童貞よ、女を抱け   作:リバプールおじさん

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それは獰猛

 

「バカかアンタは!なんて魔法撃とうとしてんだ、一つの尊い命に!」

「良いじゃない!他の人に迷惑なんてかからないわ!あなたにだけ!ほんのちょびっと!先っぽだけだから!」

「ケツに挿れられんのか?」

 

 色んな意味で恐ろしいことを叫ぶ彼女に尻込みしながら、頼むエイラ早く出てきてくれと路地裏の方に目線をやる。しかし、音沙汰は全くない。我が助け舟の女神様は、猫畜生と路地裏でニャンニャンよろしくやっているようであった。

 

「というか、謝りますから!だからそんな物騒な......!」

『第3の聖女、大海と凱風のマチルダが命ずる!ただ一矢放ちて水平の彼方より来よ!我が主の神威は鳴動して未だ止まず..』

「ヤバイなんか唱えてる!」

 

 誰かこの女を止めろ!

 

 そう叫ぼうとしても、なんか全員興味津々と言った感じで、俺達の方を見てる。ちくしょう、なんて野蛮人どもだ!即死魔法を街中でぶっ放そうとしてるんだぞあいつ、もっと止めようとするなり逃げようとするなりあるだろう!どいつもこいつも、おっぱいと魔法にしか興味ねぇのか、頭チンポのファッキン野郎ども!

 

 もうこうなったら魔法に頼る他ない。プロテゴもマホカンタも使えんが、防御魔法なんて大体どこも同じだろ、知らんけど。こう...ぎゅぎゅっと押し固める感じで。

 

 お椀をひっくり返した様な形の障壁を作り、衝撃に備える。核シェルターに入ってる人とかこんな気持ちなのかなぁとか思いつつも、目を離せないのは目の前のおっぱい大魔人。いや、つい見ちゃうのは胸じゃなくて杖の方。渦巻く魔力は、俺がこの世界に来て初めて見るレベル。見せ槍ならぬ見せ杖ってね、やだ...あの人の魔法よりおっきい...っ♡って感じで。あっはっは。

 

 ふざけてる場合じゃねぇ!

 

『マギア・スパーダ・ムエルテ!』

「ちょっ...!」

 

 銀に輝く剣の様な閃光が、俺目掛けて一直線に飛んできて......それでバキッと折れて消えた。

 

「あぁっ!?」

「お、おぉ...耐えた...多分...」

 

 まさしく奇跡である。なんだかよく分からんけど、めちゃくちゃ必殺技っぽい白く光ってるのはバキバキにぶち折れて地面に横たわっていて、しばらくすると溶けて消えた。

 

 拍手喝采が辺り一体から湧き起こる。必殺技をぶっ放したばかりの彼女もまた、ニッコリと笑って俺の方に歩み寄る。もう一発ぶち込んで来ようとしてるのだろうか。

 

「やるじゃない、アンタ。もし違ったらどうしようかと思ったけれど......私の目に狂いは無かったみたいね」

「もし狂ってたらどうなってたんですか?」

 

 つくづく、この女の子の紅くて猫みたいな眼がエラー吐かなかったことに感謝するばかりだ。もしも彼女が今よりさらにイカれていたら、ぶっ壊れるのは俺の方だった。

 

「あら、どうもしないわ。ただあなたが死ぬだけ。悪き命であると断じられたあなたが」

「敵にも味方にもしたくねぇなぁ、アンタ!」

 

 やっぱり狂ってるじゃないか。星の数ほどもいる人間の中で、こんなヤツにぶつかってしまったのが運の尽きだ。教会でも行って開運してもらおうかな...。

 

 我が身の不幸を嘆いていると、その不幸の原因が歩み寄ってきてポンポンと肩を叩いてきた。

 

「まぁまぁ、良いじゃない。さすがは私が見込んだ男ね。予言に従って後悔しなかったのなんて、ずいぶん久しぶりだわ」

 

「良いわけないだろ」

 

 こんなのに見込まれるとは厄日である。あぁ畜生、早く家に帰って寝たい...おっぱいを見て、こんなに憂鬱になる日なんてのも、なかなか珍しい。

 

「ねぇ。あなた、私と来なさい!きっと楽しくなるわよ、四天王どころか、魔王だって倒せるわ!」

「......つかぬことをお伺いしますが、魔王は犬猫に似てたりしますか?」

「なにそれ?多分違うんじゃない?」

「じゃあ良いです」

 

 本当は「じゃあ魔王っていうのは、おっぱいがデカくて、金髪ツインテールで、おっぱいがデカくて、開幕即死魔法をぶっ放してくるおっぱいですか?」ってもう一度聞こうとしたが、それをしたら本格的に即死させられそうなので、やめた。

 

 目下、俺の敵は犬猫と、目の前の胸デカ女だけである。魔王と敵対する理由なんてない。約束事というのは、一度持ち帰って検討するのが賢いやり方である。

 

「なっ...!なんでよ!この聖女マチルダのお誘いよ!?

