童貞よ、女を抱け   作:リバプールおじさん

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まるでダメな男

 

「............ねぇ」

「............すみませんでした」

 

 腰がズキズキします。

 

「えっち。ケダモノ。ヘンタイ。女の子殺し。見境なしの異常性欲者」

「い、いや...別に、見境なしでは......」

「うるさいよ、ヘンタイ。あんな可愛くない声、出すはずじゃ...なかった、のに...」

「いや、あれはあれで可愛かったと思う」

 

 本音だった。いやぁ...可愛かった。何というか、エイラは天性の甘え上手だと思う。だけどまぁ、うん。にしたって、ちょっとやりすぎたとは思う。まさか四天王戦よりも長く致すとは思わなんだ。

 

「......なんか、いやだ」

「えぇっ!?」

 

 やばいどうしよう、まさかここまでの拒絶になるとは知らなかった。あれだろうか、張り切りすぎて空回りって奴だろうか。

 

「...そんなこと、昨日までは言わなかったのに...ずるいよ。ずるショーマ」

「んなこと言われましても...」

 

 だって仕方ないじゃん。勝ち目の薄いギャンブルはしない主義なんです。勝ったというか、恋愛が実ったこととか無かったし。それに、その...寝る時にいつもくっつかれていたせいで、自分で処理も出来なかったので、それが爆発してしまったというか。

 

「...ごめん」

「......ふふ、でも、ゆるしちゃお」

 

 額に冷たい汗が沸々と出てくるのを感じながら謝罪。なんて軽い頭だろうか。しかしエイラは微笑んだあと、ちょっとベッドに沈み込んだ。なんか、若干湿っているベッドに。ちょっとだけ覗く顔が赤い。

 

 照れてるのか?......かわいい。でも今日はお休み。また明日か明後日か......なるほど、こうやってローテーションみたいに管理するんだな。筋トレみたい。

 

「今日、どうする?」

「......今日だけで良いから、休みたい......」

「分かった。じゃあご飯買ってくる」

「まって。ボクもいく」

「いや、でも...」

「一緒にいたい。だから、いく。......鈍感」

「......分かった。じゃあもうちょっと後にしよっか。俺も寝よっと」

 

 もう一度ベッドイン。...なんか若干湿ってるのアレだな。今度はタオルとか敷いたほうがいいのかな。

 

「エイラ。ちょっと口開けて」

「うん...?もうチューだめだよ。ボク寝たいもん」

「しないから。はい、あーん」

 

 怪訝な顔をしながら、控えめに開けた小さな口。そこにちょろっと水魔法を人差し指から垂らす。

 

「んんっ!?」

「なんかさぁ、俺の水魔法、最近色んな属性付けられるようになったっぽくて......どう?治癒魔法入れてみたんだけど。治った?」

「.........まだ。全然足りない」

「あれぇ?」

 

 おっかしいな。俺の治癒魔法なら、十分回復出来るくらいの強さではあると思うんだけれど。喉乾いたのかな。

 

「貸して」

「あっ!?ちぃ、やめ、エイラっ!それやめっひひひひひ!くすぐった、ははははは!!!」

 

 

 

「ふう。満足」

「......お腹、お腹が...攣った...」

 

 肌をツヤツヤさせて、いかにも満足げに笑いながらぽんぽんとお腹をさするエイラ。水を出してた人差し指をしゃぶり尽くされた。

 

 あれだ、時々ショート動画とかに流れてくる、お母さんから母乳をもらう赤ん坊の動物。あれを思い出した。ちょっとふやけた人差し指。そこにまだ生々しく残る舌のくすぐったさに、脇腹の辺りがゾクゾクする。

 

 くすぐりがマジで苦手なんです。ぶっちゃけ他人の指に、どこか適当な場所を触られるだけでも若干怪しい。なんでこんなに弱いんだか自分でも分からない。

 

「......もしかして、くすぐり弱い?」

「いや!いや全然そんなことない!めっちゃ強い!マジで超絶最強アルティメットくらい強い!くすぐりって聞いたことないや、それなに?知らないわ俺!」

「......へぇ。じゃあ、教えてあげる」

「待ってください」

「ふふふ。分かった」

 

