いつも通りの日々に死を添えて   作:アナザー世界

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第8話

それから十分程度海を野村と見ていた。

その後は旅館に二人で戻り、温泉に入った。

戻った後も雄一たちの姿はまだなかった。

「ずいぶん長風呂だったね。1時間弱ぐらい入ってたんじゃない?」

「そっちが早すぎるんじゃない。そんなことよりも雄一たち遅すぎない?」

「二人なら心配ないよ。もう少し外にいるって連絡来たし」

「ならいいか」

「ハメを外しすぎないといいけど」

流石に二人ともそこら辺の良識はある。と信じたい。

「それでさっきの答えは出た?」

急に訳のわからないことを訊いてきた。

「何の話?」

「死んだら悲しんでくれるかどうかだよ。お風呂に入って少しは心の整理がついたんじゃないかと思って」

「またその話か…」

改めて考える。野村が死んだら、この想像が現実となるのは後たった半年だ。

「悲しみはする。それに涙も流れると思う。けど引きずるかどうかはわからない。もしかしたら一週間後にはもういつも通りかも」

「まぁそんなものだよね」

野村の反応は意外に淡白なものだった。そっちから訊いといて何なんだこいつは。

「じゃあ、こっちからも質問。自分がもうすぐ死ぬって知った時どんな感じだった?」

「自分でも驚くくらい冷静だったよ。もう何となく悟ってたからね」

「いつ余命宣告されたの?」

「古川とぶつかった二週間くらい前だったかな。あの時はまだ一年あるって知って現代医学の凄さを痛感したね」

「心境の変化とかあった?」

「あまりなかったよ。もともといつも通りの日々に充足感を覚えていたからね。特別なことはする必要がないと思って」

「じゃあ、何でワカサギ釣りに誘ったんだよ」

「それはただ単に古川に興味が湧いたからだよ。もっと深く知りたいとそう感じたんだ」

よくそんな歯の浮くようなセリフを平然といえるな。けれど、不快感は特に感じない。

「まだ質問はある?」

「いや、もうない」

 時刻は二十二時をすでに過ぎていた。

「流石に雄一たち遅すぎる。ちょっと心配になってきた。」

「そうだね。いくら何でもちょっと遅すぎるね。補導でもされたら、どうしよう」

そのとき、部屋のドアが開かれた。

「ただいまー。ケーキ買ってきたよー!」

コンビニの袋を片手に、二人が帰ってきた。

「いやーお待たせしちゃってすいませんねー。やっぱクリスマスにはケーキ食べないと、と思って雄一とコンビニまで行ってきちゃいました。もう歯磨いちゃった?」

「まだだよ、ありがとう」

ちゃっかり雄一を呼び捨てで呼んでいることはスルーして野村に続き感謝を伝える。

「よし、準備オッケー!じゃあ…」

「「「「メリークリスマース!」」」」

そうしてジュースの入ったコップで乾杯する。

「やっぱ不健康なものは美味しいねー」

「そんなものを二十二時過ぎに食べているんだから、早死にしちゃいそうだよ」

そんな冗談にならないような発言をしたのは、もちろん野村であった。どんな反応すればいいのかわからず黙り込む。そんな自分に気づかずに雄一と森口は野村の言葉に同意しつつもケーキを食べる手を止めない。

 そうして、ケーキを食べ終わった二人はお風呂に入りに行った。野村と二人、また部屋に残されるだが、もう睡魔が襲ってきており会話をする気も起きない。歯を磨いて、布団に入ると今日の疲れが一気に押し寄せたのかすぐに眠ってしまった。

 目を覚まし、スマホを開くと時間は二時を回ったところであった。もう一度寝ようと思ったが、なかなか寝付けない。もう脳が覚醒してしまったようだ。他の人はぐっすり眠っているようだったのでなるべく音を立てずに部屋の外に出る。

海に行きたくなったのだ。

こういう時に何故海に行くのか今までわからなかったが、ようやく理解できた。波の音を聴きたくなる。

そうして浜辺に到着して寒さを感じながらも目を瞑り、波の音に耳を傾ける。しかし、突然その音に雑音が紛れ込んだ。

「目が覚めちゃったのか?」

「雄一…」

そして、雄一は隣に立つ。

「なんか目が覚めてから寝付けなかった。波の音でも聞きたいと思って」

「俺も同じだ。環境が違うとなかなか快眠できないもんだな」

「恋が成就しても熟睡はできないんだ」

「やっぱり見てたか。おかげさまで今最高の気分だよ」

「流石にまだ一線は超えてないよね」

「流石に初日ではねーよ。てかそういうこと訊くな」

「ちなみに帰ってくるまで何してたの。だいぶ長い間外にいたけど」

「まぁ手繋いだりとかもうしたぞ。けどほとんど石切を教えてた」

「小学生じゃん」

「うるせぇ、頼まれたんだからしょうがないだろ。彩菜はもう俺より上手くなっちまったよ」

「師が一日で弟子に超えられたのか。笑い物だな」

その言葉に返答せずに、雄一はゆっくり口を開く。

「俺らが二人だったってことはそっちも二人だったってことだ。何かなかったのか?」

これと言って大したことはなかった。ただ少しだけ野村のことを深く知れた。たったそれだけ。

「別に何もなかった。二人と違ってお互いに恋愛感情があるとは思ってないからな」

「本当にそうなのか?」

「何で疑ってくる。前も言っただろ、雄一が恋愛してるからといって他の人がそうとは限らない」

「そういうことにしておくわ」

何が言いたいんだ。

雄一を睨んだが、暗いせいなのかわざとなのか、それに気づいたそぶりはなかった。

「寒いからもう戻ろうぜ」

その言葉に頷き、部屋に戻る。やはり波の音は偉大だ。その後は途中で目を覚ますことなく朝を迎えた。

「やばい、もうチェックアウトまで時間ないよ!」

そんな森口の言葉で目を覚まし、時計を見ると九時半になるところであった。まだ覚醒してない脳をなんとか働かせるためにも顔を洗う。

そして、その他諸々の準備も進め、何とか時間内にチェックアウトを済ませる。もう後は旅館を出るだけだが、森口はスマホを旅館の人に預ける。どうやら写真をまた撮るようだ。