「だから言って...そのポーズをやめろ!」

 

 まるで自分の存在を誇示する様に、手を胸に置いてアピールしてくるマチルダ。しかし、この子がやると大変に如何わしいポーズになってしまう。擬音でいうとギュムッという感じ。

 

 そもそもエイラより若干小さい身長に、そういう創造主に責任と性癖を問い詰めたくなる様なおっぱいが付いてるので、元々アンバランスなインモラルさがあったのに加えてこれでは、完全に聖女というより補導待ったなしの夜の客引きの女の人である。自己存在のアピールとしては大正解だが、人間として大不正解だ。

 

 そして度胸が無いんで、見たい気持ちを必死に押し殺しつつ、目と目でちゃんと会話をする俺。大変に偉いと思う。褒められて良いと思う。タッパと胸のデカいお姉さんにヨシヨシってされて良いと思う。

 

 ニュートンよ、お前は間違っていた。リンゴだって空を飛べるし、俺だっておっぱいを見ないで会話できるんだ。

 

「とにかく!仕事中なんで!本当にぶつかったのは謝りますから、許してください!」

「良いから来なさいよ!このっ...聖女の命令よ!」

「ショーマ、猫ちゃん捕まえた............なに、これ」

 

 太々しい顔をしたトラネコを抱えて、薄汚い路地裏から、俺の女神が降臨なされた。

 

「助けてエイラ!この聖女とかいう人にヤバイことされる!」

「せ、聖女...?え?聖女、さま?」

「そうよ、私こそ第3の聖女マチルダ!この男を第13回魔王討伐軍の一員として、スカウトしに来たわ!」

「13回?」

 

 めちゃくちゃ失敗してるじゃないですか。

 

「そうよ、13回。私と同じ3がついている数字だもの、縁起が良いわ」

「わぁ...っ!」

 

わぁ、じゃないんだよエイラさん。そんな危険人物に尊敬の眼差し向けてないで。あとマチルダさんも、そんな得意げに胸を反らないで。色々と......わぁ、すっごい!見ちゃダメだこれ!

 

 というか俺の世界だけの常識かもしれないが、13って確か縁起の良くない数字だったような。

 

「いや、その...俺はあんまり気乗りしないというか......まだよく分からないというか......」

「なんでよ!これ以上分かりやすいこと、あるかしら!?」

「聖女様。一つよろしいでしょうか?」

「なにかしら?」

 

 さっきまで目を釣り上げて騒いでいたマチルダは、エイラが控えめに手を挙げるのを見て、すぐに上機嫌になってニコニコとしてエイラの方へと振り返った。

 

 どうやら、この僅かな時間で、マチルダから見たエイラは信頼に足る、クレバーで公明正大な発言者だと思われた様である。モゴモゴ言いながらおっぱいから必死に目を逸らしてる、情けない男とはエラい違いだ。

 

「この者は、あまり女性に慣れていないのです。なので聖女様の美貌を生まれて初めて前にして、萎縮してしまって言葉も返せないのでいるのです。どうか少しの猶予を頂けないでしょうか。ボクからも言って聞かせます」

「いやちが」

「あら、そうなの?じゃあ悪いことしたわね。じゃあ返事したくなったら、この住所に来なさい。尤も、参加させてくださいよろしくお願いします以外の返事は聞かないからね!」

「違うって」

「えぇ。色良い返事を待っていてくださいね」

「違うんですってば!」

 

 話を聞けぇ!

 

 そう怒鳴る暇もなく、マチルダは乱雑な文字らしきものが書かれている紙を俺に押し付けると、さっさといなくなってしまった。

 

「......じゃ、猫ちゃん返しに行こっか」

「エイラさん。帰ったらお話ししたいことがあります」

「プロポーズ?」

「違う」

 

 

 

_______________

 

「あぁ、その猫かい!いや悪いんだけどね、そいつ盗み食いはするわ人は引っ掻くわ、ご近所からの評判が悪いんだ。お駄賃は多めに払うからさ、どこかに捨てておいてくれないかい?」

「......えぇ」

 

 帰り道。余計な毛玉の質量を加えた2人分の足音が、もうとっぷりと日も暮れてしまった街に響いた。

 

「どうする?この子...」

「どうしようなぁコレ...」

 

 コレ呼ばわりが不服だったのか、ニャーンとそいつは低めに鳴いた。エイラに抱っこしてもらってんだ、文句言うんじゃねえ綿埃の狂獣が。

 

「捨てろっつってもなぁ...」

 

 俺が思うに、猫とか犬とか言うのは、人間が責任を持つ生命体にしてはあまりにも巨大すぎる。そんなのを、体の色んなところから出した汁を包んだティッシュでも捨てる様にポイ捨てするのには、いささか抵抗がある。

 

「そうだなぁ...誰か飼ってくれる人でも探して」

「ねぇ。ボクたちで飼おうよ、この子」

 

 そうだよなぁ、こんな人間サマの手を爪研ぎ機だと思い上がっている畜生道の門番をわざわざ貰ってくれる人なんて......今、なんて?

 

「飼お。この子、可愛く見えてきちゃった」

「......エイラさん、あとでお話があります」

「プロポーズ?」

「違う」

 

 

 

 

 

 

 

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