次の日は聞いていた通り、野村は学校に現れなかった。
「冬休み明けなのにいきなり七限まであるなんてなかなか鬼畜だよねこの学校」
野村がいない学校での昼食は久しぶりに感じた。
「今頃はもう家にいるのかなー千尋。まだベッドなのかな」
「まだベッドじゃないか?何となくだけど昼ぐらいに退院するんだったらそのあと学校来そうじゃない?」
確かに根は真面目な野村のことだ。もう退院してるなら何事もなかったかのように午後から授業に参加したそうだ。
その後はとかに何事もなく放課後になった。
雄一と帰ろうと思ったが、森口とデートするそうだ。
とても熱々なようで何よりだ。
雄一のいない学校からの帰宅は何ヶ月ぶりだろうか。いや、もしかしたらもう一年以上は一緒に下校していたかもしれない。
結構寂しいものだ。
積もっている雪に足元を気をつけながら家に到着する。久しぶりに孤独を感じた日であった。
今、野村は何をしているのだろうか。
まだ病院のベッドで臥しているのだろうか。
それとも家でゆっくりしているのだろうか。
野村のことが頭から離れない。
入院したことで野村が死ぬことが現実味を帯びてきた。そんな気がする。
野村は明日ちゃんと学校に来るであろうか。
退院日を偽っているのではないか。
野村は…野村は…野村は…
千尋は…
いつの間にか眠っていたようで、目を覚ましたらもう時間は二十三時になっていた。
相当ぐっすり眠ってしまった。
夜ご飯は適当に済ませて、お風呂に入ると日付は変わってしまった。
早朝四時ほどに再び眠りにつくと、起きたのは八時だった。
八時!?
急いで学校へ行く準備をして、家を飛び出す。
どうして起こしてくれなかったんだ、と他責思考に至りながらもなんとか遅刻は免れた。
教室に入るとしっかりと野村 千尋の席は埋まっていた。 口パクでおはようと言う野村の顔をなぜか見れなかった。
ホームルームが終わると案の定、野村が近づいてきた。
「まさか無視されるとは思わなかったよ」
「何を言ってるかわからなかったからしょうがない」
「本当に?じゃあ、おはよう」
目を見ていってくる野村はやはりあざとい。
目を逸らして、おはようと返すとバカップルたちも近づいてきた。
いつも通りの日々に、いつも通りの光景だ。
いつも通りの日常はその名に恥じないものであった。
何事もなく放課後を迎えて、雄一はすぐに森口と教室を出て行った。
「じゃあ、行こうか」
「今回も行き先は教えてもらえないの?」
「そうだね。なんとなく期待値を高めておきたいんだ」
野村の横に並んだ雪の上を歩く。ここら辺にしては珍しくだいぶ積もっている。
「赤になるよ、走ろう」
信号が点滅しているのを見ての野村はそう提案する。
「嫌だ。別に時間あるんだし転ばないように歩こうよ」
不満げな顔になりながらも野村は従う。
二人で信号を待つ。
「野村、今日の授業ついていけなかったでしょ」
「野村…?名前で呼んでくれるんじゃなかったの?」
「何のこと?名前では呼ばないって言ったじゃん」
「へー」
野村はつまらなそうに口を尖らせる。
それを無視して、緩んでいる靴紐を結び直すために身を屈める。それと同時に青になったため、野村が先に信号を渡る。
だから走りたくないんだけど。
野村を追いかけようとしたその時であった。
雪でスリップした車が野村めがけて突進して行った。
「野村!」
体が自然と動いていた。野村の背中を突き飛ばす。
クリスマスパーティを学校でやった日の野村と電話した時の言葉を思い出す。
『目の前で友達が車に轢かれそうになったら助けるでしょ?』
やっぱりこの感情は友情であったのだ。
恋愛感情ではない。
目の前に車が迫る。
その時、今までの思い出がなぜか急に蘇ってきた。
雄一との帰り道での思い出
みんなでスノボに行った思い出
神奈川旅行に行った思い出
野村と…千尋と海を眺めた思い出
それが一瞬のうちに思い出される。
本当に存在したよ、走馬灯は。
その瞬間に目の前が真っ暗になった。
そして