「すんませんっした」
「うん......」
ずびずびとお茶を啜るアンバー32世。両手で丁寧にお湯呑を包んで、ちまちまと飲む姿に威厳らしい威厳は微塵も無い。魔王というよりは、親の付き合いで知らない人の家に上がらせられて、緊張してるけど喉は乾いたので慣れないコップでオレンジジュースだけ頂いてる親戚の子供みたいだ。
「これ、あつい」
「......氷くらい自分で出せるだろ」
思ったより余裕があるのかもしれない。仕方ないので、魔法で作った小さめのロックアイスを2つ、湯呑の中に落としてやる。俺が魔法を使った途端、隣に座っていたエンディとともに大きく肩を跳ねさせた。面倒くさいからやめてくれないかな...。
この魔王勢2名は全く役に立たない。俺も何らかのアクションを取りたいが、したらしたで、こいつらはまたオーバーリアクションを取るだろう。つまり、ここにいる人間で自由に立ち回れるのは。
「ね、ね、ショーマ。本当に四天王倒したの?」
「え?うん。報酬金高すぎて、一応証拠も必要かなって思ったから、ちょっと一部拝借してきたんだけど...」
討伐報酬見て笑っちゃったよね。1番低い四天王の1人でも、庶民だったら一生働かなくていいレベルのお金が入ってくるんだもん。
「ゴブリン元帥は?」
「兜なら2階に置いてあるよ」
「冥界王イブリースは?」
「なんかボロボロのマント残ってた」
「...悪堕獣テスタロッサ」
「牙取れちゃったから取ってきた」
「......ち、超絶最強アルティメット・ドラゴンさん......」
「あー...実は......アイツだけ生き残ってる」
「えぇっ!?」
「なんじゃと!?」
歯切れの悪い俺の言葉に、アンバー32世は激しく反応した。にわかに目が爛々と紫色に輝き出し、魔王らしく意地の悪そうな笑みに唇が歪む。おぉ、ようやく魔王っぽく...。エンディの方も、澄ました顔はしているが、明らかにソワソワと期待し出している。分かりやすすぎるな、魔王軍関係者。
「ふっくくく...!流石は我が随一の僕、超絶最強アルティメット・ドラゴン......!賢きものよのぉ......あれを生かしておいたことが、貴様ら人類種の最大の後悔となるであろう......!」
「あ、あぁぁっ...!」
アンバー32世の方はここぞと言わんばかりに魔王らしいことを喋り散らかし、エイラはエイラで魔王の一挙手一投足にビビり散らかして、上げさせ甲斐のある悲鳴をあげている。
......なんか俺抜きにして、勝手に盛り上がってるの腹立つな。一応、四天王とやり合ったの俺なんだけど。魔王さんは四天王の結界破れたから、ずっと逃げてたよね多分。だって玉座っぽい所に行ったら影も形もなかったし。
「......あのドラゴン、俺が部屋に入った途端に泣いて土下座してたけど」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
空気が凍りついた。おかしいな、俺が氷魔法かけたのお茶にだけなんだけど。
「......し、証拠はどこじゃ!証拠も無しに倒したと宣うなど、乳飲児でも童でも、ボケ老人でも出来るわ!」
「そ、そうです!もし...もし倒していないとしても、そのような状況であれば何かしらを超絶最強アルティメット・ドラゴンさんから受け取っているはずです!
「た、確かに...ショーマ、証拠とかないの!?」
魔王側2人は分かるけど、なんでエイラまで疑ってんだよ。きみはこの場で唯一のこの世界出身の人類代表だろ。信じてくれよ俺をよ。
「えっと......なんか喉元の鱗1枚貰った。多分だけど逆鱗ってやつじゃない?今持ってくるから待ってて」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
2回目の凍結を尻目に、2回へ続く階段へと向かった。今度同じ反応したらエイラにはデコピンかますからな。他2人?滅却魔法。
えーっと、とりあえずドラゴンの鱗と...もう面倒くさいし、一応全部持ってくか。兜かぶって、ボロ切れマントをマフラーみたいに首に巻いて、牙も持って......なんかソシャゲで初心者が適当に有り合わせのスキン全部着たやつみたいになっちゃった。ファッションの統一性もクソも無い。まぁ良いか。とりあえず見せてやろ。
「ひええええええええ......」
「あぁ、あぁっ...!なんと、なんということだ...!」
「え、うわぁ...これ、本当に全部四天王から...?」
めちゃくちゃ俺が悪いやつみたいじゃん!違うよ、これ死んだ後に残ったのがこれだったってだけで...ドラゴンは自主的にちぎって渡してきたし!別に金目のものを恐喝して剥ぎ取った後に殺すみたいなことしてないから!
というか、3人ともなんでそんな反応が揃ってんだよ。仲良いのか?
