童貞よ、女を抱け   作:リバプールおじさん

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手に入れろ翻訳玉

 

 

 もうどうしようこれ。マジで全然話が進まない。ただ釘刺しに来ただけなんだけど、俺。仕事とかそういう話は、先にスパッと終わらせたい人間なのだ。

 

 昔、そのことを友達に訴えてみたところ「お前セックスするとき前戯も無しに挿れそうだよな」と煽られた。結局、そこの段階にすら至っていないので煽りは無効となっている。悲惨さは増した。

 

「ね、ショーマ」

「うん?」

「こう言ってみた方が話が早いと思う」

「なになに?」

 

 両手を口元に添えて内緒話の構えに入るエイラに、首を捻って左耳を差し出す。......やばい、最後に耳掃除したのちょっと前だ。違うんです明日くらいにやろうと思ってたんだけれど、意味分からんドラゴンの部屋まで来ることになっちゃったせいで...。

 

「うん......うん!?うん......」

「こう。頑張って」

 

 にっこりと笑って、エイラが膝の上から退いた。いや...えぇ?需要あるのかそれ?微妙な顔してると、エイラが確信したように深く頷きファイティングポーズをとった。

 

 もういいや。爆死しても仕方ないので、勿体ぶったように立ち上がった。出来る限りぶっきらぼうに、足をぶらぶらと遊ばせる感じで。......こういうの、もうちょっと足長い奴がやれば映えると思うんだけどなぁ。憚りながら、胴長短足日本人の中央値である。

 

「な、なによ...?」

 

 怯えと期待の入り混じったような顔を見せるドラゴン。なんだコイツ。とりあえずエイラに言われたとおり、手首を片手で掴み、ちょっと低めの声で囁く。

 

「お前、まさかまた俺に歯向かおうとか思ってないよな?」

「あひゅっ」

「おい、何とか言えよ」

「ひゃいっ♡」

 

 だめだ会話が成立しない。腰砕けになって椅子に座りこんだドラゴンを見捨てて、もう一度安楽椅子に座ってエイラを膝上に出迎える。

 

「どういうことなの、あれ...」

「えっとね、ドラゴンって基本的にパワー信仰だから、自分より強い人に会っちゃうと、従っちゃうの」

 

 ......ただのドMじゃねえか!なんてこじらせた種族なんだ、そんなスパルタ戦士的な社会で囲まれて過ごしていたら、いつの間にか性癖が決定されるなんて。

 

 いや......待てよ。

 

「おばあちゃんも...!?」

「やめんか愚か者!聞きたくないわい!」

 

 俺だって高齢者の性癖とか聞きたくないわい!

 

『昔はワシもこんなんだったぁよ。モンちゃんなんてのは可愛いもんさね。いやぁ...ご主人様たちにはかわいがってもらったぁよ』

「やめておばあちゃん、あんまり聞きたくないかも!」

「......言ってること分からなくてよかったかもしれません」

 

 おばあちゃんの言葉に悶絶する俺を横目に、心底安心した様にエンディがこめかみを押さえてため息をついた。まさかチートにこんな弱点があるとは...!

 

「帰るわもう、あほらしい...ところでエンディさん。瞬間移動魔法って一度行ったところに瞬間移動できるんだっけ?」

「え?えぇ、そうですが...」

「それって、魔法を習得する前に行った場所でも移動できるんです?」

「そうですね。私もここに来るのはそれこそ70年ぶりくらいで...どうされました?急に」

「いや...それなら俺いつでも魔王城行けるんだと思って」

「......え?」

 

 魔法チートというやつは大変に便利なものだ。単純に威力が倍増するとかそういう話だけでなく、一度見た魔法を完全に模倣できる。つまるところ、ここに来るとき瞬間移動魔法を見せてもらったので、今や俺は瞬間移動魔法も覚えてしまったということだ。

 

「......私、この魔法習得するのに30年かかったのですが......」

「元気出せエンディ...」

「そもそも分裂魔法使える時点で察しといてほしかったです」

 

 あれマジで使ってみた時気持ち悪かったんだからな、悪い夢かと思ったわマジで。自分の顔が4つあんだぞ自分以外に。ポケモンのドードーとか、多分生きているだけでめちゃくちゃストレスたまるんだろうな。自分と同じ顔がずっと隣にあるんだし、しかも進化したらもう一個増える。

 

 呆れていると、エイラがこちらの顔を覗いていた。なんかついてたりする?息とか臭い?