 幽霊の様にダランと垂らした指先に怯えていたが、素直にエイラはそれを引っ込めた。なんとか助かったようだ.....いやもう、耐えられる自信がない。力の限り暴れ続ける自信ならある。四天王の中に、くすぐり攻撃を仕掛けてくる奴がいたら危なかった。もしそんなやつがいるんだったら、俺は4人がかりでぶち殺していたに違いない。

 

「でも、その代わり一緒にデート、行こ。ボク、ご飯食べたくなってきちゃった」

「よし来た。じゃあ行こう行こう」

「待って」

 

 確かに昨日の夜からの疲れで、腹が空いている。早く出て、なんか適当な食堂にでも転がり込んで食べようと立ち上がると、エイラが俺の右手に手を伸ばしてきた。

 

「ボクも一緒」

「ん?うん.。置いてったりはしないけど...」

「手繋いで、行こ」

「えっ!?」

 

 俺が驚くよりも早く、エイラはしっかりと俺の指を絡め取っていて、そのままぎゅっと握ってベッドから立ち上がった。

 

「早く行こ。みんなに見せなきゃ、ね」

「いや別に見せる必要は...!ちょ、なんでこんな強引...!せめて着替えよう?な!?」

 

 ずりずりと、彼女の手で街へと引き摺り出されていく。やめてぇ!いつからそんな身体強化魔法強くなったの!乱暴しないでぇ!

 

 

 

 

 

 それからしばらくの時が経って、聖女マチルダが1人の仲間と共に魔王を討ち倒したという知らせが届き、国中が歓喜に包まれた。戦勝パレードが行われるということで、街中が飾り付けられた。

 

 非常に残念な話ではあるが、俺の方はといえば特に変わったことはない。いや、色々と大きな変化はあったが、俺自身はエイラに敵わない童貞メンタリティは保ったままだ。結局のところ、体験した事がないから過剰に気にするだけで、一度乗り越えてしまえば意外と取るに足らない問題だったと思えてくるやつだろう。

 

 ただ一つ変化を挙げるとするならば、猫が俺を引っ掻かなくなったことだ。最近は大人しく俺にも撫でられて、手のひらに餌を置くと食うようになった。...俺の指をじゃないです。ちゃんと置かれた餌の方です。

 

 ちなみにもっと残念な話をすると、討伐されたのは我らがアンバー32世陛下では無かった。もっと別のやつが倒されたらしい。見にいったら、あの特殊性癖種の小屋で元気に畑仕事をしていた。

 

 本人曰く『こっちの方がワシのご先祖の本分なのじゃ』と、頭に生えた黒いツノを見せびらかし、得意そうに言っていた。魔王様は農耕民族だったらしい。おばあちゃんドラゴンは感動して泣いてた。相変わらずやかましい。

 

 

 話を、人里に戻そう。

 

 町から配られた花で家の通りから見える方を一通り飾り付け。監修はアビーとエイラによるものなので、もしクレームが来たらそちらへどうぞ。......まさか文句ある方なんているわけないよね?人が真心込めて祝おうとしてるんだよ?

 

 

 

 空砲が聞こえてきた。パレードの始まりだ。すぐに街の中から黄色い悲鳴が聞こえてきた。いやぁ、ずいぶんと人気者だ。まぁ聖女様と英雄様だしね。誰だってネタにしますよ、そんなの。

 

 『ネタはネタでもズリネタだよなウェヒへへ』とか言ってた盗賊は、この前ダンジョン内でスライムにべっちょべちょにされて、泣きながら帰ってきた。同情の余地が一切無い。

 

「あ、ショーマ!もう来たよ!」

「えっマジで!?」

 

 2階のバルコニーで、大通りを眺めていたエイラの声が降り注いできた。早くない!?走ってきたんじゃねえの!?

