進む方がよっぽど楽しい。なんとまぁ、神様は与え甲斐の無いやつに魔法チートを与えたことだろう。
自分の手すらも見えない暗闇の中で、微かに、しかし確かにエイラが笑ったのを感じた。
「じゃあ、ボクと同じ、だね」
「......そうか」
「......さみしかった」
一段と、胸元を掴む握力が強くなった気がした。エイラは泣いているのかもしれないと思った。こちらへ抱き寄せる。
「......くるしい」
「あ、ごめん」
「だめ。こっち、向いて」
言われるがままに、エイラの方を見る。互いの鼻息が触れるくらいの距離。
ずりッと音がして、エイラが動いた。何で動いた?と思う間もなく彼女は近付いてきて、そして。
「ふふ、ふふふっ。......ボクの。おやすみ」
その日の晩は、唇に、俺の物ではない体温と柔らかさがずっと残り続けた。