 

「......さっきの。あとでボクにもやってほしい。やって?」

「きみは俺にどうなってほしいんだ?」

 

 良くウェブサイトの広告に出て来ていたレディコミにありがちのオラオラ系男性をお求めなら、他を当たってほしい。俺はもっとこうヘタレ...じゃないや、優しくありたいのだ。ローソンでファミチキを求めているようなものだ。ほとんど営業妨害である。というか、エイラにまでボケ始められたら終わりだ。まともなのが俺しかいない。色ボケドラゴンとクソボケ魔王、真面目風ボケ秘書に加えて、本当のボケ老人までいるのに。

 

「......私、おばあちゃんの言ってること分からないのに......」

 

 寂しそうに、若い方のドラゴンが呟いた。そういや、こいつはおばあちゃんの言葉が分からないのか。......ちょっとかわいそうな気がしてきた。

 

 

「......そういやさぁ、この世界って翻訳機みたいなの無いの?それでおばあちゃんの話してるの訳してもらえばいいじゃん」

「いや...ボクはそういうの見たことないかも。あったとしても、すごい高級品じゃないかな...」

「む?それならワシ持っとるぞ。いやぁ人間は遅れとるのぉ...」

「そういうの良いんで出して」

「はい」

 

 ことあるごとの魔王マウントとか要らないんで。四天王ぶちのめしてたりもして最近寝不足なのだ。色々とやってることもあるし。

 

 魔王様がいそいそと懐から取り出してきたのは、なんか穴の開いた茶色っぽい球。古ぼけて、半分埃を被っているように見える。

 

「どうじゃ!これが我が先祖、アンバー様自ら作られたと言われる翻訳玉じゃ!」

「陛下?私掃除しろって何度も申し上げましたよね?なんでこんな埃っぽいんですか?」

「いやちょっと面倒くさくて...」

 

 いや、掃除しろよ。濡れ雑巾とかで拭いたら一発だろこれ。

 

「えっとの、まずこの穴に言葉を吹き込んで...」

 

 

 魔王様によるレクチャーが始まり、全員がそこに注目していたが、俺にはそれ以上に気になることがあった。

 

「どしたんばあちゃん」

『おぉ...おぉ...!ご主人様のじゃ...!第一のご主人様のものじゃ...!』

 

 おばあちゃんがめちゃくちゃ感動していた。というか第一のってどういうことだ。第二第三のご主人様がいるのか。バビル2世かなんか?

 

「ちょっと貸して」

「うぉい!まだ説明中じゃぞ!」

 

 うるさいやーい。銀髪を振り乱して抗議する魔王様は置いといて、透視魔法を使って、翻訳玉の中を観察。

 

 いや、そうなんですよ。あるんです透視魔法。少し前の事だが、男友達と酒場でヒートアップしまくった下ネタ話をしていたところ、盗賊から教えてもらった。その時はこれで明日から色んなもの見放題だぜグへへとか思いながら帰宅したが、翌日になって、こんなもん使う度胸が俺にはないことを思い出した。結果として、この魔法は閉所とかであると便利な魔法くらいの使い勝手で俺を支えてくれている。

 

「うへえ」

 

 なんじゃこりゃ。こんなに複雑というか丁寧な魔法回路、見たことが無い。あーここで収音して、それを解析して...へぇ!1度でも吹き込まれた言葉を記憶しているぞ、この機械。パソコンみたいだ。

 

「これ、どれくらい前の物なの?」

「うん?初代様の母上が作られたものを下賜されたと聞いておるから...今から大体900年前じゃなかろうかのお」

「ずいぶんすごいもんをプレゼントしてくれたんだなぁ...」

 

 なんて気前のいいお母ちゃんなんだろう。きっと子供の誕生日が12月でも、妥協しないでクリスマスプレゼントと誕生日プレゼントを別々に買ってくれるタイプの親だったに違いない。

 

「なんとなくやり方は分かるけど...間違えてぶっ壊したらヤバいし、分裂魔法使っておくか」

「おい、なんか言ったか?そんな間違いが発生するやり方で改造するとか許さんぞ?世が世なら国宝じゃからなそれ?」

 

 うるせー!国宝だって修復作業が必要な時もあるだろ!東照宮の門とか、修学旅行で行ったとき修理中で見れなかったわ!

 

 一応保険として分裂させて、中身の回路におばあちゃんの言語を継ぎ足していく。しばらくして。

 

「よし。ちょっとおばあちゃん、ここに喋ってみて」

 

 出来た!...と思う!ダメなら元に戻せばいいだけだし。うん。大丈夫大丈夫。......大丈夫だよなこれ。

 

 ぼそぼそと何事かを呟いていたおばあちゃんが、その球を俺に渡してきた。

 

「んで、その穴に耳をやれば翻訳して聞こえて来るぞ」

「どれどれ...って俺がやっても意味ないか。おいドラゴン頼む」

「はいっ!」

 

 素直で助かるなぁ、この超絶最強アルティメット・ドラゴンさんは...。片目をつぶって耳をやり、しばらく無言だった彼女は、やがてぽろっと一粒涙をこぼした。

 

「お、おいどうした!壊れた?」

「おい冗談じゃないわい、ふざけるなよ貴様!」

「......お友達がいっぱいでよかったねって......そう言ってる......」

 

 そう言って、ドラゴンは自分も声を吹き込んでおばあちゃんの耳に当て、弾けるような笑顔を覗かせながら、しばしの会話を楽しんでいた。いい話だなぁ...

 

「そう!そうなのよおばあちゃん!私にもご主人様ができたのよ!............ええっ!?おばあちゃんのご主人様は......へーっ!そ、そんなに意地悪で強かったのね...!」

 

 良い話かなぁ...?

 

 

 

 

 

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