機動戦士ゾック~太岁の風   作:スナ惡

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そんな事とは露知らず

「木星圏でレースやってみないか?」

 

オズモンドは自分が保安部に引っ張られる未来など全く知らずに、カリスト作業機械試験場でA4一枚の企画書を配っていた。

クルマタニやカーンの姿もある。

 

「確かに木星圏のモビルスーツは独自の進化をしています。地球圏がAMBAC主流なのに対して木星圏のモビルスーツはジャイロ制御が幅を利かせていますから……やればやっただけ技術の進歩は見込めるでしょう。」

 

クルマタニの意見にカーンも頷いた。

そして、カーンはコーヒーを啜りながら自分も意見を述べた。

 

「地球でもモビルスーツの模擬戦などは聞いたことがあるが、モビルスーツによるレースは聞いたことがない。……なんか今日のコーヒーぬるくないか?」

「確かにぬるいね。まあ、そんなことはさておき、誰を競わせるかが問題よ。」

 

オズモンドの問題提議にクルマタニが即答した。

 

「宙域対抗でよろしいでしょう?」

「ワシもそれはそう思う。」

 

そう話しているオズモンドの端末に連絡が入った。

通話先と何かを揉めているオズモンドを見ながらクルマタニとカーンはレースの話をああでもないこうでもないと詰めていた。

 

「嫌だよアタシは。」

 

ずいぶんとしょげた声になっていくオズモンドを横目に見ながらカーンとクルマタニは小声で話し続けていたが、オズモンドの様子があまりにも平時と違うので、とうとう話をやめてしまった。

 

「所長、どうしましたか?」

 

通話が終わったオズモンドにクルマタニが声をかける。

 

「所長をやめてオールドワンに転属だって……アタシはここに骨を埋められないみたいだ……」

 

カーンとクルマタニは二人で顔を見合わせて、お互いのあっけにとられた顔をしばし眺めていた。

 

*****

 

さて、クルマタニはその後、自分が作業機械試験場の所長になると聞いてもう一度驚き、カーンは厳重な抗議を試みるのだが、結局二人ともあっさり引き下がった。

航行中のジュピトリスが襲われるかもしれないと知ったからだ。

保安部は……というかリシュモンは迷いに迷った末に、オズモンドを新設部署の長に置いた。

本来は保安部の人間を昇格して人事を行うべきだという事は重々承知していたが、保安部の人間も含めて木星圏でモビルスーツや作業機械に携わる人間は全員オズモンドを「教官的立ち位置」の人間として知っている。

また、オズモンドは人材運用の達人だとリシュモンは考えていた。

才覚のある人間を束ねて力を発揮させるのが得意なタイプだ。

リシュモンは保安部長になって以来、オズモンドのそうした部分は意識して真似するようにしている。

リシュモン自身は、自分はスタンドプレーが得意な人間だと自覚しているが、保安部長ともなればそんなことを言ってはいられない。

オズモンドはリシュモンの考える理想の上司の一つの形だ。

ぶっちゃけ、リシュモンはオズモンドを保安部長にして、自分が下で働きたいとすら思っている。

 

「しかし、それは流石に甘えが過ぎるな。」

 

オールドワンの木星船団公社保安部もずいぶん手狭になってきた。

今回、緊急事態という事で、保安部本部の隣の財務部に外貨調整室を無理やり開けてもらって、木星船団公社保安部航路安全室を開設した。

初代室長はジョー・オズモンドだ。

担当するのは木星と地球間の航路を安全に保つにはどうすればいいのかを立案して実行することだ。

当然、オズモンドにはそんな専門性は無い……というか、海賊に襲われる可能性など木星圏の人間は考えたことがない。

状況を分析して、立案、実行……と漕ぎつけるためには異なる分野の専門家の意見をまとめる必要があるだろう。

リシュモンが航路安全室の前を通りがかりに除くと、オズモンドが老眼鏡をかけて書類に目を通している様子が見えた。




間が空いてすいません。
体調不良とかラジオ出演とか色々重なって忙殺されていました。
なお来週は友人の結婚式です。
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