幻想の力でヒロアカ生活(リメイク済)   作:ろぐいんち

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サブタイトルの名前がいい感じに思いつきません。たすけて


15話 死にたいと願った物

雄英体育祭、本選二回戦。

 

観客席を埋め尽くす歓声は、いつもより遠く感じた。

 

(……大丈夫)

 

胸の内で、そう繰り返す。

そうしないと、足が止まりそうだった。

 

相手は爆豪勝己。

真正面からぶつかれば、今の私じゃ勝てない。

 

…でも、あれを、使う訳には行かない。まだ私の実力じゃ恐らく…

 


 

『それでは2回戦!!開始!!!』

 

そうスタートの合図があった瞬間、爆豪くんの足元が弾けた。

 

爆発――ただそれだけのはずなのに、空気が刃物みたいに裂ける。

砂が舞う。熱が刺さる。音が骨に残る。

 

(速い……)

 

頭で理解するより先に、身体が追い立てられる。

 

正面から見ているのに、視界の端でしか捉えられない。

爆豪くんは“飛ぶ”というより、“跳ねる”。

爆風で位置を変え、角度を変え、距離を変える。

 

私の呼吸が浅くなる。

 

(落ち着け)

 

ここで焦れば、いつもの癖が出る。

危険へ、無理に踏み込む癖。

 

私は一度、胸の奥を静めるために――自分の“顔”を纏った。

 

E.G.O装備――『懺悔』

 

額に茨の感触。胸元に静かな重み。

背中の輪の気配が、散らばる思考を一箇所に集めてくれる。

 

(まず、守る。倒すより先に、崩れない)

 

爆豪くんが突っ込んでくる。

 

爆発の反動で加速した膝が、拳が、私へ。

避ける――間に合わない。

 

私は反射で虚空に手を突き出した。

 

白い光が走る。

 

十字架のメイスが、祈りみたいに掌へ落ちた。

 

――『懺悔』の武器。

 

「……っ!」

 

殴らない。割らない。

私は“受ける”ために掲げる。

 

ドンッ、と衝撃。

 

爆発の圧が腕から肩へ抜け、身体が半歩ずれる。

それでも持ちこたえた。

 

(重い……でも、受けきれる)

 

だが次の瞬間、爆豪くんはもう別の角度にいる。

一撃を受けた“次”が来ない。代わりに“別の次”が来る。

 

爆発が背後で炸裂する。

 

熱が背中を舐め、視界が白く滲む。

私は咄嗟に跳んで距離を取るが、足元の砂が爆風で崩れる。

 

(狙われてる)

 

爆豪くんは、私が立つ場所を“作らせない”。

踏ん張ろうとすると爆風で崩され、逃げようとすると追撃が来る。

 

「逃げてばっかじゃねぇぞ!」

 

声が、鋭い。

 

逃げているつもりはない。

でも実際、押されている。

 

私は『懺悔』の十字を消した。

武器だけを光にほどかせる。装備はそのまま。

 

ZAYINの重みが、まだ私を落ち着かせている。

 

(このまま防いでも……削られるだけ)

 

受け続ければ、いずれ崩れる。

崩れた瞬間、爆豪くんは終わらせる。

 

守るだけじゃ足りない。

 

距離を取って、火力で押し返す。

爆風の支配から抜け出すには、遠距離で主導権を奪うしかない。

 

私は息を吸って、切り替えた。

 

E.G.O展開――『レティシア』

 

頭のボンボンが軽く揺れる。

衣装が肌に馴染む感覚がして、体温が少しだけ下がる。

 

冷静になれる。

――そう錯覚できるくらいには。

 

手にライフルが現れた。

金属の冷たさが、今は頼りだった。

 

(BLACK。爆風そのものじゃなく、本人に圧をかける)

 

狙うのは中心。

爆豪くんの動きの“起点”。

 

引き金を絞る。

 

乾いた銃声。

 

弾は――当たらない。

 

爆豪くんは爆風で瞬間的に角度を変え、弾道をずらす。

空中で小さく爆発を刻み、ジグザグに落ちてくる。

 

(空中の制御……!)

