童貞よ、女を抱け   作:リバプールおじさん

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パパよ、家族を抱け

 

 朝目が覚める。目の前に寝ている人がいる。彼はど変態だ。痩せた体にばかり興奮して、一度始めるとなかなか終わらず、最後までキッチリとピロートークまでしないと気が済まない、1日に何度もキスをせがんでくる、ねちっこいタイプのど変態である。

 

 ちなみに、そうなった理由の3割くらいはボクにある。主に、痩せた体に興奮するところ。最初はおっぱいの大きな女の子が好きだったみたいだけれど。......たまに、サキュバスのお姉さんとかのお店を覗いてるし、まだ未練はあるのかもしれない。行ってる様子はないので、多分自制はできているんだと思う。行ってたら?知らない。

 

 まぁ生まれつきで7割ど変態なら、それはもう天性のやばい変態と言って差し支えないと思う。つまるところ、ボクはただその変態がどうせどこかのタイミングで起きてしまうのを手助けしただけであって、原因はボクじゃない。なんなら、そんな危険人物の性欲を全部受け止めて世間の女の子たちから守っているのだから、感謝してほしいくらいで。

 

「んぁ......おはよ......」

「ん、おはよ」

 

 まずはおはようのちゅーから。まだ半分くらい夢の中にいてふらふらしている彼のほっぺたに手を添えて、軽く触れるくらいの。......まだ産毛の残っているそれは、結構もちもちしていて可愛らしい。流石に、もっと可愛い可愛い赤ちゃんには勝てないけどね。

 

「んっおぁ!......おはようございます」

「ふふふ、おはよ」

 

 本日2度目のおはよう。何度だって言おう。

 

 まだ慣れない?嘘でしょ?もう1年は経つんだけれど、未だ彼は変な声を上げながら起きてくる。この1年間、録音でもしておけばよかった。絶対面白かったのに。多分定期的に流して聞き返させてもらう。

 

「くっそう...今日もか...」

「慣れなくっても、素敵だと思う」

 

 もしも慣れてきてノーリアクションの日とか来たら、多分すごい落ち込むし。

 

「そうは言ってもねぇ」

「ふふふ」

 

 ブツクサ言いながら起き上がり、寝癖をグシグシ掻きながら隣のカゴの中で寝ている天使に手を振って、台所の方へと消えていくショーマの背中。さて、そろそろボクも起きなくては。

 

 我ながらだいぶ面倒臭い女になった。いつからだったか。昔は可愛かったはずなんだけどなぁ...白馬の王子様とか本気で信じてるタイプの女の子だったのに。

 

 いや、違うか。実在したから面倒くさくなったんだ。

 

「やばいちょっと待って、保温できてねぇ!なんだぁこんなもん、ミルクを作ろうって気持ちがねぇのか気持ちが」

 

 ......王子様とは、口が裂けても言えないかもしれない。

 

 だけれど、確かにいた。スケベで微妙に頼りないけれど、ピンチのとき、泣きそうなとき、いつだって助けに来てくれるボクだけのヒーロー。何の取り柄も無いような、つまらない女の隣で一緒に過ごしてくれた変わり者。

 

「うぅーい...魔法あって助かった...まだ寝てる?」

「いや、多分これは...もうちょっとで起きそう」

 

 足をバタつかせ始めた。多分そろそろ起きて泣き始める。良い子良い子。そっとパヤパヤした細い毛を撫でてあげる。

 

「あ、お願いします」

「......もう。あぁ硬いよ〜......」

 

 差し出された大きい赤ちゃんの頭がチクチクする。なぜか、彼はボクが何かを撫でると、自分も同じ時間撫でてくれるように要求する。

 

「いやぁ...とても良い。なんかねぇ......良いね」

「ふふ、なぁに?それ」

「いやぁ...幸せだなと......よし俺もだ。こっち向いて」

 

 袖を捲って、両手でボクのほっぺたを軽く挟み込んでくる彼。なんだか顔が近くって、ドキドキする。最近、なんだか前よりも彼の顔が凛々しくなってきた気がする。

 

「目閉じて」

 

 ......なんだか、いつもより真剣な声。らしくもなく胸がときめくのを感じながら目を閉じた。さて、耳のあたりでも触ってくるのかな?

