不幸にも木星船団公社はシロッコの暴走により地球圏の争いに一度は加わってしまった。
それが尾を引いてずるずると地球圏の飽くなき戦乱に引きずり込まれずに済んだのは、ひたすらに木星の人間たちが「ウンザリしている」からだ。
木星圏の人間すべてがそうであるかは分からないにせよ、多くの木星人が地球圏の戦乱にウンザリしているのは間違いない。
クロエなどはその筆頭だ。
つい先日もネオジオンが地球に再びコロニー落としを仕掛けたのだが、地球には自分の両親がいるというのにどこ吹く風という顔をしていた。
当事者でもないのに浅ましく戦いを続ける地球圏に関心など払いたくないのだ。
リシュモンなどはその木星人たちの地球圏の戦乱への関心の低さは「平和ボケ」ではなく「戦争アレルギー」だと考えていた。
そのため、保安部と大枢党から飛び出した過激派が戦闘になった事件では、敵を倒したチンペーが称賛されこそすれ、犠牲になった保安部員への木星人たちの反応は比較的冷たかった。
そんな木星人たちなので、ついこの前起きたばかりのシャアのコロニー落とし未遂についても非常に関心が薄かった。
戦争に勝った負けたで一喜一憂する地球圏の人間を心のどこかで見下しているのだと……そう客観的に考える木星人は多い。
また、度重なる地球圏の戦乱を傍観することによって、木星人は木星人としてのアイデンティティを醸成しつつあるのかもしれない。
とりあえず、シャアのネオジオンを率いた反乱については、木星人の大半は「また地球人がジオンに勝ったと浮かれているな」程度の認識しか持っていない。
では、地球人たちはどうかというとそんな生易しい話ではなかった。
地球圏では度重なる戦乱の軍需によって超が付く巨大企業がいくつか成り上がっていた。
木星船団公社は例外的なので、その企業からは除外して考えられるのが常だが、その木星船団公社はシロッコの暴走によってそれらの超巨大企業に悪いお手本を見せてしまった。
要するに「企業であっても十分な軍備を持っていればアースノイドとスペースノイドの戦いに第3勢力として加わることが可能だ」ということだ。
運用目的が特殊過ぎるジュピトリスほどではないにせよ、各企業がビルのようなデカさの巨大輸送船をこぞって建造し始めた。
当然、軍艦として転用することを見越した船だ。
さらに、企業は軍隊を持ち始めた。
そして、競うようにガンダムタイプのモビルスーツの建造に着手し始めた。
これらは決して企業が増長してそうなったわけではない。
大企業はすでに国家並みの規模に近づいている。
そして、彼らの武装のきっかけはシロッコであるが、そのモチベーションになったのは一重にアクシズ落としの顛末の異常さだ。
結局、アクシズが地球に落ちなかったのはガンダムに救われたのではないか?という理屈だ。
多くの木星人の「またアースノイドが勝って浮かれてるんじゃないの?」という邪推とは裏腹に、アクシズの地球落下を免れた地球人たちには戦勝ムードなど一切ない。
ただただ「なんで助かったのか理解できないけどガンダムが何かやったの?」という渋い後味が残っているだけだ。
結果、「少しでも今のうちに自衛を」というムードが地球連邦のみならず、スペースノイドにも芽生え、それが民間企業にまで及んでいるという仕組みだ。
当然、アクシズ落としを食い止めたのが狭義のRX―78―2のみを示す「ガンダム」ではなく、広義の「ガンダムタイプ」であろうことは市井に広く知れ渡っている。
ただそれも長引く戦乱で教育の普及率が下がりつつある地球圏の人々にとっては些細な問題だ。
今や地球にも宇宙にも急速にスラムが広がりつつある。
スラムで育った特に子供にとっては「ガンダム」はおとぎ話のようなものだ。
地球圏のモビルスーツ開発者たちは、形だけでもガンダムに似せておけば、なんとなく救ってくれそうな気がする層を無視できない。
そうした事情で、名前こそ「ガンダム」とはつけないが、粗製ガンダムもどきが地球圏に放たれていく。
「ナントカ同胞団、強いモビルスーツ持ってきてたらキツイなあ……」
ヒカリはそう呟くとアザニアのオープンカフェで買った無果汁のマンゴージュースを一口飲んだ。