いつも通りの日々に死を添えて   作:アナザー世界

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第2話

それからは、毎日一緒に昼食を食べるようになった。

 

もう野村の名を呼ぶのも躊躇いはない。

 

野村 千尋という名前すら思い出せなかったあの病院の日から一ヶ月。

 

あの頃はこんなに関わることになるとは考えてもみなかった。

 

人生何があるのかわからない。

 

「じゃあ、挨拶」

 

「起立。さようなら。」

 

学校が終わり、いつものように雄一と帰ろうとすると、スマホが振動した。

 

『今日の帰りに少し話がしたい。一緒に帰れない?』

 

そんな野村からのメッセージを見て、今日は一人で帰ってと雄一に伝える。

 

「なんだよー。アイスでも食べて帰ろうと思ったのに。」

 

その言葉に何か引っ掛かりを覚える。

 

アイス?

 

「部屋の片付けを手伝った対価をもらってない…」

 

その言葉に雄一は肩をビクッとさせた。

 

「明日、アイス奢れよ。利子も含めて六個な。」

 

「わかったよ。じゃあな。」

 

あいつ、金持ちのくせに金を使うことを渋るなよ。

金持ちが経済を回さないでどうする。

 

そうして、野村の方へ歩いて行く。

 

「お待たせ。行こうか。」

 

そうして、二人でファミレスに入った。

 

「それで話って?」

 

料理が運ばれて来てすぐに訊いた。

 

「まずは、仲良くしてくれていることに感謝を伝えたくって。正直に言うと、古川と仲良くなろうと思ったのは、少し疑っていたからなんだ。」

 

話が見えてこない。

一体野村は何が言いたいんだろうか。

 

「寿命がもう一年しかないことを誰かにバラされないように監視しようとしていたんだ」

 

今まで全くと言っていいほど接点がなかったのに、急に話しかけてきて仲良くなりたいと言ってきた。

ずっと怪しいと思っていたが、それが理由だったか。

 

「それで疑いは晴れた?」

 

その質問に野村は爽やかな笑顔で答えた。

 

「綺麗さっぱりね。もう完全に信用しているよ。雄一君にすら言ってないんだから。」

 

「多分雄一は信じてくれないよ。てか、クラスの人は誰一人として信じないだろうね。あんなに元気な野村があと一年、いやもう十一ヶ月か…」

 

そう言い終わった途端に、野村の纏っている雰囲気が変わった。

 

その変化はこれからが話の本命だということを感じ取るには十分であった。

 

「実は、最近あまり調子が良くないみたいでね、このままだと来年の十一月まで生き延びれそうにないんだ。」

 

言葉の途中で言いたいことは何となく察しがついてしまっていた。

 

しかし、その言葉が実際に野村の口から発されるとやはり動揺してしまう。

 

「どのくらいになったの…?」

 

「来年の九月末まで。だからざっとあと八ヶ月だね。」

 

二ヶ月も縮んだのか…

 

「でもまだわからないんでしょ?また調子が戻れば、十一月まで生きれるんだよね?」

 

早口になっていたと思う。

野村は聞き取れたであろうか。

 

そんな心配は野村の返答により杞憂となった。

しかし、それと同時に新たな不安も与えられた。

 

「多分そうなんだろうね。でも、自分の体だからなんとなくわかるんだ。ときどき、力が抜けたりする今の状態からの回復はもうないって。」

 

今、自分の顔を第三者にあまり見られたくない。

みっともなく口を開けたまま目を見開いている自分の顔はなんとも滑稽であろう。

 

「もし…もし今よりも体が悪化していったら寿命はさらに縮んじゃうの?」

 

「そう医者に言われたよ。もしかしたら二年生になる前に死んじゃうかもね。」

 

返す言葉が見当たらない。  

今俯きたいのは野村のはずなのに、顔を上げることができない。

 

「そこでお願いがあるんだ。これからやりたいことをたまにでいいから一緒に付き合ってもらいたいんだ。」

 

思わぬお願いに顔をあげる。

 

だか、そんな反応などお構いなしに野村は続ける。

 

