いつも通りの日々に死を添えて   作:アナザー世界

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第13話

彼女の葬式が終わったその次の日も学校はいつも通りにあった。教室に入ると彼女の机には花が飾られていた。花には詳しくないため種類はわからない。

ただ、その花は彼女の姿を想起させるのに十分な美しさを有していた。

担任が入ってきて哀悼の意を述べる。だが、たったそれだけであった。授業もいつも通り、クラスメイトもいつも通り。以前と何も変わらない風景であった。

やはり、愛情の反対は無関心なのだと思い知った。

彼女の机な上にある花の世話に名乗り出たのも僕と彩菜と雄一くんだけであった。久しぶりに彩菜と一緒に下校する。

「やっぱりみんな他人事なんだね。まるで自分は自分の望んだ時に死を迎えれる、そう思ってるみたい」

彩菜は静かに、しかしながら重みを感じるような口調で言った。

僕はその言葉に同意する。

僕だってまだ生きたい。しかし、それを神は許してはくれない。

 それから光の加護が消えたみたいに僕の体調は悪化の一途を辿っていた。

僕は病院のベッドの上で思う。

彼女はちゃんと天に召されたのだろう。

僕の寿命が徐々に徐々に短くなっていく。

何も根拠はないが、そう感じることができる。

一週間ほどの入院をしたのちに再び退院する。

その間に彩菜と雄一くんは毎日お見舞いに来てくれた。しかし、前のように笑顔を浮かべることは一度としてなかった。

 そろそろ打ち明けるべきなのかもしれない、そう思ったその日に雄一くんと彩菜から呼び出された。

「どうしたの?」

彼女は真剣な顔で言った。

「千尋、私たちに何を隠しているの」

もう隠し事をしていることはバレているようであった。その内容もある程度察しがついているのかもしれない。僕は長い間隠してきた秘密を打ち明けるために口を開いた。

「実は僕の寿命はもうあとわずかなんだ」

二人に驚いた様子は見られなかった。光の死を経験した彼らは死が誰にでも平等に訪れることをわかっている。だからこその反応であろう。

「なんで隠してたの…」

「気を遣われたくなかったんだ。完全に僕の身勝手だったよ」

「そうだな、本当に身勝手すぎる理由だ。俺らのことなんか一切考えていない自己中の考えだ」

雄一くんの言葉が矢のように胸に刺さる。その深さは自分でもわからないほどである。

「本当にごめん…」

「それであとどれくらいなの」

「良くて一ヶ月。悪かったらもう予測はつかないくらい」

「もうやめてよ。私たちからもう何も奪わないでよ…」

彼女の悲痛なその言葉は誰に向けてのものだったのだろう。彼女は涙が溢れる目を手で覆う。

何も言えなくなってしまった彩菜に代わり、雄一くんが尋ねてくる。

「そのことを光は知っていたのか」

「たまたま知られちゃったんだ。そのことがきっかけで僕は光と仲良くなろうと思ったんだ」

彼は光を思い出すように目を閉じる。

「そんな感じは全くしなかったな。あいつは隠し事がうまかったのか」

「彼女はある意味ドライな人だったからね。そこが僕にとってとても魅力的だった」 

「ドライなんかじゃねーよ」

彼の声にはあからさまに怒気を孕んでいた。

「お前はあいつがお前に負けていた感情に気づかなかったのか」

「僕に向けていた感情…?」

僕はただおうむ返しするしかなかった。全く心当たりがなかった。

「光はお前のことが好きだったんだぞ!」

僕は今とても間抜けな顔をしているのだろ。彼の言葉を反芻する。

「光が僕のことを好きだった…?そんな素振りはなかったよ」

最後の方は声になっていたのかわからない。言い切れる自信がないのだ。

「光の顔を見て何も、一切気づかなかったのか…」

彼女の表情にそのような感情は感じ取れなかった。

「お前はあいつのことを何も知らないんだな…」

その言葉に反論しようとしたが、言葉が出てこなかった。

思えば、僕と彼女が二人で会っていた時にどれほど彼女の要望を聞いていたのだろう。

どれほど僕のやりたいことを押し付けていたのだろ。

僕は一体、彼女の何を知っているのだろう

「僕は彼女について何も知らなかったみたいだよ…」

そう言い切った途端に僕の意識は途絶えた。

 

 目を覚ますと、そこはすでに見知った天井であった。彼女の命日に僕が運ばれた病院だった。どうやら思わぬ負荷に体がもたなかったようだ。体を起こすと彩菜の姿があった。

「良かった…目を覚ました…」

彼女は心底ほっとした顔で僕を見つめる。

「ごめん…心配かけたね」

「本当だよ…もう死んじゃうかと思った…」

その時、雄一くんが飲み物を三本抱えながら病室の扉を開けた。

「よかった、ちゃんと目を覚ましたな」

彼も彩菜と同様に安堵した様子であった。

「お見舞いありがとう、二人とも」

「私たちだけじゃないよ。もう帰っちゃたけど他にも何人かお見舞いに来てくれたよ」

「そうなんだ、今度お礼言わなきゃ」

その後、少し気まずそうな顔をして雄一くんが言った。

「悪かったな、少しキツイこと言っちゃって」

「ううん、全然そんなことないよ。お陰で僕は彼女について知った気になっていたんだと気づいたよ」

そうして僕は続ける。

「もう夜も遅い。2人ともそろそろ帰りなよ。

明日もまた来てくれる?」

その言葉に二人は頷く。

「じゃあ、雄一くんにお願いがあるんだ。明日、彼女の話を聞かせてよ。君が覚えていること全て」

「わかった。明日全部話す。だから…絶対死ぬなよ」

その言葉に今度は僕が頷く。

これほど生きたいと願ったことはいつぶりであろうか。普段から死にたいと思ったことはないし、生きたいと思っていた。

しかし、今までとは比べ物にならないほど、その気持ちは強くなっていた。

 

 

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