 

二発目。三発目。

当たっても“致命”にならないよう調整する。体育祭だ。殺し合いじゃない。

 

でも、当たらないなら意味がない。

 

爆豪くんが笑ったように見えた。

 

「その程度の弾で止まるかよ!」

 

爆発。

 

熱が視界を塗りつぶす。

 

私は咄嗟に横へ飛ぶが、爆風が追いついてくる。

身体が宙に浮き、着地が乱れる。

 

砂を踏む前に――次の爆発。

 

床ごと蹴り上げられたみたいに、体が跳ねる。

胃が持ち上がり、息が詰まる。

 

(っ、きつ……)

 

それでも私はライフルを落とさない。

狙いを捨てない。

 

一発でも当てたい。

当てれば、爆豪くんのテンポが一瞬だけでも崩れる。

 

私は爆風の切れ目を読む。

爆豪くんの手の動き、肩の向き、足の踏み込み――

“次の爆発”の予兆を拾う。

 

(今だ)

 

引き金。

 

弾が――爆豪くんの肩を掠めた。

 

一瞬、動きが鈍る。

爆豪くんの眉が跳ねる。

 

(取れた)

 

その一瞬を逃さず、私は距離を広げようとする。

 

だが爆豪くんは止まらない。

むしろ、その一瞬で怒りの質が変わった。

 

爆発の密度が上がる。

 

爆風が連続して、空気が“壁”になる。

逃げ道が潰れていく。

 

(……押し返したのに、また押し込まれる)

 

『レティシア』の衣装が熱を受け、肌がじりじりする。

汗が視界に落ちる。

 

私は息を吸い直すが、空気が熱い。

肺が焼けるみたいに痛い。

 

爆豪くんが上空を取った。

 

(上……!)

 

影。

 

次の瞬間、真上から爆発。

 

私は転がるように避ける。

でも爆風が地面を抉り、逃げた先にも砂が跳ねる。

 

着地が乱れ、膝がつく。

 

(まずい)

 

爆豪くんは、その“まずい”を見逃さない。

 

近い。

距離が詰まる。

 

私はライフルを構えるが、銃口が上がらない。

爆風が身体を押さえつける。

 

(……このままじゃ負ける)

 

負けること自体は、受け入れられる。

でも、ここで終わる負け方は嫌だ。

 

“ただ押し潰される”だけの負けは。

 

私は歯を食いしばる。

『懺悔』の重みが、まだ胸にある。

だからこそ、分かる。

 

今の手札では、立て直せない。

 

(……残り香)

 

WAW。

教師陣すら把握していなかった奥の手。

危険性は理解している。

そして――今の私には確実に扱えない。

 

それでも。

 

爆豪くんの手が上がる。

次の爆発が来る。

 

私はその瞬間、決めた。

 

(使う)

 

『レティシア』の冷たさが、逆に遠のく。

世界の音が薄くなる。

 

次の一歩が、戻れないかもしれない一歩だと分かっているのに。

 

それでも私は、前へ出ようとした。

 

《……管理人》

 

頭の奥に、澄んだ声が響く。

いつもより、少し近い。

 

《そのE.G.Oは、管理人の現在の精神状態では扱えません》

 

(分かってる)

 

《いえ。“理解している”だけでは足りません》

 

一瞬の沈黙。

ためらいのような間。

 

《管理人は、すでに限界に近い》

 

《残り香は、管理人を即座に破壊することはありません。ですが――》

 

声が、わずかに低くなる。

 

《それは、苦しさを優しく包み込みます》

 

《疲労を消し、恐怖を薄め、「もう考えなくていい」と囁く》

 

《それが、このE.G.Oの最も危険な点です》

 

私は、拳を握った。

 

(それでも)

 

《今なら引き返せます》

 