「はい、チーズ」

カシャっと音が鳴る。同時に走馬灯にも刻まれたであろうか。

帰りの新幹線は一七時頃なためまだ神奈川県を満喫できる。

「鎌倉で大仏見るのと遊園地行くのどっちがいい?」

森口がそう訊くと、全会一致で遊園地となった。大仏様ごめんなさい。

「神奈川感あんまりない旅行になっちゃったね」

「まぁ別にいいんじゃないか。遊園地だって普段あんまり行かないだろ」

そう考えると我が街には何もないな。電車で再び一時間ほど揺られて、目的の駅に到着する。

朝ごはんも食べていなかったため、少し早めの昼食を中華街で食べる。

「この肉まんすごい美味しい」

野村の声を筆頭に皆美味しさに舌鼓を打つ。

「雄一のシュウマイも一つちょうだい」

その森口のお願いを聞き、雄一は箸を渡す。

しかし、森口は受け取らずに口を開ける。

そして雄一は恥ずかしそうにシュウマイを森口の口に運ぶ。

こいつらもう遠慮がないな

そんな光景を見て野村は幸せそうに笑っていた。

幸せそうじゃないのは自分だけか。

 そうして、昼食を終えると遊園地に向かった。

ものの数分で到着した遊園地はかなり壮大なものであった。

「でっかーい!早く行こ!」

「彩菜急ぐと危ないよ!」

そんな野村の制止の声も聞かずに、森口は雄一の腕を引っ張って突き進んで行く。

「本当にあれが十六歳なのか?」

「残念だけど彩菜はまだ十五歳だよ。」

どうでもいいわ。

「とりあえず追いかけようか」

その言葉に頷き、森口たちを探すともうすでに列の最後尾として並んでいた。

「早くこっち来てー!」

そう催促されて野村と一緒に合流して列に並ぶ。そうして順調に列が進んでいく途中で気づいてしまった。

「ここ、ジェットコースターの列じゃん…」

「そう言えば光は絶叫系苦手だったな。中学の修学旅行でも断じて乗らなかったもんな。まぁ頑張ってくれよ」

ニヤつく雄一の顔を殴りたい衝動に駆られたがその横にはできたばかりの彼女がいるのだ。

何とか、その衝動を抑えていると遂に順番が回ってきてしまった。

一つ息を吐いて覚悟を決める。

安全レバーを職員の人につけられた。

もう逃げることはできない。

ゆっくりと空に向かって動き出す。この遅さがさらに恐怖を掻き立てる。

ふと、横の野村を見ると楽しそうに笑っていた。なぜ命を脅かすような行為に楽しさを感じられるのか理解ができない。

そうして、ジェットコースターが一番高いところで止まる。だが、それも一瞬のこと。すぐに高速で下って行く。

体が浮くような感覚に陥る。

思わず目をつぶっていると、隣から楽しそうな悲鳴が聞こえた。いや、隣からだけでない。前からも後ろからも聞こえる。

どうやら少数派は自分だったらしい。

「目開けて!」

隣からそう言われて反射的に目を開けてしまう。

地球がひっくり返っていた。

「きゃあーーー!!」

思わずそんな大きい悲鳴をあげてしまった。

 

「光、顔すごいことになってるぞ」

半笑いで雄一が言う。

その言葉にすら返す余裕はない。

「古川のこんな顔初めて見た。写真撮っていい?」

ダメに決まってんだろ。

少し時間をもらい完全とまではいかないがある程度は回復した。

「次どこ行くー?」

その言葉を待っていたよ。

「お化け屋敷行こう。あまり並んでないし」

雄一の顔が青ざめる。

さっきはよくも笑ってくれたな。お返しだよ。

まさか彼女の前でカッコ悪いところは見せられないよな。

雄一は恨めしそうな顔でこちらを見ているが、無視する。

彼女は乗り気のようだぞ。

 そうしてお化け屋敷に向かうとどうやら二人ずつしか入れないらしい。雄一の怖がる顔が見れないのは残念だが、ここは出来立てカップルをペアにするしかない。野村とペアになり、怖がっている雄一とワクワクした森口を見送る。それから少し時間が経ち、お化け屋敷に入る。

遠くの方で雄一と思われる悲鳴が聞こえる。実に愉快だ。そして、順調に進んで行き、扉を開けるためにボタンを押すと、骸骨が飛び出してきた。

「うあぁぁ!!」

野村が悲鳴をあげた。

こいつも苦手だったのかよ。

その後は悲鳴を聞かれたからか、野村はただただ後ろをついてくるだけになった。

 約十分程かけて無事に脱出する。雄一が森口に背中をさすられていた。

「あっ、そっちも終わったね。千尋も死にそうな顔になってるー。千尋のこともさすってあげて」

えー。

「ほら早く立ち直って」

さするのは恥ずかしかったので背中を軽く叩いた。

ようやく二人が立ち直る。

「次はどこ行く?」

森口はまだまだ元気そうだった。

そうしてさまざまな場所を回り、残り時間は二十分程度となった。

 

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