 

 くちびるに、何かが触れた。

 

「......ぴゃう」

「......ようし、赤ちゃん起きた!ミルク持ってくるわ俺!」

「ま、まって!ねぇ!ちょ......ばかぁ!」

 

 もう!本当にこのえっちマンは!

 

 

______________

 

 

 早く立たねぇかなぁ。喋ったりしねぇかなぁ。パパとか言われたらマジでもう爆発する。ミルク飲ませながら、そんなことを考える。

 

 目に入れても痛くは無いと言ったお方は天才だったに違いない。確かに目に入れても痛くなさそうだ。逆に、こんな全身丸くてぷにぷにしている命を、どこに入れたら痛いと言うのか。耳の穴にだって入っちゃいそうだ。汚ねぇところに入れてんじゃねえぞ人の娘をよ。

 

「なぁー」

「はいはい、パパだよパパ。パパ。最初に喋る言葉はパパかママにしようね」

 

 そして間違っても、目の前にいるドブカスの底に積もった紐クズみたいな語彙力と、蒸され腐った夏の和式便所の水みたいに汚らしい悪口しか吐けない目の前の男みたいな言葉は覚えないでほしい。もっとこう......美しい言葉を使ってほしい。水洗便所ですわ〜!みたいな。違うわ。

 

「んうぅ〜......ぶ」

「トイレ?」

「た!」

 

 可愛い〜!カゴの中で伸びをして、ぷにぷに腕を下ろして、勢いよく挙手!可愛いねぇ...腕のキレがあるねぇ...将来は400勝投手かお姫様だねぇ...。

 

「なぁに?あなた、まだ遊んでるの?」

「可愛いよぉこの子......」

 

 俺の汚い悪しき部分が浄化されちゃう。ほらもう9割くらい体が消し飛んで......。死なんぞ、この子が大人になって、孫出来て、幸せになって、エイラが死ぬ日まで死なんぞ。

 

「ボクも。抱っこさせて」

「はいよ。よく飲み終わったねぇ...ママにパスしちゃうからなパス」

「......ちょっと重くなったかな?いっぱい飲んだもんね。はいトントン」

「可愛さが増えたんだから良いじゃない」

 

 トントンと優しく背中を叩きつつ、器用にゲップさせるエイラ。彼女も今では慣れたもの、名人芸と言っても良いのかもしれなかった。なんかちょっとだけ、エイラの背中は丸くなった気がする。

 

「......エイラ、ちゃんと持ってて」

「え?......ひゃあっ!?」

「つーかまーえたっ!へっへっへ、どっちも可愛いがママは貰っちゃうぞぉ」

 

 嘘です。2人とも貰いたいです。エイラの肩越しに赤ん坊を見ると、キャイキャイ言って喜んでいる。......こやつ、意外と将来は大物になるやもしれぬ。

 

「......もう」

「とか言っちゃってぇ。好きなくせに」

「............うん」

 

 蚊の鳴くような声で頷いて、コツンと熱くなった頭を預けてくるエイラ。あぁもうまた髪が良い匂いする。

 

 そっと彼女を抱きしめる。初めて会った時より、よっぽど健康的になった。

 

 なかなか遠回りになった気がしないでもないが。それでも。心の底から幸せだと、胸を張って言える。





 以上で完結となります。ここまで読んでくださった読者の皆様に深く感謝御礼申し上げます。ただ、短編という形でこの話の続編を書くかもしれません。もし見かけたらよろしくお願いします。

 この小説と世界観を同じくした新作を現在執筆中です。もしご興味ありましたら、詳細は活動報告をご確認ください。
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