ひどい。噛み噛みだ。声なんて時々ひっくり返っていて、情けないったらありゃしない。ハッキリ言って、俺がこんなプロポーズを受ける立場なら、三行半を一筆啓上認められるより先に、一発退場レッドカードを叩きつけるところだ。
さて、そんな酷く愚かな人間の言葉を聞いたエイラだが。
「.........ぴぇ」
固まっていた。いや、厳密には固まっていない。耳から指先までを真っ赤に染めながら、細かく振動していた。......爆発とかするんだろうか。
そんな戯けた考えが頭をよぎるが、俺も俺とて必死だ。乾坤一擲の大勝負、これ負けたら普通に立ち直れんやつである。受験終わってから合否発表の間、遊びまくってるけど普通に超心配で、心ゆくまでディズニーもゲームも楽しみきれない2週間みたいな気分だ。
「あ、あのっ......えっと!ね......?」
さて、ついに首を落とされる時が来たようである。勝手に腹割るのでお気遣い痛み入るが介錯はいらねぇ。苦しんで死にます。
「よ、よろしく......おねがい......しま、す?」
そう言って彼女は当然ながら告白を断り、世を儚んだ俺は剃髪しまして今は叡山の仏堂で1人寂しく読経を......あれっ。
コツンと俺の肩に頭を預けてくるエイラ。当たっている耳がやけに熱かったから心配で、指で髪を漉いてみる。サラサラしていて柔らかい黒髪。艶めくそれは櫛で良く手入れされているようで、特に抵抗もなく毛先まで指が通る。髪の毛を、無味の上までかきあげる。薬指がほんの少しだけエイラの耳に触れて、彼女の肩がビクンと大きく跳ねた。
「あ、あの...それ、やめて...」
「ダメだったか?」
「......はずかしい」
ひゅんっ。やばい変な息しちゃった。肺に突っ込んできた生ぬるい空気の塊に咳き込みそうになったが、そこは気合いで堪える。ありがとう根性。
「あ、ご...ごめん...」
「いや、別に...ボクも......ごめん、ちょっと、今日変かも」
うん確かに変だと思う。変じゃなけりゃあ、こんな告白にOK出さないもん。
「あぁ...どうする?ちょっと今日は寝るか?」
「うぇっ!?え、へぇぇ...!?う、うん...!ちょ、ちょっとお風呂だけ、入らせて...」
「あ、うん。じゃあちょっと入れてくる...」
2人ともに、ちょっと考える時間が必要だ。きっと今日は碌でもない奴らに振り回されすぎて頭が疲れてしまったんだろう。クールダウンしなくては。
熱い!なんだこの風呂クソ熱いぞ!この風呂を入れたのは誰だぁっ!俺です。いや、火加減は間違えていないはず。きっと気持ちの問題...マジでどうしようこれ。
「......あれ、本気でOKってことなのか......?」
肩までしっかりと風呂に浸かり、なんとかエイラの真意を引き出そうと無い頭搾り出してよく考えるが、やっぱりどう頑張っても出てこない。
俺が女の子なら、と想像もしてみた。女の子目線からしても、顔...は、悪くないはずだ。だって父ちゃん似の顔してるし。確かにオシャレには無頓着だけれど、素材は悪くないはず......。
いや、素材が良いからってなんだよ。磨かなきゃ意味ないだろ。ブリリアンカットが発明される前のダイヤモンドは価値の低い宝石だった訳だ。砂を見て「お前は良い鉄剣になりそうだな!」とか考える奴っているのか?どれだけボールを飛ばせるバッターがいても、バットにボールが当たらなければ意味が無いんだ。
いやいや、人間は顔じゃない。結局のところ中身である。......ダメじゃね?無理だろ、異世界に行った後ASMR垂れ流しかどうか気にしてるやつとか、世の恋愛市場に出回っている男性の価値としては、最底辺に近しいだろ。これもダメだ。
なるほどね、これダメだわ。いやぁどうしようこれ...勢いで行っちゃったけど、やっぱりさっきの無しとか言ったら、まだギリギリこの家に住ませてくれないかな...犬小屋とかでもいいから...。
とりあえずこれ以上はノボせてしまいそうだったので、湯船から上がって体を拭く。いやぁこの世界に来てから随分とまぁ、体だけ引き締まりよってからに...。細マッチョ需要って、この世界あるのか?いや無いな多分。みんなだいぶマッシヴだし。傭兵とかこの前脱いだ時ヤバかったもん。胸がほぼブラジル人のケツだった。
さてとりあえず、エイラの話を聞かなくては。そう思いつつ彼女の部屋に向かう途中、なぜか俺の部屋から光が漏れていることに気が付いた。あれ?ロウソクつけっぱだったっけ?それともあの毛玉が悪さしてる?扉を開ける。
「......遅かった、ね」
「エ、エイラ?」
エイラがそこにいた。いつもの寝間着と変わりないが、ボタンが第2ボタンまで外れていて、眩しいくらいに白い鎖骨がロウソクの揺れる明かりに照らされて首元に柔らかい曲線の影を残している。
「どうしたの?こっち、来て。まずは、説明してほしい」
「はい」
素直が一番。彼女に従ってベッドの前の床に正座。お母さんに説教される前みたいな気分だ。ギロチンに上っていく人間とかも、多分こういう気持ちだったと思う。
「......なんで?」
「え?」
「こっち、来て。一緒に寝よ」
「あ、はい......」
あれ、もしかして意外と怒ってない...?まだ勝ち筋残ってる?いける?勝つる?
