いつも通りの日々に死を添えて   作:アナザー世界

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第9話

「ラストはやっぱりこれだよねー」

もう四時間以上この遊園地を回っているのにも関わらず、元気そうな声で森口は言う。

無敵なのかこの人は。

最後に残しておいたアトラクションは観覧車であった。幸いなことに高所が苦手な人もいない。ちなみに森口は苦手なアトラクションはなかった。やはり無敵だ。

四人で乗り込み徐々に高いところへ上がっていく。先ほどのジェットコースターを思い出し少し気分が悪くなるが何とか持ち直す。

「やっぱ都会だねーここら辺は」

森口の言葉に皆口を揃えて同意する。こんなに高い建物が林立した風景など見たことがない。

「そろそろ終わっちゃうね、この旅行も」

野村の寂しそうな声が狭い観覧車内にこだまする。これに乗り終わったら後は新幹線に乗って解散するのみとなった。

「いろいろあったね、この二日間」

思い返してみるとたくさんの思い出が蘇る。

ババ抜きやウノ、水族館やバーベキュー、カップルの誕生や遊園地など二日間だけとは思えないほど濃密な日々であった。

これで走馬灯は少しでも長くなったであろうか。

他の三人を見ると各々、景色を眺めたり目を瞑ったりして、この二日間を回想しているようだった。

誰が欠けても同じような二日間は過ごせなかっただろう。

一人一人がこの日々を作り出したのだ。

そんな柄でもないことを考えていると、いつの間にか観覧車は一周していた。

 帰りの新幹線内。

他の三人は程よい新幹線の振動に身を任せて眠っていた。

隣には行きと違い野村がいる。そんな野村の顔を見ると、そのまつげの長さに目が留まる。

いつもは見ることのできないその光景にしばらく釘付けになっていた。ふと我に帰ると、自分は一体何しているんだと感じて思わず一人で笑う。どうやらおかしくなるくらい疲れているようだ。

雄一たちの方を見る。そのカップルたちは互いに相手の方に頭を向けてぐっすり眠っている。

スマホをポケットから取り出し立ち上がる。

雄一たちの前の座席は空席だったため、その席に向かう。そして、2人の寝ている姿を写真に収める。シャッター音が静かな新幹線内に鳴り響き、注目を集めてしまう。恥ずかしさで顔を伏せながらもとの席に戻る。やることもないので寝ようと思い、目を瞑る。

 そして、次に目を開けたときには新幹線は停車していた。

「野村起きて!」

野村が起きたのを確認することなく、雄一たちのことも起こす。四人全員でバタバタしながらも何とか新幹線から降りる。

「いやー楽しかったねー!」

そんな森口の言葉に全員が頷く。

去年までは絶対にあり得なかった、こんなに楽しかったクリスマス旅行。

野村とあの病院でぶつからなかったら経験できなかった日々。

この四人で作り出した日々。

それがあと半年で崩れ去ることは、とても現実とは思えない。

駅から出ると神奈川では見れなかった雪が降っていた。

「こっちはホワイトクリスマスだったのかな?」

少し雪が積もっているため恐らく昨日も降ったのだろう。

「よし!じゃあここでお別れ!次会う時は冬休み明けになるかな」

正月は帰省するし、課題や各々の用事があるためなかなかこの四人で集まることは簡単ではない。

積もった雪を踏みつける。少し雪が削れた。

「じゃあね、バイバイ」

どうせまた会えるのに、どうしてこんなにも感傷的になるのだろう。

雄一と一緒に帰路に着く。

「楽しかったな」

「うん、楽しかった。雄一は彼女もできて忘れられない日になったでしょ」

「そうだな。次はお前の番だぞ」

「だから違うって。何度言われても何度でも否定するよ。」

「そろそろ素直になれよ」

何を言ってるんだか。

あと半年後にこの世を去る人間に特別な感情は抱かないだろう。以前アイスを落とした時に雄一と枝と木の葉で作った簡易的なお墓も雪を被っていた。

 そして、雄一と別れて家に到着する。

「おかえりー」と言われたため「ただいま」と返して、すぐにお風呂に入る。

いつものように長風呂をして、用意されていた夜ごはんを食べる。

その後はベットの上で改めて考える。

一体自分は野村にどんな感情を抱いているのだろうか。

この感情に何という名前をつければ良いのだろうか。

最近答えの出ないことばかりを考えてしまう。

そのどれも野村のことであることにも気づいている。以前、野村に言われたことを思い出す。

ずっとその人のことを考えてしまう。

それが恋だと、野村がそう言っていた。

ならばこの感情は恋なのだろうか。

どれほど頭を悩ませても答えは出ない。

当然だ。これは人に言われて解決するほど簡単なものではない。自分で答えを出さなければいけない。

まだ検討を重ねる必要がある。

そう結論づけて、部屋の明かりを消して眠りについた。

 

 それからは特にこれといった出来事が起きるわけでもなく、年末は祖父母の家に行った。

そして、お年玉をもらい摩耗した財布を少しだけだが潤すことができた。

祖父母の家でも普段とやることは変わらなかった。外で遊ぶわけでもなく、家でずっとテレビやスマホを見て一日を浪費した。祖父母の家から帰ってきてから数日が経過し、そのまま冬休みが終わると思っていたところで野村から連絡があった。

『明日、一六時に駅前のカフェに集合できるよね?』

野村にはずっと暇していることがバレているようだ。了承の意を伝えるために、メッセージを送ろうとするが何故か手が止まった。あと画面を一回タップするだけでいい。だったそれだけでいいはずなのに何故かそれができない。こんなことは今まで一回もなかったのに。

