幻想の力でヒロアカ生活(リメイク済)   作:ろぐいんち

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まじで…むずい…かくの…たのしい
…むずい…


16 話 残る香りが頬を撫で

 

歓声は、遠い。

 

医務室の窓の外から、かすかに響く拍手と実況の声。

体育祭は止まらない。

 

白い天井を見上げながら、幻乃は静かに呼吸を整えていた。

 

身体は重い。

だが、意識ははっきりしている。

 

(……止められた)

 

あと一段、出力を上げていれば。

 

藤はもっと広がった。

爆炎を包み込み、競技場を覆えたかもしれない。

 

けれど、その先は。

 

踏み越えないと、決めた。

 

侵食率は限界手前。

自我は保たれていた。

 

壊れてはいない。

 

それが、今日の結果。

 

「目、覚めたか」

 

相澤の低い声が落ちる。

 

「大事には至ってねぇ。少し休めば戻れる」

 

「……はい」

 

短い返事。

 

評価も叱責もない。

 

それが救いだった。

 

 

医務室を出ると、

熱気が廊下まで流れ込んでいた。

 

体育祭は続いている。

 

(戻ろう)

 

特別扱いは、望まない。

 

負けたのだから。

 

観客席へ戻ると、最初に気づいたのは麗日だった。

 

「想夢さん」

 

明るい声。

けれど少しだけ柔らかい。

 

「大丈夫?」

 

「うん。大丈夫」

 

それ以上は聞かれない。

 

切島が「すごかったぜ」と言い、

葉隠が「綺麗だった」と笑う。

 

怖かった、とは誰も言わない。

 

危なかった、とも言わない。

 

ただ、ほんの少しだけ慎重な優しさがある。

 

それで十分だった。

 

爆豪は前を向いたまま、振り返らない。

 

だが一瞬、視線がかすった。

 

言葉はない。

 

幻乃はわずかに頷く。

 

それで終わり。

 

 

午後の光が傾いていく。

 

決勝戦。

 

爆炎が走り、氷が広がり、

最後の衝撃が砂煙を巻き上げる。

 

歓声。

 

勝者が決まり、敗者が膝をつく。

 

幻乃は静かに拍手を送る。

 

胸は荒れていない。

 

悔しさはある。

 

けれど、焦げついてはいない。

 

ただ、確かに刻まれている。

 

 

「これにて全競技終了ォ!!」

 

プレゼント・マイクの声が高らかに響く。

 

夕陽が競技場を橙に染める。

 

表彰台が設置され、

三人の名前が呼ばれる。

 

歓声。拍手。歓喜。

 

その中に、幻乃の名はない。

 

当然だ。

 

分かっていた。

 

それでも、胸の奥が少しだけ締まる。

 

(まだ、足りない)

 

隣で緑谷が静かに拍手を続けている。

 

誰も振り返らない。

誰も慰めない。

 

それが今の距離。

 

それでいい。

 

 

「以上をもちまして、雄英体育祭を終了します!」

 

最後の宣言。

 

大きな拍手が場内を包む。

 

長い一日が終わる。

 

ざわめきが帰路の音へと変わる。

 

クラスメイトたちは笑い合い、

次を語り合い、

すでに前を見ている。

 

幻乃は、もう一度だけ闘技場を見つめる。

 

藤色はない。

 

甘い香りもない。

 

ただ、踏み固められた砂がある。

 

そこで、自分は戦った。

 

踏み越えずに、終えた。

 

負けた。

 

けれど。

 

壊れなかった。

 

「……次は、もっと上まで」

 

小さく呟く。

 

夕風が頬を撫でる。

 

残り香は、もうない。

 

それでいい。

 

体育祭は終わった。

 

だが、ヒーロー科の競争は終わらない。

 

幻乃は歩き出す。

 

夕暮れの光の中で。

 

静かに。

 

静かに前を向いて。私は止まらない。




残り香くんはしばらくエース級(自壊)です
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