「......うん。なんかね、多分色々効果あるわこれ」
例えばマント。これはすぐに分かった。着ている間は物理攻撃無効化である。......多分、これ着てた四天王自身も物理無効化だったんだろうなぁ......全部魔法で踏み潰したから、俺が気がつく機会なかっただけで......。
「......すごく強くない?それ...」
「ぶっちゃけ売りたくないくらいには強い。この鱗は、どういう効果なんだか分からないけど...」
「な、なぁ......その鱗、ちょいと触らせてはくれんか......?」
おずおずと手を挙げて、しゃしゃり出てきたのは魔王その人。あんたの部下の体の一部だけど。イメージ的には切った親指の爪とか、そういうのじゃないのこれ。
「別に良いけど...なんか変な事しでかそうとしたらマジで許さんからな」
「んなコソ泥みたいな真似せんわい!......おぉ、これは...へぇ!こういう感触なのか......エンディも触ってみぃ」
「では失礼して......うわっ!?え、あっこうなってて......へーっ!」
「ぼ、ボクも...!」
だからエイラは何しても良いだろ。なんでそこ3人で1つの行動なんだよ。
「その鱗の何が、お前をそこまで駆り立てるんだ......」
「いやなに。昔から逆向きに生えておる1枚が気になって気になって......ずっと触らせろと言っていたのだが、終ぞ触らせてくれなかったのじゃ」
「すげぇ嫌な上司...」
「まぁ反乱起こされる一歩手前でしたからね」
今なんて言った?エンディが聞き捨てならない一言を放った。四天王が反乱?マジで?あるのそういうこと。
「魔王軍ってバーン様みたいなやつ以外でも裏切るんだ...」
「どんな魔王なんじゃそいつ」
「先代の魔王様が神去られて以降、四天王の中で新たな魔王様を祭り上げようとする風潮がありまして......」
いや、別に俺にとって魔王軍の裏事情とかどうでも良いのだ。お好きにどうぞって感じの世界だ。それ以上に俺の関心は、結界抜きで魔王がどんな強さなのかという話に向けられていた。
「その魔王にされそうだったやつ、強いの?」
「いや?ワシと同じくらいじゃ」
うーん......?こいつの強さが分からん......多分、マチルダ+αで頑張れば勝てるくらいの相手ではあると思うんだけど......。
「今からそいつ半殺しにしておくってのはどうだろう」
「か、かわいそうだからやめてあげて...?」
「はい」
名案だと思ったんだけどなぁ。
「なんじゃお主ら。魔王倒したいんか」
「いや、倒したいっちゃ倒したいんだけど。倒すのは俺じゃなくって...でも心配なんで、出来る限りやりたい」
「お主、昨日何するつもりだったんじゃ......」
「四天王ぶちのめして城の中で合流。その後4人がかりで魔王様をめちゃくちゃにして7割くらい削って帰る」
「.......エンディいいいいい〜......」
「.......瞬間移動魔法覚えておいてよかった......」
そんな魔法あるんだ。見せてもらお。
「別に魔王が倒されれば誰でも良いからなぁ...魔王やめるなら、別にアンバーさんは敵じゃないですよ」
「真か!?」
「つまり魔王を倒したという実利を得たいと...人間側は、そう考えているのですね」
やや自信ありげな態度で、エンディがそんなことを言った。......こいつ、俺のこと人類代表だと勘違いしてない?エイラの方を見ると、彼女も察しがついたみたいで、ちょっと肩を振るわせていた。笑ってないで助けてくれよ。
「そういえば、超絶最強アルティメット・ドラゴンさんは何かおっしゃられていたりしましたか?」
「なんか実家に帰って畑耕すとか言ってましたよ」
「......ドラゴンって、畑耕すんだ......」
「そうでしたか...彼女のことならば、また結界を張り直しにくると思っていたのですが」
「......それは困るな」
困る。とても困る。超絶最強とか言ってる未知数のやつが、もう一度魔王城で結界貼り始めたら、流石にマチルダが心配になる。
「なぁ、アイツの実家知らないか?ちょっと釘刺しておきたいんだけど」
「あ、一応私の瞬間移動魔法で行けますが...」
「むろん、魔王にお願いをするのじゃ。それ相応の対価は払えような...?」
こいつがいちいち偉そうにする度、エイラがビクビクするのでやめてほしい。人間が一生で動かす心臓の鼓動の数は決まっているらしいので、あまり不健康な理由で動かしてほしく無い。
「......多分勝てるからなんでも良いですよ」
「はい......」
しょぼくれて素直に項垂れる魔王様。子供そのものの容姿も相まって、力ずくで子供に言うこと聞かせる外道みたいな気分になるからやめてほしい。嫌だよ、力に屈する魔王様。気高くあれよ。
「えっと...瞬間移動魔法使って良いでしょうか」
「あ、どうぞ。いつでもお願いします」
「ボク、瞬間移動魔法は初めて見るかも...」
「そうでしょうそうでしょう。何せ希少な魔法ですから。それでは.......ふんっ!」
エンディが手を振った途端にブンっとノイズ音がして、一瞬で景色が切り替わった。
見えてきた景色は、意外と質素で慎ましい、だけど清潔な部屋。ムーミン谷とかそこら辺にありそうな、陽だまりのある部屋には、安楽椅子に揺られながらおばあちゃんがこっくりこっくりと穏やかに船を漕いでいた。
そして。
「うわああああああああああんあん!!!!!!!逆鱗取られたぁ!!!取られちゃったよぉ!!!!!!!おばあちゃああああああん!!!!!!!!!」
泣き咽びながら、おばあちゃんに抱きついて騒ぎ立てる超絶最強アルティメット・ドラゴン......っぽい女の子がいた。