短く息を吐く。震える手を何とか制御して、画面をタップした。

「はぁーー」

メッセージ一つを送るだけなのに体力をここ一週間くらいで一番使った気がする。

自分は一体どうしてしまったのだろうか。まるで漫画の乙女キャラではないか。

今日は特別おかしかっただけで、明日にはいつも通りになっているだろう。

そう願って眠りについた。

 集合時間の一時間半前から準備するために忙しなく動いていた。そして、髪のセットやらなんやらをやっていたら結局カフェに着いたのは集合時間の一分前であった。

「ごめん遅くなった」

「いやギリギリセーフだから大丈夫だよ。まぁギリギリだけどね」

間に合ったのだからいいだろ

「で、何でカフェなの。いつもだったら駅で集合なのに」

「この時期に外で待ってるのはなかなか辛いからね。カフェで快適に待っていたかったんだよ」

「何で野村が待つ前提なんだよ。まぁ実際そうだったけどさ」

「それより何か頼みなよ。」

それもそうだ。

そうして店員さんを呼び、オレンジジュースを注文した。

「野村はそれブラックコーヒー?」

「そうだよ。甘いのは苦手なんだ」

信じられない。甘いものは全てを癒す存在であるのに。

オレンジジュースが来て、一口飲んで口の中を潤したあとに野村に尋ねる。

「もしかして今日はこのお茶会だけ?」

「どっちもお茶飲んでないけどね」

「そこはどうでもいい。それでこの後どこか行くの?」

「行くよ。お楽しみに」

その後は沈黙が流れる。そんな中で野村は思い出すかのように優しい声で言った。

「もう古川と出会って三ヶ月くらい経つんだね」

「出会ったのは入学式の時でしょ」

「古川とあの病院でぶつかった時に野村 千尋っていう名前が古川の口から出なかったことまだ覚えているから」

「結構根に持つタイプなんだな」

「こっちは古川の名前覚えてたからちょっとショックだったんだよ」

「しょうがないだろ、雄一しか友達いなかったんだから」

「じゃあ、それから二人増えたわけだ。まぁあと五ヶ月経ったら一人減るけどね」

「それ反応しづらいからやめてくれない」

「偶にこういうこと言わないと、自分が本当に死ぬのかわからなくなる気がするんだ」

死ぬことがわからなくなるか…

また返答に困ることを言う。それにしても…

「あと五ヶ月か。どうやら神奈川旅行では無理してなかったようだな」

「基本的には歩いているだけだったからね。お化け屋敷という例外はあったけど」

「あれは途中までお化け屋敷が苦手なことを隠してた野村の落ち度だろ。入る前に反対してたら行かなくて済んだのかもしれないのに」

「ひさしぶりでお化け屋敷の怖さを忘れてたんだよ。お化け屋敷を最初に作った人は相当性格が悪いと思う」

「野村みたいな人はお化け屋敷側の人からすると一番怖がらせたい人でしょ。最初は余裕そうな態度なのにだんだん怯え出すのはこちらとしても楽しめたよ」

「やっぱり古川はなかなか性格悪いね」

「それはお互い様だろ」

ふと野村のコーヒーカップを見るとそこにはもうコーヒーは残っていなかった。オレンジジュースをストローで飲むと、ズズズ、という音が鳴った。

「そろそろ出ようか」

その言葉に従い、お会計をして店を出る。

「それでどこに行くの?」

「もうお正月も過ぎたけど、お正月っぽいことをしたくて」

「じゃあ神社にでも行くの?」

「そうだね。古川は初詣とか行った?」

「行ってない。お正月はずっと家でゴロゴロしてた」

「丁度いいね。今年のお願い事をしなよ」

特に神様にお願いしたいことはないんだけどな。そんな空気を読めない発言は胸の内に秘めておき、神社に到着した。

「流石にもう混んでないね。誰も並んでないよ」

「こんなに遅かったら神様も願いを叶えてくれないんじゃない?」

「五ヶ月後に死ぬ人の願いはきっと優先的に叶えてくれるよ」

「神様はみんなに平等がモットーだから」

そんなの聞いたことないけど。

五円を賽銭箱に投げて、先ほど思いついた願い事を心の中で言う。

平穏な一年になりますように

野村の方を見ると未だに目を瞑ってお願いをしていた。

強欲なやつだな。

ようやく目を開けた野村と息を揃えて柏手を打つ。

「古川は何をお願いしたの?」

「人に話したらダメなんじゃなかったっけ。念の為黙っとく」

「そうなの?今まですぐに話してたよ」

「今まで何の意味もないお参りしてたんだ。てか、それにしても願う時間長すぎじゃなかった?そんなに幾つも願ってたらどれも叶わないぞ」

「いや、願いは一つだよ。ただその一つを強く祈ってただけ」

その後はおみくじを引きに行く。

「小吉か。何の面白みもないな。野村はどうだった?」

「見て、凶だよ。初めて見た。確かに今年で死ぬし、このおみくじはだいぶ信憑性が高いね」

「じゃあ、今年は小吉の年か。つまり何も起きずに来年を迎えられるってことか」

何とも喜ばしいことだ。

個人的におみくじは神社で結ばずに財布に入れるタイプだ。年末に本当に正しかったか確認できるからだ。

「絵馬も書こうか」

もう本当に願うことないんだけど…

しかし、何とか捻り出して絵馬に書く。

「テストで赤点を取りませんようにって、古川そんなに頭悪くないよね?」

「もう思いつかないからしょうがない。

そういう野村もなかなか普通じゃないけどね」

野村の絵馬には、楽に死ねますようにと書いてあった。

もう反応はしない。無視だ無視。

「そろそろ他のところに行こうか」

その言葉で野村と共に神社を出た。

 

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