信じられないようなことがあった翌日。僕とセイアは一緒に学校に向かっていた。
「ヨヅル、本当に体調は大丈夫か?もしまだ優れないのなら休むべきなのだからな」
家を出てから何度目になるセイアが問いかけは少ししつこく、苦笑すると共にそれだけ心配されていることは嬉しく思う。
「体調はもう大丈夫だって。それに入学して二日目から休みたくないし。ちょっと過保護すぎない?」
「…すまない。ただ、今までにないことだしヨズルになにかがあったらと思うと…つい」
耳を少し垂れさせて謝ってくるセイア。あーもう可愛すぎない?どうしてセイアはこんなに可愛いんだよ。こんなに可愛いのに離れなきゃいけないのか?そんなこと出きるのだろうか。……なんで、離れなきゃいけないんだよ。可能なら、ずっと側にいたい。でも、駄目だ。全てを無に還す厄災がこの身にはいる。だから、許されない。決意を固めろ、僕。この可愛さを守るために。
「……?ヨヅル?どうしたんだ?私をずっと見ていて」
おっと、考えすぎて立ち止まっていたようだ。とりあえず今は楽しまないと。
「いや、何でもない」
「…ヨヅル、本当にどうしたんだ?いつもと違うように見えるぞ」
「大丈夫だって。ただセイアがちょっと可愛すぎただけだから」
「!?か、可愛…!?」
「セイア?立ち止まってないで行くぞ~」
「ちょ、ちょっと待て、待つんだヨヅル!」
待つのも面倒なので先に進むことにした。
*
「ヨヅル、君はどうしてああいうタイミングで言うんだ。もっと回りの状況を見て考えるべきだ。そう、二人だけの帰り道のような…」
「あー、うん、悪かったから。だから機嫌を治してよ」
入学したばかりの教室。ある人は見知らぬ人と仲良くしようとチャレンジしたり、またある人は久しぶりに出会った人と話してグループを形成したりしている。そんな中で、僕はセイアを宥めていた。
「ふむ…そうだな、もしかしたら頭を撫でられたら機嫌が良くなるかもしれないな」
「え」
なんかこのキツネヤバイことを言い出したんだけど。薄々感じていたけど中学の頃よりアクティブじゃない?というか本当にまだ機嫌悪いの?
「それで、ヨヅルは私の機嫌を治したいのではないのかい?」
「う、うぐぐ…」
「♪」
仕方がないので髪をぐしゃぐしゃにしないよう気を付けながら撫でる。サラサラの髪とふわふわの耳のなでごこちがいい。しかもそれに応じてセイアが目を細めていて可愛い。正直、これらだけならずっと撫でていたくなる。しかし、忘れてはいけない。今は入学翌日であり、既に仲の良いグループはほとんどないということ。僕はキヴォトスで数少ない…というか僕以外の存在を知らないヘイローを持った人間の男子であること。
それらによって発生する事柄は、
ヒソヒソ ヒソヒソ
とてつもなく注目されるということだ。しかも今後これについての噂も流れるから高校生活はまともに過ごせないだろう。いや、高校にまともに通うことはないから関係ないか。
「ヨヅル」
セイアがジト目で見ていた。どうやら別のことを考えながら撫でているのがバレたらしい。思考を切り上げ、周りの視線に耐えながらしばらく撫でる。
「…そういえば、ヨズルは部活動に関してはどこに所属するんだ?」
「どうしよっかな。セイアはティーパーティーだっけ?」
「ああ、周りから期待されているからね。それで、その……ヨヅルは私を手伝ったりはしてくれないのかい?」
「うーん、ごめんだけどどこの部活にも所属しないことにする」
「……そうなのか?」
帰ってきたのは驚きと寂しげな声だった。その声を聞くのは辛いが、用意していた理由を喋る。
「いや、今まで僕とセイアってずっと一緒に居たでしょ。高校生になったんだし自分の世界を広げたいと思ったんだ」
「……そうなのか。ならばもし、助けが必要になった時はいつものように助けてくれるのかい?」
「…まあ、そのつもりだよ。無所属なのは他校にもいけるようにということと何かあったときにフリーで動けるようにするためだからね。最も、そんなことはない方がいいんだけど」
「そうか。ならば、まぁいいだろう。まだ私に君を縛り付ける権利はないのだから」
ごめんねセイア。多分もう僕はセイアを助けられないんだ。そんな罪悪感に包まれながらセイアを撫で続ける。……周りの目がとても痛い。
*
放課後。ティーパーティーへ向かうセイアと別れて僕は路地裏に入り、人気のないところまで進む。そしていつもの場所へ空間を繋げて入り、僕はその名前を呼んだ。
「久しぶり。黒服さん」
「クックックッ…お久しぶりですね。そして高校入学おめでとうございます」