「今寿命が減っていることを知っているのは家族と古川だけ。だけど、生憎と親は忙しくてね。こんなことをお願いできるのは古川、君だけなんだよ。」

 

いい性格をしている。

こんなことを言われて断れる人はこの世に存在しないだろう。

 

「たまになら、いいけど。」

 

承諾してくれることをわかっていたのだろう。

大して喜ぶ様子もなく、ドリンクを飲み干して笑顔で、ありがとうと返してきた。

 

十二月は空が暗くなるのが早い。

まだ一七時なのにも関わらず、自分の心を表すかの如く、外は暗がりに満ちていた。

 

***

 

次の日、野村の顔を見ることはできなかった。

そしてなぜか、雄一も森口の顔を見ていられないようだった。

 

いつものように雄一と一緒に、奢ってもらったアイスのうち一つを食べながら、学校から帰っていた。

 

「なんで今日森口と目があった瞬間に、目を逸らしてたんだよ?」

 

「別に逸らしてねーよ。」

 

そう答える雄一の顔には動揺が見て取れる。

 

「もしかして、恋にでも落ちちゃったか?」

 

その瞬間に、雄一の肩がビクッとはねた。

 

「えーまじかよ。あの雄一が恋かー。びっくりするほど似合わないな。」

 

「うるせーよ。感情なんてコントロールできないんだからしょうがないだろ。」

 

そして、雄一は恐る恐るという様子で訊いてきた。

 

「ちなみにお前から見てどのくらい勝算あると思う?」

 

「そんなのわかるわけないだろ、。確かに森口は可愛くていい子だとは思うけど、それ以上の興味はないからな。」

 

「興味があったら逆に色々と困るわ。」

 

「因みに、手助けとかするつもりはないからら。」

 

「まずまずお前に手助けなんて無理だろ。」

 

雄一の尻を蹴る。

 

それが失敗だった。

足に集中したせいで、手元がおろそかになってしまったのだ。

 

アイスがベチャッという音と共に地面に落ちる。

 

「うわぁーーーー!!」

 

声が重なる。

 

「貴重な高級アイスが!」

 

「貴重な俺の金が!」

 

そして、雄一と顔を見合わせ頷くと、木の葉と枝を集め始めた。

 

葉も枝も十分に集まったためアイスの元へ戻る。

 

どうやらアイスは採集中に車に轢かれたらしい。

車の邪魔にならないところに木の葉と枝を添えて、両手を合わせた。

 

その後、悲しみに暮れながらも再び家路についた。

 

***

 

家に帰ると、いつものようにベッドにダイブする。

 

「雄一も恋するんだなー。」

 

生まれて今まで恋という恋をしたことがないため、雄一が遠くへ行ってしまったように感じる。

 

恋をしてみたくないわけではない。もしかしたら、今まで抱いてきた感情に恋という名前をつけてこなかっただけで、今の雄一と同じ状態になっていた時もあったのかもしれない。

 

世間の人たちは自分が今、恋をしているとどうやって気づくのであろうか。

 

「もういいや…」

 

考えることを放棄した。

今はこの行為が一番最適であろう。

絶対に答えの出ない問題に立ち向かうほど時間を無駄にしている感はない。

 

「課題やんなきゃ。」

 

そうして課題に取り組んでいると、携帯が振動した。

 

『明後日の土曜日に早速やりたいことに付き合ってもらってもいい?』

 

野村からのメッセージに承諾の意を伝える。

 

「野村も恋してるのかな…」

 

無意識に口からそんな言葉が漏れる。

だが、自分で発したその言葉に興味を持つ。

 

あと八ヶ月したら死んでしまう人も恋をするのか。

不安や焦りという感情を押し除けて恋が発現するのか。

その感情は持続するのか。

 

様々な疑問が湧いて出てくる。

 

「明後日訊いてみようかな。」

 

そのためには確認しておかなければいけないことがある。

野村にメッセージを送る。

 

『寿命がもう短いことに気を遣ったほうがいい?』

 

この質問に気を遣ってほしいなど簡単には返せない。

少々酷い気もするが前の意趣返しとして今回のことは大目に見てもらおう。

 

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