ヒカリは最近、ミライを見るにつけ、真面目に取り組むことの大切さを実感していた。
娘のミライがたまに見せる没頭力というか集中力というか、何とも曖昧な眼差しに目を奪われるのだ。
その娘の父親の父親が自分なのだから、きっと自分だってそんな顔ができるはずだ……とそう考える。
真摯に取り組むことで得られる評価というものがあるのではないか?と考えてもいる。
それが周りの評価なのか、自分の中での変化なのかは、ヒカリには分からない。
先日のカリストのレースコースの設計担当と揉めた時も、もっと自分が普段から真摯に取り組む姿勢を見せ続けていれば、少し違った経緯を辿れたかもしれない。
そうも考えながら、この数日、ヒカリは集中力を維持する事を意識して生活していた。
仕事の時間に集中力を発揮するためには、オフの時間でしっかりリラックスしなければならない。
「ヒカリ、もっと上手くリラックスできない?」
「上手く?」
クロエもまたニュータイプであるため、自宅にいる時間、ヒカリが意識的に休んでいるのを感じ取っていた。
特にここから一か月弱は家族一緒にヒカリのテストパイロットの仕事に付き合うため、クロエは仕事を休んでいわゆる専業主婦の状態にある。
この木星人たちは少ないモノで生活するクセが付いている為、家があまり散らからない。
また、ほとんどの食糧は半ば調理済みで流通している為、料理の必要もほぼない。
地球とは事情が違うため、家事の負担が比較的小さい。
そういった事情もあり、クロエは別にヒカリに何か家事を押し付けようとは考えていない。
だとしても、夫が引力の小さいカリストの自宅のソファーで「一番体に負担の無いくつろぎ方」を探求してモジモジしているのは見るに堪えなかった。
「むしろ、筋量落ちないようにジムに行ったら?」
「そうします。」
ヒカリは飛び起きて玄関へ向かう。
「ママ!ジムはビームスプレーガンでプシューのジムでヤンスか!?」
「違うの、スポーツジムの方のジム。パパは運動の時間なの。」
ミライは自分が体育館のジムと、モビルスーツのジムを間違えたのがよほど面白かったらしく、きゃあきゃあと笑っている。
ヒカリは娘の声に後ろ髪を引かれる気分で家を出た。
家を出ると、同じ形の住宅が並んでいる。
全て3Dプリンターによって出力されたケイ素系の高耐久住宅だ。
キャルフォルニアベースにいた頃に比べると、なんとも味気ない景色だ。
地球は24時間で1回自転するので、24時間周期で朝と夜になりまた朝に戻る。
対して、カリストは400時間半(地球でいうところの約16日と半分)で自転している。
なので太陽は200時間上り、200時間沈むといった具合だ。
大気も希薄なため、朝焼けと夕焼けは起きない。
アザニア基地はカリストのほぼ赤道上にある。
完全な赤道上にあるのはロケットの打ち上げに使う発着場で、基地と発着場がそこそこ近いということだ。
そうした事情で、200時間の昼と200時間の夜が交互にやってくるカリストで、人間がそれに合わせて睡眠して生活するのは不可能なので、24時間を一日の基準として使っている。
アザニア基地の中の街路照明などは地球でいうところの昼間の12時間は明るく、夜間の12時間はやや暗くなる。
昼と言っても太陽は遠すぎて、保温する大気もないので赤道付近は昼でも最高-130℃ほど、夜には-190℃
ほどに冷え込む。
人間が生活するためには強固な断熱と暖房が必要で、数基の熱核反応炉が常時稼働してアザニア基地を常時20℃から30℃に保っている。
さらに太陽に対して自転軸もほとんど傾いていないので四季はない。
自然豊かなキャルフォルニアとは比べようもない。
常時、戦禍に晒されるが青空の地球圏と、青空はなくとも平和な木星圏か……そう思いを巡らせながらヒカリは自宅からほど近いジムへ向かった。
あけましておめでとうございます!!