出てきたのは全体的に黒い衣装にモヤのある人物。
黒服さん。僕がセイアのことを助けるときに何回も助けてくれた人だ。その代わりによく神秘を使う実験に協力したりしている。
「それで、高校生になられましたが契約は継続で大丈夫ですかね?」
「ああ、その事なんですけど。悪いけれどももう実験に協力することが出来なさそうなんだ」
「………は?」
すごい。黒服さんがフリーズするところ初めて見た。
実際のところ、前回あったときもよろしくと伝えていたから当然かもしれない。
「なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?」
「…ごめんなさい、ただこれだけは。これだけは譲れないんです」
今までにない迫力で迫られる。だけど、圧されずに貫き通す。これはもう断らないといけない事柄だ。それを伝えると黒服さんは落ち着いた様子でこちらを探ってきた。
「…そうですか。ちなみに理由をお聞きしても?」
「……こちらがもう実験に協力出来なくなったので」
「なるほど。もしかしてあなたの神秘の放出量が減っていることと関係ありますか?」
「っ…」
「図星ですか」
ばれている。黒服さんは僕の身に何かあったことに気付いている。
「…あんまり詮索しないでください」
「はて?今までお互いに満足のいく契約を突然破棄されればその理由を知りたくなるのはよっぽどのことではない限り当然のことでは?」
「そうかもしれませんが、これ以上はやめてください。…下手したら、世界が滅ぶので」
あまり言いたくなかったが、しつこいから少しだけ真実を言った。世界が滅ぶと言われたら、おとなしく引き下がるだろうと思って。
「…なるほどそうですか。ならなおさらあなたの身に何が起きたのかを教えてください」
「……は?」
…なのに、
「聞いていたんですか?世界が滅んでしまうかもしれないんですよ?」
「らしいですね」
「なら…!」
「しかし、ヨヅルさん。あなたの言うそれは実験をすれば滅ぶのですか?もしかしたら何もしなくても破滅に向かっていく可能性はありませんか?」
「………」
確かに、それはそうだ。今僕にわかることはこの体にグリーザがいることだけで何が起きるのかに関しては一切わからない。
黙ってしまった僕に対して、黒服さんは続ける。
「それと、ヨヅルさんには教えましょう。私は神秘についての研究をしていますがその目標の1つには、色彩…キヴォトスを滅ぼすものへの対抗策を見つけるというのもあるんです。つまり、もともと世界を滅ぼす存在への対抗策は考えているのです。ヨズルさん、世界を守る術を一緒に探しませんか?」
「……わかりました。何があったか全て言います。実は………」
黒服さんの説得に負けて、いや、もしかしたら一人で抱え込みたくなかったのかもしれない。とにかく、僕は全てを話すことにした。僕の身にグリーザが宿ったと思われること。グリーザという性質、目的、対抗策など、グリーザについて知っていること。どうしてそんなことを知っているのか。出来る限り細かく話した。
*
「…なるほど、別の世界からの記憶。それはとても興味深いですが、今はそれを言っている場合ではありませんね。…しかし、話を聞いている限り現状で特にできることはなさそうですね。それに、現状だとおそらくヨヅルさんの神秘がグリーザとやらの無へ変換する能力を相殺していると思われますし」
「そうですね。ただ下手に実験をしてこのバランスを崩したくなかったというのが大きな理由ですし」
「わかりました。では、経過観察はさせてもらってもよろしいですか?」
「うん、それくらいなら構わないけれど。またここに来ればいい?」
「はい、そのようにしていただけるとありがたいです。…そういえば、この事は彼女に伝えたのですか?」
今後について一纏まり着いたところで黒服さんがセイアとのことに着いて聞いてきた。……嫌な質問してくるなぁ。
「…いや、伝えていないし、このまま距離を取って離れるよ」
「……よいのですか?あなたは百合園セイアにご執心だったはずですが。それこそ、何度か大怪我になりかねないようなことにまで突っ込んでまで幸せにしようとしていたのに」
「………いいんですよ。これで。万が一にグリーザが出てきたときに彼女を巻き込みたくないんです。」
「なるほど。彼女を大切に思うがゆえにですか。しかし彼女も可哀そうですね。今まで一緒に居て、助けてくれた大切な存在が居なくなってしまうのですから」
「…………」
このあとは特に話すこともなく別れた。