各コースのテスト飛行は各コース間がそこそこ離れているのもあって、その間の移動も含めて1カ月程度かかる見通しとなった。
ヒカリは貸し出されたクルーザーを使って家族2人を連れて回ることにした。
「パパ!パパ!ミーちゃんも運転したいでヤンス!」
「ミーちゃん!ヤンスはだめ!」
ヤンス口調が抜けなくなったミライをクロエが諫めている。
「パパ、別に運転してないよ?自動運転だからここに座ってるだけ。」
「ミーちゃんも座るでヤンス!」
ミライは無重力のクルーザーの中を器用に移動すると、ヒカリの膝までたどり着いた。
「このクルーザー、広いし、快適なんだけど、シャワーがないのだけなんとかなりません?」
クロエがとりあえずさしあたりの不満を口にする。
「人口重力がないから、シャワーがあったら危険でしょ?」
ヒカリも借り物のクルーザーを擁護する気はさらさらないが、一応、きちんと答える。
「それも含めての話。」
「まあ、そうね。」
この規模のクルーザーに人口重力となるときりもみ飛行するかとんぼ返り飛行となるが、途端に制御が難しくなる。
クロエも分かってて行っている。
「ミーちゃん、お風呂無くても平気でヤンス!」
「代わりに体を拭きますからね。」
ミライは捕まる前にヒカリの膝の上を脱出すると、父母の手を逃れてクルーザーの中を跳弾のように移動し始めた。
「ミーちゃん逃げないの!」
「ミーちゃん体フキフキしなくても汚くないでヤンス!!」
こと無重量空間中の身体能力では、ミライはフリース家で最強だ。
こうなると疲れて動かなくなるまで捕まらない。
クロエはそれが分かっていて、あまり本気で追いかけていないが、ヒカリはいつミライがコックピットの方へ飛んでこないかとヒヤヒヤして見守っている。
コックピットの操作盤を蹴り壊されたらたまったものではない。
さて、フリース家はミライの学校の事がある為、普段、カリストのアザニア基地に住んでいる。
そして、このクルーザーを借りるためにいったん定期便を使ってカリストを離れ、最初のテスト飛行のコース、カリストにまた戻る途中だった。
本当はカリストにクルーザーを誰かが運んでくれればそれで済む話だが、木星圏は人手が足りないのだ。
ただ、ヒカリもクロエも子連れで旅行ができるこの機会をとても楽しみにしていた。
ミライはいつの間にかクロエに捕まって体を拭われている最中だ。
「ママ、地球に行く?」
「この船では地球にはちょっといけないかな?アザニアのおうちに一回帰るだけ。」
ミライは納得したみたいだ。
「ミライ、ジュピトリス乗りたいなあ……」
クロエとヒカリは顔を見合わせた。
どうやらミライにとってはジュピトリスに乗っていた期間がよほど楽しかったらしい。
「大人になって、その時、またミライが乗りたかったら、乗れるよ。」
木星船団公社としてはジュピトリスのクルーはいつでも募集中だ。
特にカラス氏のようにジュピトリスから降りないクルーは貴重な人材だった。
それは人生の中の多かれ少なかれを犠牲にする生き方だと多くの人が考えているが、ミライが大人になってもそうしたいならば止める理由はない。
「ミライ、ヤンスのおじちゃんのお嫁さんになるでヤンス!」
「……それはちょっと難しいかな……」
カラスは多分50代だ。