「もうお正月にすること終わっちゃったけど、次どこ行くの?」
「どこ行こうね。全く決めてなかったよ」
何故ノープランで誘ってきたんだ。
「もう映画とかでいいんじゃない?今何上映してるの?」
「最近話題の恋愛映画ならあるよ。じゃあ、観に行こうか」
そんな急に決まった映画であったが、座って観ていられるし、尚且つ内容も話題になるだけあってなかなか面白かった。
「今から夕食に誘ったとしたら古川は来る?」
「何でそんな遠回しに訊くの。普通に大丈夫だけど」
「良かった。でも普通のファミレスだからね」
「逆におしゃれなレストランとかだったら、そっちの方が嫌。性に合わない」
そうして、以前に野村と訪れたファミレスに到着した。
「なんか懐かしいね」
つい一ヶ月半前に来たばかりだというのに、何故かそれは遠い昔のようであった。
「映画どうだった?」
野村が分かりきったことを訊いてくる。
「普通に面白かったよ。二時間があっという間だった」
「よかった、同じ感想で。個人的には自然と名前を呼び捨てで呼んだとこが印象に残ってるよ」
「何が言いたいの?」
「いや、別に何でもないよ。ただ、雄一くんと彩菜が急に名前呼びになったことを思い出しただけ」
だったら何でそんなにこっちを見つめてくるんだ。
「言っておくけど野村を名前で呼ぶ気はないよ。期待を裏切って申し訳ないね」
「それは残念。でも呼ぶのは嫌でも呼ばれるのはいいでしょ?雄一くんだって呼んでるし、光って」
不快感はなかった。家族と雄一以外の声で発せられる自分の名前は新鮮に感じた。
「それならいいよ。でも断じて、こっちが呼ぶ気はないよ」
「一歩前進だね。死ぬ前までには読んでもらえるように努力するよ」
その後はまた映画の話をした。
それが一段落した頃だった。
ガシャン!
野村が飲んでいたジュースのコップを手から落とした。音を聴いた店員さんが駆けつけてくる。
「どうされましたか!?」
「すみません、飲み物をこぼしてしまって。何か拭くものをもらえませんか」
そう言われた店員さんは直ぐに拭くものを取りに行く。
「いやーやっちゃったね」
「野村…」
野村の顔は寂しそうだった。死ぬことに何も感じていないと思ったが、やはりこの世を去ることは悲しいのだろう。
店員さんから拭くものを貰った野村は、速やかにジュースを拭き店員さんにお礼を言う。
「それでさっきの映画の話だけど…」
なんでこの空気で話を続けられるのか。サイコパスなのか?
だが、それは言わないようにして会話を続けた。
ファミレスを出た後はそのまま解散することになった。
「多分次会うのは学校だよ。もう冬休み中は誘わないと思うから、残りの冬休みを楽しんで」
「存分にゴロゴロするよ」
「バイバイ、光」
「しゃあね、野村」
そうして、野村と別れた日から本当に一切の誘いはなかった。
冬休み最終日の朝、というかほぼ昼。森口からの着信で目が覚めた。
「もしもし」
「古川、大変だよ!千尋が入院してるって!」
その言葉に眠気が全て吹っ飛んだ。
急いで支度して森口から告げられた病院に向かう。心臓が張り裂けそうなくらいに走る。
不安が全身を支配する。
「野村っ!」
病室のドアを開けると、談笑している三人が目に入った。
「あっ、光も来たか」
そう言う雄一の顔も楽しそうであった。
一体何が何だかわからない。なぜそんなに緊迫感がないのか。
「千尋、胃腸炎で入院だって。急に千尋のお父さんから連絡もらった時はびっくりしたよ」
胃腸炎…
その言葉の真偽を確かめるために野村の顔を見る。しかし、野村は微笑みを顔に貼り付けているだけでわからない。
「退院はいつになるの?」
そう訊くと、野村は表情を変えずに言った。
「明日だよ。だから明日は学校休むことになるよ」
「千尋休みすぎだよー。出席日数足りるの?」
「流石に大丈夫だよ。」
「でも、そんなに休んでると勉強ついていけなくなりそー」
「とりあえず次の期末テストさえ乗り切れればいいから」
その言葉に違和感を覚える。
今のところ、野村の寿命は六月中までのはずだ。だから、来年度の中間テストは受けられる可能性はある。なのに、まるで今の発言は中間テストを受けることはもうないみたいに受け取れてしまう。ただの考えすぎであろうか。
野村の顔を見る。しかし、やはり何もわからない。
「入院してるとこ悪いんだが、俺と彩菜これから予定あるんだよ」
「デートだね?」
「まぁそうだよ。だから…」
「いいよ、行ってきなよ。わざわざ来てもらったのにずっと引き止める権利はないしね」
「ごめんね、千尋。また明後日学校でね」
申し訳なさそうに退出する雄一と森口を見送り、病室には野村と二人になる。
「何か訊きたそうな顔をしてるね」
「当たり前でしょ。本当に入院している理由は胃腸炎なの?」
「いや、違うよ。ご想像の通りだよ」
「入院するくらい悪化したの?」
「一時的にね。でも今は元気だよ」
そして、一番訊きたいことを恐る恐る訊く。
「残り…どのくらいになったの…?」
「あと四ヶ月かな。だいぶ短くなってきたね」
「四ヶ月…」
今から四ヶ月だと五月の中旬ごろだ。
最初は十月の末だったため、野村が言ったようにかなり余命は短くなってしまった。
「退院は明日できるんだよね」
「それは本当だよ。退院祝いを楽しみにしてるよ」
「嫌だよ」
「それじゃあ、また一緒に出掛けてよ」
「そのくらいならいいよ」
「じゃあ、明後日の放課後どこか行こう。次はどこに行くかちゃんと決めておくよ」
それが普通なのに何故か嬉しく感じる。
「それじゃあ、そろそろ帰るよ」
「来てくれてありがとうね。バイバイ、光」
その言葉に返答する。
「じゃあね、千尋」