これで100話になります。
皆様のしおりにとても励まされております。
ありがとうございます。
ヒカリの両親が特許を持っているサイコバンドは今や地球圏に浸透していて、今やコピー商品が出回り、特にジオンの残党などはほぼ100%コピー品を使用している……とフリース家の面々は考えている。
当然、ライセンス料など払われていない。
そして、ヒカリの母のアヤメは半ばあきらめ気味だった。
連日、地球圏からはネオジオンによるテロのニュースが届く。
宇宙世紀93年、ヒカリは一人増えた家族と共に木星圏へ戻ってきた。
ただし、まだジュピトリスを降りたわけではない。
フリース一家を乗せたジュピトリスは現在、木星圏内で軌道を修正中で、軌道修正が終われば連絡船がドッキングする流れだ。
とはいえ、すでに気の早い連中は小型艇でジュピトリスに乗り付けて、地球土産を受け取ったりしている。
さて、晴れている日は木星圏の各拠点からキノコ基地が見えることがあるそうだ。
そう聞いてヒカリは胸を躍らせていた。
船を降りる準備をサボってジュピトリスの窓に顔をこすりつけるようにしている。
大枢党の木星大気圏内拠点を一目見ようとしているのだ。
「ナニしてんでヤンス?」
ヒカリにとっても聞き覚えのあるこの口調はジュピトリス乗組員のカラス氏だ。
「大枢党が作った木星の拠点が見えないかな?って……」
カラスは自分の端末を開いて確認するとヒカルに教えた。
「今日は見えない側でヤンス。」
「あ、ソウでヤンスか……」
「ソーでヤンス。」
そのやり取りを見つけてクロエがやってくる。
「ちょっと、ヒカリ!またカラスさんの口調が感染ってる!」
「ソーでヤンスか?」
カラスは夫婦の会話を聞きながら、無重量でも器用に移動するようになったミライを抱きとめた。
「ミライちゃんは今日も可愛いでヤンスね!」
「ヤンスのおじちゃんこんにちはでヤンス!」
「ミーちゃん!ヤンスはダメ!!」
「ママ、なんでだめでヤンス?」
クロエが大きなため息をついた。
カラスは木星と地球の往復を続けるベテランで、木星圏にも地球圏にもほとんど定住しない生粋のジュピトリス乗組員だ。
木星船団公社内でも一目置かれ、信認厚い人物でクロエからしてもカラスは好人物なのだが、ヤンス口調の汚染がすごいのだ。
クロエは娘のミライだけは何としても汚染から守ろうと心に決めていた。
「ところで、食堂でジュピトリスのお別れ会やるのは聞いてるでヤンス?」
「なにそれ、知らない。」
木星と地球圏を往復し続けるジュピトリスは小さな自治体のようなものだ。
今回フリース家が乗ってきたこの2型ジュピトリスの「リトルレイブン」はホームパーティーのような活動が多い。
「あれ?クロエ聞いてなかったの?」
どうやらヒカリは知ってたようだ。
とはいえ週1ぐらいのペースで何かしら催しをやる「リトルレイブン」では知っていることも知らないことも珍しくもない。
「木星で船を降りる前の最後のお別れ会でヤンス。皆着てくれると嬉しいでヤンス。」
カラスはそう言うと去っていった。
ジュピトリスで地球ー木星間を往来する2年間(実際には約26か月間)、専門性も人種も違う人間たちが小さな村のようなジュピトリスに押し込められる。
ジュピトリス乗船の選抜を通るような人間は、そうした集団生活への適性をある程度審査されて乗り込む。
それでも、人間関係のトラブルは怖いため、目端の利く人間が船の中の社会環境の「警備」を行うのだ。
カラスはその長期航路の人間関係のトラブルバスターとして超一流の人間で、艦長を差し置いて「リトルレイブン」の顔とも呼べる存在だ。
ちなみに現在、就航している現役のジュピトリス級はオーバーホールやメンテナンス中のものまで含め7艦あり、それらが13カ月間隔で発着している。
この運用プランは元々公社化する前の木星船団が目指した目標でもあり、近年やっとたどり着いた体制だ。
それではそれ以前はというと艦はもっと少なかった。
一番最初の木星圏探検船を経て、初期型のジュピトリスは建造された。
その運用中にとられた様々なデータをもとに再設計されたのが2型のジュピトリスだ。
なお実験機の意味合いも強かった初期型のジュピトリスは、それぞれ退役して木星圏で大型の拠点としてそのまま木星船団公社本部「オールドワン」や大枢党大型拠点「コンティキ号」として利用されている。
さて、そのジュピトリスの航路についてだが、13カ月に一回というのは地球と木星が最も近づくタイミングを逆算して船を出すためだ。
地球と木星が近いときと遠いときでは距離にして1.5倍ほどの差がある。
しかも、遠いときに木星から地球に行こうとすると最短では太陽をかすめるルートになる為、さらに現実的ではない。
ちなみに、木星と火星の間の小惑星帯にジュピトリス用の中継拠点を作ろうという無謀な意見を出した政治家が過去にいたが、残念ながらジュピトリスがそのあたりを飛ぶ頃にははマッハ27ほどに加速されている。
マッハ27というと加速Gもすさまじいと考える方もおられるかもしれないが、およそ半年ほどかけてじっくり加速するため、5000分の1Gほどしか加速Gは感じない(実際には人体では感じられない)。
それでも拠点に立ち寄る頃にはマッハ27の世界観なので、ものすごい急ブレーキをかけないと立ち寄ることはできない。
ブレーキをかけると、エネルギーのロスも大変な事になる上、往復にかかる時間も長くなる為、その与太話は雲散霧消している。
とはいえ、アステロイドベルトには鉱物資源の採掘拠点がいくらかあるので、ジュピトリスの航路を利用してアステロイドベルトにアクセスする考え方自体にメリットがないわけではない。
そこで考え出されたのが艦載機を利用する方法だ。
ジュピトリスに船を括りつけておいて、そこそこ移動したところでジュピトリスから船を切り離し、その船はアステロイドベルトの拠点を目指すという理屈だ。
また、その艦載機を先に出発したジュピトリスに向けて飛ばす方法も考えられている。
効率は悪いが、小さい質量……少ない人数であれば艦載機に詰め込んで13か月先にとんだジュピトリスに追いつく形で木星ー地球間の移動時間をショートカットできるのではないか?というものだ。
そうした計画……木星ー地球間の往復をよりフレキシブルにする方策が充実すれば、木星航路はもっと面白くなると木星船団公社は考えている。
先には大枢党の独断専行に近い形でアステロイドベルトから資源小惑星を木星圏に引っ張り込むことにも成功し、木星圏の鉱物資源量も十分に潤っている。
衛星カリストのアザニア基地のような衛星拠点も木星圏にとっては重要な拠点だが、資源量が増えた今、将来的にはスペースコロニーの建造も視野に入ってきた。
「私たちの木星航路に……カンパーイ!!」
食堂で乾杯する「木星人」たちは一様に嬉しそうだ。
皆が心のどこかで「木星はもっとすごくなる」と考えているだろう。
資源が増えた。
医療が充実した。
保育と教育が強化された。
そして、この船にはクロエとヒカリの娘、幼いミライが乗っている。
未来はもうすぐそこにあると感じさせるには十分ではないか。
ここで、著者の中での一つ大きな執筆目標にたどり着きました。
そして、次の目標です。
思った以上に長くなってしまって困惑していますが、何卒よろしくお願いします。
お読みくださっている、全ての方に心からの感謝を。
また、素晴らしい世界を作り上げてくださった先人の皆様にも大きな感謝を。