童貞よ、女を抱け   作:リバプールおじさん

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縦の糸電話はあなた

 

 正直言ってドン引きです。なんだこの見苦しさは...。美少女はトイレしていても絵になるとか言っている人がいたが、それは間違っている。最も見苦しいものは『無反応のおばあちゃんに抱かれて自分勝手に泣き喚く超絶最強アルティメット・ドラゴン』です。ここ試験に出ますからね。......悪問すぎるか。

 

「の、のぉ......超絶最強アルティメット・ドラゴン......?」

 

 おずおずと怯えたように泣きじゃくる彼女の方へと歩み寄る魔王様。見ようによっては、悪い敵のせいで離れ離れになってしまった主従の感動的再会である。しかし。

 

「ぐじゅっ......ううっぅっ.....来たわやっぱり...おばあちゃんちょっと待っててね......ずびっ......今すぐに、あの私が張った結界がないと何も出来ない弱虫のチビを始末してくるわ......ふぐぅぅうううっ......!」

「うぐっふぅ...」

 

 涙と鼻水まみれの鋭い舌鋒に抉られて、魔王様が撃沈した。まさかこいつは舌戦までもがアルティメットだというのか。それとも魔王様が弱すぎるのか。おそらくというか確実に後者である。

 

「あぁエンディ、ぶしゅ......きゅう.....そりゃあんたも来てるわよね。......そこにいる素麺の成り損ないみたいな細い子は誰?」

「そ、そうめん...!?」

「そんな得体の知れない人間を持ってきても、戻ったりなんかしないわよ。私はもうおばあちゃんに育ててもらった恩を返しながら、のんびりと晴耕雨読の、スロー......ライフ......を......」

「昨日ぶりです」

 

 右手をサルーテさせて気さくな挨拶。もしかしたら、昨日の件で怖がらせてしまっているかもしれないので軽めくらいがちょうど良いだろう。

 

 それを見た超絶最強アルティメット......面倒臭いな。ドラゴンの顔がみるみるうちに引き攣っていく。そして。

 

「ああああっ!ついに私の実家にまで毒牙を掛けに来たわね外道!やめてぇっ!私にはなんでもして良いから、おばあちゃんには指一本触れないで!」

 

 指5本固めて拳で行ったろか。

 

 

 

 しばらくして、なんとかドラゴンは落ち着きを取り戻したようだった。ふうと一息吐いて、食卓の椅子に座った。なぜか俺は、おばあちゃんとは別の安楽椅子に招待された。なかなか良いクッション性をしている。

 

 ただ1人だけ特別待遇というのも居心地が悪いので、エイラを手招きしてみた。椅子を譲ろうとしたのだが、彼女は聞く耳持たずに膝におさまった。膝下が大変に暖かい。恥ずかしいが、それ以上に幸福である。

 

 それを見たドラゴンが一瞬複雑そうな表情を見せたが、すぐに板間に正座させられている魔王様の方へと向き合った。

 

「それで何用かしら?ま・お・う・さ・ま。軽い玉座の上でフォークダンスでもしたいなら御生憎様、他を当たったらどう?例えば、そうね......最近オス受け気にしてエッグいTバックにしてみたけど、そもそも見せる機会がなさすぎてノーパンの方がマシなんじゃないかとか思い詰め始めた、そこの堅物秘書さんとか」

「......マジかエンディ」

「自爆魔法習得して参ります」

 

 話が逸れまくっている。何が悲しくて、そんなイかれた魔法習得せにゃならんのか。元はと言えば、この目の前のドラゴンに忠告しに来ただけだ。

 

「なぁ、その話は後でしてくれないか。それよりそこの可哀想な名前したドラゴンに聞きたいんだが」

「何が可哀想な名前じゃと!?」

「分かってくれるのね!?」

 

 なぜか激昂してこちらに詰め寄ってくる魔王様と、なぜかトキメキながら嬉しそうにこちらを見るドラゴン。なんだこれ?と思っていると、ギャイギャイ見にくく言い争っている2人の声の隙間から、モゴモゴとおばあちゃんが喋った。

 

『......お友達かね?』

「あ、そんなもんです。初めまして、おばあちゃん。ショーマって言います」

『ショーマくんっちゅうんな。ゆっくりして行きなぁね。本当はお茶とお菓子でも出したいんけれど......』

「いやいや、お気になさらず。僕らが勝手に転がり込んじゃって、逆に申し訳ない」

 