《まだ、管理人は“管理人自身”です》

 

その言葉が、胸に残る。

 

《管理人は、守る側でしょう》

 

《誰かのために、自分を犠牲にする必要はありません》

 

声が、ほんの少し揺れた。

 

《……私は、それを望みません》

 

(……ごめん)

 

心の中でそう呟き、

私は前に出た。

 

《最後に、もう一度警告します》

 

《これは“奥の手”ではありません》

 

《“取り返しのつかない選択”です》

 

(……それでも)

 

 

甘い香りが、空気に溶けた。

 

背中に、何かが“いる”感覚。

振り返らなくても分かる。

 

(……抑えられてる)

 

まだ、私だ。

 

手の中に形成されるのは、

WHITEのクロスボウ。

 

花弁を思わせる装飾。

弦に触れた指先が、わずかに熱い。

 

「……さっきと、違ぇな」

 

爆豪が眉をひそめる。

 

私は静かな声で呟いた。

 

 

アルリウネ E.G.O『残り香』

 

 

一射目。

 

矢は音もなく空を裂き、

爆豪の進路を僅かに逸らす。

 

爆発で軌道を変えようとした瞬間、

視界に花弁が舞った。

 

「チッ……!」

 

判断が、ほんの一瞬遅れる。

 

二射目。

 

WHITEの矢が、精神に触れる。

 

「……っ!」

 

爆豪の表情が歪んだ。

 

(効いてる)

 

だが、追い詰めない。

欲張らない。

 

(制御を、最優先)

 

花弁は静かに舞い、

地面には細い蔓が伸びる。

 

深く根は張らない。

ただ、踏み込みを鈍らせるだけ。

 

爆豪は笑った。

 

「面白ぇ……!」

 

爆発で距離を取り、再び突っ込んでくる。

 

私は、クロスボウを引き絞った。

 

三射目。

四射目。

 

直撃は少ない。

それでも、確実に削れている。

 

観客席がざわつく。

 

「押し返してる……?」

「さっきまで不利だったのに」

 

(……いける)

 

(このまま、耐えきれれば)

 

そう思った瞬間だった。

 

 

香りが、濃くなる。

 

意識していないのに、花弁が増えた。

 

(……え?)

 

手に違和感。

 

(待って)

 

(まだ、抑え――)

 

胸の奥が、妙に静かになる。

 

(……ぁ……これ、だめ…私が…私じゃ…)

 

その感覚に、はっきりと恐怖が走った。

 

花弁が、私の腕に触れる。

肩に、頬に。

 

触れられた場所から、感覚が薄れていく。

 

声が、出ない。

 

喉が花で塞がれたみたいだった。

 

地面から、蔓が伸びる。

 

今までのような浅いものじゃない。

 

根が、

私を中心に張り巡らされていく。

 

(……来てる)

 

視界の端に、

“何か”がいる感覚。

 

振り返らなくても分かる。

 

恐怖も、焦りも、遠い。

 

(このままでも――)

 

(いいんじゃないかって――)

 

 

「――ッ!!」

 

衝撃。

 

身体が、後ろに引き戻される。

 

花弁が弾け飛び、

蔓が無理やり引き剥がされる。

 

私は、地面に崩れ落ちた。

 

視界の端に立つ、黒い影。

 

相澤先生。

 

理由も分からないまま、

ただ、腕を掴まれていた。

 

花弁は、まだ残っている。

 

でも――増えない。

 

(……止まった)

 

胸の奥で、私の後ろで、何かが不満そうに蠢いた気がした。

 

大きく息を吸う。

 

甘い香りは、まだ消えていない。

 

(……危なかった)

 

遅れて、恐怖が押し寄せる。

 

アナウンスが、試合終了を告げた。

 

『しょ、勝者、爆豪勝己!!』

 

私は、敗者として担架に乗せられながら、

空を見上げた。

 

青空の向こうに、

まだ、花弁が舞っている気がした。

 




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