 

 大慌てで2階まで駆け上がり、まるでもう待ちくたびれましたよ早く通り過ぎて行っても良いくらいですくらいの澄ました顔をして、すでにセッティングしてあった椅子に着席。

 

 確かにそれはすぐに来た。立派な白馬が4匹曳いてる、天井が開いた馬車に乗って、万雷の歓声と花吹雪に包まれながら。

 

「来た来た!エイラどっちのにする?」

「ボクねぇ...じゃあ白!」

「んじゃ俺赤ね!」

 

 一人一人に花が一つ配られ、それを馬車めがけて投げ付けるという仕来たりが、この世界にはあるらしい。なんでもそれが馬車に入れば願いが叶うんだとか。神社とかにあると、ちょっと嬉しくなる変な行事の延長みたいなやつだ。

 

 ウチには赤と白の2本が配られた。紅白で縁起がとても良い。年末年始もそろそろ近い。しかしこの世界には、どのアーティストを選んでも批判される番組スタッフの胃を犠牲に成り立っている歌唱ショーも、おっさん5人が笑ったら尻をしばき倒される番組もやっていない。紅白で縁起がいいわと喜ぶことは特に無く、なんとなく色合い的に合ってるよねくらいで終わりである。

 

 

 歓声が近付いてきた。さてさて、ソフトボール投げ小学校代表の実力を見せてやろうではないか。

 

 なかなか凄い勢いでやってきたその馬車は、だんだんと速度を落としていって、俺たちの家の前で少しだけ止まった。分かってるねぇ聖女様!

 

 まずはエイラの白い花を投擲。しっかりと狙いを定められたそれは、空中をひらりひらりと不安定に揺られながらも、まるで吸い込まれるように聖女の足元へと落ちた。......相変わらずご立派なものをお持ちだ。

 

 聖女様はもうこちらばかりを見ていて、しきりに手を振っている。白い花を拾いとると、にっこりと笑った。随分と良い笑顔だった。きっと、見ないウチに色々と内面の方も成長を遂げたのだろう。

 

 さてもう一丁!赤い花を摘んで、綺麗にもう一投。真っ直ぐに伸びて馬車に向かった花は、しかし、突然吹いた風のせいでどこか明後日の方へと消えていった。

 

「ねぇ、これ拾い直してもう1回とか...」

「ダメだよ!ほら、ちゃんと手振らなきゃ」

 

 ちくしょう、最初から魔法でズルしとくんだった!

 

 内心拗ねながら手を振っていると、マチルダがバカにしたようにこちらを見て笑った。前言撤回、あいつなんも変わってねぇ!うっせー、早よ行け聖女サマ。

 

 向こう側を向いていた仲間の剣士の肩を叩き、マチルダが俺たちの方を指差した。振り返ってきた顔は、なかなか彫り深めのハンサム顔。良い男捕まえてるじゃーん!

 

 剣士の方にサムズアップ。彼は一瞬虚を突かれたような顔をした後、良い笑顔で白い歯を見せて、サムズアップで返してくれた。

 

 ゆっくりと馬車が動き出し、2人を乗せて去っていく。マチルダと彼は指を絡み合わせて、互いにしっかりと握り合っていた。

 

 なぁんだ、大丈夫そうじゃないか。

 

 角を曲がって見えなくなるまで熱心に手を振って見送り、大きく息をついて座り込んだ。

 

「ふぅ...疲れた疲れた。もう一回投げ込みたいな...」

「ふふふ、ダメだよ。こういうのは1回きりだから良いんだよ」

「そうだけどさぁ......」

 

 悔しいじゃん!おみくじなんて年に何回も引くもんじゃないって分かるけどさぁ......。

 

「あー悔しい......マジで......」

「ふふふっ」

 

 コロコロと鈴が転がるように笑うエイラ。彼女が笑う時、口元を抑える仕草が好きだ。なんだか品があって、可愛らしいと思う。

 

「......相変わらず、可愛らしいままで」

「なぁにそれ。ダジャレ?」

「ただの褒め言葉だよ」

 

 さて、パレードも終わった。平和も訪れた。お金も入った。しばしの間、穏やかに暮らしたってバチは当たるまい。

 

「ま...良いもん。今度は3本投げるし」

「だーめ。ちゃんと投げさせてあげないと。ねー?」

「まぁ...そりゃ...うん、そうだね」

 

 ジトっとこちらを軽く睨むエイラに手も足も出ない。もう、本当...多分、一生勝てねぇんじゃないかな......チート貰ってんのに......。

 

 ポリポリと頭を掻く俺を見て、エイラは口元を抑えて微笑んだ。

 

「ふふふっ、もう......ダメなパパっ」

 

 言葉とは裏腹に、エイラは心底嬉しそうに、少し膨らみつつあるお腹を優しく撫でた。




次回で最終回となります。
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