進められるがままに、エイラの隣、彼女が腰かけているベッドの端に腰を落とす。
「えっと、色々と聞きたいことはある。......何で、このタイミング?」
おっとぉ、この詰められ方はまずそうだ。
「はい。マチルダが魔王討伐すると聞いて彼女の助けになりたいと思った時、魔王と四天王の討伐報酬の額を見て『四天王だけでもやっちまえば、マチルダの手助けにもなるし、お金の心配も無くなるんじゃね?』と思ったからには、この拳を止めることはできず、将来も安泰になったところで君と一緒に一生を過ごしたいと思い、今回のプロポーズにまで至った次第です」
「なんでちょっとバーサーカーっぽいの...?というか、それなら最初から聖女様について行けばよかったんじゃ...」
「はい。最初はそっちの方が手っ取り早いかなとも思いましたが、そうするとどうしても君のことが心配になり、そんな状態で悠長に冒険だとか言っていられる訳も無く、それなら1人でやっちまった方が良いんじゃないかと思った次第です」
「だからなんでそんなにバーサーカーっぽいの?......それに、その、ハーレムって...言ってたじゃんか」
「それは...」
伏し目がちになったエイラは、床のどこか暗い場所に視線をやっている。何を見ているのかは分からない。あるいは、何も見えていないのかもしれない。ちょうど、俺みたいに。彼女もきっと不安なのだ、どういう答えが出てくるのか悩んでいる。だったら、ちゃんと口に出して言わなくては。安心させてあげなくては。せっかく話せるんだから。
「いや、元々は......言い方が悪いな。前はそうだったけど...なんか、違うなって思ってきた。まぁ、いろんな人と会ってきたけれどさ」
そうだ、いろんな奴がいた。...半分くらいイカれてた気がしないでもないが、色んな女の子と会った。それでも。
「お前が好きだ、エイラ。誰よりもずっと...うん。縁起でもないけど、死ぬまで君だけを好きでいたい」
言っちゃったこれどうしよう。銃の引き金を引いたような戻れなさ。既に銃弾は放たれて、後はそれが当たるか外れるかどうかの問題。これは俺の問題ではなく、既に彼女の回答へと変わっている。
「......ふふふ。変なセリフ。どこかで覚えたの?」
「えっふぅっ!?」
なんて鋭い!しかも残念極まりないことに自前の言葉だから、その勘違いが余計に突き刺さる。ごめんなさい本当に言語センスのない人で。
「......でも、嬉しい。ボクのこと、見ててくれた?」
「見てたどころか」
この世界に来てからずっと。ずーっと。エイラの事ばかりだった。彼女の事だけばかり考え続けた半年だった。
「ふふふ、良かった。じゃあ、一緒?」
「一緒...で居させてほしいのですが、エイラさんとしては、どうでしょうか...」
「もちろん。ボクも、一緒が良い。ふふ、素敵」
あるいは、そうやって彼女が仕組んだ罠なのかもしれない。ずっとエイラの事ばかり考えさせるように、ずっと俺のそばにいてくれたのかもしれない。
だがそれでも全然構わない。むしろ、それなら相思相愛じゃないか。互いにとってのハッピーエンドだ。めでたしめでたしで物語は幕を閉じるのならば、素直にそれを喜ぼう。
「えっと...じゃあ、寝よっか」
「うん。......まさか、いつもみたいに離れて寝ないよ、ね?」
「いつも割と勇気出してくっついてたんだけどな...」
あれ以上の近さがあるんですか?マイナスとかじゃないのそれ?
「ね、ね。ショーマ。もしも、もしもだよ...?男の子と女の子だったら、どういう名前にする?」
「えぇ?それ魔王様と同じくらいのセンスじゃない?」
「そうかなぁ...?でも、女の子の方は可愛いかも。男の子だったらボクが名前つけるからね」
「あ、いや違う!その、例えばの話で......ね?」
「ひゃっ!?ちょ、ちょっと...!ダメ、ダメだってば...ダメっ......」
「あ...離れ、ちゃうの?」
「もうっ、なんでそういうところは鈍いの...」
「......お、おいで?」
「あ、待って...」
「ロウソクだけ、消して......」