 なんだ、孫と違っておばあちゃんは可愛らしいじゃないか。確かにこれは恩返しをしたくなる気持ちも分かる。

 

 その時、不思議そうにこちらを見上げていたエイラが俺の袖をクイクイと引っ張ってきた。

 

「......ん?どうした?」

「......おばあちゃん、なんて言ってたの?」

「あれっ」

 

 もしかしてチート能力が勝手に翻訳してくれているだけで、このおばあちゃん知らない言葉喋ってる?

 

「わ、わわわ、分かるのっ!?おばあちゃんの言葉、分かるのねっ!?いや、分かるんですか!?」

「いや、分かると言うか勝手に聞こえてくると言うか...やめろ近い近い近い!」

 

 興奮してきたのか、グイグイと体を寄せてくるドラゴンを押し留める。腰まで伸びた青い髪はパチパチと静電気を帯びて弾け、手先や足先に付いたままの鱗の間から、青白い燐光が発されていた。おいこれデーモンコアみたいなタイプの光じゃないだろうな。

 

「うーん...?ワシの婆様でも、あんな言葉は喋ってなかったような...」

「ただ発音が不明瞭になっているだけでは?」

「それだったら俺も聞こえないしなぁ」

 

 深まるおばあちゃんの謎である。謎の多い女はいい女と誰かが言っていたが、こういう意味ではないと思う。

 

 というか。そんなおばあちゃんの言語解析のために来たわけじゃない。

 

「なぁドラゴンさんや。あんた、これからまた魔王城の結界作り直しに行ったりしないだろうね?」

「......さぁね!そ、そんなに心配なら、力尽く!そう!力尽くで話させてみればいいじゃない!どんな事されたって、私は絶対に口割らないわよ!絶対に耐え切って見せるんだから!さぁ!」

「......なんかキモいから良い」

「あっ...♡」

 

 具体的に言うと、エッチな本である。これ10ページくらい持つか持たないかくらいで、大体負けるフラグだ。時々1コマ後に負けてたりもする。

 

 ......なんの話してるんだ?

 

「......ショーマ?」

「ん?どうした......しないからな」

「なら、いい」

 

 満足気に俺の方にもたれかかってくるエイラ。素麺にこんなことが出来るか、バーカバーカ。一生麺つゆだけ啜ってろ。

 

 と言うか、今更になってようやく気がついた。

 

「おっ、お、おお、おまえ、女だったのか!?」

「今更すぎませんかご主人様!」

「誰がご主人様だ誰が」

 

 ぬああああああっ!頭を掻きむしりたいが、今は我慢。ただこめかみを押さえて、天を見上げた。神よ、汝何処に。俺は男装している奴が女の子ってバレて『お前女だったのか!?』から始まるラブコメが好きだったんだ!

 

 ちょっと異世界だしそういうのもあるかなって期待したよ!なんでこんな、スケベが漏れ出てる名前も中身もバカなドラゴン相手にフラグ消費しないといけねぇんだ!

 

「あほくせ......」

「なんじゃ、見て分からんかったのかお主」

「ドラゴン初見だわ」

 

 いない世界生まれだったんだわドラゴン。どこにいきゃ会えるってんだよ。名古屋か?

 

というか、テスタロッサが女性だったので勘違いしていた。魔王軍の幹部とか、四天王ってやつはだいたい紅一点がいて、他は男で構成されているもんだとばかり思っていた。

 

 あの男女比バランスを見る度に、男しかいない運動サークルの飲み会を思い出したりしていたのだが、なんということだろう。異世界の魔王軍は男女雇用機会均等法を実現しているのだった。良いことじゃないか。頭がアレすぎてぶっ壊れたけど。

 

『ご主人様...なのかい?』

「違います!違うよおばあちゃん!おいバカドラゴン!おばあちゃんが変な誤解しそうになってるだろ!」

「えっおばあちゃん!?私の言ってること、聞こえてるの!?」

『聞こえてるともさ。私の声は、モンちゃんには聞こえないけどねぇ』

「人の耳を介してしか出来ねぇ会話をするな!」

 

 内容はすげぇ良いのに......。

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